2017年版「超高齢社会白書」によると、総人口における65歳以上の高齢者の割合は、27・3%に達し、世界でも類をみないほどの超高齢社会に突入した。2025年には30・3%、2055年には39・4%となる見通しだ。
超高齢社会を支える15~64歳の現役世代の数は減少し続けている。2015年、高齢者一人に対する現役世代の数は2・3人であったが、2065年には、1・3人で高齢者一人を支えなければならないとの厳しい予測もある。少子高齢化がもたらす大きな問題だ。
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超高齢化が進行する中、平均寿命と健康寿命をいかに近づけるかが、私たちに与えられた大きな課題である。
フレイル(年齢に伴った筋力や心身の活力が低下した状態)を早期に発見し、適切に介入することで、生活機能の維持、向上を図ることができる。フレイルに陥る前段階として、口の機能の衰え「オーラルフレイル」という言葉も定着しつつある。
昭和の時代、歯科治療は、う蝕、歯周病の治療が中心であり、歯の保存や欠損部の補綴といった医療で歯科の医療保険の構造は成り立っていた。平成も終わりを告げようとする現在、人生100年とも言われる時代になり、80歳になっても自分の歯が20本以上ある8020(はちまるにいまる)を達成した人の割合は、50%を超えた(2017年厚労省)。ところが「歯があっても食べられない、飲み込めない」といった現象が起きている。
高齢になると、四肢の筋肉機能が衰えてくることは知られているが、食べる筋肉、飲み込む筋肉等の衰えも同じように起こることが注目されてきている。
高齢者は、唾液の分泌量が減少し、舌、口腔周囲筋肉の機能の衰えから、歯があっても食べられない、飲み込めない状態に陥りやすい。今回の点数改定では、65歳以上でこれらの症状が該当する場合に、「口腔機能低下症」の診断名が新設され、口腔機能のリハビリに対応できるようになった。オーラルフレイル予防に積極的に介入する動きである。
次の7項目のうち3項目以上が認められれば「口腔機能低下症」と診断される。
①口腔衛生状態不良、②口腔乾燥、③咬合力低下、④舌口唇運動機能低下、⑤低舌圧、⑥咀嚼機能低下、⑦嚥下機能低下。
セルフチェック方法としては、次の8項目のうち、1項目でも該当すれば、口腔機能低下症を疑う。
①硬い物が食べにくくなった、②汁物を飲むときに時々むせるようになった、③口の中が乾くようになった、④薬を飲み込みにくくなった、⑤滑舌が悪くなった、⑥食事をするのに時間がかかるようになった、⑦食べこぼしをするようになった、⑧食後に口の中に食べ物が残るようになった。
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一方、将来高齢者を支える子どもたちの口腔の発達の問題も指摘されている。
成人が備えている正常な口腔機能が加齢により衰え、獲得した機能が衰えた場合、元の機能に回復させることが、リ・ハビリテーションである。小児期においては、この口腔の機能が発達・獲得(ハビリテーション)する過程にあり、各成長のステージにおいて正常な状態が変化する中、機能の発達が遅れていたり誤った機能の獲得があればその修正・回復を早い段階で行うことが求められている。近年、こうした口腔機能の発達・獲得が不十分なまま成長することが問題視されており、今回の点数改定では、15歳以下における「口腔機能発達不全症」の診断名が新設された。
小児における口腔発達不全症を見極めるには、食べる機能、話す機能など、年代に応じた発達が獲得できているかを調べる必要がある。
食べる機能において、「歯の萌出に遅れがあるか」「歯並びやかみ合わせはどうか」「むし歯が多くあるか」「強くかみしめることができるか」「咀嚼時間が長すぎる、あるいは短すぎないか」、話す機能においては、「構音に障害があるか」「口唇を閉鎖できているか」「舌小帯に異常があるか」、その他には、口呼吸や口蓋扁桃の肥大、睡眠時のいびきの有無などを調べる。日常生活の中では、口がいつもポカンと開いている、食べるときにクチャクチャ音がする、硬いものを嫌がる、いつまでも口の中に食べものがあり飲み込みに時間がかかる、発音がはっきり出来ない、舌を「べー」っと出したときにハート型になる等がみられれば、口腔機能発達不全症が疑われる。
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口腔機能をしっかり獲得していない現代の子どもたちが高齢となり、口腔機能が低下した時、現行のリハビリが通用しないことも考えられる。
超高齢社会において健康寿命を延ばすには、高齢者の口腔機能回復とともに、小児期の健全な成長・発達にも目を向けていくことが重要である。
(副会長 小山 敦)
■群馬保険医新聞2018年11月15日