<保険医新聞>【論壇】格差社会の広がり改善策進まぬまま

【2016. 4月 15日】

 4月から診療報酬改定がなされた。2年ごとにおおむねマイナス改定が繰り返されてきた。家計負担増による患者の減少と診療報酬マイナス改定によりダブルパンチにみまわれている。包括医療費支払い、7対1入院基本料等、入院患者の平均在院日数を短縮し、在宅等に復帰させるインセンティブが設けられ、意図的、政策的に医療需要を抑え、患者を入院から在宅へ施設から地域に押しだそうとする施策が続いてきた。その結果、医療難民、下流老人、介護離職など、さまざまな問題が噴出している。
 今から10年ほど前、所得・資産の再分配の不平等や格差社会のことが大いに論じられた。格差について、当時は経済学、行政、マスコミなどの世界でずいぶん議論されたが、いつの間にか世間の関心は遠のいてしまった。
 なぜ格差論は興味をを失われ、無視されるようになったのか。マスコミなどのように一時期の興奮が冷めてしまったか、あるいは所得の高い人のように、所得格差が拡大したことを公に認めようとしないか、または密かに認めていても所得の高さが槍玉に挙げられて高い税金をとられるかもしれないと恐れたか。高所得者たちは、格差社会論を無視し、改府の所得再分配政策に反対する立場にいる。経済学の分野でも、格差是正の政策が導入されると、経済成長にとってマイナスになると考え、経済効率を重視する立場から、格差は無視した方がよいと考える人がいる。企業経営者は、賃金格差を是正すると、有能で意識の高い労働者の賃金が低くなり、労働意欲が阻害され、生産性が悪くなりかねないと考える。
 所得格差は、お金持ち、貧富の格差、貧乏人の3つの論点がある。フランスの経済学者トマ・ピケティは、著書「21世紀の資本」の中で、資本主義の宿命として、高所得者、高資産保有者はますます富裕化するということを、理論と実証で明らかにしている。
 現在の日本において、餓死はそれほど発生しない。だが、それに近い貧困層、憲法で定める最低限の文化的な生括を送れていない人はかなりいる。その証拠として、主要先進国の中で、日本の貧困率はアメリカに次いで2位、16%の高さである。
 日本の格差の現実は、子どもや高齢者の貧困、男女間格差、正規労働者と非正規労働者の貸金格差、非正規労働者の増加、安すぎる最低賃金などがある。中でも特に最近では、高齢者の貧困、健康格差が大きな問題となっている。これらは高齢者になって突然出現するのではない。幼年期、少年期、青年期、中年期と、それぞれの時期をどう生きてきたかの積み重ねが原因となっている。高齢者の格差を是正するには、若いころの格差を是正しておかなければならない。国もようやく、保育園入園待機児童、非正規労働者の賃金格差問題に対応しはじめた。  
   (広報部 深井尚武)

■群馬保険医新聞2016年4月号