【歯鏡】2010年8月
指導強化の波
どう対応するか
今年度の診療報酬改定における厚生局群馬事務所の集団指導(点数改定説明会)では、今までより指導を厳しくする旨の話があった。具体的には、自主返還をきっちりさせるということである。
個別指導は、平準化の名の下に、全国で統一される流れがある。先日保団連が開催した関東信越指導監査対策担当者会議の資料より指導要綱を抜粋すると、「新規個別指導では、1ヵ月前から3週間前に実施通知が送付され、1週間から前日までに10名程の対象患者が指定される。高点数によって集団的個別指導を受け、翌年も改善が見られない場合、個別指導の通知が三週間前に届き、対象患者は前日までに15名程指定される」となっている。
指導による返還金額は、1998年以降、概ね30億円前後で推移してきたが、今回の改定後は、60億円を目標に行われるとのことである。まさしくこれは、今後の指導強化に繋がるものであり、返還金に目標が設定されるのもおかしなことである。
◎個別指導に弁護士帯同
指導、監査問題における医師、歯科医師の人権擁護を課題に運動してきた群馬協会では、今年5月、歯科の個別指導で弁護士帯同を実現した。事前に弁護士を通じて厚生局群馬事務所にいくつかの質問をした。
①選定の理由
②開設者以外の歯科医師の同行の必要性
③対象患者のカルテ選定を前日ではなく1週間前にできないか
④指導時の録音の許可について
返答は、選定理由は開示され、開設者以外の歯科医師の同行は任意、対象患者のカルテ選定は前日で変わらず、当日の弁護士帯同と録音は承諾された。
他の職種でも行政指導の経験がある弁護士にとって、指導対象患者の選定が指導前日だというのは、信じられない事なのだそうだ。
弁護士帯同で個別指導を受けた会員からは「指導医療官の対応は終始紳士的で、高圧的ではなく、安心して指導を受けることができた」との報告を受けた。
◎ルールに従うには説明が必要
保険医が保険の勉強をする公的な機会は、今のところ改定直前に行われる集団指導のみである。しかし改定後に疑義解釈が出され、厚労省のHP等で確認させることで周知徹底させるような仕組みになっている。群馬協会が行ったアンケートで「保険改定時にインターネットで確認したか」の問いに、「した」と答えたのは16.3%だけだった。改定の文書は、解釈の違いが生じるような表現で書かれ、現場の経過から措置が考えられ、疑義解釈が出される。複雑な保険ルールの解釈に誤りが生じるのは当然のことだ。返戻を以って周知徹底を図るような構図には、問題がある。保険というルールに従うことができるように事前の説明が欲しいものだ。解決策の一つとして、毎月発行されている「ぐんま国保連情報」や「群馬基金通信」に基本的なことから間違いやすい解釈などを掲載するのはどうだろうか。
◎歯周基本検査(P基本検査)で返戻
今回の診療報酬改定で、混合歯列期歯周組織検査(P混検)が導入された。それまでは混合歯列期であっても、歯周疾患対象が永久歯であれば、P基本検査で算定可能だった。改定により、算定条件が理解しにくくなり、現場は混乱した。
そして6月に国保の返戻が届いた。「混合歯列期におけるP基本検査をP混検にご再調下さい」という内容である。返戻枚数十件、合計点数約1万点。金額にすると10万円に相当する。混合歯列期におけるP基本検査の算定が不可とは改定の文書のどこにも書いていない。にもかかわらず、疑義解釈などで後から厚労省が決めたことならば返戻する前に文書で通達するのが順序ではないだろうか。また、返戻を直して提出したものが通ったかどうかはまるでわからない。患者に対する明細書発行を義務付けるくらいなら、行政側も診療報酬の振込みに対し、詳細のわかる振込通知書を送付するべきだ。
◎サービス推進課の発足に期待
一方、社会保険診療報酬支払基金は、保険者・医療機関などからの意見や相談、苦情に迅速に対応するために「サービス推進課」「審査に対する苦情等相談窓口」をそれぞれ4月と6月に設置した。業務内容については、平成22年度6月1日発行の「群馬基金通信」第50巻第6号に、「支払基金の審査に対する疑問、業務対応への苦情、事業運営についてのご意見、医療保険制度や診療報酬の算定に係る相談など、聞きたいこと、話したいこと、伝えたいことがあるときは、いつでもサービス推進課に電話ください」とある。これは画期的なことである。保険内容について、現場の声を直接届けることができるのだからすばらしい。算定方法が難解だったり、解釈の矛盾を感じることがあったら、問い合わせをすることをお勧めしたい。そしてこれが歯科界の明るい未来につながることを願うばかりである。
群馬協会では今後、指導医療官の講習会開催も交渉していく予定である。
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【探針】2010年8月
参院選で民主党が大敗した。昨年の8月、衆院選での民主党の圧勝で55年体制が完全に崩壊し、歴史的大転換が起こった。ところが今回は、民主党には風が吹かず、みんなの党に吹いた。国民は民主党に衆参過半数を取らせず、安定政権の誕生を阻んだ。
▼自民党時代、新自由主義の構造改革路線で派遣社員、不平等社会が広がり、貧困率は先進国で最悪になった。社会が分断される中で、コンクリートから人への民主党を選んだのに、最大のシンクタンク官僚を排し、普天間問題、郵政民営化の政権運営でつまずき、鳩山内閣は細川内閣と同じ8ヵ月で崩壊した。
▼自民党時代の〝政治と金の申し子〟2人を切り、本来の民主党主流の政権として始まった菅内閣は、消費税10%の影響もあっての敗北だった。しかし、その分自民党が回復したわけではない。40都道府県以上の知事が自民党系の中で、足腰の弱い民主党は1人区では勝てない。
▼菅政権はイギリスのブレア元首相の政治路線「第三の道」に影響を受け、アメリカ・アングロサクソン型の競争社会よりも北欧型国家、共生、分かち合い社会を目指しているように見える。
▼初の本格的な予算編成を開始した民主党政権だが、強い社会保障をいかに貫けるかが見ものだ。社会保障の自然増には手をつけない方針のようだ。
▼医療崩壊が止まるのか、歯科医療はよくなるのか。4月の点数改定で、歯科は初の2.09%アップ、一律の医療費削減も消えた。民主党政権を見守るしかない。
■群馬保険医新聞 歯科版 200年8月号
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【歯鏡】2010年4月
●診療報酬改定
医師との格差ひろがる
―訪問診療に「20分以上」の要件
↑太田で開いた新点数検討会(2010.3.28)
2010年度の群馬県保険医協会新点数検討会は、3月25日(木)前橋市の県生涯学習センターで113医療機関201人、28日(日)太田市の休泊行政センターで31医療機関47人と、前回を遙かに上回る参加があった。
「前橋会場では遠すぎる、都合がつかない場合もあるので、開催日を増やして欲しい」等の意見があり、群馬協会では初の試みとなる2会場で開催したことが、参加人数増加の一因とも言える。初めての開催となった太田会場は、前橋に比べ少人数であったものの、アットホームな雰囲気で質問等も活発であった。次回に向けて、2会場の参加人数の均衡化、更なる内容の充実を図るべく努力していく所存である。
*
まず、清水副会長が2010年度診療報酬改定の要点を、次に小山、石原両理事が各改定の点数の説明、改定事例を挙げて解説した。(後日厚労省HPに疑義解釈が掲載された。ここでは検討会で触れた部分について述べたい。)
【歯科訪問診療について】
同一敷地内又は隣接地に棟の異なる建物が集まったマンション群や公団住宅等はそれぞれの建物を別の建物と扱うと考えてよい。また外観上明らかに別建物であるが、渡り廊下のみで繋がっている場合も別建物として扱うものと考えてよい。
訪問診療は、医科も歯科も今回最も変わった部分であるが、「20分以上」という医科にはない一定の算定要件が持ち込まれた。04年改定の時を思い出す根拠の無い医科と歯科の差別。前回は指導や紙出しであったが、今回は診療の根幹に関わる問題であり、より深刻ではないだろうか。04年改定から我々がいくら声を上げて運動をしても、また平気で同じことが繰り返される。本当に指導が必要なのはどちらなのか。これからの時代は、医療者・保険者・患者が厚労省を評価するようなことも必要ではないだろうか。
【混合歯列期歯周組織検査について】
混合歯列期歯周組織検査における乳歯列期の患者の取扱いについては、混合歯列期の患者に準じて取り扱う。混合歯列期の患者について、患者の口腔内の状態により、プロービング時の出血の有無及び歯周ポケット測定のいずれの検査も行わず、プラークの付着状況の検査等を行った場合において、歯周組織検査を算定することは出来ない。
最も質問の多かった項目だ。
この検査は何のために新設されたのか。混合歯列期の患者はまだしも、乳歯列期の患者にもプラークの付着状況の検査やプロービング時に起こる出血の有無、歯周ポケット測定が必要なのか。親が子供を歯科医院に連れてくる時間は、15時~17時が一番多く、ほとんどが兄弟一緒に受診する。それだけで診療には倍の時間を要する。親は夕食の準備や子供の習いごとの送り迎えなどもあり、時間的に余裕がない。これまで以上に歯科治療に時間を要することが、受診抑制につながる恐れもある。早急に条件の緩和を求めていきたい。
【歯周基本治療処置(P基処)と歯周疾患処置(P処)について】
質問ではあまり上がらなかったが、今回新しく新設された「P基処」。似たような名称で同じ10点であり、説明を聞いてもよく違いがわからない人も多いかもしれないが、こちらは歯周基本治療を行った同日から算定していくものなので注意したい。
疑義解釈では歯周基本治療処置(P基処)と歯周疾患処置(P処)は、同一月内には算定できない取扱いであるが、同一月内において、歯周基本治療処置を算定した後、歯周疾患の急性症状が発現し、症状の緩解を目的として歯周ポケット内へ薬剤注入を行った場合においては、歯周基本治療処置を算定し、歯周疾患処置については、特定薬剤に係る費用のみの算定となる。請求は、先に行った処置を優先し、後で行った歯周疾患処置はペリオクリンなどの特定薬剤の費用のみ請求する。実態に沿った請求をしていただきたい。
【明細書無償発行の義務化】
明細書発行体制加算などが包括化され、実態に沿った処置がレセプトに反映されていないなどの問題が未解決の中、レセプトの電子請求が義務付けられている医療機関に対し、明細書の無料発行が義務付けられた。レセプト並の明細書を発行するという目的だけのために本来の意味を見失っている。元々レセプトの電算化・オンライン化の目的がどこにあったのか考えて欲しい。一部の委員の考えを優先させる事が医療の明確化につながるとはとうてい思えない。
今回の改定は診療報酬2.09%引き上げが隠れているが、ゼロ改定といわれながら厳しい算定要件を課された04年以上の悪しき改定になりかねない。群馬協会は、緊急に再改定等の運動を進めていきたいと考える。
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【探針】 2010年4月
民主党政権の発足から半年が経った。まだ半年という人がいれば、半年経っても何も変わっていないという人もいる。評価は人それぞれだが、その間、人々は生活し、世界は日々動いている。
▼もともと少子化対策の子ども手当は、親が外国人でも日本に在住すれば母国の子にも支給され、子が日本人でも親が海外赴任している場合は支給対象にならない。これで日本の少子化対策と言えるのか、疑問である。
▼外国人医師でも一定以上の技量が認定されれば日本で医療行為が認められる法案が現在出されている。果たして日本語という世界的にも難しい言葉の壁を越え、わざわざ労働条件の悪いところへ来る医師がいるだろうか? もし私が英語の話せる外国人なら、迷わずアメリカなど日本以外の国を選択するだろう。
▼昨年からの新型インフルエンザワクチン政策には医療機関、国民とも右往左往した。流行が一段落する中、政府が買い付けた一一二六億円分の輸入ワクチンが行き場を失い、一部の在庫は三月末に有効期限を迎えた。誰にでも失敗はある。問題は、ワクチンの購入を含め、新型インフルエンザ対策について国が採るべき方針を答申してきた専門家諮問委員会が、議事録や記録をほとんど残していなかったことだ。失敗を糧にしないという政府の体制が明らかになった。
▼二人の船長が別々の方向を指して航海し、収入の倍ほどの支出がある家計簿をやりくりしている…これが日本の現状だ。
■群馬保険医新聞 歯科版 2010年4月号
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【歯鏡】2010年1月
歯科医療の再生をめざして
◆新政権のこれまで
自民から民主に政権党が交代し、4か月あまりが過ぎた。
総選挙に臨み、民主党はマニフェストの中で、「医療、介護の再生」を謳っていた。小泉改革以来、疲弊しきったこの分野の再生には、国民として、そして医療に携わる者として大いに期待している。
当初、長妻厚労相は「診療報酬を引き上げると、患者負担、保険料の増加につながる」、野田財務副大臣は、「診療報酬の全体的な底上げでは、医師不足で悩んでいる診療科に医師が集まる動きにはならないのではないか。報酬の配分の大胆な見直しを行うことが大前提だ」と発言した。前者は、先のマニフェストを掲げた新政府の医療担当者として、はなはだ見識を欠いた発言といわざるをえず、なぜ自己負担率の見直しに言及しないのか、理解に苦しむ。後者は、ある科の診療報酬をさらに引き下げることでマイナスのインセンティブを作り、不足している科へ医師の流れを作ろうという発想であり、看過できない。これらの発言には、医療福祉を国力、国民生活再生の礎と位置づける発想が欠落している。
ただ「事業仕分け」等、手法は未整備なものの、情報公開と現場からの意見の吸い上げを行う姿勢は感じられる。レセプトオンライン義務化の法令のように、誰がどういうプロセスで、何のために推進しようとしているのか、ブラックボックス状態であったことからすれば、かなりの進歩である。
◆歯科医療の厳しい現実
歯科医療では、相変わらず経営的に厳しい状態が続いている。政府を動かし、この状況を改善するために、我々歯科医はあらゆる手段を講じ、国民的コンセンサスを形成することが不可欠である。国民にとって、窓口負担は少ないに越したことはない。診療報酬の適正な評価を正当化することは、この国民感情と一部矛盾するため、それ相当の根拠を示さなくてはならない。
診療報酬の適正化が国民にとっての利益につながらなくては、我々の要求は決して支持されることはない。国民の支持を得ずに政治力に頼ろうとすれば、これまでの歯科界の手法と変わりなく、かえって国民からの批判の対象となるだろう。
逆に、不当に低い歯科診療報酬が、なぜ国民の利益に反するか整理してみたい。
*評価が低すぎれば、数をこなして経営を守ろうとするため、単位時間あたりに能力以上の患者を診療し、質の低下につながる。
*本来経過観察すべき対象に対し、必ずしも必要でない切削や抜歯等の過剰診療=過剰介入が行われる。不可逆的である分、医科での薬剤の過剰投与より深刻だ。
*保存できる可能性のある歯を抜歯して、十分な経験もないまま歯槽骨のない部分へ強引なインプラント治療を施すなど、無理、無謀な自費診療が行われる。
さらに深刻なのは、厳しい経営状況のために、大切な歯科衛生士、歯科技工士などのコ・デンタルスタッフの賃金、労働条件が悪化し、これらの職種の転職、廃業が加速することだ。優秀な技術をもつ歯科技工士が日本から消えてしまうというとんでもない状況も現実味を帯びてくる。
◆混合診療・自由診療の問題
こういった厳しい状況に対し、一部に混合診療を推進しようという動きがみられる。現に「保険診療の不採算部分を自費で賄う」という構図がいつの間にか定着してしまった。エビデンスに基づいた最新技術を、保険に導入しようとしてきた医科と違い、多くの処置の評価があまりにも低く抑えられてきた歯科では、最新技術を保険に導入しようという努力があまりにも不足していた。混合診療や自費で保険診療の不採算分を補填しようという考え方には、患者の利益にも反する多くの問題点がある。
* 自費が常識的範囲を超えるような高額になる。
* 自費への患者誘導が起こりやすい。
* 予後や価格を巡って患者とのトラブルを生じやすい。
* 保険診療の質が低下しやすい。
* 保険診療の評価の改善が起こりにくい。
* 自費に関わる機材の価格が高めに設定されやすい。
* 景気の悪化により、さらなる経営的悪化が起こりやすい(歯科は需要の所得弾力性が大きい)。
つまり、歯科保険診療の低評価や混合診療の導入は、歯科医が患者を前にして、自院の経営を考えながら治療方針を出すような環境を作りやすく、これは患者にとっても、医療側にとっても不幸なことである。患者のための最善の医療より、医院経営にとって最善の医療が実践される可能性がさらに高くなる。
◆過剰な設備投資
最近のデンタルショーでは、歯科用CT、マイクロスコープ、CAD/CAM、クラスBオートクレーブ等、現在の歯科保険点数の実態からあまりにもかけ離れた価格帯のものが目立ち、メーカーは売り込みに躍起になっている。厳しい経営状況の渦中にいる歯科医は、藁をもすがる気持ちで「○○があれば」それだけで自分の技術レベルが上がり、他との差別化ができるという錯覚に陥りやすい。しかし返済能力を超えた過剰な投資は、歯科医自身の診療に対するポリシーやスタイルまで歪曲しかねない。
厚労省にしてみれば、歯科医療機関の「自発的な過剰投資」は、医療費の国庫負担を抑えるには非常に好都合である。わざわざ点数評価しなくても現場で勝手に投資してくれるという、まさに漁夫の利にあずかれる。少なすぎる歯科医療費に対し、歯科医療機関数が飽和状態になっている現在、過当競争が日常化している。この状況下では、設備や患者接遇面で、医療機関から持ち出しの投資が行われやすい。政権が交代した今こそ、本来の歯科保険診療の充実を目指し、運動を進めていくべきではなかろうか。
◆改善は一歩ずつ
新年早々、厳しいことばかり話題にしたが、ここでうれしい出来事にも触れたい。
昨年保険医協会で作製した、BP製剤服用者への注意を促すポスターを見て、「BPを飲まなくてもいいか、内科の主治医に聞いてみます」という患者が数名いた。国民の生活の中で、歯科のロイヤルティは確実に高まっていることを実感した。また、長年歯周病の管理で通院している多くの患者から、処置後診療室を出る際に、「がんばります」という言葉をいただいた。これは、歯科医療に対する患者の主体性を素直に表した一言といえまいか。さらに、民主党の議員の中から、日本は諸外国に比べ医療費の対DGP比が低水準であるとして、「適切な医療費を考える民主党議員連盟」が発足し、政府に意見をあげている、というのも頼もしい限りである。
歯科医療の崩壊とは、単に歯科医院の経営難を指すのではない。健康の維持・増進を目指すはずの医療が、健康被害や医療訴訟を生むこともある。それを自覚し、行動することが、保険医を名乗る我々歯科医の責任であろう。(清水信雄)
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【探針】2010年1月
政権交代から、はや4か月、まだ4か月? 沖縄米軍基地問題の迷走、来年度予算編成がニュースをにぎわした▼自公政権時に民主党も中心的役割を果たして、参議院で廃止法案を可決した後期高齢者医療制度の廃止公約はとっくに反故にされた。今春は制度発足から2年。初めての保険料改定が行われる。昨年10月下旬、保険料の試算が示された。厚労省によると約10.4%アップ。その約10日後、長妻厚労大臣は約12%アップ。そしてさらに約10日後、厚労省は13.8%、8556円アップと言い換えた。いったいどうなっているのか。年金生活者に重い負担増。この事態の回避を期待して一票を投じた高齢者も少なくないはずだ▼診療報酬改定の春がやってくる。財務省はマイナス改定を示唆し、一方、長妻厚労大臣は引き上げると発言。勤務医と開業医、診療所と病院という対立関係を作り、分断を図っているように見える。歯科はその中で埋没しそうだ。構造不況業種と自嘲している時ではない▼外に目を向ければ、プラハで核廃絶宣言をしたオバマ大統領は、ノーベル平和賞の受賞演説で、イラク・アフガン戦争を正当化。核廃絶と戦争遂行というダブルスタンダードではなく、核削減は戦費調達のための方便のようにも見えてきた▼デフレスパイラルが進行する中、激安インプラントに走るのではなく、保険で良い歯科医療を追求し、正当な評価を求める運動を拡げて行きたい。
■群馬保険医新聞2010年1月号 歯科版
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【歯鏡】 2009年10月
●レセプトオンライン化は本当に必要か
2011年、レセプトオンライン義務化へ向けて、医療機関は大きな問題に直面している。
政府はレセプトオンライン化が医療の効率化、医療費抑制(削減)につながり、社会福祉費の増大を軽減する手立てのひとつになるとしている。
レセプトオンライン化は本当に医療費(国民健康保険)を抑制できるのか。オンライン化で削減が見込まれるのは、紙への印刷費用、その輸送費用、各審査委員会でのレセプト審査費用(人件費含む)、保険者への紙レセプトから電子化への費用などが挙げられている。これらの削減した費用が直接医療費へ転化されれば、確かにオンライン化の意味はあるだろう。またオンライン化による患者情報の共有は、遠隔地での画像診断や病歴を把握するのに有効であることも否定しない。
*脆弱なセキュリティー
しかし、レントゲン画像などをオンライン化することによるメリットと事務処理のメリットを混同してはならない。住基ネットでもおわかりのように、データを扱う側のモラルの問題がある。オンライン化された患者の個人情報を悪用すれば、病歴などによる差別、保険者からのアクセス制限・給付制限、負担の増大などマイナス面が大きくなる。セキュリティー対策も十分ではない。レセプトオンライン化のソフト程度では、プロのハッカーであれば簡単に侵入することができ、情報の流出を防ぐことは非常に困難である。クレジットカード会社などオンライン化している業界に習い、セキュリティーシステムを構築することが必須である。情報流出時の責任は審査機関ではなく、医療機関が負うことになる。
*費用負担と地域医療の崩壊
オンライン化するための費用も大きな問題だ。PCなどのハード、ソフトウェア、オンライン化に対応した事務員の雇用など、設備や人材に対する投資の全てが医療機関の持ち出しになる。IT化加算は一初診につき3点(30円)という途方もない金額で、オンライン化の費用捻出には到底及ばない。特に高齢の医師が営む小規模の開業医にとっては死活問題で、現在の診療報酬ではとても乗り越えられないという声が、あちこちから聞こえてくる。そんな開業医こそが、地域医療の大きな支えであることは住民にとっても周知の事実であろう。
*99%が導入する韓国
レセプトオンライン化の開始から十二年が経過した韓国を見ると、義務化されていないにも関わらず、99%もの医療機関が導入している。早期の診療報酬支払いや参加当初3~6か月は無審査、入院の請求が週単位、1年間無査定医療機関への2年間無審査など大きなインセンティブが功を奏している。インセンティブありの経済論ならば当たり前の反応である。一方インセンティブはほとんどなく、義務化だけを押し付けられた日本では、誰も見向
きもしないということだ。
*IT化のメリットは…
一般の企業であればIT化により効率化され、浮いたコストで事業収益を改善することも可能であるが、わが国の健康保険制度は先進諸国でも稀な低価格統制があり、IT化によるメリットは少ない。そもそも人材集約型の産業である医療業界はIT化によるコストメリットが現れにくい職種なのだ。患者にとってもメリットが少なく、本来削減されるべき保険者のコストは、オンライン化で医療機関が負担する金額に比べ、微々たるものである。経費削減の義務も審査側からは何も出ていない。
現在の紙請求によるレセプトでも歯科ではカルテの入力、打ち出しなどかなりの割合で電子化されている。CD‐Rに情報を書き込み、審査機関へ郵送するだけで十分で、コストをかけ、あえてオンライン化するメリットは見当たらない。オンライン化したレセプトを送信しても、結局はデータを一度紙に打ち出して審査するなんていう笑い話もあるくらいだ。
*政権交代=義務化のゆくえ
それを推し進めているのが先の政権担当であった自民党である。今回の総選挙で民主党へ政権が変わったが、レセプトオンライン義務化は解消されるのであろうか。依然として今後を見守る必要があり、地域医療の存続もこの問題の動向に大きく左右されるであろう。現場で診療に携わる者の意見を取り入れた、医療機関が疲弊しないような舵取を現政府に望む。 (理事・亀山 正)
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【探針】2009年10月
医療崩壊が声高にいわれているが、歯科医療の崩壊はさらに深刻だ。病院から歯科がずいぶんと消えた。歯科のある一般病院は、1993年には1500余あったが、2007年には1100余と2割以上も減少している。また歯科の国民医療費は、ここ10年で7.6%まで低下してしまった。なかでも高齢者(75歳以上)の医療費は、全医療費の4分の1を超える9兆円近くを占めているが、歯科のそれは約5000億円と全体の5.6%にすぎず、まったく伸びていない。
▼その理由の一つは、歯科が医科のように新技術の保険導入に積極的ではなかったことがあるようだ。また、通院が困難な高齢者は受診が制限され、80歳以上では、必要な人の2割しか歯科を受診していないというデータもある。このように、歯科医療の環境が貧困にあっても、我々保険医は日々真摯に診療に努めなければならない。
▼そこで、これからの歯科医療の目標をかかげる。第一に歯周病対策であろう。歯周病治療とメタボ対策によって動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中を少なくすることができる。第二は高齢者の歯をどうするかという問題であるが、ぜひ医科の中に歯科を組み込んで議論をしてほしい。そうすることで、別建ての教育システムによる互いの不足を補いあい、より高齢社会にふさわしい歯科医療システムが構築できると思うのだが。
▼今後も長寿社会は続いていく。おいしいものを、身近な親しい人と食べることができるという幸福(口福)を、より多くの人に共感してもらえる社会の実現を切望する。
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【歯鏡】 2009年8月
●ビスホスホネート系薬剤について
骨も守る、顎も守る ―厚労省の対応マニュアルを読む―
平成21年5月、厚生労働省から「重篤副作用疾患別対応マニュアルが公表され(http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1l01.pdf)、『ビスホスホネート薬剤による顎骨壊死』が重篤副作用と明記されました。
従来の安全対策は、個々の医薬品に着目し、医薬品ごとに発生した副作用を収集・評価し、添付文書の改訂等により臨床現場に注意を喚起する「警報発信型」や「事後対応型」が中心でした。
副作用は、原疾患とは異なる臓器で発現することがあり得ることや、重篤な副作用は一般発生頻度が低く、臨床現場において医療関係者が遭遇する機会が少ないものもあることなどから 、場合によっては副作用の発見が遅れ重篤化することがありました。
厚生労働省は従来の安全対策に加え、医薬品の使用により発生する副作用疾患に着目した対策整備を行うとともに、副作用発生機序解明研究等を推進することにより、「予測・予防型」の安全対策への転換を図ることを目的として、平成十七年度から「重篤副作用総合対策事業」をスタートしました。
その事業の第一段階「早期発見・早期対応の整備」として、重篤度等から判断して必要性が高いと考えられる副作用について、患者及び臨床現場の医師、薬剤師等が活用する治療法、判別法等を包括的にまとめたものがこのマニュアルです。
マニュアルは患者向けと医療関係者向けに分かれています。患者向けには患者や患者の家族に知っておいてほしい副作用の概要、初期症状、早期発見・早期対応のポイントがわかりやすい言葉で記載されています。
医療関係者向けには、早期発見と早期対応のポイント、副作用の概要、副作用の鑑別基準、鑑別が必要な疾患と鑑別方法、治療法、典型的症例、引用文献・参考資料と要点を押さえて記載されています。
増え続ける内服薬
ビスホスホネート(BP)系薬剤には、注射薬と内服薬があります。注射薬は主に悪性腫瘍の骨転移や悪性腫瘍による高カルシウム血症、内服薬は骨粗鬆症に対する治療に用いられています。
注射薬に比べて骨粗鬆症で服用される内服薬は、発現頻度は低いようですが、同様の難治性の顎骨壊死を起こしますから決して安心は出来ません。
高齢の女性を中心に骨粗鬆症患者は約1000万人と推定され、100万人以上がビスホスホネート系薬剤を服用しているようです。服用者数が爆発的な増加傾向にありますので、早急に対策をとる必要があるでしょう。
BP系薬剤投与前の予防
○本病態に対して、十分なエビデンスが得られている治療法はなく、経験に基づいた治療がなされているのが現状。
○治癒は極めて困難である。
○一度発症すると完全に治癒するのは困難。従って、日頃の予防が極めて大切。
○ビスホスホネート系薬剤の投与前には、歯科医による綿密な口腔内の診査を行い、保存不可能な歯の抜歯を含め、侵襲的な歯科治療は全て終わらせておく。また、投与前、投与中、投与後の継続的な口腔ケアが重要である。
…厚生労働省から出た対応マニュアルにはさまざまなフレーズが踊ります。
今後、骨粗鬆症で医師がBP系薬剤を処方する場合、必要に応じて歯科医・歯科口腔外科医と連携をとり、歯科処置の要不要を確認するとともに、患者には口腔内を清潔に保つように指導することが大切になってくると思われます。
*
骨も守る、顎も守る。そして副作用も少なくする。患者さんのことを第一に考えていく…それが医療人としての正しい道。これまでも医科・歯科一体で行動してきた保険医協会が、率先して問題を解決していければと考えます。(理事・大国 仁)
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【探針】2009年8月
昨秋の米国の金融危機以降世界同時不況が起こるなど、時代が大きく変わろうとしている。情報化、消費化社会の王者とされたGMの破綻は、一つの時代の終わりを示す象徴的な出来事であった。レーガン、サッチャー以来30年続いた新自由主義経済の終焉である。
▼米国はオバマ大統領がグリーンニューディールを掲げ、国家プロジェクトを推進している。日本では不人気の麻生政権が安心・安全の14兆円ばらまき補正予算を実施したが、景気回復には至らなかった。米国の新自由主義に追従した小泉構造改革路線で社会保障費は毎年カットされ、セーフティーネットも分断された。格差社会が到来し、医療崩壊、雇用崩壊、教育崩壊、地方格差、社会不安の増大へと負の連鎖がつながっていく。秋葉原連続殺人事件のような無差別殺傷や親殺し、子殺しなど、凶悪犯罪が連日社会面をにぎわす。一体この国はどうなってしまったのか。
▼歯科界もご多分にもれず経営環境がますます悪化し、歯科医のワーキングプアがマスコミに報道されている。将来性のない歯科界は、受験生にも見放され、この春多くの私立歯科大学で定員割れを起こした。国家試験の合格率も70%を切った。優秀な歯科医が育たなければ歯科界の未来はない。低点数の保険診療、ますます少なくなる患者、技工士や衛生士の減少…悪材料を挙げればきりがない。自己努力にも限界がある。
▼そんな中、8月に政権選択の衆議院選挙が行われる。その結果が日本の将来、歯科界の将来に希望をもたらすものとなるか、重要な選挙だ。
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【歯鏡】-2009年4月-
国民皆保険制度という幸せ
日本国民の皆さん、あなた方は恵まれている。歯が痛ければ、保険証一枚で、全国どこでも自由に歯科医院に掛かれ、低額な負担金で、ほぼすべての治療が受けられる。
日本の歯科医の皆さん、あなた方も恵まれている。正規の歯科医師免許があれば、申請だけで保険医になる事ができ、全国どこでも開業できる。
これは日本の常識、世界の非常識。
*
ここに、世界の歯科事情と日本の歯科事情を比べた平健人氏の論文がある。
この論文は、歯科医療制度をAndersonの財源による分類に沿って、
①国営サービス型
②社会保険型
③民間保険型
に分け、各々の例として①イギリス・スウェーデン、②ドイツ、③アメリカの実例を示し、分析している点で優れている。日本の制度は、社会保険型であり、この分類②に入ると思われる。そこで、同制度を採用しているドイツの現状が参考になる。
ドイツの社会保険
◎高額所得者は加入免除
日本と異なるのは、皆保険制度ではなく、所得により公的医療保険加入が義務付けられていることだろう。日本円にして年収約五三〇万円以下の被用者は公的医療保険加入の義務があり、それ以上の所得がある者は加入義務を免除され、民間保険だけで良いとされている。このため、国民の約八八%が公的保険に加入し、九%が民間保険となっている。
◎補綴重視から予防に
歯科医療給付に関しては、二〇〇〇年に公的医療保障改革法が施行され、補綴分野に重点が置かれた給付から、予防・初期治療に配分がシフトされた。
二〇〇五年に作成された新たな歯科診療報酬体系では、五二群の診断群が定められ、補綴治療については、基本的な疾患保険の対象から外され、義歯付加保険との新たな制度に移行した。この制度では、保険給付は五〇%の定額制となり、ユニークなのは、保険給付以外の材料を用いても保険給付分が補助金として支給される点と、予防への動機づけを促進する為に、ボーナス給付として、年一回の歯科診療所での検診を五年間継続すると給付率が二〇%アップ、一〇年継続では三〇%アップされる点である。
今後の主な改革案として、民間保険との統一により皆保険制度にする事、医師一、二名の小規模診療所を医療供給センターとして集約化する事が上げられている。
◎歯科医療費比較
OECDによると、ドイツの総歯科医療費は約二一九億二五〇〇万ドル、日本は一八九億八七〇〇万ドルであり、対DGP比でもドイツ〇・八%に対して〇・六%(二〇〇五年)、DGPが一兆億ドルも多い日本の歯科医療費の少なさが際立つ。
国民一人当たりの歯科医療費でも、ドイツ二六六ドル、日本一四六ドルと、ドイツが上回っている。
かように歯科医療に対して日本より手厚いドイツの制度が優れているように思えるが、六五歳以上の無歯顎者の割合は、ドイツ二四・八%に比べ日本は二一・三%であり、その補綴治療に関しては、基本的な給付率も五〇%に抑制されている。
主な歯科治療費原価の比較でも、二〇〇七年時点で、歯周治療=日本二万七五四〇円、ドイツ一一万二七四六円、前歯根管治療=四六八〇円、三万一九〇〇円、臼歯部クラウン=一万二四五〇円、六万五九〇〇円、ブリッジ=三万七六九〇円、一二万八〇〇〇円~一八万一〇〇〇円と、日本の数倍掛かる。
では、ドイツの保険歯科医療技術と日本の歯科医療技術に、各医療費ほどの差があるかと言えば、そうは思わない。更に、自己管理という要因だけで済まされない歯の喪失に対して、補綴治療を疾病保険から外す制度は、それを多く必要とする高齢者の生活の質に影響が無いのか、疑問である。
◎保険医の集約化
また、保険医の小規模自由開業を抑制し、医療供給センターに集約する方針だが、これにより、地域に暮らす高齢者や障害者のアクセスがどうなるのか、気になるところだ。
スウェーデンの歯科医療
次に分類①の国営サービス型として、スウェーデンを見てみよう。
二〇歳未満の児童・青年は無料の公的歯科診療が提供されるが、満二〇歳以上の成人は、疾病保険により現物給付が行われている。
成人に関しては一九九九年一月に制度改革が行われ、保険枠内で無料だった歯科医療について、一年間に九〇〇SEK(約九六〇〇円)を上限に自己負担金が設定された。予防・初期治療への保険給付が増え、補綴治療は抑制されている。また、改革以前の歯科診療所総量規制は撤廃され、自由開業制となった。
歯科医療費の対DGP比では〇・七%、総歯科医療費は約一五億ドル、国民一人当たりでは、二四九ドルであり、DGP比では〇・二ポイト日本より高いが、DGPは約四五二九億ドルと日本の十分の一に過ぎない。
個々の歯科医療費原価も総じて日本よりも高く設定されていて、補綴に関しては五倍以上と、先に比較したドイツより更に高い。
高い社会保障で人気のあるスウェーデンであるが、重い税金を負担する成人への歯科医療サービスに、年間一万円未満とはいえ自己負担が課せられる事に対して、国民の不満はないのだろうか。北欧諸国に共通する、高い予防意識にもかかわらず、六五歳以上の無歯顎は一五・七%と二桁であり、補綴治療の給付制限も不可解である。
◎日本の皆保険制度
このように、本論文から諸外国の事情を見てみると、日本の保険歯科医療は、少ない負担で高い質を維持している、正に社会保障制度の優等生である。
*
日本の国民よ、この国の歯科保険医療をないがしろにするな。
日本の歯科保険医よ、やたらに自由診療に走るな。
憲法九条に勝るとも劣らない歯科皆保険制度を、互いに支えあおう。 (武井謙司)
〈参考〉「日本と世界の歯科医療」―国際比較から見た日本の歯科医療の姿―
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【探針】-2009年4月-
三月下旬から高速道路の割引が始まった。大都市圏以外の地方道路では土日祝日は上限一〇〇〇円と大判ぶるまい。ただしETC車両に限られる。
なぜETC車両のみなのか。ETCセットアップ料やカード発行料等、道路システム高度化推進機構に流れるカネは莫大だ。〇七年度の事業収入は一一五億五五三九万円。ETCがある限りこれが永遠に続くという。
▼同じ構造になる可能性があるのがレセプトオンライン化だ。本来なら、オンライン化で審査段階での人件費や通信費、用紙代など削減されるはずだが、おそらく経費削減には寄与しないと思われる。審査側のコスト削減なしに医療費のみ削減し、医療機関、患者側とも全くオンライン化の恩恵を受けないという政府主導型の構造がここにも…。
▼定額給付金の支給が開始された。小額だが、臨時収入はうれしい。しかし、その事務コスト、振込み手数料等で何千億円もかかるという。また、税金を払ってない人に支給されるのは「不平等」かと思う。定額減税にすればコストもかからず不平等も解消する。
▼最近テレビで歯科関連の報道を目にするようになった。例えば、臼歯部のインレー修復はレジン充填に比べ予後が悪い、やるべきではないという趣旨であった。確かに審美性では劣るかもしれないが、強度やコストなどの面では決して削除すべき治療法ではない。もし、報道の通りなら、保険から臼歯部のインレー修復を削除し、その分レジン修復点数を加算すべきだろう。歯科の情報を報道してくれるのはありがたいが、報道には事実の検証が不可欠だ。(亀山 正)
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【歯鏡】-2009年1月-
先の見えない時代に
◎トップの感覚
一昨年に始まったアメリカのサブプライムローン問題が金融市場を揺さぶり、その影響で昨年秋のリーマンブラザーズが破綻、これを引き金に金融危機が津波のように世界経済を襲った。
一方で昨年11月、経営危機に直面するビッグ3の会長たちが、250億ドルの緊急融資を求め議会公聴会出席する際、そろって会社の自家用ジェット機でワシントン入りしたことが非難の的となった。ここまで3社を追い込んだ原因は不景気だけにあるのではなく、浮世離れしたトップの感覚によるところも大きいのではあるまいか。そうはいうものの、ビッグ3がアメリカの産業全体に及ぼす影響は計り知れない。緊急かつ効果的な支援が必要なことも事実だ。
昨年12月、イラクで演説中の米大統領にイラク人記者の1人から靴が投げつけられた。行儀のよい行為とはお世辞にもいえないが、家族を失ったイラク国民にすれば、また戦死した米兵士の家族にとっても、あれほどの犠牲者を出したことの反省が全く見られない大統領に対し、心の中で靴を投げつけていた人々は少なくなかろう。
そして今年1月、アメリカではオバマ政権が発足する。実績や経験のあるマケイン氏ではなく、未知数のオバマ氏に将来を託すアメリカ国民の心情は、のっぴきならない現状からの、ともかくの変革願望であり、「賭け」でもあろう。いずれにしても、「強いアメリカ」ではなく「対話」を強調した新大統領の手腕に期待したいところだ。
◎未来への保障
一方日本はどうか。
国民生活援助の名目で行なわれる政府の二兆円規模の給付金(還付金?)政策も、総選挙をにらんだ「アメ」という意味合いの、付け焼き刃の政策といわれても仕方あるまい。これが、持続的な国民の生活向上や景気対策につながるとはとても思えない。
そしてそのつけは、近い将来消費税増税という「ムチ」で跳ね返ってくる。こちらのほうがはるかに国民生活へのマイナス効果が大きいはずだ。
常識的に考えれば、毎年2200億円削減されている社会保障費に充当するほうが先ではないだろうか。社会保障は、未来への保障でもあるはずだ。
◎最後の選択
大企業も世界同時不況と円高の影響をまともに受けた。トヨタで6000人、ソニーは正社員も含め1万6000人の人員削減を予定している。
予測以上の状況変化とはいえ、経営陣の責任が問われるのは当然だ。
個人であれば、不況に直面してから「なぜか」を考えればいいかもしれない。しかし、多数の被雇用者を抱える企業は、彼らを守る責務がある。被雇用者は、「安心」があってこそ企業に尽力する士気、モチベーションが生まれる。よほどのことがない限り、解雇は最後の選択と考えるべきである。
しかしバブル崩壊後、企業経営者は経営改善策の第一選択として、被雇用者を解雇するようになった。これでは働く者たちの士気は低下し、ひいては企業にもマイナスになる。また雇用が断たれれば、当然税収も減少、生活に貧窮した人々が増えて社会不安や治安も悪化する。
雇用不安はワークシェアリングである程度対応できるだろうし、オランダなどでは政府、企業、労働組合が協議して労働力のシフト制まで法制化し、非正規雇用者の生活を守っている。またこんなときこそ、内部留保の有効利用を考えるべきではないだろうか。
◎診療室の中で
我々医療人も、社会の一員として、また医療に携わる者としてこの逆境を深刻にとらえる必要がある。
生活苦による健康保険からの離脱、つまり国民皆保険制の形骸化とともに、受診抑制による疾病の重症化が懸念されている。
昨年、「歯科医のワーキングプア」がマスコミで取り上げられた。歯科医院の経営は引き続き厳しい状況にある。これは医科の経営状況と比較しても明らかである。
ただ、世間が不況の真っ只中にある現在、医療の中で所得弾力性が比較的大きいといわれる歯科医療であっても、保険の強みを改めて実感している人が多いのではないだろうか(このことは、ややもすると浮世離れした感覚に陥る危険性もはらんでいるが)。一方で、歯科の中でもこれまで経営的に潤沢と思われていた自費主体の診療形態は、不景気のあおりをまともに受ける可能性が大きい。
いずれにしても、歯科医療が国民生活の中で重要な地位を築いているかが問われる時代である。歯科医療の受診や口腔の健康維持は決して贅沢ではなく、心身の健康維持のための不可欠な要因であることが認知されなければならない。
先の見えない暗い時代だからこそ、目の前の患者に信頼される、安心できる歯科医療を提供したい。そのためにも人間を磨き、技術を磨きたいものである。(清水信雄)
■群馬保険医新聞2009年1月号
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【探針】-2009年1月-
「解雇された派遣労働者がホームレスに転落」…こんなニュースが毎日のように続いている。寒さがなんとも身に凍みる年明けとなった。
▼世界大不況による混乱が収束するには数年かかると言われている。日本はグローバル資本主義の波にもまれ、伝統的なよき部分が変質した。かつて日本人の間に存在していた相互信頼は失われ、格差拡大は無視できないところまできている。一億総中流と言われた「平等社会」は崩れ、先進諸国の中ではアメリカに次いで世界第二位の貧困大国ニッポン。
▼この経済不況の中で一番弱い派遣労働者斬りが断行されている。この不況を脱出するには、格差社会を軌道修正する政策がぜひとも必要だ。それに気づかなければ日本に未来はない。
▼新自由主義経済のもと、昨年は医療崩壊が大きな社会問題として世間の耳目を集めた。救急医療、周産期医療、小児医療のお寒い現状が次々と明らかにされた結果、やっと政府も重い腰をあげた。医師養成の増員が決められ、年二二〇〇億円の削減計画も事実上崩壊した。小泉改革の「骨太の方針」そのものが見直されようとしている。社会保障国民会議が「社会保障の機能強化」を前面に出し、「小さな政府」からの転換、「中負担中福祉」を目指すという。
▼とはいえ、医療の建て直しには時間がかる。それに伴う長期的な財源も必要だ。歯科医療も診療報酬の改善、歯科医師需給問題、レセプトオンライン請求の完全義務化等々、問題山積の新しい年がやってきた。(深井 尚武)
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【歯鏡】-2008年10月-
ニーズ高まる歯科訪問診療
群馬県保険医協会は医科歯科一体の会である。ある時理事会で「往診」が話題になった。私は在宅歯科医療に携わっているが、医科では往診と訪問診療が区別されていることをその時初めて知った。
往診は、患者の求めに応じて患家に出向き診察することであり、訪問診療は往診の結果、継続的・計画的な診療が必要な場合を指す。歯科では点数表のどこを見ても往診算定点数が表示されていない。
今春の点数改定
平成二十年四月、歯科の在宅医療に変化が見られた。往診という文言はなかったが、主だった事柄を列記してみる。
歯科訪問診療1(八三〇点)、歯科訪問診療2(三八〇点)を算定する場合、初再診料(初診一八二点、再診四〇点)と合わせての算定ができなくなった。しかし、切削器具を使わなくても常時携行していれば在宅患者等急性歯科疾患対応加算(一回目二三二点、二回目以降九〇点)を歯科訪問診療と併せて、算定することが可能となった。この加算点数は、初再診料に周辺装置加算の電気エンジンなど(五〇点)を合わせた設定になる。
○
歯科訪問診療算定における患者への文書情報提供が不要になり、算定において縛りが緩和された。しかし患者や施設関係者は、それまで毎回提供されていた文書がなくなったことを不信に思っているかもしれない。
○
老人訪問口腔指導管理料(四三〇点)は削除され、後期高齢者医療制度に基づき、
後期高齢者在宅療養口腔機能管理料(一八〇点)が新設された。
この算定は施設基準として在宅療養支援歯科診療所の届出を行った医療機関に限られる。届出には歯科訪問診療の実績が問われ、また後期高齢者の口腔機能管理に係る研修受講を義務づけ、受講終了証が必要である。
群馬県保険医協会主催研修会は九月十一日と、十月二日に開催した。
歯科衛生士の勤務状況、歯科訪問診療に対応できる体制があるかどうか、また在宅療養を担っている保険医療機関・保健医療サービスおよび福祉サービス担当者との連携も必要だ。さらに、後方支援歯科診療所との連携も築かなければならない。
敷居が高い!
在宅関連の算定には、在宅患者連携指導料(九〇〇点)、在宅患者緊急時等カンファレンス料(二〇〇点)などがあるが、解説を読んでも現場でのシチュエーションが見えてこない。
医科との大きな差
医科における往診と訪問診療について調べてみた。医科では、往診が一回ごとに算定でき(六五〇点)、その結果、計画的な訪問診療が必要になった場合は、在宅患者訪問診療料が月一回八三〇点、月二回以上の定期的な訪問診療を行なえば月一回に限り在宅時医学総合管理料(在医総管)も算定できる。
在医総管は施設基準に適合した在宅療養支援診療所の届出があるかないかで点数が変わり、在宅療養支援診療所なら四二〇〇点、そうでない場合は二二〇〇点になる。
歯科の在宅診療料とは桁違いである。
講習会参加者の声
今年九月に開いた在宅療養支援歯科診療所対応の研修会では参加者にアンケートをお願いし、つぎのような回答を得た。
〈受講しても届出はしない〉
まず歯科外来診療環境体制加算の届出では、所定の講習を受けていても、「届出をしている」歯科医院は二六・三%と少なく、在宅療養支援歯科診療所の施設基準講習会を受けても「届出しない」と六三・〇%が答えていることに注目したい。これはいったい何を意味しているのだろう。
社会保険庁の組織改革にともない群馬社会保険事務局業務が厚生労働省関東信越厚生局へ移管され、業務強化が危惧されている。したがって、施設基準の届出が受理された後、基準にみたない等の難癖をつけられて、自主変換を求められる恐れが濃厚なことが、届出抑制に拍車をかけていると思われる。
〈ボランティア精神?〉
また、歯科訪問診療を「診療時間内に行うか、休日に行うか」という質問には、四二・九%が休日に行うと回答。しかも、歯科訪問診療を行っても歯科訪問診療料を「算定しない場合がある」と四七・六%が答えている。
医科では、一般診療をしながら休日に訪問診療の計画などは立てないようであるが、診療対価の設定点数が低い歯科では、ある意味で、利益追求なしのボランティアと位置づけているように推測される。
訪問診療は「寝たきりに準じる」が対象だが、月に一度薬をもらいに診療所や病院を受診した記録があれば、歯科訪問診療は成り立たない。これでレセプトを返戻された経験もある。
ある休日の往診
在宅医療に関しては特に医科と歯科の違い、評価の低さや矛盾を強く感じている。休日、この原稿を書いている最中に在宅医療の依頼が二件入った。
一件は、主訴は下顎前歯Brの破折脱離である。脳梗塞の既往があり左半身麻痺、車椅子対応の寝たきりに準ずる状態。一般診療であれば根管治療や抜歯や義歯作成となるが訪問では治療に限りがある。しかも歯科治療に対する恐怖心が強く、ミラーでの口腔内診査もままならなかった。
もう一件は、義歯が合わないという主訴。医療保険の負担金は免除されており、はじめから費用がかかるなら見合わせたいとの電話で、車代も徴収できなかった。
現在は、歯牙の欠損や嚥下状態によって、胃瘻も含めさまざまな食形態を供給できるようになった。認知症まで発症してくると、治療や介護はより複雑になる。患者のニーズと状態、家族や看護・介護の環境等を考慮した計画立案が必要である。しかし治療ができないという経過観察も治療の一部である。
歯科では、歯科医師が患家や施設に直接出向くことで、家族や看護・介護者が現状を認識し、安心感を持てることが重要だと感じている。
医科なみの診療報酬を
高齢化社会を迎え、在宅診療を望む患者は多くなっている。しかし対応する歯科医療機関は多くはない。老後の福祉を支える上で、歯科の在宅医療にも「往診」を設け、診療報酬も医科なみに設定するなど、敷居を低くすることが重要だろう。(小山 敦)
■群馬保険医新聞 10月号
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【探針】-2008年10月-
自民党総裁選は実質的に首相を決める選挙である。その総裁選をマスコミが取り上げるのは当然だが、ほとんど出来レースの様相を示していた今回の総裁選をあれほどまでに騒ぎたてる必要があったのだろうか。
▼一政党である自民党の総裁選挙はいわば学級委員を決めるクラス投票のようなものだ。来たる衆議院選に向けて、支持率、知名度アップの手段として総裁選が使われている。それに乗ったマスコミの番組構成は国民をバカにしているようにさえ思える。その間、国会の審議は停滞し、困っている国民は国の政策待ちの状態になる。解散でも何でもいいから、早く国のために働いてほしい。
▼安い、早い、美味い! どこかの飲食チェーン店で聞いたことのあるフレーズである。
時代の流れが、どんどん安ければいい、早ければいいという風潮になり、企業はそのための努力を惜しまない。事故米流通事件において末端の零細企業はコストダウン至上主義で健康のことなど考えない一線を越えてしまった。今のところ健康被害はないとの報告であるが、あくまで今のところである。
▼安い、早い、上手い! という無理難題を押し付けられ、容赦ないコストダウンを強いられているのは医療福祉業界も同じである。事故米とは知らずに安い米を購入してしまったところもあるだろう。しかし、安いものには訳があり、高いものには理由がある。コストダウンするということは自分の労働対価や価値さえも巡りめぐっては下げていることに気がつかなければならない。(亀山 正)
■群馬保険医新聞 10月号
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【歯鏡】-2008年8月-
支払基金に明細を求める
平成十八年診療報酬改定において各医療機関に詳細がわかる領収書の発行が義務づけられた。これは中医協における発言、「国民は医療の内容を知る権利があり、それによって医療の適正化、効率化を促す」がもとになっていると記憶している。
ならば医療機関が毎月提出するレセプトがきちんと処理されているかどうかを知ることも、医療費の効率化に必要なことではないだろうか。
しかしながら、毎月医療機関の口座に振り込まれる社保、国保の診療報酬の確認は支払額の合計金額のみであり、明細書が無い。これが現段階では通常の処理とのことである。
返戻や過誤調整があると、医療機関で請求した額から差異が生じる。それが正しく支払われているかどうかは、医療機関側から確認しようがない。
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医療費の効率化を掲げている社会保険庁は、診療報酬の振込みに対し、是非支払基金に「詳細のわかる振込通知書」の送付を義務づけるべきである。医療機関が望むと望まないとに関わらず、全医療機関へ明細書を発行すべきである。
レセプトオンライン化を考慮すれば、たいした労力も必要とせずに可能なことであろう。オンライン化による医療費効率化を図るという方針にも沿っている。(蛇足ではあるが、保険医協会はレセプトオンライン化の「義務化」に反対の立場を取っている。)
*
中医協(平成十九年発月八日)において、委員である勝村氏はこう言っている。
「…前回改定の方針には、医療費の個別単価などの詳細な内容がわかる明細書を発行すべきだと書いてあったわけです。つまり、それが実現しないと、国民はこの中医協の場で決めている診療報酬点数が、どういう価値観でつけられたのかや、医療を受けるたびにそれぞれの点数を実感として認識することができません。それをせずにして、国民の視点で診療報酬の議論をしていこうと言ったり、公聴会をしよう、パブコメをしようと言っても、もう一つ、結局、専門家の人たちばかりの公聴会とかパブコメになってしまうではないかと、明細書の発行をずっとお願いしてきたわけですが、前回改定前にこの社会保障審議会の中で『基本方針』とされていながらも、やはりまだ実現していなかった点というのは、今回のたたき台にはやはりきちんと入れてほしいという意味で、やり残していることから先にやるような視点なども、今後の議論のたたき台の中にぜひ入れていただきたいと思います」
これをそのまま支払い基金と医療機関に置き換えると、
「診療報酬振込みの個別単価などの詳細な内容がわかる明細書を発行すべきだと主張します。つまり、それが実現しないと、診療機関はこの支払基金の場で支払いを決めている診療報酬金額が、どういう価値観でつけられたのかや、支払いを受けるたびにそれぞれの報酬を実感として認識することができません。それをせずにして―中略―いただきたいと思います」となる。
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昨今の杜撰な年金の管理や税金の無駄遣いを目の当たりにすると、支払基金の振込金額にも疑問を抱くことはごく当然で、宙に浮いたレセプトやレセプト不明問題などがあっても不思議ではない。
医療機関に明細のわかる領収書発行を義務化したのだから、当然支払基金からの診療報酬振込金額も患者、処置内容、振込金額のわかる明細書発行を義務化すべきである。この論拠には何か矛盾があるだろうか。(亀山 正)
■群馬保険医新聞 8月号
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【探針】-2008年8月-
一九九〇年代初頭、日本は一人あたりGDPで世界第二位だった。経済が成長しても所得格差は縮小し、円高でも輸出は伸び、都市化が進んでも犯罪率は低かった。長寿社会なのに医療費は低く、軍備が弱いにもかかわらず国は平和だった。
▼ところが現在はどうか。今年は食品偽装に始まり、食の安全性、食料品の値上げ、食糧自給率三八パーセント、食の崩壊、ワーキングプア、派遣労働、非正規雇用が正規雇用の三分の一、サブプライムローンに始まるアメリカ経済の低迷、金融資金主義の迷走、ガソリンの値上げ、産業の米である石油価格の高騰は産業のあらゆる分野に悪影響を及ぼし、漁業、運輸、電気の値上げによるインフレが進行し、家計を直撃している。
▼安全の崩壊、通り魔事件の頻発…ついには女性の通り魔も現れる始末だ。社会保障の崩壊…年金崩壊、医療崩壊、歯科医療の崩壊。歯科大学の国家試験の合格率が五〇パーセントを下回る大学も出てきた。受験者が定員に満たない歯科大学も数校出てきた。若い人にも見放されつつある歯科業界。これも政治の貧困、官僚の無策なのだろうか。
■群馬保険医新聞 8月号
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【探針】-2008年4月-
75歳以上の総ての国民が4月1日から後期高齢者医療制度に移行させられた。保険料は年金から天引きされ、いままで負担がなかった扶養高齢者にも保険料の支払い義務が課せられた。支払いが滞れば保険証は取り上げられる。
▼何十年も社会のために働き、税金や保険料を払ってきたのに、国から還元されるどころか更なる負担を強いられる。自ら病気の後遺症で苦しむ免疫学者の多田富雄氏は、某紙で老人の生存権を無視した姨捨政策と批判したが、正鵠を射ている。
▼後期高齢者だけの問題ではない。総ての組合に、0歳~74歳の被保険者一人ひとりに、高齢者支援金分が割り当てられることになる。0歳児からの負担、ということは、子供が増えれば増えるほど負担が増すということになる。これでは少子化対策どころか、少子化推進施策だ。ちなみに、歯科医師国保組合では1人月額2,300円、家族4人では、9,200円が毎月保険料に上乗せされる。
▼法学者渡辺洋三氏は、国家が国民のために存在するものである以上、国1人ひとりの生きる権利を保障する義務は、国の他のいかなる義務にもまさる、としている。今まさに、この崇高な義務がないがしろにされようとしているのに、国会は機能停止状態で、何の役にも立たない。政治家は党利党略に、官僚は天下りで如何に税金を掠めるかに汲汲とし、国民は忘れ去られる。
▼どうもこの国は国民の為に存在している訳ではないようだ。姨捨山に捨てられる前に、こんな政策は我々の手で葬り去ろう。
■群馬保険医新聞2008年4月号
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【歯鏡】-2008年1月-
どうなるのか日本の歯科医療
●医は仁術
国は国民の健康について真剣に考えているのだろうか…私たち医療に携わる者は、このところ診療中にしばしばこのような疑念を抱かざるをえない。
患者を目の前にし、歯科医として(いや、専門的知識をもったひとりの人間として、と言った方が妥当かもしれない)、こうしたいと思うことがしにくい環境になっているのである。持ち出し覚悟で診療している場合も多い。
「包括制」の名の下に、手間ひまかかる処置が、現場の歯科医の知らないうちに「再診料や所定の点数に含まれる」という表現で「まるめ」られてしまう。
あらかじめ通達があればまだいいほうで、解釈に問題が起こってから、既成事実のように「…となっている」といった表現で通達が下りることさえある。こんな曖昧な療担規則の刹那的解釈が、人間の身体にそのまま関わる診療内容を左右するということは、医療に対する冒とくではないだろうか。
「医は仁術」とは、為政者にはまことに都合のいい言葉である。思いやりの心がなければ、信頼関係の上に成り立つ医療は行なえない? そんなこと、みんなが知っている。
倫理観などと言うものは、国が押しつける筋合いのものではない。また倫理観に大きく依存する制度は、制度として不安定であるとともに、皮肉にもその倫理観を自壊する危険性をも含んでいる。昨年の歯科医療関連の不祥事や保険医の自殺問題が、残念ながらこのことを如実に表している。
●国民不在
国は仁術の「押しつけ」を医療費削減の道具に使い、とくに歯科では奏功している。
38点の再診料に築造の根幹ともいえるポストの印象まで含まれている事実を、たとえば米国の歯科医が知ったらどう思うであろう。おそらく、それが医療現場で遵守されているということにこそ驚くのではあるまいか。
医療経済という分野があるように、医療が財政面と無関係に存在することはもちろんありえない。しかし、医療支出が少なくともどのくらい必要かは、利用者である国民の立場からきちんと検討されなくてはならないはずである。でないと、私たちが危惧しているように、経済界の事情で国民の健康が左右され、文字通り国民不在の医療がまかり通ってしまうことになるからである。
●イギリスでは
政府は「ない袖は振れない」というであろう。しかし、本当にないのだろうか。道路特定財源、防衛省予算、そして存在意義のない特殊法人が官僚の天下り先としていまだに「聖域化」されている。
日本の医療費対GDP比は八%で、OECD30国のなかでは22位(05年)。イギリスはこの時点で19位になり日本を追い抜いていた。医療費の公的支出割合は日本81.7%、イギリス87.1%。ちなみに、政府が「手本」とするアメリカは、GDP比15.3%と突出しているが、公的支出割合は45.1%。平均寿命も低く、高度医療では世界をリードするものの平均的な国民のニーズには応えていない。
サッチャー政権時代に医療費削減を進めたイギリスでは医療破壊が深刻化、ブレア政権下で1.5倍の医療費の増額が決行されたが、実質的な回復には未だ至っていない。いまもなお、診療報酬が制限されたNHSから脱退する歯科医があとを絶たないという。ひとたび崩壊した医療は、その回復に膨大な時間と経費がかかることをイギリスの事実が示している。
●診療報酬改定
昨年末、政府は診療報酬の0.38%引き上げを決定した。八年ぶりの増額改定であるとしているが、薬害肝炎訴訟の解決手法と同様、次期衆院選をにらんだアピールとの見方が強い。国民の健康が選挙の道具になっているとすれば、命もずいぶん軽くなったものである。
国民には医療費増額と印象づけながら、薬価の引き下げを加味した全体の改定率はマイナス0.82%、実質的には02年度からの4回連続のマイナス改定である。医療従事者側には逆説的な医療費「聖域論」、つまり医療費は増やせないという諦観さえ生まれてきた。
●消費税
医療費を下げるか、増税か…これはいつも国が使う常套句である。ところが昨年12月、朝日新聞は社説で、「消費増税なしに安心は買えぬ」と、社会保障充実のために消費税増税は不可避と論じた。
消費税が導入されるときも、福祉目的税と使途が明記されていたが、いつのまにか公約は闇に消えた。その点、イギリスの1.5倍の医療費増額という勇断は注目に値する。
財界からは、景気回復がまだ不十分だから医療費を抑制し、国際競争力をつけなければならないとの声が聞かれる。健康不安がある国民が、はたして十分にその力を発揮し、景気を上げることができるだろうか。
日本では、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定する日本国憲法第25条第1項が生存権の根拠となっている。一生懸命生きて働いてという基盤に、何かあったら安心して医療を受けることができるという保障は不可欠である。
●医療崩壊
今、医療崩壊が危惧されている。なかでも過重労働と、医療訴訟等の多い小児救急体制、産科医療が社会問題になっている。しかし、歯科ではこれとは質の異なる医療崩壊が深刻化している。この状況は20年以上も前に野村総研が予測していた。政府の無計画な医療政策が現在の歯科の問題をもたらしたことは明らかである。
06年度国民医療費において、歯科医療費は前年度に比べ700億円減少した。しかし、「総医療費の7.7%しか占めていない歯科が、なぜ総額1200億円の六割に当たる減額を被ったのか」(石井みどり議員の参議院厚生労働委員会での質問から)という質問に厚労省はいまだ納得のいく説明をしていない。
朝三暮四の改定はもううんざりだ。10年後、20年後のビジョンをふまえた、国民が信頼できる改定を望む。今この国、そして政府に最も必要なのは、「信じられること」ではないだろうか。(清水信雄)
■群馬保険医新聞 2008年1月号
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【探針】-2008年1月-
わが国の医療は崩壊し衰退の兆しを見せ始めている。これは急速な高齢社会の進行にかかわらず、政府が国家財政赤字のもと財政優先の政策を断行し、医療費の削減を続けてきたことに起因している。
▼過去三回連続して診療報酬はマイナス改定。歯科では累計マイナス九パーセントになった。その結果、全国の歯科医院は疲弊し、平均年収600万円、年収200万円以下の歯科医が5分の1いるとの報道もある。人的にも機能的にも極限状態で地域医療提供が強いられている。
▼先の参議院選挙の自民党大敗は、グローバル経済の小泉改革に対する地方の反乱だった。衆参ねじれ国会で地方の意見を取り入れざるを得ない状況下で、平成20年度の歯科診療報酬改定はマイナスではなくプラス0.42%。一応は評価できるものの、中医協の点数切り貼りで実質マイナス改定になるとの恐れはぬぐえない。いずれにせよコンマ以下のプラス改定で、歯科医療が改善されるとは思えない。
▼わが国の経済はここ数年回復しつつあるのに、その恩恵は地方に回らず、なぜ政府は国民にさらなる負担を強いる政策をすすめるのだろうか。国民が安心して医療を受けられる、安全、充実した医療提供体制の確保を求めたい。財源を確保し、地域医療、歯科医療の崩壊をくい止めなければならない。
■群馬保険医新聞 2008年1月号
