【論壇】放射線被曝―正しい情報と冷静な行動

【2011. 6月 21日】

 東日本大震災から50日が経過したが、福島第一原発における放射能汚染問題の解決方法は、模索状態だ。
 IAEA(国際原子力機関)の定めた原子力事故の共通尺度では、レベル七というチェルノブイリ事故に匹敵する最悪の結果となった。
 原発周囲20キロメートルの住民には避難指示が出され、放射能汚染の風評被害も加わり、福島県民は、困難な生活を強いられている。
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 福島第一原発事故で大気中に放出された放射線物質の量はどのくらいか。4月5日までに各都道府県で観測されたセシウム137の降下量は、茨城県ひたちなか市で2万6399九ベクレル/㎡に達し、東京都新宿区でも6615ベクレル/㎡となった。 
 3月21日から22日にかけて降った雨で、大量の放射性セシウム137が降下し、関東を中心に汚染が拡大した。4月以降、関東各地の降下量は低減しており、専門家は「健康には問題の無いレベル」という表現をしている。しかし米国科学アカデミーの報告では「被曝のリスクは低線量にいたるまで直線的に存在し続け、しきい値はない。最小限の被曝であっても、人類に対して危険を及ぼす可能性がある」と明言している。いわゆる「許容量」とよばれるものは、「安全量」ではなく、「がまん量」に過ぎないのだ。
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 大気中の放射性物質は、地表面や建物などに沈着し、環境中に留まる。放射性物質の沈着した水道水や農作物を摂取することにより、放射性物質が体内に取り込まれ、体内被曝となる。
 放出する核分裂片には放射性ヨウ素、セシウム、ストロンチウム、マンガン、コバルトなどがある。主な成分である「放射性ヨウ素」と「放射性セシウム」については以下の調査報告がある。
 放射性ヨウ素は甲状腺に集積するため、安定ヨウ素剤を服用し、取り込みを阻害し、甲状腺への影響を低減させる。放射性ヨウ素は原乳に蓄積されるため、汚染されたミルクを飲むことにより甲状腺癌の発症が増加すると報告されている(チェルノブイリ事故後の調査より)。葉もの野菜の表面についた放射性ヨウ素、セシウムは、水洗いにより10~30%程度、水洗い後にゆで、そのゆで汁を捨てると、40~80%は除去できるといわれている。
 放射性セシウムは半減期が30年と長く、汚染された土壌で作られたキノコや野菜に残る。しかし年間100ミリ・シーベルト以下の摂取なら健康に影響は及ぼさない。
 水道水で問題になるのは、放射性ヨウ素と放射性セシウムだが、セシウムは浄水処理の際、フィルターで除去される。ヨウ素は、フィルターを通り抜けるが、そのレベルは飲み水として問題のない程度だ。沸騰させれば多少の減少も期待できる。
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 厚労省の「飲食物摂取制限に関する指標」によると、放射性ヨウ素ついて、飲料水、牛乳・乳製品は300ベクレル/㎏、乳幼児に対しては、100ベクレル/㎏を超えるものは乳児用調製乳及び直接飲用にしないとしている。放射性セシウムについては、飲料水、牛乳・乳製品は200ベクレル/㎏となっている。
 放射性物質を最も心配しなければならないのは女性、妊婦、乳幼児である。放射性物質に感受性の高い子どもは、安定ヨウ素の投与や避難、待避など、基準に沿って放射線の健康被害から守らなければならない。
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 今後課題となるのは、土壌汚染である。盆地、農場、牧草地帯、野菜畑等における定期的な放射性物質観測を継続し、公表することが必要だ。未だ予断を許さない福島第一原発事故の情報を正しく公開することが求められる。
 私たちは、正確な知識を得て、パニックにならず、冷静な判断で健康的な生活を送りたいものである。
  (副会長・太田美つ子)
 
 【参考】長崎大学大学院・山下俊一教授の講演「チェルノブイリ調査から考える福島第一原発事故の健康影響」

■群馬保険医新聞2011年5月号