【論壇】本庶佑氏らのノーベル賞受賞にあたって―がん患者と医師としての立場から

【2018. 10月 15日】

本庶佑氏(京都大特別教授)とジェームズ・アリソン氏(米・テキサス大教授)らのがん免疫療法の進歩に対する研究に、今年度のノーベル医学生理学賞が与えられた。私自身、がん患者の一人として、この受賞がとても身近に感じられ、今後の治療成績の向上に大きな期待を寄せたい。
リンパ球の働きについての詳細な知見も、私が学生だった半世紀近く前に比べて隔世の感がある。そして、免疫を高める、というテーマは、栄養や運動を専門とする職種の方々も含めて、多くの人々の関心事になっている。今回、免疫療法が、医学的にもがん治療の重要な選択肢として社会から注目された意義は大きい。
抗がん剤の点滴を受けながら、隣で治療を受けている肺がん患者と看護師の雑談が耳に飛び込んできた。「諦めていたけど、この薬で肺の影が消えたんだよ。もう治ったと思うよ」と、患者としての喜びを語っていたが、この薬というのが、今回ノーベル賞を受賞したニボルマブである。まだまだ限定的な効果であり、副作用がないわけではなく、今後さらに有効性を追求しなければならないが、これまでがんを治療するという大義名分で、体へのダメージの大きい治療しか選択肢のなかった分野で、生体の持つ免疫を活性化させて、非自己であるがん細胞に対処できるようになれば画期的であり、ノーベル賞受賞にも合点がいく。
そして、いつものことであるが、学術活動でもスポーツでも、国際的評価を受けると、にわかに国内中で騒ぎが始まる。同胞の喜びを共有することが悪いとは思わないが、せっかくの偉業から何かを学ぼうという姿勢が欲しい。
受賞後の記者会見で本庶氏は、これまでの研究を振り返り「失敗もあったが、挫折感はない。既成の考えを無批判に信じず、諦めずにきた」とコメントした。また、研究者の道に進む子どもたちに伝えたいことを問われ、「教科書に書いてあることを信じないこと、不思議だなと思う心を大切にすること」と重要なメッセージを送ったが、NHKのニュースではその部分は放送されなかった。一方で、拙速な研究成果を求め、成果を出した大学に補助金を増加するといった政府の成果至上主義への懸念も示している。日経新聞のインタビューでは、「政府は応用ばかり考えて、研究費が応用に流れすぎている」と問題を指摘したが、同紙最終版では、その部分は削られていた。
保険医として、今後の運用について心配なことは、ニボルマブの高薬価だ。当初100㎎73万円の薬価が付けられた。米国、英国等の価格との極端な差が指摘され、段階的に引き下げられたが、保険制度の継続という面からみれば、専門医の慎重な診断と実地臨床の場での乱用を避ける制度作りが必要だ。その時に高額な医療費が支払えない人が排除されることのないよう配慮するのは当然である。
(副会長・深澤尚伊)

■群馬保険医新聞2018年10月15日