【論壇】2016年を振り返って

【2016. 12月 15日】

2016年の出来事を思いつくまま、振り返ってみた。

 ●マイナンバー制度施行

1月から社会保障・税番号制度という名目で12桁の国民識別番号法が施行され、支払基金や国保組合からも番号の提出を求められるようになった。制度導入の利点を行政の効率化や国民の利便性向上、公平・公正な社会の実現とうたっているが、個人情報の流出リスク増加にはふれていない。3月には早くも利用範囲拡大の改正法案が閣議決定され、銀行口座や医療分野等での利用をはかるという。財務省が個人金融資産をより把握したいとの思惑で、いずれ銀行からもマイナンバーの提出を求められるだろう。しかし、それで株なども含めた公平な課税ができるわけでもなく、その気もない。現行の制度で特に困っていることはなく、医療も含めた多くの個人情報は流出やなりすましのリスクが桁違いに増加し、流出したら元に戻せない。医療情報などはマイナンバーによる集中管理でなく、分散管理が望ましい。

 ●パナマ文書の報道

 4月にパナマの法律事務所からの21万社以上の金融関連文書流出について調査中との報道があった。パナマなどは租税回避地(タックスヘイブン)と呼ばれ、その地に作ったペーパーカンパニーへの送金による名目上の資金プールが、税金逃れや資金洗浄(マネーロンダリング)に利用されている。このパナマ文書は、匿名で南ドイツ新聞等に送られ、それを世界中のジャーナリストが分担して調査中で、徐々にその内容が明らかになっている。パナマ文書には各国の政界トップや富裕層の名前もみられ、日本でも700人以上の名前が出た。警備会社セコムの創業者は、税金逃れに、巨額年金詐欺事件を起こしたAIJ投資顧問は詐欺した年金の移動に利用し、その金の行方もわからない。これとは別に、多国籍企業は法人税の低い海外の子会社に利益を移して、法人税逃れをしている。よく使われるのは、法人税率12%のアイルランドやオランダの子会社を間に組み合わせて法人税を低く抑えるやり方で、このような多国籍企業の税逃れは年間20兆円、世界の法人税収の10%にものぼるという。パナマ文書からは、そのような税金逃れや資金洗浄がグローバルであることがわかる。

 ●診療報酬改定

 4月に医科・歯科の診療報酬改定があり、全体ではマイナス0・84%となった。地域包括ケアシステムの推進と医療機能の分化、強化、連携をはかるとされるが、入院医療の絞り込みと在宅医療への誘導が顕著である。外来では、地域包括診療料の基準緩和や認知症地域包括診療料、小児かかりつけ診療料の新設など、包括点数拡大がある。在宅医療では、在宅時医学総合管理料等について、患者の状態、居住場所、単一建物内での訪問診療人数、訪問診療の回数等により点数が細分化され、在宅医療現場に混乱がもたらされた。点数区分はいっそう複雑となり、重症でない患者やサービス付き高齢者向け住宅・有料老人ホーム入居患者等の点数が引き下げられた。

 ●熊本地震と原発再稼働

 4月に熊本で、震度7が2回続く地震があり、日本ではプレート境界付近でなくても、内陸でもどこでも地震が起こりうることを示した。東日本大震災以後、日本中で原発が停止したが、省電力化や太陽光発電などにより、電力不足は起こっていない。そんな中、昨年8月に鹿児島県の桜島から近く、巨大火山の火砕流時の備えが整っていない川内原発が再稼働した。原子力規制委員会の見解は、「新規制基準に適合したと判断したが、安全と認めた訳ではない」との言い訳だ。今年2月には福井県の高浜原発が、8月には中央構造線のほぼ真上にある愛媛県の伊方原発が再稼働した。福島原発事故から5年以上が過ぎたが、その収束は先が見えず、30年経ったチェルノブイリも同様である。一度事故を起こしたら周辺には住めなくなるような原発は、地震国日本には不向きだろう。

 ●高額薬剤費オプジーボ

 10月に抗がん剤オプジーボの高薬価が国会で問題になった。2014年9月に発売されたオプジーボは、年間患者数470人の悪性黒色腫に有効として1瓶73万円の高薬価がつけられた。2015年12月には患者数5万人の非小細胞肺癌にも適応拡大され、 その薬剤費は一人年間3500万円、皆に使えば総額1兆円以上となりうる。薬価決定は、厚労省関連の医薬品医療機器統合機構PMDAにより行われるが、オプジーボでは薬価決定の理由の開示が不十分で議事録すらない。新薬は原価計算方式で開発費が計算され、少ない患者数を基に単価があがり、日本発の新薬として営業利益に6割も加算がついた。このPMDAの予算は、8割以上が製薬会社からの拠出金や手数料であり、そこには会社寄りになる体質も伺える。日本の薬価がイギリスの5倍、アメリカの2・5倍になる理由はこの辺にありそうだ。オプジーボの場合は、あまりにも高薬価だったため、2年毎の薬価改定を待たず、半額に下げると決まったがそれでも高い。日本の医療費上昇分のほとんどを薬剤費増加が占めているが、そこには新薬の高薬価問題がある。

 ●ノーベル医学生理学賞 

10月に大隅良典さん(東京工業大栄誉教授)が医学生理学賞を受賞した。その理由は自食作用(オートファジー)の発見。受賞発表後の会見では、「社会がゆとりを持って、基礎科学を見守ってほしい、私は憂慮している」と述べた。国公立大学の運営交付金と私学助成金は10年以上減少中で、すぐに成果が出そうな研究に偏りがちとなっている。大学の若い研究者は期限付きの待遇が多くなり、日本の将来の基礎研究が危ぶまれる。これに対して、機動隊員の土人発言にはおおらかな科学技術担当相は「この国の財政状況はそれを許すほどおおらかでない」といい、本当に日本の将来が心配となる。

 ●TPP法案強行採決

 11月のアメリカ大統領選挙の直前に、衆院でTPP法案が強行採決された。TPPは、環太平洋戦略的経済連携協定であり、戦略的ビジネスまたは投資目的の経済協定である。それは、健康や環境保護を目的とした規制を緩和させる狙いがあり、医療等に関しての規制権を大企業に握らせ、大企業の利益にはなるが環境や労働者を保護しない性格をもつ。アメリカ大統領候補であった民主党サンダースは労働者保護のためにTPPに反対したが、共和党トランプは、アメリカの製造業保護を名目に反対し、選挙で勝てば、TPPは批准しないと言明した。トランプが勝って、TPPがなくなれば一安心とはいかない。日本が米国との2国間協定にした場合、トランプの米国から医療等にさらに厳しい要求を突き付けられることは想像に難くない。

 ●アメリカ大統領選挙トランプ勝利

 全国の得票数ではクリントンが多いが、選挙制度による選挙人の数でトランプが勝った。これは、2000年のゴアとブッシュの時と同じ構図であり、ブッシュが大統領にならなければ、イラク戦争も起こらず、イスラム国などののテロや温暖化も増えずに済んだかもしれない。トランプがならなければ良かったのにとならないよう、日本、世界のトランプ似の政治家も含めて見守る必要がある。

   (副会長 長沼誠一)

■群馬保険医新聞2016年12月号