▼歯科会だより

平成21年3月、歯科に特有な副作用があるビスフォスフォネート系薬剤に対し、歯科医師として、また群馬協会の歯科会として、どのように向き合って行けば良いかを検討するために、群馬協会の歯科会の中に「BP委員会」を立ち上げました。

これまでの主な活動として、①協会紙への関連記事の連載、②関連講演会への参加(5回)、③院内掲示用ポスター(医科向け・歯科向け)の作成、④BP説明用紙の作成、⑤抜歯に際しての説明書の作成 を行ってきました。今回、記事・院内ポスター・BP説明用紙・抜歯説明用紙に関してご案内します。

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■群馬保険医新聞  平成21年2月号/「診察室」

    ビスホスホネート系製剤と抜歯と顎骨壊死

                                                          前橋市・協立歯科クリニック 半澤  正
 
 抜歯をする前に…
 抜歯は、歯科医師にとって、実にありふれた処置です。私は、昨年1年間で200本以上の抜歯を行いました。抜歯の際に歯科医師が注意すべきことは、教科書的には多々ありますが、麻酔をして大丈夫か、出血傾向はないかなどを主に注意して判断していると思います。
 しかし、抜歯を治療の選択肢として決定する前に、まっさきに注意しなければならない問題がクローズアップされてきました。ビスホスホネート系製剤(以下BP系製剤と略す)との関わりです。
 BP系製剤は、骨吸収抑制作用があり、経口製剤が骨粗しょう症の治療薬として広く使われており、また、注射用製剤が悪性腫瘍による高カルシウム血症や固形癌の骨転移などの場合に用いられています(表1)。

 抜歯後の顎骨壊死(自験例)
 私は、2007年1月に、10年以上継続して診てきた患者の処置を断念して、ある病院の口腔外科に紹介しました。歯科医師になって20年余、初めて経験するタイプの抜歯後のトラブルでした。それまでの経験では、抜歯後の経過が不良でも、抗生物質を少し長めに投薬すれば、多くは解決しました。それでもだめなら、抜歯窩の掻爬を行いました。それで解決しなかったことはありませんでした。しかし、その時はそうはいかなかったのです。ごくふつうに右下の第2大臼歯を抜歯しました。抜歯後の経過は良好のようでしたが、約3週間後、抜歯窩から排膿してきました。抜歯窩からゾンデを入れると、骨に直接当たり、そのことによる疼痛を患者は訴えませんでした。抗生物質を投薬し経過みましたが、抜歯から約2か月後、患者は抜歯部位の腫脹と疼痛を訴えて来院しました。再度、抗生物質を投薬して、炎症が落ち着いたところで抜歯窩を掻爬しました。広く剥離して、徹底的に掻爬し、新鮮骨面を確認して縫合しました。これで完璧に治癒すると思いました。
 ところが、約2週間後再び排膿、その後約2週間、抗生物質を投薬し続けましたが改善しません。再度の抜歯窩掻爬も考えましたが、自力での処置を断念して、ある病院の口腔外科に依頼しました。紹介から約2か月後、紹介先の口腔外科で腐骨を除去し、その後経過良好となりました。抜歯から約半年が経過していました。この患者は、右下第2大臼歯の抜歯の約2年8か月前から、骨粗しょう症のため、ボナロン(BP系製剤)を服用していました。

 BP系製剤と顎骨壊死
 BP系製剤により、その副作用として顎骨に壊死を生ずる可能性があることは、2003年に初めて、米国で報告されました。その後、日本でも、注射薬での報告がされるようになり、おくれて内服薬での報告も増加しています。2006年10月に厚生労働省は製薬企業に添付文書の改訂を指示し、BP系製剤の添付文書に、顎骨壊死に関する注意が追加されました。2007年1月には、BP系製剤を製造・販売する製薬会社から、歯科処置に関連した顎骨壊死に関する注意喚起文書が医療機関・薬局に配布されました。2008年1月には日本口腔外科学会監修で「ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死~理解を深めていただくために」という小冊子が出されました(この小冊子はインターネットでダウンロードできます)。

 歯科治療と顎骨壊死
ビスホスホネート系薬剤関連顎骨壊死(以下、BRONJと略す)の発生は、最初に紹介した症例のように患者に多大な苦痛を与えることになります。BRONJの危険因子としては、歯科外科処置(抜歯、インプラントの埋入、根尖外科手術、骨への侵襲を伴う歯周外科)、口腔衛生不良、ステロイドの使用、BP系製剤の長期使用などがあげられており、抜歯により表2のように顎骨壊死の発生リスクは上昇します。骨粗しょう症におけるBRONJ発現率は低いものの、現在、日本国内で、100万人以上が服用しており、けして無視できるものではありません。
 BRONJ発生予防のためには、BP系製剤使用の前に歯科検診を受け、可能な限りBP系製剤使用の前に抜歯などの外科処置を終了させ、歯肉などの歯周組織を良好にしておくことや、使用開始後も定期的な歯科検診・歯科受診で歯周組織を良好に保つことが推奨されています。また、骨粗しょう症によりBP系製剤を服用中に、抜歯などが必要になった場合の対応として、
①経口BP系製剤投与期間が3年未満でコルチコステロイド併用している場合、あるいは経口BP製剤投与期間が3年以上の場合は、患者の 全身状態から経口BP製剤の投与を中止しても差し支えなければ、歯科処置前の少なくとも3か月間は経口BP系製剤の投与を中止し、処 置部位の骨が治癒傾向を認めるまで、経口BP系製剤の投与を再開すべきでない。
②経口BP系製剤投与期間が3年未満で他の危険因子がない場合は、経口BP系製剤投与中止することなく、侵襲的歯科処置が可能。
 などの目安が紹介されていますが、明確な根拠はないようです。
 先に紹介した症例もBP系製剤のボナロン服用開始後3年未満でしたし、また、ボナロンを発売している帝人ファーマに問い合わせたところ、2008年9月末までにボナロン服用患者にみられた顎骨壊死は82症例(重症42例、非重症40例)で、そのうち52症例はBP系製剤服用開始後3年未満とのことでした。他の骨粗しょう症用の経口BP系製剤でも同じような傾向にあるようです。
BRONJの治療法は現在のところ、経験に基づいて、試行錯誤している段階で、確実な治療方法はありません。壊死した顎骨に直接アプローチして、新鮮骨面を出すような処置は避け、極力保存的な方法が推奨されており、抗生物質の投与、口腔内洗浄、限定的な壊死組織の切除、完全に遊離した腐骨の除去などで対応するのがよいとされていますが、治癒しない症例も報告されています。

 医科歯科の連携強化で…
 歯科医師の間には少なからず、不安がひろがっています。今までならば間違いなく抜歯していた歯の抜歯を、BP系製剤を使用しているということで回避するなど、治療方針の決定に影響しています。BP系製剤を服用している患者も、歯科治療に来て不安を訴えています。BP系製剤を処方する主治医と歯科医師との連携で、顎骨壊死を回避しつつ、患者のQOLを維持する役割が臨床の現場に求められていると思います。

         hyou rogo    ← クリック (表1 表2)

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■群馬保険医新聞  平成21年4月号/「声」

   ビスフォスフォネート系薬剤の副作用を患者に伝えて

                                                                                前橋市 大国 仁

 

 三月十六日に地上を離れ、国際宇宙ステーションで日本人初の長期滞在を行っている若田光一さん(45)は、現在、骨粗鬆症治療薬(ビスフォスフォネート=BP)を使って、骨量減少予防対策の実験(日米共同研究)をしているとのことです。
 無重量状態では一日二時間運動して骨に負荷をかけても、骨粗鬆症患者の十倍の速さで
骨密度が減ってしまうため、短期間で薬効が調べられるそうです。しかし過酷な三カ月の実験ですから何が起こるかわかりません。
   *
 BP剤使用患者に抜歯その他の歯科治療をすると、難治性の顎骨骨髄炎や顎骨壊死を起こすことがあります。大腿骨・椎骨、その他全身の骨には全てプラスに作用するのに、なぜ顎骨だけマイナスに作用するのか、原因はまだはっきりとはわかっていません。
 BP剤の使用を確認し、可能性を患者に説明し、同意を得てから歯科処置を行うようにしていますが、いくら説明責任を果たしたとしても、もし自分の患者が…と思うと、歯科医は通常の抜歯でも今まで通りとはいかず、慎重にならざるを得ません。抜歯だけでなく、入れ歯の当たりによる潰瘍から顎骨壊死が起こったという症例も報告されています。
 BP剤を骨粗鬆症や寝たきり予防の特効薬とするのはよくわかります。「きわめて有用な薬である」からです。ですが「副作用はどんな薬にもある。僅かな発現頻度であるから」と簡単に片付けない方が良いと思います。
 アメリカでは相当な額の訴訟問題に発展しています。年内を目処に日本でのガイドラインが出される予定と聞きます。「作った者」「認可した者」「投薬した者」「処置した者」すべてが意思疎通をはかり、システムとしてのリスク管理ができれば最良と思います。
 現時点やれることとしては[BP剤の注意記載の義務化]でも良いでしょう。歯科領域特有の副作用の可能性について説明がなされ、投薬が開始されるようになることを望みます。
○因果関係がはっきりしてい ない。
○なぜ顎骨だけに起こるのか 原因がわからない。
○休薬措置も治療法も確立さ れていない。
 まだ不確定要素が多過ぎるので、早急に対応を考えるべき薬剤だと思います。或いはもう少し待つのも良いかもしれません。窒素概念ではない新しいBP剤の開発も進行中だそうですので。

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■群馬保険医新聞 平成21年5月号

 

     骨粗鬆症患者のビスフォスフォネート系薬剤について
     顎骨壊死を避けるため歯科医師に必要なこと

                                                         前橋市 天笠 稔

 

 医師と歯科医師の意識のずれ

 私は、ビスフォスフォネート(bisphosphonate=以下BP)による顎骨炎に対し、医師と歯科医師の間にかなりの温度差が生じていると思います。
 二〇〇九年版『今日の治療薬』(南江堂)ではBP製剤の項目で、「最近、BP治療中に抜歯などの歯科治療がきっかけで顎骨壊死を生じたという報告がみられるようになったので、まだ因果関係は不明であるが注意が必要である」と記載されています。
 医科の先生は、この記述からは骨粗鬆症の患者にBP投与して何の問題があるのか、顎骨壊死は因果関係が不明なのだから、歯科の治療が原因なのではないかと思われるかもしれません。また歯科医師からの患者さんに関するBPの問い合わせに戸惑う先生もいるかもしれません。
 ところが歯科では昨年から歯科専門雑誌(歯界展望・デンタルダイヤモンド)でBPに関する特集を組んで、BP系薬剤関連顎骨壊死(Bisphosphonate Related Osteonecrosis of the Jaw=BRONJ)の告知に努めています。また日本口腔外科学会は「ビスホスホネート系薬剤と顎骨壊死」という小冊子で、日本歯科医師会では「ビスホスホネート系薬剤投与患者への対応Q&A」で、さらに製薬会社は「ビスフォスフォネート系薬剤の投与を受けている患者さんの顎骨壊死・顎骨骨髄炎に関するご注意のお願い」なるパンフレットで、歯科医師に注意を喚起しています。
 その結果、骨粗鬆症の患者でBPを服用している場合、私を含め歯科医師は治療に対し非常に慎重にならざるをえません。

 注射薬と経口薬のBRONJ発生頻度

 BPといっても薬剤の種類により骨吸収抑制作用はピンからキリまであります。エチドロネート(ダイドロネル)の骨吸収抑制作用を一とすると、アレンドロネート(フォサマック・ボナロン)は百倍以上、ゾレドロネート(ゾメタ)は一万倍以上の効力があります。また投与方法によりBP系薬剤の吸収率は経口薬の一%以下に対し注射薬は五〇%以上と大きな違いがあります。
 この薬剤と投与法の違いはBRONJ発生頻度の違いにあらわれます。豪州におけるBRONJの調査結果によれば、顎骨壊死の発生頻度は悪性腫瘍で注射薬として使われた場合は〇・八八~一・一五%、骨粗鬆症で経口薬として使われた場合は〇・〇一~〇・〇四%でした。さらに経口薬でも投与中に抜歯された場合、BRONJ発現率は約十倍上昇します。

 〈BPが必要なわけ〉
 骨粗鬆症により、骨の脆弱化による骨折が椎骨・大腿骨頸部・前腕骨遠位部・肋骨等に生じやすい。しかも骨折は死亡の原因となり得る。実際死亡率は、一〇万人当たり脳卒中一五四人、大腿骨頸部骨折一六三人でほぼ同じです。また五年死亡率も骨粗鬆症と乳癌は二・八%と同数となっています。さらに転倒・骨折は、脳卒中、衰弱に次いで寝たきりの原因の第三位となっています。
 一方、骨粗鬆症治療薬のエビデンスは、カルシウム剤・ビタミンD剤がC評価なのに対し、アレンドロネート(フォサマック・ボナロン)とリセドロネート(ベネット・アクトネル)はA評価を得ていて、BPは骨粗鬆症治療の第一選択薬に指定されています。

 〈患者のQOL〉
 脊椎骨折が多発すると脊柱後彎となり、さらに後彎が強くなると、消化器・呼吸器系の機能障害や慢性の腰背部痛などが続発します。また脊椎骨折により頭上の物に手が届かなくなり、家事にも不自由します。大腿骨骨折により歩行困難あるいは寝たきりになればかなりQOLが落ちます。

 歯科医師として知っておきたいこと

一、BPによる顎骨壊死は、何らかの原因で顎骨が露出した場合に見られることが多いため、抜歯、
  外傷に注意すること。
二、ハイリスク群(ステロイド使用、BPの使用が三年以上)には抜歯など侵襲的 歯科処置の前後三
      か月程度の休薬が必要であること。
三、顎骨壊死は経口薬より注射薬のほうが、また骨吸収抑制作用の強いBP剤のほうが発生しやす
       く、投与期間は長期投与例が発生しやすいこと。
四、BP系薬剤投与患者の処方医からは以下の情報の提供を得ること。
     ①原疾患:骨粗鬆症、悪性腫瘍、その他。
     ②BP系薬剤製品名。
     ③経口薬:服用開始時期、現在の服用状況(中止した場合は最終服用時期)。
     ④注射薬:投与開始時期、現在の投与状況、最終投与時期、今後の投与予定。
     ⑤中止または代替薬への変更の可否について。
五、顎骨壊死を発見した場合は、その症状、対処法、予後などを患者に十分説明し、処方医にBP系
      薬剤の投与中止の検討を求め、さらに症状に応じて高次の医療機関への紹介を行うこと。
    *
 今後さらに高齢化社会がすすみ骨粗鬆症患者は増加の一途をたどると思いますが、BRONJを危惧するあまり安易に歯科治療を避けたり、必要なBP系薬剤を休止することがないように、処方医と共通の認識のもと、密な連携をとりながら歯科治療を進めることが必要になってくると思われます。

 

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■群馬保険医新聞 平成21年7月号/論壇

 

   ビスフォスフォネート系薬剤について
  患者の利益を優先し共通認識が必要

                                                      歯科会代表 清水信雄
 
 重篤副作用疾患
 骨粗鬆症およびガンの骨転移、ベーチェット病等の治療薬として、ビスフォスフォネート系薬剤(以下、BP系薬剤と略す)の投与が一般的に行われている。
 BP系薬剤には、骨の代謝を抑える作用があるほか、がんの骨転移による骨壊死を防ぐ働きがある。なかでも骨粗鬆症の患者に対しては、骨折に対する予防投与もごく日常的に行われているようである。
 最近、歯科分野ではBP系薬剤投与下の患者において、抜歯や口腔粘膜の潰瘍による骨髄炎、歯科インプラントの予後不良等の報告が注目されるようになった。
 これらは、ビスフォスフォネート系薬剤関連顎骨壊死、および顎骨骨髄炎(以下、BRONJ等)に関連する症状とされている。すでに日本歯科医師会、日本口腔外科学会、さらに製薬会社は、これに関するパンフレットを作成し歯科医に注意を喚起している。厚労省も五月、「ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死」として、「重篤副作用疾患別対応マニュアル」を正式に公開した。
 内科的に優れた薬剤が歯科では重大な副作用があるという事実は、一般の人々にはもちろん、内科医らにもいまだ十分に周知されていないようである。
 そこで保険医協会歯科会では、今年三月、有志が「BP委員会」を立ち上げた。医科歯科一体を謳う協会ならではの活動として、会員へのBRONJ等に対する認識の周知、さらには一般の人々への啓蒙をはかり、BP系薬剤による歯科での事故や、予後不良例の発生を防止し、患者のQOLの向上に努めたいと考えている。
 まだ発足したばかりだが、本紙上でBRONJ等の関連情報を連載してきた。また、患者向けの院内ポスターの作成も考えている。

 騒ぎすぎ…と製薬会社
 製薬会社によっては、医師向けに「BRONJ等は騒ぎ過ぎ」ともとれる内容の講習会を行っているケースもある。医師と歯科医師とで、BP系薬剤に対する認識に少なからず違いもあるようである。
 BP系薬剤の使用を決定する段においては、医師の判断が大きなウェイトを占めていることは事実である。ここで重要なことは、その投与が患者のメリットにつながっているかどうかを原点に立ち返り謙虚に考えることではなかろうか。
 高齢者にとっての大腿骨骨折は、その後の寿命に関わる重大な疾患である。エビデンスに基づき、適当なBP系薬剤を投与することは当然必要である。その一方で、いわば「とりあえず投与」を行っていることはないだろうか。
 ひとつの例として、消炎目的の投薬に際し、我々(医師・歯科医師とも)はセットメニュー的に抗生剤の「とりあえず投与」を行うことがある。
 もちろんこれにも慎重な姿勢が必要であるが、とりわけBP系薬剤では、その後の歯科処置の予後に影響を及ぼしたり、処置自体が回避される可能性が生じる。
 似たような例で、血液の抗凝固剤を服用している患者の抜歯の際に、抗凝固剤の投与を中止するか、あるいは投与を続けたままで行うか、という問題がある。現在はよほど重篤な症状がない限り、投与を続けたまま抜歯するというのが一般的なようだ。
 
 利害が相反する?
 抜歯という侵襲がどの程度か内科医にはわかりにくく、抗凝固剤の影響がどの程度か歯科医にはわかりにくい。抜歯のためとはいえ、投与を中止して血栓による症状が現れれば、内科医の立場が不利になる。一方で、投与したまま抜歯して止血が困難になった場合、今度は歯科医の立場が危うくなる。
 歯科医が内科医に投与の可否を尋ねれば、利害関係から考えると、投与を続けるべきという判断が下ることは容易に想像できる。もちろん、エビデンスに基づいて判断されるケースを否定しているものではない。
 BP系薬剤は、いったん投与されると体内に蓄積されやすい薬剤のため、抜歯等を行う際には長期にわたりBRONJ等のリスクが高まる。この点、抗凝固剤の場合よりかなり厄介である。
 医師・歯科医師ともに、患者にとってのQOLを第一に考えなくてはなるまい。

 BP剤投与前に歯科治療を
 ちなみに、BP系薬剤の添付文書には、歯科または口腔外科で治療する際の注意点として以下が記載されている。

(1)歯科処置の前にBP系薬剤が投与されていないかを確認すること
(2)投与している場合には、侵襲的歯科処置をできるだけ避けるか、患者の状態とリスク因子を十分
      考慮し判断すること
(3)口腔内を清潔に保つように指導すること

 BRONJ等が発症しても対処が困難な現時点で、歯科医から内科医、整形外科医らにお願いしたいのは、対象患者に歯科治療の必要性がある場合は投与に先立って抜歯や外科的処置、口腔衛生状態の改善をはかるよう、患者にアドバイスしてほしいということである。これを是非とも行っていただきたい。
    *
 今後さらに高齢化社会がすすみ、骨粗鬆症患者は増加の一途をたどると思われる。現時点で不明な点が多いBRONJ等であるが、これを危惧するあまり必要な歯科治療をやめてしまったり、必要なBP系薬剤の投与を差し控えることのないように、製薬側、許認可側、投薬側、そして処置側すべてが保身に走らず、互いに意思疎通をはかることが重要である。患者にとって最大の利益をもたらす医療を目指したい。

         

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■群馬保険医新聞 平成21年8月号 歯科版/歯鏡 

 

     ビスホスホネート系薬剤について ―骨も守る、顎も守る

―厚労省の対応マニュアルを 読む
 http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1l01.pdf

                                                                                                 前橋市 大国 仁
 
 平成二十一年五月、厚生労働省から「重篤副作用疾患別対応マニュアル」が公表され、『ビスホスホネート薬剤による顎骨壊死』が重篤副作用と明記されました。
 従来の安全対策は、個々の医薬品に着目し、医薬品ごとに発生した副作用を収集・評価し、添付文書の改訂等により臨床現場に注意を喚起する「警報発信型」や「事後対応型」が中心でした。
 副作用は、原疾患とは異なる臓器で発現することがあり得ることや、重篤な副作用は一般に発生頻度が低く、臨床現場において医療関係者が遭遇する機会が少ないものもあることなどから 、場合によっては副作用の発見が遅れ重篤化することがありました。
 厚生労働省は従来の安全対策に加え、医薬品の使用により発生する副作用疾患に着目した対策整備を行うとともに、副作用発生機序解明研究等を推進することにより、「予測・予防型」の安全対策への転換を図ることを目的として、平成十七年度から「重篤副作用総合対策事業」をスタートしました。
 その事業の第一段階「早期発見・早期対応の整備」として、重篤度等から判断して必要性が高いと考えられる副作用について、患者及び臨床現場の医師、薬剤師等が活用する治療法、判別法等を包括的にまとめたものがこのマニュアルです。
 マニュアルは患者向けと医療関係者向けに分かれています。患者向けには患者や患者の家族に知っておいてほしい副作用の概要、初期症状、早期発見・早期対応のポイントがわかりやすい言葉で記載されています。
 医療関係者向けには、早期発見と早期対応のポイント、副作用の概要、副作用の鑑別基準、鑑別が必要な疾患と鑑別方法、治療法、典型的症例、引用文献・参考資料と要点を押さえて記載されています。

 増え続ける内服薬
 ビスホスホネート(BP)系薬剤には、注射薬と内服薬があります。注射薬は主に悪性腫瘍の骨転移や悪性腫瘍による高カルシウム血症、内服薬は骨粗鬆症に対する治療に用いられています。
 注射薬に比べて骨粗鬆症で服用される内服薬は、発現頻度は低いようですが、同様の難治性の顎骨壊死を起こしますから決して安心は出来ません。
 高齢の女性を中心に骨粗鬆症患者は約一〇〇〇万人と推定され、一〇〇万人以上がビスホスホネート系薬剤を服用しているようです。服用者数が爆発的な増加傾向にありますので、早急に対策をとる必要があるでしょう。

 BP系薬剤投与前の予防
○本病態に対して、十分なエビデンスが得られている治 療法はなく、経験に基づいた治療がなされているのが現状。
○治癒は極めて困難である。
○一度発症すると完全に治癒するのは困難。従って、日頃の予防が極めて大切。
○ビスホスホネート系薬剤の投与前には、歯科医による綿密な口腔内の診査を行い、保存不可能な歯の抜歯を含め、侵襲的な歯科治療は全て終わらせておく。また、投与前、投与中、投与後の継続的な口腔ケアが重要である。

…厚生労働省から出た対応マニュアルにはさまざまなフレーズが踊ります。
 今後、骨粗鬆症で医師がBP系薬剤を処方する場合、必要に応じて歯科医・歯科口腔外科医と連携をとり、歯科処置の要不要を確認するとともに、患者には口腔内を清潔に保つように指導することが大切になってくると思われます。
    
 骨も守る、顎も守る。そして副作用も少なくする。患者さんのことを第一に考えていく…それが医療人としての正しい道。これまでも医科・歯科一体で行動してきた保険医協会が、率先して問題を解決していければと考えます。

        
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■群馬保険医新聞 平成21年9月号/診察室

 

              ビスホスフォネート製剤とインプラント

                                                            東京歯科大学 口腔健康臨床科学講座
                                                             口腔インプラント学分野 准教授  関根秀志

 身近になったインプラント治療
 何らかの原因で不幸にも歯を失った場合、人工的に歯列を回復する必要を生じます。従来、ブリッジや取り外しの入れ歯で回復されてきましたが、最近では人工歯根:インプラント治療が一般に広く用いられるようになってきております。歯科領域におけるインプラント治療では、歯が抜けてしまった後の歯茎に人工の歯根を適用し、その上に歯冠を取り付けます。隣り合う残存歯に対して負担を増やすことなく、動揺の少ない歯を回復することができ、治療効果に期待が高まっています。
インプラント治療の歴史は古く、国内においても様々なインプラントが臨床に応用されてきました。歯を失った部位の顎骨と歯肉の間に設置するもの、顎骨内に設置するものなどがあり、形状や材質も様々なものが使用されてきております。しかし、それらの多くについては長期的な成績が不明であり、撤去を余儀なくされた場合の侵襲が少なくないことから「怖い治療」、「危ない治療」という認識が定着してきました。これに対して、1960年代にスウェーデンで臨床応用が開始されたチタン製ネジ型の骨結合型インプラントは、治療術式が確立されており、その臨床成績は極めて高いことから、従来のインプラント治療に対してその信頼性は一気に高まりました。本邦へは1980年代に紹介され、臨床応用がスタートしています。
国内では、2008年に約68万本のインプラント体が出荷されており、これは2000年と比較して約4倍となっています。健康雑誌やインターネットなどにも膨大な情報が掲載され、一般への知名度も高まり、患者からインプラント治療についての問い合わせを受ける頻度も高まっています。

 負担の大きなインプラント治療
 インプラントの治療効果が高いことはすでに述べた通りですが、インプラント治療には、①外科的処置を要する、②治療期間が長期に及ぶ、③治療費が高額である、という欠点があります。そのため、他の歯科治療に対して「敷居が高い」、「負担が大きい」治療であるといえます。また、インプラントの治療成績は決して低いものではありませんが、インプラントが骨に生着しない、生着したインプラントに不具合を生じるなどの偶発症の発生は避けられません。そのような際のインプラントの撤去や再治療には、更に大がかりな治療を要する場合も少なくなく、④リカバリーに大きなエネルギーを要することが欠点に付け加えられます。
 従いまして、インプラント治療の適用にあたりましては、その有効性と安全性について十分な検討を要します。「とりあえずやってみよう」、「うまくいかなければやり直そう」など、安易に治療を開始すると、思いのほか治療の負担が大きくなり、患者さんに迷惑をかけることになります。
加えて、インプラント治療の適用頻度が高まるにつれ、インプラント治療術後の不具合に関わる医事紛争も増加しています。昨年には、インプラント埋入手術に端を発する死亡事故が報告されており、インプラント治療の適用には慎重にならざるを得ません。

 ビスホスフォネート製剤
 ビスホスフォネート製剤(BP製剤)は、骨の吸収を抑制する作用を有しており、骨吸収が亢進する様々な骨代謝疾患に対して用いられています。特に、悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症や癌に伴う転移などの骨病変に対する注射適用の治療効果が高いとされています。さらに、骨粗鬆症の治療ではBP製剤の経口投与が第一選択となっており1)、現在、日本国内に約1000万人が罹患しているといわれている骨粗鬆症患者に対して広く用いられています。
 骨粗鬆症では、骨に微小な孔を多数生じます。そのため、骨質が脆弱となり、骨の変形や痛み、骨折などが多発します。この骨質の劣化は、インプラントの骨結合獲得と長期維持に対するリスクファクターと考えられています。従いまして、骨粗鬆症患者に対するインプラント治療の適用は極めて慎重に行われなければなりません。

 ビスホスフォネート製剤に関連する顎骨壊死
 (Bisphosphonate Related Osteonecrosis of the Jaw: BRONJ)
 一般に、歯や歯周組織の炎症など、様々な原因で顎骨壊死、顎骨骨髄炎は起こります。当該部位の痛みや、その周囲の腫れ、瘻孔の形成、骨の露出などを生じます。これに対して、化学療法や一部の理学療法とともに外科的な対応が実施され、一定の効果が期待されます。
 ここで、BP製剤の投与を受けた患者には、通常の治療による効果が期待できない顎骨壊死が生じる可能性があることが報告されています。そして、①顎口腔領域の骨露出が、8週間以上継続し、②その部位に対する放射線治療の既往がなく、③BP製剤による治療経験があるものについて、ビスホスフォネート製剤に関連する顎骨壊死(Bisphosphonate Related Osteonecrosis of the Jaw: BRONJ)という病名に診断され、一般の顎骨壊死と区別されるに至っています2)。BRONJの発生機序はいまだ明確となっておらず、その発症には投与薬剤の種類、投与量、投与方法、投与時期などとのかかわりが指摘されています。ここで問題となるのが、重度の感染や骨露出を伴うBRONJに対し、短期間で劇的な治療効果を期待できる対応が確立されていないこととなります。外科的処置や高圧酸素療法などの有効性は確認されておらず、感染対策と疼痛管理が主な対応となりますが、多量の非ステロイド性抗炎症薬によりBRONJの症状が悪化するとの報告があり、注意を要します3)。
 BRONJの発症頻度は、BP製剤投与例全体で0.05~0.1%と決して高い頻度ではありませんが、前述したように効果的な治療法が明らかではありません。さらに、BP製剤投与中の抜歯施行例における発症頻度が0.37~0.8%と上昇することから、BP製剤の使用経験のある患者への歯科処置には十分な注意を要します。
BRONJを引き起こす可能性のある歯科処置としては、抜歯に加え、根尖外科処置、骨への侵襲を伴う歯周外科処置、さらにはインプラント外科処置が挙げられます。義歯による床下粘膜の外傷から発症する頻度が高いことも報告されており、歯科処置においては、創傷を引き起こす処置を極力避け、保存的な処置を心がけ、口腔衛生管理に努めることが推奨されています。また、BP製剤の投与が必要となった場合には、投与開始前にBRONJ発症の危険因子と考えられる歯科処置をあらかじめ実施してしまうことも重要と考えられています。
 一方、経口BP製剤による治療期間が3年以上である場合、もしくはステロイド製剤による治療を併用している場合にはBRONJの発症頻度が高まるとされています。そのような状況において、侵襲的歯科処置を行わなくてはならない場合には、少なくとも施術3ヵ月前から治療部位の骨の治癒傾向を認めるまでの期間の休薬が必要とされています。しかし、BP製剤の投与、休薬について、主治医の許可なく歯科医師が指示をすることは許されません。したがって、患者への十分な説明と理解をもとめ、主治医に協力を求める対応が必須となります。口腔内に、いかに侵襲的歯科処置を要する急性症状を認めたとしても、性急な処置を避け、保存的な対症療法と口腔衛生管理、感染予防を第一とすることが重要です。
BP製剤の投与治療を要する骨粗鬆症への罹患は、高齢の女性を中心に一定の頻度であることを考えると、日常から口腔環境を整え、外科処置が必要となるような重篤な歯科疾患を予防することが重要と考えられます。そして、何にも増して、歯科医師は患者の口腔内のみに目を向けることなく、常日頃から患者の全身状態、既往症や投与薬剤について、十分な問診により把握しておくことが求められます。

 BP製剤投与患者に対するインプラント治療
 インプラント治療は、歯が失われたことに伴う形態的、機能的な障害を補うための、きわめて有効な手段と考えられます。しかし、治療に関わる患者・術者の双方への負担の大きさを考えると、安易に適用されるべきものではありません。インプラント治療により、間接的にBRONJのような重篤な疾患を惹起することが頻発することにより、インプラント治療自体が芳しくない評価を受けることにつながることが危惧されます。たとえ、個人的な同意が得られていたとしても、その結果が社会に与える影響を考えないわけには参りません。したがって、歯の欠損に対して保存的な治療が可能と考えられる場合には、BP製剤投与患者に対するインプラント治療は慎むべきと考えます。
 また、BP製剤投与の顎骨への影響について知識を深め、そのことを患者に対して十分に説明し理解を求めることが医師・歯科医師の責務と考えます。

 参考資料
1)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版 
  骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会 
 http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0046/1/0046_G0000129_0001.html
2)厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル
   http://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/tp1122-1.html
3)口腔外科学会
  http://www.jsoms.or.jp/pdf2/bone_bisphos.pdf

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【ニュース】

  高崎市議会でも「意見書」採択!

 協会では昨秋から歯科医療の危機的状況を広く市民に理解してもらい、国の政策転換を促すため、「保険でよい歯科医療の実現を求める意見書」の採択を自治体議会に要請する活動を始めた。
 昨年九月前橋市議会での採択に続き、12月19日には高崎市議会でも同趣旨意見書が採択され、国の関係機関に同市議会の意見として送付されることになった。
 高崎市議会での採択にあたっては、「新風会」清水真人議員と議長経験者の松本基志議員にお世話になった。協会では引き続き他の市町村議会にも働きかけてゆく方針で、お知り合いの市会議員をご紹介いただければ幸いです。

■群馬保険医新聞 平成20年1月号