【論考】
レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟
提訴一年で省令変える
原告 清水信雄
2009年11月25日、レセプトオンライン請求義務化が実質的に撤回された。「仲間を守る」をスローガンに運動を続けてきた義務化撤回訴訟原告団の一人として、まずは保険医の権利が守れたことを喜びたい。
◎保険医の権利を守る
2006年4月10日、厚生労働省令111号によりオンライン請求義務化が施行され、2011年の完全実施に向け順次進められることになっていた。これが実施されれば12.3%の会員(保団連)が廃業に追い込まれ、地域医療の崩壊を促進すると全国の保険医協会が撤回を訴えて運動を展開した。それから3年半、横浜地裁への提訴から1年を待たずに省令改正が実現した。
もちろん、2009年九月の新政権誕生が大きく影響したことは間違いないが、それ以前に訴訟が起こされ、しかも2200人の医師、歯科医師が原告団を結成するという過去に例のない裁判闘争がマスコミに注目され、市民の関心を惹いた。このことが省令改正に大きな役割を果たしたのは火を見るより明らかである。
司法の場で実質的な議論がされなかったことに物足りなさが残る。しかし私たちの目的は裁判をすることではなく、保険医の権利を守ること、かつ、その主張の正当性を国に認めさせることであった。目的は十分達成できたと考えていいだろう。
◎医療保険制度の歪み
一部とはいえ私たちの主張が認められた今、銘記すべき教訓は何だろう。
そもそも医療保険制度は、国の定めた制度の中で、個人開業の医療機関による医療活動の協力があってはじめて成り立つものである。国と医療機関、そして保険料を払い医療機関を利用する国民は、医療の場においては対等なはずである。このバランスが崩れたために「医療崩壊」が起こった。
患者にとって最善の診療とは何か、保険医がそれを全うできる環境は整っているか、国は保険請求の仕方を云々する前にやることがあるはずだ。
また請求方法を含む医療システムは医療機関同様、国民にとっても重要な問題である。その改正が大臣告示でなされ、細目の運用にいたっては課長通知で行われていることを改善する必要がある。ぜひとも、国会の審議を経た上での改正であってほしい。
さらに、医療廃棄物の処理方法(廃棄物が確実に処理されたかを責任者が確認する等)でもみられたが、国は現実的ではない義務を医療機関に課す一方で、それに伴う費用は出さず、医療機関に全責任を負わそうとする「体質」をもっている。新政権は一部補助制度を導入したが、オンライン化による費用や情報漏洩の責任(住基ネット問題は未解決)は医療機関に…という姿勢に変わりはない。
また、今後オンライン化が進むとしても、それが医療費削減の道具にならないよう私たちは監視していく必要がある。
◎国民の理解を
今回の改正が国民の目にどう映るかについても対策が必要だろう。「時代に逆行するような身勝手がまかり通った」と印象づけてしまえば、たとえ撤回は勝ち取っても、結果的に保険医は信頼を失うことになる。
世の中、あらゆる分野でオンライン化が進んでいる。義務化とは別の次元の話になるが、私個人はオンライン化も使い方次第で大きなメリットがあると思う。(群馬県保険医協会副会長)
【横浜地裁で開かれた第1回口頭弁論(09年9月9日))には全国から傍聴者がつめかけた。群馬からは14人が原告団に。】
■群馬保険医新聞 2010年2月号