【論壇】乳がん検診の現状と展望

【2023. 5月 16日】

乳がんの現状

 1980年代以降、我が国において乳がんの罹患数は増加傾向にあり、近年でも女性の部位別悪性新生物罹患率において1位を維持している。国立がんセンターの統計によると、2019年の乳がん罹患数は97,142人で、部位別で1位であった。年齢別では40歳代後半と60歳代後半にピークがある。また、2020年の乳がんによる死亡数は14,650人で、部位別では大腸、肺、膵臓に次いで4位であった。生存率を見ると、「地域がん登録」に基づく乳がん全症例の5年相対生存率は92.3%(2009~2011年診断例)であった。病期別の5年相対生存率は、全国がんセンター協議会や癌診療連携拠点病院などの統計があるが、いずれもⅠ期でほぼ100%、Ⅱ期で約95%であるのに対してⅢ期では約80%、Ⅳ期で40%以下と病期が進むにつれて急激に悪化する。このため検診で早期に発見することが、乳がん治療には重要である。

乳がん検診の現状と課題

 厚生労働省は現在40歳以上の女性に対して、マンモグラフィによる乳がん検診を2年に1回受診することを推奨している。しかし2019年の受診率は、全国平均で47.4%、群馬県では48.3%と検診対象人口の半数にも満たない。乳がん検診の受診率を上げるためには、一般市民に対して検診の重要性を周知するための啓蒙活動を続けることと、検診を受けやすい環境を提供することが必要だと思われる。

 乳がん検診のメリットは、言うまでも無く乳がんの早期発見と死亡率の減少である。これに対してデメリットは、マンモグラフィによる放射線被曝と偽陽性による不必要な精査(これに伴う受診者の身体的・精神的・経済的負担および医療費の増加)、偽陰性による乳がんの進行などである。

 マンモグラフィによる検診では検出が困難な乳がんもあり、特に高濃度乳房(乳腺に脂肪がほとんど混在せず、病変と正常乳腺との判別が困難)では偽陰性の可能性が高くなる。このような偽陰性を減らすために、超音波検診の導入が進められている。超音波検診はマンモグラフィ検診より、がんの発見率や感度が向上し早期乳がんの割合が増加したが、一方で特異度は低下していた。今後の課題として、感度と特異度を両立するために超音波検診とマンモグラフィ検診の総合判定の必要性が指摘されている。

 また過去のマンモグラフィ画像との比較読影はマンモグラフィ判定の精度を向上させるのに有用で、特に偽陽性率を下げる効果が期待されている。しかし異なる施設で検診を受けると、比較読影が出来ず偽陽性となることがある。将来的には検診画像を各検診施設で共有するか、検診受診者自身が画像データを保持出来るようになれば、マンモグラフィの偽陽性率を下げられるだろう。

ブレスト・アウェアネス

 厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(2021年10月1日改正)では、従来の「乳がんに関する正しい知識及び乳がんの自己触診の方法等について」が「乳がんに関する正しい知識及び乳房を意識する生活習慣(以下「ブレスト・アウェアネス」という。)」に変更された。ブレスト・アウェアネスは、常日頃から自身の乳房の状態を意識し、いつもと異なる状態に早く気付く様にする生活習慣で、具体的な方法として以下の項目を挙げている。

①自分の乳房の状態を知る

②乳房の変化に気をつける

③変化にきづいたらすぐ医師に相談する

④40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける

 各個人が日常的に自身の乳房を意識することにより、乳がんの早期発見につなげていく生活習慣で、ブレスト・アウェアネスの普及により検診対象年齢以下の若年性乳がんの早期発見や、マンモグラフィ検診で偽陰性となった乳がんを出来るだけ早く発見する効果が期待されている。

おわりに

 乳がん検診を提供する側は、機器の改良や新たな検査の導入、検査技術の研鑽、知見の集積などにより精度の高い検診を提供することが必要とされている。また市民に対する啓蒙活動として、乳がん検診を受ける、ブレスト・アウェアネスを実践するなど、一人一人が自分自身で乳がんから命を守る意識を浸透させていくことが大切と思われる。

(研究部・医科部長 竹尾健)

■群馬保険医新聞2023年5月15日号

【論壇】かかりつけ医とは何か

【2023. 4月 18日】

 国会では昨年から「かかりつけ医」を認定制・登録制にしようとする議論が行われていたが、先月16日に岸田首相はこの認定制・登録制を見送った。

 「かかりつけ医」という言葉は、1992年に当時の日本医師会長であった村瀬敏郎先生が使い始めたことで広まったと考えられている。それ以前では、1956年に「家庭医」を専門医制の一つにすべきという提言が出され、1985年には、当時の厚生省に「家庭医に関する懇談会」が設けられ報告書がまとめられている。しかし当時の日本では受け入れられず、家庭医という言葉が盛んに使われるようになったのはもっと後になってからだ。2017年には「新専門医制度」が開始され、その後は総合診療専門医が各地で誕生し、現在は総合診療、プライマリ・ケア、家庭医などの言葉とともに「かかりつけ医」という曖昧な言葉を制度化しようと進めている状況となっている。

 厚労省は、かかりつけ医について「上手な医療のかかり方.jp」(https://kakarikata.mhlw.go.jp/kakaritsuke/motou.html)というサイトで国民に啓蒙活動を行っている。このサイトでは「かかりつけ医とは何なのか」「かかりつけ医をもつメリット」「かかりつけ医をもつと安心」「かかりつけ医の機能」について説明している。どの項目ももっともらしいことが記されているが、改めて国民に啓発する必要が果たしてあるのだろうかと考えると甚だ疑問である。ここに記されているようなことは、今まで開業医が当たり前にしてきたことなのではないか。そこに通院し、関わっている方はそれを肌で感じていることだろう。

 中には大きな病院をかかりつけ医とするような患者さんや、健康(健康と思っている人も)であることで医療機関とのつながりが薄い人たちももちろんいるだろう。しかし、そのような人たちにもかかりつけ医を勧める活動にはあまり賛同できない。医療や介護という分野は必要となったら考えるものであるべきで、「病気になった時に頼れる存在」とは、かかりつけ医というよりは医療者全般がそうあるべきではないだろうか。私たちが病に苦しむ人たちに対して慈悲の心を持って向き合うこと。それが大事なことだと思うのは私だけだろうか。通院している医療機関で一番信頼できると思われる医師でありたいと日々診療していることを、法律の名のもとに制度化してほしくないと感じる。

 批判ばかりしていても仕方がないので、かかりつけ医の役割にはどのようなものがあるのか考えたい。かかりつけ医には医療的機能と社会的機能の2つの側面がある。医療的側面については、自己の専門性に基づき専門医療について迅速かつ的確に高次医療機関への紹介など適切な対応を行えること。また、患者の背景などを熟知し価値観に沿った医療を提供できること。一方、社会的側面については、日常診療に加え、母子保健、がん検診、介護保険、学校医活動など様々な活動が期待される。どこまで対応できるかはかかりつけ医としての醍醐味だろう。ただ、この2つの役割については現在開業されている先生方のほとんどがすでに実践されていることと思う。

 専門分化が進むのは良いことだと思う。しかし、高齢者の中には開業医を複数受診されている方も多いだろう。内科、整形外科、皮膚科、耳鼻咽喉科、眼科を受診していて誰がかかりつけ医になるか。すべての専門医がかかりつけ医になれば最高だが、やはりより横断的に、俯瞰的に患者さんの背景をとらえられる内科系の開業医がかかりつけ医の第一候補になるのではないか。

 かかりつけ医機能の議論は今後も継続されていくだろうが、目の前の患者さんに対してこれからも真摯に向き合う姿勢を私は継続していきたい。

●かかりつけ医について議論されている書籍は以下の通りです。もし興味があればご一読をお勧めします。

・『医学の本道―プライマリ・ケア』永井友二郎(青山ライフ出版)

・『日本の医療 制度と政策』島崎謙治(東京大学出版会)

・『医療政策集中講義 医療を動かす戦略と実践』東京大学公共政策大学院医療政策教育・研究ユニット(医学書院)

(研究部・医科 金子 稔)

■群馬保険医新聞2023年4月15日号

【論壇】母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)

【2023. 3月 17日】

 母体血漿中には胎児由来のcell-free DNAが含まれており「NIPT(Non-Invasive Prenatal genetic Testing)」 はこれらを解析することで胎児の染色体異常を検出する、出生前遺伝学的検査のひとつ である。ダウン症候群(21トリソミー)や、エドワーズ症候群(18トリソミー)、パトウ症候群 (13トリソミー)といった染色体の数的異常を高い感度と特異度で検出することができ、妊娠初期(10週)から採血のみで侵襲なく検査できる。一方で偽陽性や偽陰性も一定頻度でみられる非確定検査であり、診断を確定させるためには妊娠15週以降での羊水検査が必要となるが、羊水検査は侵襲的検査であり、流産率が0.3%あることも注意すべきである。

 米国では2011年にNIPTを開始し、日本では2013年より全国の日本産科婦人科学会認定施設において染色体疾患のハイリスク妊婦を対象とした臨床研究として開始された。2019年までの6年間に72,395件の検査が行われ、受検者の平均年齢は38歳、陽性率1.8%、陽性的中率90.0%だった。特に21トリソミーにおいての陽性的中率は96.5%と高い結果であった。

 妊婦がNIPTを希望もしくは検討している場合には、事前に遺伝カウンセリングを受けることが重要である。「陰性の結果を確認して安心したい」、「義母から検査するよう強く勧められた」など、NIPTを検討するまでの過程は様々であるため、先天性疾患の可能性や出生前検査に対する問題点について理解したうえで、自律的な自己決定ができるよう支援が必要となる。

 また、偏見によるイメージが先行して不安が大きくなるケースもある。児の先天性疾患は3~5%でみられるが、その中で染色体異常が関連するのは4分の1である。母体年齢とともに罹患率は上昇するものの、もっとも多いダウン症候群でも600~800出生に1人程度である。

 21トリソミー受精卵全体の約80%は流産・死産となる。その内の多くは妊娠16週までに流産・死産となるが、妊娠16週以降も生存し、羊水検査でダウン症候群と診断された胎児も20~30%は流産・死産となっている。そのような中でも出生した児の平均寿命は50~60歳とされ、学校の卒業や就労はともに8割以上であり、9割以上が自身の人生に幸せを感じているとの調査報告もあるため、こうした情報も提供していかなければならない。

 だが、検査についての適切な情報提供がなされないままNIPTを実施する無認定施設が急増し、妊婦に混乱と不安を引き起こしていることが問題となっている。群馬県にはこれまで認定施設が無かったことから、NIPTを希望する妊婦は県内の無認定施設で検査を受けるか、県外の認定施設まで出向くしかなかった。そうした中で、昨年より群馬大学医学部附属病院と群馬県立小児医療センターを基幹施設とし、横田マタニティーホスピタルなど複数の連携施設によるNIPTの実施時における新たな体制がスタートした。NIPTの実施とその前後での遺伝カウンセリングを連携施設で行い、陽性の場合には基幹施設で専門的なカウンセリングを受けられるようになった。現在は35歳未満のリスク因子のない妊婦も、希望すればNIPTを受けることができる。

 多様性の尊重が社会全体で叫ばれて久しいが、この分野においては簡単なことではない。NIPTは『最適な分娩方法と療育環境を検討すること』を目的として始まったが、染色体異常が認められた妊婦の多くが中絶を選択している。諸外国の動向からも今後NIPTのニーズはより高まっていくと予想される。米国では染色体の数的異常だけでなく、染色体の微小欠失や重複といった変化へと検査対象が拡大しており、こうした中で偶発的に胎児の親が持つ染色体疾患が明らかとなる可能性もあることから、遺伝カウンセリングの重要性がさらに増していくだろう。

(環境平和部長 白石知己)

■群馬保険医新聞2023年3月15日号

新年のあいさつ

【2023. 1月 16日】

年頭所感

群馬県保険医協会 会長 小澤 聖史

みなさまに新年のご挨拶を申し上げます。

 昨年も新型コロナウイルス感染症が全世界を駆け回り、群馬県でも第8波が押し寄せ医療現場を圧迫しているのはご存じの通りです。

しかし、コロナウイルス株も変異を重ね、以前と比べると致死率が下がってきているようです。政府の資料によると、デルタ株が主流だった昨夏の第5波で、60歳以上の致死率は2・5%でした。これが、昨年7月ごろから始まったオミクロン株の派生型「BA・5」による第7波では0・48%となり、季節性インフルエンザの0・55%とほとんど差がなくなってきています。

 マスクに関しても、ヨーロッパ、アメリカ等では、街を歩く人を見ても着用している人が少なくなり、必要ないとの意見が多くなりました。新しいコロナウイルスとの共存が始まっていると感じます。

 ワクチン接種も進み、塩野義製薬が開発した国産初の飲み薬「ゾコーバ」が年末に緊急承認されています。処方時に他剤との併用に注意しなければならない等、まだ簡単に処方できる物ではなさそうですが、インフルエンザの内服薬と同じように開業医でも簡単に処方でき、治療が確立すれば、今年中にもコロナウイルスの感染症法の分類は2類相当から5類へと引き下げられるでしょう。

 また、今年から始まるマイナンバーカードの健康保険証利用及びオンライン資格確認は、医療界に大きな波紋を引き起こすことと思います。他協会では、オンライン資格確認が義務化になるなら閉院を考えていると答える高齢の先生が1割前後いる調査結果もあります。使用機器の導入には国の補助を受けられますが、4月までに機器の納入が間に合わない、インターネットの工事が間に合わないとの声も聞こえてきます。

 日本医師会では、4月の完全義務化の延期を求めて、オンライン資格確認等システム導入の経過措置等要望のためのアンケート調査を始め、経過措置を認めてもらう考えのようです。

 保険医協会も、完全義務化に対する反対行動を各地の協会や保団連で起こしており、署名活動や国会行動を通して、導入による医師の窮状を粘り強く政府に訴えていきます。

 海外ではロシアによるウクライナへの侵攻が依然続いています。ロシアもこの戦いを戦争と認め始めましたが、この戦争のために世界各地で引き起こされているエネルギーの高騰、食料品の不足や高騰等はまだまだ続く問題であります。

 私たち群馬県保険医協会は、すべての医師が、今までのように安定した医療を患者さんに提供できる環境を整えるため、これからも活動していきます。

 本年も群馬県保険医協会を、どうぞよろしくお願いいたします。

■群馬保険医新聞2023年1月15日号

【論壇】マイナンバーカード普及手段としての保険証廃止

【2022. 12月 16日】

保険証廃止の発表

 2022年10月に河野デジタル相は、2024年秋を目処に現行の保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体となるマイナ保険証に切り替えることを発表した。

 しかし、日本では国民に対して公的医療保険への加入を義務付ける「国民皆保険制度」を採用している。現行の保険証を廃止してマイナ保険証に一本化する今回の発表は、義務を伴う保険制度と、任意取得のマイナンバーカードの紐付けであり、マイナンバーカード取得の事実上の義務化といえる。

マイナンバーとは

 マイナンバーとは、行政手続における特定の個人を識別するための番号のことで、その利用に関するマイナンバー法は2013年に成立した。

 その目的について、総務省のウェブサイトには「公平・公正な社会の実現」「行政の効率化」「国民の利便性の向上」という3つの意義をうたっているが、「行政の効率化」は「お上の都合」であり、国民に関係するのは3番目だけである。

マイナンバーの問題点

 マイナンバーは住民票を元に付番するため、住民票のないホームレスや住民票の住所に住んでいない人には届かず、全国民への通知の徹底は不可能であり、真に手をさしのべる必要のある人に対する社会保障の充実は困難である。

 また、世帯単位の収入等を把握する総合合算制度により給付を行う等の政府発表もあるが、行政機関の申請主義は変わることはなく、生活保護などでも行政からの手厚い給付は期待できない。

 マイナンバーは生涯不変で、行政内だけでなく民間での利用も想定しているため、漏洩を防ぐ事は不可能である。本来、個人情報は情報漏洩を前提に分散管理を行うことが基本であるが、マイナンバーはそれとは正反対の集中管理であり、セキュリティ面でも懸念がある。

 マイナンバーにより政府は国民の情報入手が容易になる。特定秘密保護法と合わせて出された法であるため、政府に都合の悪い情報は秘密にし、国民の情報は国家による一元管理が可能となる。独裁国家にとって都合の良い制度と言えるだろう。

マイナンバーカード交付率

 マイナンバーカード交付は2016年から始まったが、マイナポイントなどのオマケをつけても、交付率は5割と低い。

 内閣府の『2018年世論調査』での取得しない理由は「必要性が感じられない」、「身分証明書は他にもある」、「個人情報の漏えいが心配」、「紛失や盗難が心配」とあり、カード取得の魅力が乏しい上に、情報の流出に不安を感じていることが伺える。

マイナンバーカード普及を急ぐ理由

 例えば、2016年から金融機関は預金口座とマイナンバーを紐付けて管理する義務が課せられ、登録が進められているが、この登録には、マイナンバー通知カードと本人確認書類のコピーを紙で提出してもらう必要があるため手続きは容易なものではなく、順調とは言えない。もし、マイナンバーカードがあれば、本人確認が容易になり、この手続きも楽になるだろう。

 紙と人による作業を避けて、マイナンバーと各種情報を紐付けるには、マイナンバーカードを使うやり方が、事業者側と利用者側の双方にとって最も容易である。ただ政府がマイナンバーを国民に割り振っただけでは、実効性は薄い。

 他の様々な情報を紐付けるために、マイナンバーカードを全国民が取得し、利用に慣れてもらう必要がある。これが、政府がマイナンバーカードの普及を急ぐ理由と思われる。

マイナ保険証

 2021年10月からマイナンバーカードの保険証利用が可能となったが、利用可能な施設は少なく、2023年4月からのオンライン資格確認義務化はその施設を増やすことが目的であると思われる。

 厚生労働省の公式サイトでは、マイナ保険証のメリットを次の様にうたっている。

(1)就職・転職・引越をしても健康保険証として継続して使える。

(2)マイナポータルで特定健診情報や診療・薬剤情報・医療費が見られる。

(3)マイナポータルで確定申告の医療費控除が簡単にできる。

保険証廃止の問題点

 現行の保険証を廃止するという政府のいきなりの発表に対して問題点は多く、次の様な意見がある。

・保険証を人質にとって無理矢理マイナンバーカードを取得させるのは、何か裏の意味があるのではと勘ぐってしまう。

・本人の意識が無い時は?薬局に代理家族やケアスタッフだけが来る時は?電子的にしか確認できないのは不便以外の何物でもない。

・対応できない高齢者は多数いるはずであり、サポートをするのは行政や医療機関であることを無視した強硬策に思える。

・体制を整え十二分に周知してから行うべき。また、顔認証カードリーダーを医療機関に強制するならば導入経費と維持費は全額国が負担すべき。

・将来的に色々なものと紐付けされていくと、情報漏洩が気になるし、持ち歩くことによる盗難や紛失などのリスクがあまりにも大きいと感じる。  マイナンバーカードへの保険証強制導入による行政のメリットに対して、保険証廃止の国民のデメリットは大きい。強引な保険証廃止は問題ありだ。

(副会長 長沼 誠一)

■群馬保険医新聞2022年12月15日号

【論壇】口腔機能低下症の算定

【2022. 11月 16日】

2022年4月に診療報酬が改定された。基本方針から抜粋する。

(健康寿命の延伸、人生100年時代に向けた「全世代型社会保障」の実現)

○同時に、我が国は、国民皆保険や優れた保健・医療システムの成果により、世界最高水準の平均寿命を達成し、人生100年時代を迎えようとしている。人口構成の変化を見ると、2025年にはいわゆる団塊の世代が全て後期高齢者となり、2040年頃にはいわゆる団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者となって高齢者人口がピークを迎えるとともに、既に減少に転じている現役世代(生産年齢人口)は、2025年以降、更に減少が加速していく。

○このような中、社会の活力を維持・向上していくためには、健康寿命の延伸により高齢者をはじめとする意欲のある方々が役割を持ち活躍のできる社会を実現する(後略)。

 フレイル予防の打ち出しを感じる。

(具体的方向性の例)

〇かかりつけ医、かかりつけ歯科医、かかりつけ薬剤師の機能の評価

・かかりつけ医機能を担う医療機関が地域の医療機関と連携して実施する在宅医療の取組を推進。

・歯科医療機関を受診する患者像が多様化する中、地域の関係者との連携体制を確保しつつ、口腔疾患の重症化予防や口腔機能の維持・向上のため、継続的な口腔管理・指導が行われるよう、かかりつけ歯科医の機能を評価。

 プレフレイルとしての、オーラルフレイル予防の位置づけを感じる。

 2018年に保険導入された、65歳以上の「口腔機能低下症」における「口腔機能管理料」算定は、50歳以上に拡大された。

 「口腔機能管理料」は、歯の喪失や加齢、これら以外の全身的な疾患等により口腔機能の低下を認める患者に対し、口腔機能の回復又は維持・向上を目的として行う医学管理を評価したものである。口腔機能低下の7つの項目(口腔衛生状態、口腔乾燥、咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧、咀嚼機能検査、咬合圧検査又は舌圧検査)のうちいずれか3項目以上に該当すると「口腔機能低下症」と診断され、継続的な指導および管理を実地する場合に算定できる。2020年度の厚労省『第7回NDBオープンデータ』より、病名「口腔機能低下症」として算定される「口腔機能管理料(100点)」は、全国統計で42万3455点、群馬県では1893点と算定率の低さが読み取れる。

 算定においては、7項目全ての検査を実施する事が義務付けられている。この検査に必要な機器の価格は、「口腔乾燥測定器」7万5千円、「咀嚼機能検査機器」2万4800円、「咬合調整圧測定器」42万5千円、「舌圧測定器」16万円と、多額の設備投資が必要である。

 機器のランニングコストは、口腔乾燥測定74円/回。咀嚼機能検査553円/回/6か月。咬合圧測定743円/回/6か月。舌圧測定2千円/回/3か月。さらに舌圧測定は、1500円の舌圧チューブを1ヶ月毎に交換する必要がある。機器を使わずに評価できる方法も提示されているが、舌圧測定に関しては舌圧計の使用が求められるため、最低でも舌圧測定器は必須となる。

 診療報酬として算定できる点数は、咀嚼機能検査140点。咬合圧測定130点。舌圧測定140点。

 あまりにもコストが掛かるように感じる。口腔機能低下症の診断における問題点は、7項目すべての測定が口腔機能低下症と診断し算定をするための条件になっていることである。すべての検査を行わずとも、舌圧を測定して残存歯数が20本未満、舌苔の付着度が50%以上あれば、すでに3項目をクリアするため、口腔機能低下症の診断ができると考えられる。

 例えば、2週間前から義歯の具合が悪いので新しく義歯を作りたい、と来院された患者がいたとする。口腔乾燥があり、舌苔を認める。舌圧を測定すると23kPaと基準値の30kPaに満たない。食前の口腔体操を指導すると、2週間後には義歯の違和感は消え使用可能になった、などという例は多々ある。

 7項目すべてを検査せずとも、3項目以上が当てはまれば口腔機能低下症と診断できるが、この場合口腔機能低下症の診断名は使用できない。7項目すべてを検査するという義務付けは、医療費抑制の縛りを感じる。

 口腔機能低下症と診断することがゴールではない。それを患者に説明し、口腔機能リハビリを継続させるために動機付けて納得させることが重要であり、その指導には、多くの時間を費やす事になる。

 7項目すべてを検査し口腔機能低下症としても、口腔機能管理料は100点。診療報酬として適正な対価であるかは疑問である。

 超高齢社会において、健康寿命延伸を掲げ、フレイル予防の入り口であるオーラルフレイル予防に歯科が重要な役割をもつことは周知の事実であるが、一般の歯科診療体系にはまだまだ浸透しておらず、地域におけるかかりつけ歯科医としての在り方が問われる時代になっていくと推測される。

(副会長 小山 敦)

■群馬保険医新聞2022年11月15日号

【論壇】アベノミクスの行方

【2022. 10月 14日】

 安倍晋三元首相が凶弾に倒れて3か月が経過した。旧統一教会と国葬の問題の対処の仕方で岸田内閣の支持率が不支持率を下回った。

 日本政治はこの10年、安倍元首相の路線の是非をめぐる対立軸で動いてきた。菅、岸田両政権でもその構図は引き継がれ、安倍氏が亡くなった今でも続く。外交、安全保障もそうだが、とりわけ経済政策は安倍政権の呪縛が強い。第二次安倍政権で国政選挙を6連勝に導き、政治資産の多くをアベノミクスが稼ぎ出したと言われるからだ。その可否は今後の国民生活の行方を左右すると言ってもいい。

 アベノミクスの核心、それは先進国家にとって禁断とされていた錬金術に手を染めたことである。日本銀行は大量の紙幣を刷らせ、国債を買い上げて悪化する借金財政を支えた。お陰で増税や歳出削減という不人気政策は先送りできたが、財政事情は著しく劣化した。一時は政治家や国民の間に醸成されつつあった財政健全化への問題意識を消し去ってしまったことも、極めて深刻だ。

 アベノミクスの実行部隊である日銀を指揮してきたのは、安倍政権が指名した黒田総裁だった。9年以上にわたって、異次元緩和を続け、その一環として470兆円超の長期国債を買い上げた。今や日銀の国債保有残高は、黒田日銀以前と比べて8倍以上の約553兆円に膨らみ、政府の国債残高のほぼ半分を占める(2022年6月時点)。これはどう見ても先進諸国が禁じる財政ファイナンスそのものである。安倍氏自身も亡くなる直前まで、全国を回っての講演で「日銀は政府の子会社で、インク代と紙代の20円で1万円札はいくらでも刷れる」と言っていた。それでも日銀は経済のための金融緩和手段だと言い募る。だが巨大な緩和マネーは実は景気浮場にはほとんど役に立っていない。日銀が国債と引き換えに支払った巨額のお金の殆どが、日銀の当座預金口座に退蔵されているからだ。民間企業の投資や家計の消費のための需要が乏しく銀行も有り余るお金を差し出す先がないのだ。

 金融機関は預金量に応じて、一定の預金準備額を日銀当座預金または準備預り金として預け入れることが義務付けられている。それ以外に積まれる当座預金は、業界の俗語で「ブタ積み」と呼ばれる経済を回すのに役立たないお金で、国内総生産(GDP)に匹敵する約473兆円(2022年6月時点)。ただ眠っているだけなら無害だ。だが何かのきっかけでインフレや金利の上昇が急速に進んだら、ブタ積みのお金が一転して市場に流れ出し、うまく制御できなければハイパーインフレが起きてしまう。日銀はそうならないように当座預金金利を大幅に引き上げるだろう。もし1%幅で引き上げるなら支払利息は約5兆円増える計算になる。仮に数%の引き上げが必要になれば、10兆円ほどしかない日銀の自己資本があっという間に吹き飛び日銀が債務超過に陥る可能性がある。

 いま日本はエネルギー価格、食料品価格の高騰、為替も140円を超えた。円安がどこまで進むのだろうか。日本経済の行方が気になる。

(経営対策部部長 深井尚武)

■群馬保険医新聞2022年10月15日号

【論壇】そのゴミは本当に感染性廃棄物なのか

【2022. 9月 15日】

 我が国における医療廃棄物は概括にいえば

(1)特別管理廃棄物(感染性)

(2)産業廃棄物(非感染性)

(3)一般廃棄物(非感染性)

の3つに分類される。(1)はさらに特別管理産業廃棄物および特別管理一般廃棄物に分けられる。特別管理廃棄物とは産業廃棄物および一般廃棄物をさらに厳格に処理をするものであり、その分コスト高となる廃棄物である。

 現在、感染性産業廃棄物以外の特別管理産業廃棄物については、その定義が具体的に定められている。一方、感染性産業廃棄物の定義は「感染性廃棄物とは、医療関係機関等から生じ、人が感染し、若しくは感染するおそれのある病原体が含まれ、若しくは付着している廃棄物又はこれらのおそれのある廃棄物を言う」と具体的とは言い難く、これでは判断に迷ってしまう。

 平成12年12月に環境省は、行政改革推進本部規制改革委員会から「『廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル』(環境省等)(以下マニュアルという)は、感染性廃棄物の判断の多くを医師等に委ねていて判断基準が客観性を欠いている」等の指摘を受け、平成16年3月に感染性廃棄物の判断基準の客観性の向上等を加味した改訂を行った。(大阪府の医療廃棄物Q&Aより)

 以降は最新版のマニュアル(令和4年6月)の内容に沿って話を進める。感染性か否かを分別するための評価項目は、3段階からなっている。ステップ1は「形状」の観点で、①血液等の体液そのもの、②病理廃棄物、③病原微生物に関連した試験、検査等に使用されたもの、④血液等が付着している鋭利なもの、の以上である。なお、鋭利なものは血液付着の有無に関わらず感染性廃棄物とするよう注釈がついている。ステップ2「排出場所」の観点は、①感染症病床等、手術室、緊急外来室、集中治療室、検査室において治療、検査等に使用され、排出されたもの、②実験室・研究室で微生物実験に使用され、排出されたもの、の以上である。ステップ3「感染症の種類」の観点は、①感染症法の一~三類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症及び新感染症の治療、検査等に使用され、排出されたもの、②感染症法の四、五類感染症の治療、検査などに使用され、排出された医療器材、ディスポーザブル製品、衛生材料等(ただし、紙おむつについては、特定の感染症に係るもの等に限る。)、の以上である。「これらステップのいずれの観点からも判断ができない場合、血液等その他の付着の程度やこれらが付着した廃棄物の形状、性状の違いにより、専門知識を有する者(医師、歯科医師、獣医師)によって感染の恐れがあると判断される場合は感染性廃棄物とする」となっている。

 感染性廃棄物が増える大きな要因の一つに、客観的な評価が困難な物品(代表としてグローブやガーゼなど)の存在がある。これらが感染性廃棄物となるケースについて考えてみたい。例えば、これらが手術室から排出されれば、血液付着の有無に関わらずステップ2に該当し、感染性廃棄物となる。また、HBV感染症患者の治療にこれらが使用されたならば血液付着の有無に関わらずステップ3に該当し、感染性廃棄物となる。悩ましいのはステップ2または3に該当しないケースである。基本的に専門知識を有する者により感染の恐れを判断するのだが、その判断の目安が大阪府の医療廃棄物Q&Aに示されている。「多量の血液が付着していることにより血液がこぼれ落ちて周囲を汚染するおそれがあるものを感染性廃棄物とし、血液の付着の程度が少量であるものや乾燥しているものは、非感染性廃棄物とする」とし、「唾液、排泄物、嘔吐物等は、血液と比較して感染性は低いが、それらが多量に混入していれば感染性廃棄物とする」としている。なお、グローブは感染性がないと判断されればあくまでも産業廃棄物である。

 もう一つの要因は、運搬業者側にある。一般的に感染性廃棄物に比べ非感染性廃棄物の運搬費は当然安価となるが、特別管理産業廃棄物の運搬業者によっては非感染性のグローブ等の産業廃棄物を感染性廃棄物と区別せず、同価格で運搬を行っているケースがあると聞く。これではグローブ=感染性廃棄物と思い込んでしまうのも無理はない。コストを考えても別の産業廃棄物(非感染性)運搬業者に委託するしかないだろう。

 感染性廃棄物はいつ、どこで、誰に、どのようにして感染の脅威を与えるかを考えれば、患者や医療従事者に対して講じる交差感染の防止を主眼とした感染対策と同列ではなく、適切な梱包と厳重な保管が重要となってくる。しかしながら、50リットルまたは80リットルダンボールに15キログラムを上限とする固定価格制をとっている特別管理廃棄物運搬業者が多いと聞く。処分場の取り決め事なのだから致し方ないだろうが、これでは「食品の詰め放題」と同様の心理が働き、感染性廃棄物を上限の15キログラムまで潰すだけ潰して詰め込むことに繋がる非常に危険なシステムではなかろうか。マニュアルにも、「内容物の詰めすぎにより、容器の蓋の脱落、注射針の容器外側への突き抜け、内容物の容器外部への飛散・流出等が生じるおそれがあるため、容器に感染性廃棄物を詰め過ぎない(容器容量の8割程度)ように注意する」とある。

 コロナ禍の現在、急激な勢いで感染性廃棄物は増え続けている。運搬業者の中には感染性廃棄物の量が多すぎて、新規の取引は受け付けないところもあると聞く。このままでは運搬・処理価格の高騰や廃棄物運搬の引受拒否のような事態を招く恐れがある。廃棄物を減らすための取り組みの一つに「3R(Reduce・Reuse・Recycle)」があるが、我々が今すぐにできることは、院内より排出された廃棄物をマニュアルに則って分別し、感染性廃棄物をできるかぎり減らすことだろう。ゴミは機械的に「ゴミ箱」に廃棄するのではなく、感染性廃棄物か否か、産業廃棄物か否かを常に意識し、ゴミ箱のみならず運搬業者も適宜仕分けて排出することこそが、感染性廃棄物を減らすためには大変重要なことなのだろう。

(研究部・歯科部長 狩野証夫)

■群馬保険医新聞2022年9月15日号

ごあいさつ

【2022. 8月 18日】

群馬県保険医協会 会長 小澤 聖史

 2022年7月14日の第52回群馬県保険医協会定期総会にて、清水会長に代わり新会長に選任されました。

 私より適任の方が多くいる中、副会長や理事、皆様方の推薦を得て、少しでもお役に立てればと考え、力不足ではありますが会長を引き受けさせていただきました。

 保険医協会は医師会、歯科医師会と違い、医科・歯科一体の組織であることが大きな特徴です。その特徴を最大限に生かせるように、医療問題に取り組む所存です。

 その中で他職種との協力も必要と考えています。以前歯科技工士会の皆様と懇談をしたときに、医師・歯科医師だけでなく医療を支える多くの方々と意見交換をする必要性を感じました。今後は他職種との連携を踏まえ、様々な方と交流していきたいと思います。

 医療対策では、最近少なくなってきている医科向けの講演活動も再開させたいと考えています。会員の皆さんもこの方の講演が聴きたいというリクエストがありましたら事務局までお知らせ下さい。

 個別指導対策では、弁護士の紹介や帯同の実績を積み上げ、よりよい指導対策を行えるようにしていきたいと考えています。そのためには弁護士の先生との勉強会や講演会を開催していく事が必要と考えています。

 協会は発足当時からひとつの政党に偏ることなく、思想信条は自由という立場を貫き通しています。今後もこの信条を貫き通していくことは当然のことであり、一つ一つの法案に対し是々非々で対応していきたいと考えています。

 政府の医療費削減の政策が続く中、新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなりました。感染症に対しての準備不足、病床の減少政策による入院制限など様々な問題が露見し、市民のみならず、医療従事者も多くの犠牲を払い疲弊してきています。今こそすべての人が医療問題に向き合い、医療を支え、皆保険制度を継続していけるように取り組んでまいります。  

 会員の皆様、理事会の皆様、事務局の皆様と一緒に群馬県保険医協会を盛り上げていく所存です。皆様一人一人のご協力をお願いいたします。

■群馬保険医新聞2022年8月15日号

【論壇】18歳成人について

【2022. 7月 19日】

 今年の4月より、民法改正によって成人年齢が20歳から18歳に引き下げられました。1876年(明治9年)太政官布告で定められてから、146年ぶりの成人年齢の変更となりました。なぜ引き下げられたのでしょうか。三つの理由をあげたいと思います。

 一つ目は、若者の社会参加を促進する目的で始まった憲法改正の手続きでした。2007年に国民投票法が制定され、憲法改正の賛否を問う国民投票にあたっては、18歳以上の国民に投票権が与えられることになりました。これにより、2016年には公職選挙法が改正され、選挙権年齢が18歳以上に拡大されました。これに伴い、他の権利や義務が発生する民法の成人年齢の引き下げが行われました。

 二つ目は、少年による凶悪事件が発生するたびに起こる、少年法への批判からでした。成人は、罪を犯すと刑事事件として起訴されますが、少年は保護・更生させることが大事と考えられてきました。しかし、民法改正に伴い、少年法も変わりました。法律の対象年齢は従来の20歳未満のままですが、18歳と19歳の少年は「特定少年」と位置付け、検察官に送られる罪の幅を拡大し、成人の犯罪の扱いに近付けました。起訴されれば、実名や顔写真など本人を特定できる報道も可能となりました。

 三つ目は、男女の結婚年齢の統一です。明治時代に民法で男性は17歳以上、女性は15歳以上と定められ、戦後の民法改正で男性18歳以上、女性16歳以上と引き上げられました。1996年には法制審議会より結婚年齢の男女統一の答申があり、さらに2003年、国連の女子差別撤廃委員会から「差別的」として改正するように勧告されるなど様々な議論がなされ、ようやく2022年4月より民法の成人年齢と結婚年齢が18歳に統一され男女差が解消されました。

 さて、海外での成人年齢はどうなっているのでしょうか。国や地域によって18から21歳とばらつきがあり、中には14歳とかなり低い年齢を基準にしている国もあります。欧米の多くの成人年齢は21歳でしたが、1970年代にベトナム戦争への軍隊派兵や徴兵制度の関係から、18歳に引き下げられました。日本でも、明治の近代化とともに、近代国家制度である学校と軍隊が成人年齢を規定しました。明治6年に制定された徴兵令で満20歳が徴兵年齢とされた為、第2次世界大戦以前の日本の庶民が成人を意識するのは徴兵検査であったともいわれます。ロシアとウクライナが戦争を起こしている現在、複雑な心境になります。

 成人とは何でしょうか。成年または成人年齢は、法的には、単独で法律行為が行えるようになる年齢のことです。民法が定めている成人年齢は、「一人で契約をすることができる年齢」であり、「父母の親権に服さなくなる年齢」という意味があります。成年に達すると、親の同意を得なくても、自分の意思で様々な契約ができるようになります。

 一般社会においては、成人とは身体的、精神的に十分に成熟している年齢の人間を指すことが多いです。戦前は身体の成熟と社会での成人の認知はほぼ一致していました。しかし戦後は経済成長とともに高学歴化が進み、現在成人年齢とされる20歳では約7割の若者は在学していて、経済的には自立していません。社会で一人前と認められるのも、結婚をする年齢も30歳前後となってきています。一方、身体的な成熟は早くなっているので、子どもから大人への移行期である青年期が長くなりました。また、「成人」も多様化しています。経済成長が止まり、終身雇用制度が崩れ社会の価値観が多様になっています。学校教育も多様な「個性」を尊重し、伸ばす「支援」が求められています。

 憲法改正のための手続きを定める法律に端を発して18歳成人の議論がされました。 既に経済的に自立した若者は、18歳成人は親を煩わすことなく、会社等の運営ができ喜ばしいことのようです。しかし、心配なこともあります。親の知らないうちに高校生が結婚することも可能ですし、社会経験が少ない若者が高額な契約をさせられることもあります。若者を消費者被害などからどう守っていくか。本人たちの自覚に加え、家庭や学校の支えも大事なのではないでしょうか。今回の18歳成人は成人になる若者だけでなく、既に成人になっているものも、社会や政治に関心を向けるきっかけになったと思います。

(文化部長 北條みどり)

■群馬県保険医協会2022年7月15日号

【論壇】民主主義と命と健康

【2022. 6月 15日】

 ウクライナ危機といわれるこの戦争はいつまで続くのか。一向に先が見えない。この間にも、一般市民を含む日に何十何百という命が失われている。

 21世紀にこんな殺戮が行われようとは、ほとんどの日本国民は想像だにしなかったのではないだろうか。

 私は1954年生まれだが、小学生の頃、21世紀という時代は『鉄腕アトム』のような、ロボットと人間が共存する平和な社会になるだろうとワクワクしたものだ。

 しかし現実は、社会進歩の時計が逆回転するような事態が勃発している。

 今、世界中で新型コロナウイルスの感染拡大が収束できずにいる。ウクライナでも、もちろん例外ではなかろう。

 しかし、ウクライナ国民にとってはそれどころではない。敵の爆撃を避けるため、地下で身を寄せ合いながら怯えている人々の映像が流された。しかも密閉された薄暗い空間でマスクもしない状態。当然ウイルスは蔓延しているはずである。しかし、命あっての物種。快適な環境、充実した生活、生き甲斐のある人生、そんなことは二の次三の次。とにかく生きること、国を守ること、それこそが一番で、人間らしい生活は後回しにされる。

 今回のロシアの侵攻を、プーチン大統領は「NATOの脅威に対抗するため」と正当化しているが、それが真意なのかはわかりかねる。ロシア国民も同じ考えかどうかはともかく、何れにしてもそのためにとんでもない惨事が起こっている現実がある。

 欧米各国が協調してロシアに非難や制裁を科しているのは当然だと思う。しかし冷静になってみると、責められるべきはロシアだけか。

 2003年、当時の米ブッシュ政権は、イラクの大量破壊兵器保有を口実に先制攻撃を加え、民間人を含む多大な犠牲者を出した。当時の日本の小泉政権は、アメリカのこの行動をいつになく即座に支持した。

 また、もともとはイギリスに責任のあるイスラエル・パレスチナ紛争では、軍備に圧倒的に勝るイスラエルが、幾度となくパレスチナを砲撃し、今も多大な犠牲者を出している。

 これらの紛争も多大な市民の犠牲者を出しているにも関わらず、国際社会が協調して批判や制裁を科したことはなかった。アメリカがどちら寄りの立場を取っているのかが大きく影響していると考えられる。

 常識的にみて、プーチン政権の行動が異常であることに疑う余地はない。ただし、どこからみた常識なのかはまた別の評価となろう。ここでは、民主主義的観点としておく。

 民主主義とは「権力、あるいは権利が人民(国民)にある」とする政治原理をいう。現代では、人間の自由や平等を尊重する立場をも示すとされている。

 人民(国民)が自由な判断をするには、その判断基準となる正しい情報が得られなければならない。徴兵制を敷くロシアでは、その対象となる若者が、行き先も知らされないまま今回の戦場に駆り出され、既に何万という兵士が帰らぬ人となったと聞く。徴兵された兵士に民主主義は適用されないのか。

 権力が一人に集中すると、その言動に明らかな問題があっても、周囲は自らの命や地位を守るため、権力者に対して不快な情報を隠し、あるいは偽の情報を伝えるようになる。いわゆる「裸の王様」状態である。これにより、権力者は己の俯瞰的な状況を見誤ることになる。そして権力者以外の誰かが犠牲となる。今のロシアがまさにこの状態にあるが、わが国でも程度の差こそあれ、似たような状況があった。

 「森友・加計問題」「桜を見る会」等、社会人の誰が考えても疑惑の残る事柄が、それを指摘する記者からの質問に対しても、権力者周辺の「批判に当たらない」との木で鼻をくくったような答弁で受け流されてしまったことは記憶に新しい。

 これは、民主主義にとって実に危険な兆候である。

 さて、私は以前から、医療人としての戦争反対の根拠を

・多くの命を奪う大量殺戮

・負傷者の激増による医療体制の逼迫

・(その一方で)戦費捻出のための医療費等削減

としてきた。

 そしてわが国でも、ロシアの脅威を軍事拡充の口実にする意見もあるが、これには断固反対である。

 今、日本がそのような方向に進めば、現在少なからず日本と対立関係にある国々の感情を逆撫ですることになり、不要な緊張関係を増長させることになるからである。

 そして、もう一つ私が実感していることは

・外交は最大の防衛

である。

 外交を選択肢に入れなかったプーチン大統領の失策と罪はとてつもなく大きい。

(総務部長 清水信雄)

■群馬県保険医協会2022年6月15日号

【論壇】歯科の施術基準 質の担保と政策誘導 活用で患者サービス向上を!

【2022. 5月 16日】

 歯科における施設基準は、補綴物維持管理料の導入から始まりました。

 補綴物維持管理料とは、その施設基準を届け出た医療機関において、歯に冠を被せた場合などに、実質的にその後2年分 成功報酬を前払いする仕組みです。1本の歯に冠を被せた場合(単冠)は、100点(導入当初は150点)が補綴物維持管理料となります。但し、冠を被せた日(装着日)から2年間は、保険診療の対象となる場合は理由の如何にかかわらず、冠を入れた医療機関で再製作する場合の費用は医療機関の負担となります。

 この管理料の導入当初、点数の根拠は冠が口腔内に維持される平均的な期間をもとに単冠の場合は150点と説明されていましたが、後に補綴物維持管理料が普及したとの理由で100点に減額されました。これは、政策誘導として当初高めに設定したが、普及したので減額したという訳です。

 また、補綴物維持管理料の施設基準を届け出ない医療機関は2年以内の再製作の費用を請求できますが、その請求額は7割と低く抑えられ、しかも、この導入の際に補綴物の維持管理とは無関係な点数格差も導入されました。補綴物維持管理料の施設基準を届けていない歯科医療機関は歯の根の治療の際の加圧根充処置(現在の点数では大臼歯の場合210点など)は算定できないこととされました。

 この補綴物維持管理料は、質を担保するためという側面もありますが、「状態の悪い歯に保険の費用を使用するな!」という医療費抑制の意味合いもありそうです。

 その後、歯科の施設基準は次々と導入され、今では50以上になります。

 施設基準は明らかな政策誘導です。確かに医療の質を担保するという側面、必要な医療機器の普及を図るという側面等があります。

 例えば、手術用顕微鏡加算の施設基準を届け出ている医療機関で、歯科用CTで得られた診断結果を踏まえて手術用顕微鏡を用いて、特に複雑な歯の根の治療を行った場合は400点の加算が算定できるという仕組みは、治療の質の向上につながるかもしれませんし、必要な機器購入の費用確保につながるかもしれません。

 しかし、施設基準を届けている、いないに関わらず、同じように提供できる医療内容に明らかな点数格差を設けられています。その最たるものが今春の改定で廃止されたSPTⅡ(歯周病安定期治療Ⅱ)かもしれません。このSPTⅡはかかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)のみが算定できることになっていました。20本以上の歯がある場合、か強診が算定できるSPTⅡは830点(毎月算定可能)、か強診以外が算定するSPTⅠは350点(原則3ヶ月に1回算定)でした。

 歯周病安定期治療(SPT)とは中等度以上などの歯周病に対して治療を行い、概ねコントロールできているが、炎症が一部残っている場合に継続的に管理していくことを指します。この治療に関しては、か強診でなければ提供できないような中身はありません。

 保団連の2022年診療報酬改定への要求の中では、「同じ医療行為を行っても、1物2価とした問題点が残ったままになっている。歯科医療担当者にとっても、患者・国民にとっても不幸な矛盾であり、解消すべき問題点である。」とされています。

 2022年診療報酬改定に対する宇佐美保団連歯科代表の談話では「歯周病安定期治療では、か強診が算定できるSPTⅡがSPTⅠの算定要件に揃えるかたちで一本化された。」SPTの一本化については、算定要件の整理を求めた保団連要求が実現した。しかし、SPTⅡにあった「算定期間の短縮」や「Ⅰに比べて高い点数」といった特徴は、例外規定やか強診加算などに形を変えた。改定前と変わらず、機能評価のあり方に不明瞭な点が問題として残存しており、引き続き、検討・改善が必要である。」とされています。

 1物2価の解消は望ましいのですが、高い点数を低い点数に統合したことを「成果」と誇るのは受け入れがたいと感じる会員は少なくないと思います。中医協の中では、か強診に『プレミア価格』を設定することに支払い側が反対しているので、今後も『改善』が続くものと思われます。

 施設基準は今後も政策誘導の手段として活用されていくものと思われますが、安易な拡大については反対しつつ、手続きの簡素化、役割の終わったものの廃止など、医療機関の負担軽減を図ってもらいたいと思います。また、施設基準を活用して、医院経営の改善と患者サービス向上につなげるがことも必要な対応と思います。

(審査指導対策部歯科 半澤 正)

■群馬保険医新聞2022年5月15日号

【論壇】善き友

【2022. 4月 19日】

 徒然草第117段は推奨する友だちとして、「一にはものくるゝ友」を挙げている。互いの交流を促進し、円滑に進めるためにプレゼントは有意義である。根源的な経済活動である物々交換の発展形と言えるかもしれない。

 物品のやり取りが1対1の関係であれば簡単だが、そこに第三者が存在すると複雑である。医師歯科医師と医療業者との関係は第三者である患者に影響を及ぼす。医療行為の目的は患者の健康増進であり、治療法の選択は当然患者の利益が最優先される。

 薬剤の受け渡しについて考えてみると、薬を出す、あるいはもらうという表現があるように、薬剤を購入しているのは医療機関で、患者には買ったという意識が希薄である。持ち帰らない注射剤であればなおさらである。

 営利企業である製薬会社が医師歯科医師に物品を渡すのは、それが企業の利益につながると判断するからである。関係を構築した医師歯科医師が会社の利益になる行動をとるとの目論見がある。さらには執筆や講演などの対価として金銭の授受が生じれば、企業の成績向上は医師歯科医師自身の利益に直結する。そこには患者の利益にならない薬剤が選択される余地があり、企業及び医師歯科医師と患者の間には利益相反が存在する。放送局はスポンサーの不利益を避けるが、そのために視聴者は正確な情報を得難くなり損失を被る可能性があるのと同じ原理である。

 処方は医師歯科医師の役割であり、患者の薬剤選択の幅は狭い。そして日用品と違い患者にとって薬剤の優劣は判断しがたいので利益相反の影響を解消する仕組みが必要である。患者の本来の利益が保証される方策を考えてみる。

 一般的な取引ならば事前に利益相反する関係者の了承を得てから行うのがルールであるが、誰が患者となって来院するかわからないのであるから、医師歯科医師が将来の患者から了解を得ておくのは不可能である。しかしあらかじめ企業との関係が公表してあれば患者は受診前に閲覧できる。

 現在企業から医師への資金提供は各企業のインターネットサイトで公表されているが、ひとりの医師が複数の企業から受け取っているすべての資金を調べるのは容易でない。特定非営利活動法人Tansaと医療ガバナンス研究所による「マネーデータベース製薬会社と医師」のサイト(https://db.tansajp.org/)では2016年から2018年までの資金提供が検索でき、貴重な情報源である。しかしデータベースの構築には多大な労力が必要で、本来は国の制度として一元的な管理が望ましい。

 利益相反が避けられない医師歯科医師の診療を受けるのであれば、患者は利益相反のない他の医師歯科医師によるセカンドオピニオンを得てから治療を選択することも可能である。医師歯科医師に診療情報として企業からの資金提供を公表する義務はないが、患者にとって有意義であることが理解されれば自発的な公表が普及する可能性はある。

 医師会生涯教育制度の学習内容として講演会への出席が実績として評価される。多数の講演会が企業の資金提供により行われており、その内容は薬剤のプロモーションに近い場合がある。講演での情報提供に偏りがないか懸念を抱かざるを得ない。講演料や交通の便を供されているにも関わらず利益相反がないと申告する講師もあいかわらず存在し、企業を「よき友」としている意識が垣間見える。製薬企業がなければ医療は成り立たない。しかし患者あっての医療である。企業との必要な協力は惜しむべきでないが、内容を伴わず宣伝に利用されているような関係は医療不信の元になるであろう。疑問を抱かれるような資金は1円たりとも受け取らないようにしていきたい。

(経営対策部 本澤 龍生)

■群馬保険医新聞2022年4月15日号

【論壇】コロナ禍におけるフレイル

【2022. 3月 15日】

 2020年に突如として起こった新型コロナウイルス感染症(COVID―19)。瞬く間に全世界に広まり、未だ終息の気配がみられぬまま今日に至っている。日々刻々ともたらされる感染状況を鑑みるに、以前のような日常生活を取り戻すことが容易ではないことは明らかである。

 この新型コロナウイルスは我々にマスクの着用、ソーシャルディスタンスなど新しい生活様式(ニューノーマル)をもたらし、また個々の感染対策、行動制限と併せて、医療体制の整備も進められている。

 但し、高齢者の視点でこの新型コロナウイルス感染症をみると、直接的医療とは違う側面がみえてくる。自粛生活の長期化による活動性の低下(生活の不活発)と社会性の低下である。更にこれらの事象を基盤とし、「フレイル」が進んでいる点である。

 新型コロナウイルス感染症による自粛生活により体を動かすことが少なくなり、筋肉の萎縮が進行して「フレイル」が起こり始める。閉塞感のある生活は社会とのつながりを乏しくし、メンタルヘルスへの影響も計り知れない。

 フレイルとは2014年に日本老年医学会により提唱され、健康な状態と要介護状態の中間の段階を指す。フレイルは身体的フレイル、精神・心理的フレイル及び社会的フレイルの3種類に分けられる。

  • 身体的フレイル…運動器の障害による運動機能低下(ロコモティブシンドローム)、筋力の低下(サルコペニア)更に栄養素の不足などが該当する。
  • 精神・心理的フレイル…うつ状態や軽度認知症の状態があたり、意欲の低下、他との交流の減少も状態を悪化させるといわれている。
  • 社会的フレイル…独居など加齢に伴い社会とのつながりが希薄化することを指す。

 高齢者の新型コロナウイルス感染症による重症化は、連日種々の媒体を通じて広く国民へ報道されているが、こうした感染に対する情報の氾濫や自粛生活の長期化などで、多くの高齢者が低活動かつ不活発な生活となっている。これによりサルコペニアの進行によるフレイルの状態悪化、移動能力低下をもたらし、認知機能、免疫力の低下などの負のサイクルをもたらす可能性がある。

 フレイルの対策としては、食・口腔機能面、身体活動、社会参加の3つの柱を軸に日常生活に継続して取り入れることが必要といわれている。高齢者に対し正しい情報に基づく行動や意識の変容をもたらすことで現状を「正しく恐れる」姿勢を促し、身体機能、日々の生活、地域のコミュニティの改善が必要ではないだろうか。

 所謂「コロナ禍」以前の2019年にわが国は2040年までに男女ともに健康寿命の3年以上の延伸を掲げた「健康寿命延伸プラン」を策定した。その取り組みの一つに「介護予防・フレイル対策・認知症予防」があり、「通いの場」の拡充に数値目標を設定している。

 「通いの場」はボランティア、趣味の活動などの社会参加のみならず、運動機能の向上、低栄養の予防、口腔機能の向上、認知機能の低下予防など多岐にわたる。

 厚生労働省の統計によると「通いの場」の数と参加率は、2013年度4・7%であったが、2019年度には12万8768ヵ所で6・7%と増加傾向にあった。

 しかし、2020年4月からの緊急事態宣言を受け、約9割が活動自粛となった。また、高齢者の心身の状態についての調査においてもコロナ前の2019年度とコロナ禍の2020年度では、外出機会の減少、うつの項目の該当者の増加がみられたとのことである。こうした状況を踏まえ、国ではWEBサイトを開設しオンラインの活用を進めている。

 依然厳しい感染状態が国内を覆っているが、感染予防のみを殊更協調するだけではなく、生活の不活発、人と人とのコミュニケーションの低下を防ぐことも重要であろう。

(会員拡大部 瀧川 正志)

■群馬保険医新聞2022年3月15日号

【論壇】コロナ禍が2年過ぎて

【2022. 2月 15日】

 未だ世の中は新型コロナウイルス関連のニュースで溢れている。それもそのはず、新型コロナウイルスが国内で確認されてから2年が過ぎたが、ワクチンの効果などで感染爆発まではいかないが、収束のめども未だ立っていない。

 悲観的な展望はさておき、この2年の様々な経験などから、徐々にではあるが新型コロナウイルスの特性が明らかになってきた。といっても画期的な治療薬はまだ普及している状態とはいえず、現状では新型コロナウイルスワクチン頼みとなっている。

 3回目のワクチン接種。いわゆるブースター接種を早急に行うことが、今できる唯一の方法ともいえる。だが、そのワクチンさえも変異株出現により、効果が少なくなってきており、このことも収束が遅くなっている要因でもある。

 この原稿を書いている1月下旬の段階では世界的にオミクロン株の感染拡大が凄まじく、アメリカ、フランスなど複数の国では連日数十万人の感染者が出ている。また、日本でも感染が急激に拡大し、日々ニュースの上位に位置している。

 これまで諸外国に比べて感染予防が励行されてきたのは、日本人の真面目さにあると思う。手洗い、マスクの着用、アルコール消毒などほとんどの人が徹底し、社会全体で感染が拡大しないように一人ひとりがかなり気を付けているからだと思う。

 その反面、同調圧力が多く、マスクをつけないで外出しようものなら、周囲から後ろ指をさされる。そのため、周囲に人がいない屋外でもマスク着用、一人で車を運転している時でもマスクをつけて運転するなど、行き過ぎの面もあるのではないだろうか?

 特に感染してしまった人が周囲に「ご迷惑をおかけして…」などと謝罪する姿は、感染者が悪者のような印象さえ受ける。芸能人など感染者が謝罪することは、基本的に止めた方がよいのではないか。

 源流を辿ると元は新型の風邪なので、風邪を引いだけで周囲から糾弾されたり、噂が拡がり今いるコミュニティーから追い出されるようなことがあってはならない。コロナに感染すること自体には何の罪もない。

 現状、新型コロナウイルスにはインフルエンザのような特効薬がなく、基本的には対症療法のため、ハイリスクな人が重症化すると死亡率はインフルエンザよりも高い確率である。

 新型コロナ以前のインフルエンザは毎年約1000万人が感染していたが、コロナ後ほとんど感染者がいなくなった。これはコロナウイルスの流行により、インフルエンザウイルスが一時的にではあるが駆逐に近い形になっているか、徹底したコロナの感染予防により、インフルエンザウイルスの感染拡大要因が非常に少なくなったためか、またはその両方が原因であるかである。

 インフルエンザは季節性ウイルスであり、冬の寒い季節に特に注意を払えば、他の季節は普通に生活ができる。そのため、今までそれほどクローズアップされていなかったと思う。それに対して新型コロナウイルスの質の悪いところは、1年中感染力が強いことや接触、飛沫感染のみならず空気感染する可能性が高いことである。

 ウイルスの基本的変異には、感染力が増大して毒性が下がることがある。この法則が仮に成り立つとすれば、今のオミクロン株や次の変異株あたりで普通の風邪に格下げされる可能性もあるのでないか。

 コロナ禍における日本のこれからの政策は、欧米のように感染拡大はある程度許容し経済を回していくか、中国、オーストラリアのように感染対策を厳重に行い、感染を拡大させない事を目指すか岐路に立たされている。いずれにせよ日本社会はどのように新型コロナウイルスと向き合い、どのように日本全体でウイルス対策と経済対策を講じていくかが今後の最大の課題だと思う。

 最後にマスコミの報道は視聴率を上げるために構成を組む。そのため感染が収束しているときは経済が困窮するから行動制限を広げろと言い、

 感染が拡がると何曜日過去最高とか、前週の何倍とか、特に視聴者が興味を引くような数字を強調して放送している。スタジオやロケでの収録はノーマスクでしているにもかかわらず、街中で飲食している姿を放送し、あたかも感染拡大防止を促しているような放送をしているが、まずはマスコミやTV等の出演者がマスク付けて収録すべきではないか。その矛盾には触れられていないが、そうなることを願いたい。

 人は自分の信じたいものを信じて、信じたくないものは信じないので、あちこちから入る情報をよく吟味して冷静な判断の基に日々行動することがとても大切である。

(地域対策部長 亀山 正)

■群馬保険医新聞2022年2月15日号

新年のあいさつ

【2022. 1月 25日】

新年を迎えて

群馬県保険医協会 会長 清水 信雄

 会員の皆様におかれましては、すがすがしい新年をお迎えのことと存じます。

 さて2年もの間、COVID―19に翻弄される生活が続いています。生活を著しく制限され、社会活動そして経済活動も低迷した日々を送っています。これまで格段の意識もせず当然であったことができなくなり、あるいはそれをするのに何倍もの意識と注意を払わなくてはならなくなりました。結果、平和な日常のありがたさをいやが上にも実感することになりました。

 急増したCOVID―19の重度感染者に対する治療のため、病院等の医療機関は、本来の医療機能自体が逼迫するという事態を経験しました。通常の診療が行えなくなる状況、重症患者の処置も思うに任せず、緊急患者も受け入れられなくなる—こんな状況を誰が想像したでしょうか。

 さらには、感染を恐れての受診控えにより、持病が悪化したケースも数多く報告されました。ここでも、医療の大切さと医療体制の脆弱さを実感せざるを得ませんでした。新たな変異株の懸念もありますが、新規感染者数の増加がやや沈静化している今こそ、これまでの経験を生かし、次の危機に対し生活様式や社会活動、そして医療体制を備えなければなりません。

 今回のコロナ禍において、感染症対策の要であった保健所の機能も逼迫しました。1994年に全国で847所あった保健所数は逓減の一途を辿り、2020年では469所にまで減少しました。行政改革で削減された保健所機能の強化も喫緊の課題といえましょう。

 人びとの日常生活においては、常にマスクを着用しているため、表情を読み取りずらくなっています。特に、口元の表情を敏感に感じながら情緒を身につける乳幼児への影響が懸念されています。その他、表情の乏しさ、コミュニケーションの低下といったマスクの弊害も少なくありません。 

 さて、私たち医療従事者には、住民の健康維持のお手伝いという大きな使命があります。自然科学者としてEBMそしてNBMにより、日々その実践に努めています。これまで正体が分からず、ややもすると疑心暗鬼を生じやすかったCOVID―19も、その感染力や感染経路についてある程度解明され、それにより対策も講じやすくなってきました。過剰な恐れは人間社会に機能障害を引き起こし、一方で無防備による感染拡大も同様の結果を招きます。医療機関が率先して、あるべき有効な感染予防対策を講じ、住民や患者に対し正しい情報発信を行い、結果として医療機関が安全であることの証明を実践して行きましょう。 

 ひとたび感染が拡大すると医療機関はリスクに晒されてます。医療機関の機能不全はそのまま患者の健康のリスクにつながることを肝に銘じ、患者住民の健康維持に寄与していきましょう。そして自らの健康管理にもどうかご留意ください。

 折しも、今年は診療報酬改訂の年でもあります。2024年度から本格稼働する「医師働き方改革」に向けた最後の改訂です。

 しかし、昨年12月8日の中医協総会では、支払側は「(診療報酬を)引き上げる環境にない」との主張をしています。このままでは、コロナ禍で疲弊している医療機関の労働環境、経営環境の改善にはなす術がありません。引き続き、保険医協会及び保団連は、署名活動や国会行動を行い、医療体制の窮状を粘り強く政府に訴えていきます。

 今年も、保険医協会をよろしくお願いいたします。

■群馬保険医新聞2022年1月15日号

【論壇】オンライン資格確認

【2021. 12月 15日】

 マイナンバーカード等によるオンライン資格確認の運用が10月20日から始まったが、厚労省によると現時点で運用開始した医療機関・薬局は11,676施設(5.1%)。顔認証付きカードリーダーの申込数は128,984(56.3%)あるが、パソコンやルーターなどハードウェアの整備やシステム改修の遅れなどから、準備完了は20,362施設(8.9%)に留まっている。

 健康保険組合連合会副会長の佐野氏は「2023年3月末までに、概ね全ての医療機関・薬局での導入を目指す」という目標達成に向け、タイムスケジュールを入れたアクションプラン策定を要望している。

 まずオンライン資格確認の仕組みについて述べてみる。

 オンライン資格確認は、患者が持参するマイナンバーカードのICチップまたは健康保険証の記号番号等を利用し、患者の直近の資格情報が確認出来る仕組みである。方法として、健康保険証を用いた場合とマイナンバーカードを用いた場合の二通りの方法が示されている。

 この資格確認システム導入によるメリットは、

①保険証の入力手間の削減 

②資格過誤によるレセプト返戻の作業削減 

③来院・来局前に事前確認できる一括照会

④限度額適用認定証等の連携 

⑤薬剤情報・特定健診等情報の閲覧

⑥災害時における薬剤情報・特定健診等情報の閲覧 

などが挙げられる。

 また、オンライン資格確認で考えられる問題点・デメリットは、

①設備導入・維持の負担 

 カードリーダーの設置だけでなく、保険資格情報が登録されている支払基金・国保中央会にアクセスするための端末とインターネット回線などを新たに備える必要があること。国は導入費用の補助(診療所では上限約43万円)をしているが、導入後の定期的なメンテナンスや改修等の維持費用は対象としていない。

②資格確認の実務的な負担、カードの使用に不慣れな患者への対応やカードの紛失・取り違えの危険 

 マイナンバーカードで資格確認をする場合、患者自身がカードリーダーにマイナンバーカードをかざし、カードリーダーに自分の顔を認証させることで確認するので対応に負担がかかる。また、マイナンバーカードの紛失・取り違えリスクなどの危険性もあり、医療機関では健康保険証にマイナンバーカードを用いることに否定的な意見が多数をしめている。

③個人情報漏洩の危険性 

 オンライン資格確認システムはインターネット回線を用いることから、セキュリティ対策は万全とは言えず、情報漏洩、ウイルス、ハッキング等の危険性がある。

④患者の自己情報コントロール権の侵害 

 オンライン資格確認システムは、今後「データヘルスの基盤」となり、薬剤情報・特定健診等情報に加えて、手術、移植、透析、医療機関名といった項目が対象となる予定である。患者の生涯にわたる医療・保険情報が全国の医療機関で利用されることになると、医療における患者のプライバシーは無くなり、患者の自己情報コントロール権が侵害されることに繋がり兼ねない。

 マイナンバーカードを保険証に紐づけての運用は、個人情報漏洩や紛失・盗難リスクの対応策の議論が不十分のまま推し進めてよいのか不安が大きくなるばかりである。オンライン資格確認は義務ではなく、あくまでも医療機関の「任意」であり十分に検討した上で慎重に判断する必要がある。

 また、システムの不具合発生時、災害等による停電時にはオンライン資格確認を行うことは出来ず、保険証の確認が必要になる。つまり、オンライン資格確認を導入するか否かにかかわらず、患者には保険証を持参してもらう必要があり、案内・情報提供が欠かせない。

(共済部長 太田美つ子)

■群馬県保険医新聞2021年12月15日号

【論壇】コロナ禍における乳がん検診とブレスト・アウェアネス

【2021. 11月 15日】

 我が国の医療の現状は、2020年初頭に端を発した新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの面で深刻な影響を受けている。その一つにがん診療がある。

 全国の癌診療拠点病院でも新型コロナウイルス感染症に対応するため、人員や設備などの医療資源を消費せざるを得ない状況であり、また院内感染拡大防止対策強化などの必要性から、がん手術件数は減少している。またがん検診の受診率も低下している。がん治療にとって早期発見・早期治療は極めて重要であるが、がん検診の受診率の低下はがん早期発見をより困難なものにしている。特にコロナ禍において早期癌の手術件数の減少率が大きくなっている。この傾向は、乳がんにおいても変わらない。

 日本乳がん検診学会では、コロナ禍での乳がん検診の受診を促すために「乳がん検診にあたっての新型コロナウイルス感染症(COVID―19)への対応の手引」(http://www.jabcs.jp/images/covid-guide202107.pdf)を発行している。内容は従来の基本的な新型コロナウイルス感染症対策を踏襲し、検診受診者、検診従事者双方について、当日の感染症状の有無、直近2週間の行動歴を確認して感染が疑われる場合は検診日時の変更などを指示している。また検診実施時には検診会場が混み合わないように注意するとともに、マスクの着用や手指および検査機器の消毒などの具体的な方法について説明している。その上で、乳がん検診で行われるマンモグラフィや乳腺超音波検査は、十分な感染対策を講じて実施すれば感染のリスクは高くないとしている。

 また、乳がん検診特有の問題点として、新型コロナウイルスワクチン接種の副反応による腋窩リンパ節腫大についても言及している。肩に新型コロナウイルスワクチン接種をした場合、同側の反応性腋窩リンパ節腫大が出現することがある。一方で乳がん検診では、腋窩リンパ節腫大は乳がんの転移が疑われ、要精査とされることがある。これを新型コロナウイルスワクチン接種による反応性腋窩リンパ節腫大と鑑別し、検診の偽陽性率を上げないために、乳がん検診受診者の新型コロナウイルスワクチン接種歴を確認することと、検診受診時期を新型コロナウイルスワクチン接種前か2回目の新型コロナウイルスワクチン接種後6~10週以降にすることを推奨している。また国民への啓発として新型コロナウイルスワクチン接種後の反応性リンパ節腫大は病気ではなく、自然な反応であることを知らせることも勧めている。

 これまでに述べた様な、コロナ禍における具体的な乳がん検診の指針の他に、乳がんの早期発見に有用とされる「ブレスト・アウェアネス」という概念についても解説がされている。現在は乳がん検診として、多くのエビデンスにより有効性が証明されているマンモグラフィ検診と定期的に行う自己検診とを併用することが推奨されている。ブレスト・アウェアネスは、それに留まらず、各個人が日常的に自身の乳房を意識することにより、乳がんの早期発見につなげていく生活習慣であり、具体的な方法として以下の項目を挙げている。

① 自分の乳房の状態を知る

② 乳房の変化に気をつける

③ 変化にきづいたらすぐ医師に相談する

④ 40 歳になったら 2 年に 1 回乳がん検診を受ける

 ブレスト・アウェアネスは、女性一人一人がこうした生活習慣を意識し、実践することで乳がんの早期発見につなげていくことを目的としている。

 数年来、乳がん罹患率は我が国の女性における悪性新生物では第1位であり、更に増加を続けている。一方で、乳がんは検診による死亡率減少効果が証明されており、早期発見のメリットが大きいことも知られている。コロナ禍では乳がんの検診・治療ともに制限を受けている状況であるが、様々な検診の工夫や各個人に対する啓発により、少しでも乳がんによる死亡率を下げていくことが望まれる。

(研究部・医科 部長 竹尾 健) 

■群馬保険医新聞2021年11月15日号

【論壇】中絶の変遷と課題

【2021. 10月 18日】

 日本における中絶件数は60年前の年間106万件から年々減少していき、2020年には14万件と大幅に減少している。出生数もこの間に160万人から84万人へと減少しているが、中絶はそれを上回る減少率である。これには戦後の生活難の改善やコンドームの普及から始まり、現代ではセックスレスの増加や晩婚化により希望する子供の数を超えないことなどが要因として考えられる。にもかかわらず妊娠した女性の約15%が苦悩しながら中絶をしいている現状を鑑みると、まだまだ対策が必要である。

 避妊方法について検討すると、パール指数(100人の女性が1年間で妊娠する人数)でみたときコンドームを適切に使用した時の指数は2だが、実際は15程度である。こうした実態から、コンドームは不確実な避妊方法だと言える。それに比べてピルや子宮内避妊具のパール指数は0.3と低い。早い時期から性教育を行うことで、こうした確実な避妊法を普及させていかなければならない。また、育児の負担が大きくて出産を躊躇するケースも増えている。24時間・365日受け入れ可能な託児所を増やすなど、育児と仕事が両立可能な環境を整えることは中絶を減らすだけでなく、少子化対策としても喫緊の課題だ。

 中絶に関する法律は1948年に優生保護法が成立し、1996年に現在の母体保護法に改正された。優生保護法には『優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する』と書かれており、こうした優生思想のもとに国主導で多くの強制不妊手術が行われた苦い歴史がある。また、中絶可能な妊娠週数も周産期医療の進歩ともに、当初の妊娠8カ月未満から現在は妊娠22週未満へと変わった。

 実際に中絶の方法も変化しつつある。12週未満の妊娠初期において従来はキュレットや胎盤鉗子を用いる掻爬法(D&C)が行われていたが、数年前から子宮穿孔リスクが低い手動真空吸引法(MVA)が広まりつつある。また、ミフェプリストンとミソプロストールの内服による中絶法も治験が行われている。9割以上で胎嚢を排出できる一方で、強い腹痛や出血、排出に時間がかかる、追加処置が必要となるなどのケースもあり、適応や管理法などについてさらなる検討が必要である。

 出生前診断の分野では遺伝子技術の発展により、8年前から母体血中の胎児DNAを検査するNIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)が行われている。妊娠10週から検査ができ、認定施設ではダウン症を含む3種のトリソミーについて検査できる。確定診断には羊水検査が必要であり、遺伝カウンセリングも義務付けられている。約100の認定施設で、年間1万件以上の検査が実施されている。

 しかし、無認可で検査している施設がそれ以上にあると報告されており、産婦人科以外の施設も少なくない。そこでは性別を含む様々な検査が行われ、さらに説明が不十分なことも問題となっている。 

 こうした背景には晩婚化により第一子出産年齢が平均30.7歳に上がり、染色体異常のリスクが以前よりも高まっていることも関係している。30%の妊婦がNIPTに興味をもっているとのアンケート結果もあり、認定基準を緩めて認定施設を増やすこと及びルールの厳格化を並行して進めていくことが求められる。

 出生前診断は『最適な分娩方法と療育環境を検討すること』が本来の目的だったが、検査で陽性となった妊婦の約9割が中絶を選択している。母体保護法では胎児の障害や性別を理由とした中絶は認めておらず、矛盾が生じている。

 まずは妊婦の抱える不安を和らげるためにも、障害者福祉の充実や差別の解消といった社会環境の改善に取り組んでいかなければならない。さらに優生思想に流されないよう慎重になりながらも、母体保護法のありかたを含めた幅広い議論をすべき段階に来ている。

(環境平和部長 白石 知己)

■群馬保険医新聞2021年10月15日号

【論壇】対COVID-19

【2021. 9月 16日】

「コロナは続く どこまで続く」

 新型コロナウイルスは、一国で抑えられたとしても、他国との関係を絶たない限り、また新たな変異株の襲来により再燃を繰り返すことでしょう。適応出来る人は生き残り、そうでない人は淘汰されるという、シンプルな自然の掟に、しばらく晒されるのです。

 再燃を繰り返しながら、徐々に自然免疫を獲得し、相対的に弱毒化し、やがてインフルエンザ的なものに落ち着いて行くのだろうと想像されます。

「自分の命は自分で守る」

 新型コロナウイルスと対峙する時、根本的な対処法はワクチンでも薬でもなく『宿主の強化』であると思います。

 言葉通りにステイホームをしていると、フレイルが加速して余計に重症化リスクの上昇を招きます。人混みを避けるという原則を守りつつ、出来るだけ外に出て活動的な生活を送る工夫が大切になります。

 朝のウォーキングで太陽を浴び、ビタミンDやセロトニンを増やし、休日は家族で釣りやハイキング、森林浴をし、野外でお弁当をひろげ、楽しい時間を過ごす。喫煙・深酒を戒め、肥満を解消し、基礎疾患の改善に取り組む。適度な運動と休養と睡眠。無理をしない。楽しくストレスの少ない生活を送れるようにする。

「抵抗力や免疫力を上げる食事を心がける」

 杏林予防医学研究所長の山田豊文先生は著書の中で、「牛乳や乳製品は、百害あって一利なし」、「牛乳は骨を弱くし、全身の細胞の環境を悪化させる」と記しています。

 病院食であれば、牛乳・ヨーグルト・チーズを廃止し、豆乳・豆腐・納豆・湯葉・ゆで卵に変え、良く噛むだけで、体中の細胞の環境が改善される訳です。

①乳製品の摂取を0にする ②グルテンの害を回避する  

ために小麦製品の摂取量を控える

③オメガ3オイルを毎日適量摂取する

この3つに取り組むだけで、相当に良質な細胞が造られるようになり、かなりの体質改善が期待出来ます。

 緑黄色野菜・果物・種子類・ナッツ・ベリー・きのこを積極的に摂取し、最高の栄養素であるファイトケミカルを充分に取り込むと、抵抗力と免疫力が飛躍的にアップするでしょう。

「発症も重症化も自分で防ぐ」

 新型コロナウイルスに曝露しても、すぐに感染して発症する訳ではありません。

「舌の上と、舌の奥の方の喉で一旦増殖し、ある程度まとまった数になったウイルスが、夜中のイビキ等による誤嚥で気道に落ちて発症する」というパターンが多いと思われます。

①毎日の歯磨き

②舌の上の舌苔(ぜったい)を優しく舌磨き

③舌の奥の方の喉のガラガラうがい 

 この3つの対策を実行することで初期の増殖を阻止できれば、発症はかなり防げるでしょう。

 みらいクリニック院長・内科医の今井一彰先生は「あいうべ体操」を指導し、口呼吸を鼻呼吸に変えることで、インフルエンザを予防し、学級閉鎖を皆無にしています。

 鼻呼吸により口の中の乾燥が解消され、自律神経が整えられ、体調が良くなると共に、鼻粘膜・気道・気管支・肺胞が保湿され粘膜本来の免疫力が発揮されます。口呼吸に比べ150%以上、酸素の肺への取り込み量が増え、鼻粘膜から出る一酸化窒素が血管や気管支を広げ、血流を促進してくれます。

 体の隅々にまで新鮮な血液と酸素が供給され、細胞がますます元気になり、重症化防止に繋がります。

 日本人の10人中9人までが口呼吸をしているとのことで、大きな改善効果を与えるでしょう。

「広く情報発信を」

 人流の抑制を叫ぶことも大切かもしれませんが、新型コロナに対抗可能な健康知識の情報提供は、出来ることの一つと思います。

 新変異株のたびに右往左往しなくて済むのが理想です。普通に自立歩行が可能な人であれば『宿主の強化』のみで何とか乗り切れるでしょう。

 こうした事に皆が取り組むことで、健康な体になり、蔓延を阻止、医療資源を節約し、少しでも医療崩壊を防ぐことに繋がればと思います。

(広報部部長 大国 仁)

■群馬保険医新聞2021年9月15日号 

ごあいさつ

【2021. 8月 17日】

群馬県保険医協会 会長 清水 信雄

 長引くコロナ禍で、すでに1年半以上も国民は不自由な生活を強いられています。ワクチン接種も、ようやく高齢者への接種の遂行が見えてきたところです。

 いずれにしても、私たちの生活や仕事の仕方が、それまでとはすっかり変わってしまいました。当たり前が当たり前でなくなる—こんな変化が突然起こりうるという事実を私達は身をもって知りました。災害とはそういうものです。

 この間、医療機関、ことにウィルス感染者に直接関わる医療従事者は、自らの感染リスクを負いながら診療に当たっています。その勇気と尽力に心より敬意を表します。

 一方で感染リスクの面からは、不特定多数と接触する機会のある職種は医療機関以外にも多々あります。飲食業界をはじめ、展示場、演劇、ライブやコンサート、スポーツ関係など、対ひとの業界等は、甚大な影響を受けました。

 政府は、自粛や営業の時短等、感染予防のための協力要請はするものの、そのための手当てや助成金等については、制度上、運営上の不備が目立ち、また額においてもあまりに不十分です。まだ収束が見えない中、ともすると禍=わざわいという不幸な面が強調されがちですが、奇しくもこの間、私たちが獲得したこともありました。

 歴史を振り返れば、人類はこれまでも、試練から多くのことを学んできました。 (順風満帆の時は、人はあえて変化や改革を考えないものです。)

 身に迫る隘路打開のため知恵を絞り、それまでの経験や成果を生かそうと試行錯誤を重ね、それにより新しい技術やシステムを開拓してきました。

 協会の理事会をはじめ、諸会議、研修会の形態がWEBの活用により大きく変わりました。しかしWEB会議は、直接顔を合わせられない、音声が聞き取りにくい、表情、反応がわかりにくい等、今後改善すべき課題もあります。

 一方で、時間や交通費の節約、またこれまでいろんな事情から参加できなかった方の参加が可能になったことも、この状況下で得られた大きなメリットではないでしょうか。今後、先の課題を含め、コミュニケーションをどう深めるかが鍵になりそうです。

 また、医療現場のマスクやグローブ等、感染予防器材の備蓄が不足するという重大な事態も経験しました。こうしたことから、平時においても、非常時を見据えての感染予防器材の確保など、今後も政府、自治体に訴えていかねばなりません。

 私たち医療従事者は、住民のマスクやワクチンに対する過信にも正確な情報を発信していかねばなりません。マスク着用により口呼吸が助長されること、そして口呼吸による感染リスクの増加、またワクチン接種による感染対策軽視の傾向等、住民に注意喚起していくことが重要です。

 また、マスク着用により子供たちの表情が乏しくなったとの指摘もあります。学童期の、感受性の熟成への弊害についても、今後取り組む必要があろうかと思います。  

 コロナ禍がもたらした社会や経済の変化は、収束後も完全に元に戻る事はもはやありえないでしょう。

新しい時代に向けて医療はどうあるべきか、住民のニーズにどう応えるかなど、当会では、その時々の状況に応じ最善の策を実行してまいります。

 なお私ごとではありますが、これまで協会の体制は不文律として会長の任期は4年で引き継がれてきましたが、今期私は会長5年目となります。これは、昨年コロナ禍で本来の協会活動を全うできなかったため、つまり会員の皆様に対し満足のいく活動ができなかったとの思いから、もう一期、微力ながら皆様の納得のいくような活動をさせていただければと思います。

 今後とも、会員皆様のご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

■群馬保険医新聞8月15日号

【論壇】超高齢社会における歯科医院のあり方

【2021. 7月 19日】

 2020年(平成31年)、日本の65歳以上、高齢者の人口は、3617万人・総人口の28・7%で過去最高の更新が続くと総務省発表あり、介護保険制度が始まった平成12年4月時点で日本の要介護認定を受けたのが218万人、2019年(平成31年4月時点で658万人と19年で3倍増になっている。

 2025年(令和7年)には、団塊の世代が75歳以上、人口の1/4となる予想。諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行すると推測され、国民の医療や介護の需要が、さらに増加することが見込まれる。

 厚生労働省においては、2025年(令和7年)を目途に、地域包括ケアとして、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進し、健康寿命の延伸が望まれた。

 しかし、コロナウイルス感染拡大の猛威の中、緊急事態宣言が発令され、感染すると重篤になりうる高齢者は、自粛生活を強いられ、家に引きこもり状態に陥った。

 病院、介護施設等部外者の出入りも含め、面会謝絶、通所も閉鎖、地域のコミュニティも中止され、長引く自粛生活は、高齢者の身体機能や認知機能の低下を招き、フレイルが進行、また、基礎疾患、持病があるにも関わらず、病院、診療所の受診を控えた為、症状の悪化を招く事態にも陥った。

 歯科でも2020年の4月~6月の受診抑制が認められ、解除後9月以降の医療業活動指数は前年度比を超えた。

 コロナ渦においても歯科受診は不要不急ではないことが示された。(図)

 高齢者の歯科受診動向として厚労省の平成29年度調査「年齢階級別歯科推計患者及び受診率」より、歯科の外来診療は75~79歳をピークに、その後急速に減少しているのが実態である。

 要介護者の約9割は何らかの歯科治療や専門的口腔のケアが必要であるが、実際に治療を受けたのが約27%という実情ということである(第10回在宅医療推進会議)。コロナ渦の影響で高齢者の歯科の外来診療受診はより減少し、在宅・施設への訪問需要の増加が予想される。

 介護保険の中には、口腔衛生管理体制加算、口腔衛生管理加算という算定項目がある。

歯科医師、歯科衛生士の月1回の助言を基本に、歯科衛生士が対象利用者に月2回の口腔衛生管理を行い加算算定するというものである。

 平成29年度4月分の介護保険診査分の政府統計より、全国の介護老人福祉施設(加算請求事業所数:10492所)利用者約52・1万人のうち、口腔衛生管理体制加算算定施設数は56・2%、口腔衛生管理加算算定利用者数は14・2%であった。

 令和3年4月介護保険が改定された。科学的情報システム(LIFE)と称され、「エビデンスに基づいた介護」を求められ、利用者へのより、質の高いサービスを提供できるように求められた。リハビリテーション・機能訓練・口腔・栄養の取組の一体的な推進を掲げ、加算の算定要件として歯科衛生士などの参加を明確化した。

 これにより、口腔衛生管理体制加算は周知ということで加算廃止と理解し、個別の口腔衛生管理加算の普及を後押しする経緯と感じる。

しかし、これは、特別養護老人ホームなど施設側が算定するもので、歯科医院側が算定できるものではない。加算算定において歯科医師、歯科衛生士の参画が必須であるが、歯科医師、歯科衛生士の適正対価は補償されていない。

 これらの条件で、LIFEの普及はみこまれるのだろうか?

 群馬県における、歯科における訪問診療の有無を施設基準にした届出は、か強診9・7%・歯援診8・0%(群馬県:令和3年6月15日時点)とかなり低率であると伺える。

 2025年(令和7年)には、団塊の世代が75歳以上、人口の1/4になり少子高齢化が訪れる。もう4年後である。地域においての自医院の位置づけについて思案に暮れる。

(副会長 小山 敦)

■群馬保険医新聞7月15日号

【論壇】マイナンバーカード

【2021. 6月 16日】

 皆さんは住基カードを覚えているだろうか?住基カードとは正式名称を住民基本台帳カード(じゅうみんきほんだいちょうカード)といい、市町村又は特別区が発行する、個人の住所、氏名、生年月日、性別、住民票コード等が記録されたICカードであった。

 2003年(平成15年)8月25日に開始され、2015年(平成27年)12月限りで発行終了。約830万枚交付されている。普及率は10%に満たない物で、このとき政府は2000億以上の税金を投入していた。ちなみに、私は確定申告をインターネットでするときに必要であったため、住基カードを所有していた。

 このときの10%に満たない什器カードの総括もされないまま、新たにマイナンバーカードが登場した。

 マイナンバーカードは、2016年1月から発行開始され、顔写真付きの「本人確認書類」として利用できるものである。最近このカードの普及のため、マイナンバーポイントという一人につき上限5000円分のポイントを支給するという大判振る舞いを行った。これには総額2500億円相当の予算がとられている。

 そして今回政府はマイナンバーカードを保険証と合体させ普及させようとしている。

 一般的に医療機関では患者さんが加入する医療保険を確認して、保険医療をしているが、この保険証の確認が資格確認である。

 従来の資格確認の方法は、患者の健康保険証を受け取り、記号・番号・⽒名・⽣年⽉⽇・住所などを医療機関システムに入力する、というものであるが、この方法では「入力の手間がかかる」「患者を待たせてしまう」などの難点があった。

 これをICチップから情報を読み取ろうというのが、今回のオンライン資格確認である。

 この資格確認には・資格確認機器・資格確認端末・顔認証付きカードリーダーソフトが必要である。資格確認機会として、①患者の顔を撮影できるカメラがあること②マイナンバーカードの券面情報を取得する機能があること③マイナンバーカードの読込が可能なICカードリーダーが搭載されていること④入力操作用を行えるタッチパネル等が搭載されていることが要件とされており、今年3月までに要望すればICEカードリーダーの無償提供、導入費用、に対して42・9万円まで補助が出ていた。

オンライン資格確認導入のメリットは

1.資格過誤によるレセプト返戻の作業削減

2.保険証の入力の手間削減

3.来院・来局前に事前確認できる一括照会

4.限度額適用認定証等の連携

5.薬剤情報・特定健診情報の閲覧ができる

6.災害などの緊急時に薬剤情報・特定健診情報の閲覧ができる事が挙げられる

などが挙げられる。

 当院の事務に確認すると、患者の保険資格情報がその場で確認できることは資格過誤によるレセプト返戻や窓口業務が減りとても助かる、とのことであった。

 また、最新の保険資格を自動的に医療機関システムに取り込んでくれるので、医療事務の手間や間違い等が減り、とても期待できるとのことであった。

オンライン資格確認の3つのデメリット

1.セキュリティ対策

2.事務対応の煩雑化

3.自治体の公費や地方単独事業との引き継ぎがない

などが挙げられる。

 やはり個人情報の流出に対しての懸念は拭えない。マイナンバーカードを紛失したときの対応も今のうちに十分対策を考えておく必要がある。

 今年3月スタート予定だったこのオンライン資格確認もすでに7ヶ月延期されている。これはシステムの基盤となるデータの正確性に致命的な不備、具体的にはマイナンバーが他人のものと取り違えて登録されるというミスが多発していたためだという。過去の住基カードの失敗で学んだ対策は、今度は生かされるのであろうか。

 今回の保険証と一体化は、厚生労働省も本気のようで医師会からも導入に肯定的な意見が聞かれ始めている。当院でも導入に向けて準備を進めている。導入に当たり試しに私もこのマイナンバーカードを申請してみたが、二ヶ月たった今もまだ手元にない。

 マイナンバーカードの普及は急務であろうが、おまけをつけなくては普及しないカードは本当に必要なのだろうか?

保険証と一本化して本当に大丈夫であろうか?

導入したものの、使い物にならず、使用しない機械ばかりが増えないように祈るばかりである。

(副会長 小澤 聖史)

■群馬保険医新聞6月15日号

【論壇】コロナとワクチン接種

【2021. 5月 17日】

◆コロナ感染封じ込め

 新型コロナ感染が全世界で蔓延している中、ニュージーランド、台湾、ベトナムなどでは新規感染者が殆どいない。 これらの国々では、入国制限や感染者の徹底的追跡などで、ワクチン接種率は低いものの感染を封じ込めている。

◆ワクチン効果で感染抑制

 入国制限などをそれほど行わなかった結果感染者の多かったイギリス、アメリカなどの国では、ワクチン接種率上昇とともに、感染者数が減少している。特にイスラエルでは、これまでに人口の54%が2回のワクチン接種を終え、新規感染者は今年1月の1万人超から、4月には100人前後に激減した。

◆ワクチンの発症予防効果

 イスラエルで使用のワクチンは、日本と同じファイザー製であり、その発症予防効果は95%と報告されている。 メッセンジャーRNAを利用した新しい方式のワクチンで、1回接種により感染を80%、2回接種により90%抑制し、効果が出るまで接種後2週間必要とある。

 ◆日本の低いワクチン接種率

 人口に対する接種率は、イギリス50%、アメリカ43%、フランス21%に比べ、日本はいまだ2%にとどまり、先進国の中で最も低い。 これは、ワクチンを自国製造出来ない事の他に、供給の不手際が原因だろう。政府はEUからの供給不足が原因としているが、4月19日までにEUから5230万回分輸出されているはずが、 国内の医療関係者にはまだ300万回分しか投与されていない状況で、5000万回分はどこに眠っているのか。医療関係者へのワクチン接種は2月から始まっているが、開業医の私の所へは4月26日にやっと1回目ワクチンが届いた。

◆ワクチンの配布計画

 高齢者向けワクチンは、4月26日の週にはすべての市区町村へ1箱(195バイアル入り、1バイアル5回接種で975回分)ずつ配布され、6月末までには全高齢者分(3600万回分)が送付されるという。しかし、この配送されるワクチンの数量、日程がはっきりせずで、高齢者のワクチン2回接種の計画未策定の市町村が千以上ある。

◆集団接種の予約

 4月19日から配布されたワクチンは高齢者の1%分しかなく、八王子市では予約電話が殺到して開始1時間半で定員に達したとのニュースがあった。その結果、ワクチン不足が鮮明となり、高齢者の不安心理があおられ、多くの市町村でワクチン予約に殺到している。また、集団接種会場で、来なかった人の分を廃棄したとのニュースもあり、設営の大変さ、キャンセルがあった時の対応の難しさもわかった。

◆個別接種でも、予約で混乱

 私のいる伊勢崎市では、開業医での個別接種を主とし、かかりつけ医の有無で、医療機関を分けている。4月19日から高齢者へ配布されたワクチン予約券では、電話で予約して下さいと書かれていたため、翌日から多くの開業医に問い合わせ電話が殺到した。市では、ワクチン接種開始を5月中旬としているが、入荷予定がはっきりせず、応急対応として、予約希望を受け付けて、ワクチン入荷後に接種日を連絡する事とした。

◆ワクチン2回目との間隔

 ワクチンの案内には3週後に2回目を打つ様に書かれているが、それを守ると4週後から、新規の人のワクチンを打てなくなる。アメリカやヨーロッパでも、ファイザー製ワクチンは3から6週の間隔をあけてうつとされており、間隔の大小で効果に差はない。また、2回目を早く打った方が個人の感染予防には効果はあるが、他の人との公平性を考えれば間隔は3から6週とすべきだろう。

◆ワクチンの有効利用

 玉村町では突然のキャンセル時のワクチン廃棄を減らすため、もったいないバンクで希望者を募集したが、それ以前にファイザー製ワクチン1バイアルからとれる量を現在の5人分、6人分ではなく、7人分とれる方法にするべきではないか。アメリカのFDAでも、バイアルに含まれる余分量も使用可能といっている。ある病院ではインスリン用注射器を使い、7人分とったという報告もあるが、インスリン用注射器は入院中の患者に看護師が打つ時くらいしか使わず、私の様な開業医では在庫すらない。

動画はこちらから…https://youtu.be/eploLCuoh_Y

◆テルモFNシリンジで7人分

新型インフルエンザの流行した2009年はワクチン不足があり、その時にできたFNシリンジは無駄となる量が0・002㎖と少ない。ワクチン0・3㎖とるのに、通常のシリンジでは5本、政府の配布したもので6本だが、FNシリンジでは7本とれる。針長13㎜だが、当院看護師の上腕皮下脂肪厚を測定し8㎜で,普通の人には針を根元まで刺し筋注可能であり、100㎏位の肥満の人には、5㎜ほど注射器毎押し込めば筋注可能だ。テルモでは、針が16㎜と長い注射器もコロナワクチン用に3月より製造開始したが、政府はこの様な注射器増産に金を出すべきだし、医療者は使うとよいだろう。政府が現状で配布している注射器、針ではワクチンをムダにすることになり、もったいない。 

「7本ね もったいないよ ワクチンが」

(副会長 長沼 誠一)

■群馬保険医新聞5月15日号

【論壇】いま一度COVID―19ワクチン接種の是非を問う

【2021. 3月 15日】

 新型コロナウィルス:SARS―CoV2によるCOVID―19が日本に上陸してからこれまで国内では40万人以上が感染し7000人以上が亡くなっている。さらに後遺症を持ったままの生活を余儀なくされている方も多数いらっしゃる。世界中では6000万人以上が感染し250万人が亡くなっている。

 この人数は多いか少ないかを平常時の死亡率と比較して議論することは様々な観点が存在するため、この紙面では行わない事とするがCOVID―19によって人命が失われている事には違いない。

 この感染症がもたらしたインパクトは計り知れない。感染症に対する関心は一気に高まった。ニューノーマルという言葉も聞かれるようになった。

 もともと、日本人はマスクを日常から装着している人も一定数いたことも幸いしてか、国内では外出時に常時マスクを着用するユニバーサルマスクの習慣や手指衛生の徹底が定着してきている。しかし、一人一人が気を付けていても人の移動が盛んになると残念ながら再び感染者が増加し、現在では地域限定であるものの2度目の緊急事態宣言の発令に至っている。

 これらの感染を食い止めるため世界中でワクチン接種が開始されている。これまでに世界では1億5000万回以上の接種が実施されてきた。日本国内でもファイザー社製ワクチンの接種が開始され、連日ワクチン関連の報道を目にする。いかに今回のワクチンに関心が寄せられているかを示すものだ。それは周知のとおりこれまでのワクチンとは異なり、mRNAを使用した技術が使用されている事が大きな要因である。

 人間は新しいものに対して警戒するし不安に思う。それは当然であると思う。しかし残念なことに、このワクチンをめぐりフェイクニュースや疑惑と憶測に基づき不安を意図的あるいは非意図的に煽るような情報が流れ、それに基づき情報が拡散し個人や団体まで一部混乱が見られる。

 このような時こそ、我々医療者はエビデンスに基づき判断・行動するべきではないだろうか。

 もちろん、直感に基づき判断することを全て否定するわけではないが、近代医学はエビデンスに立脚し判断・行動することが医学的にも法的にも求められる。

 これまで、mRNAワクチンは、これまで悪性腫瘍、ジカ熱や狂犬病のワクチンとして研究開発・臨床試験が行われてきた。1990年代から開発が開始され特に、この10年間で急速に研究が進んできた分野と言える。基幹技術の多くはすでに開発済であったため、この技術を転用しSARS―CoV2用のmRNAワクチンは実用化された。

 理論上、これまでのワクチンより安全性は高いと考えられる。実際のウィルスは使用せず抗原であるスパイクタンパクのみをリボソームで生成し、速やかに確実に抗原提示を行うのが主なメカニズムである。(図1)特筆すべきはその有効性である。95%の有効性とされている(図2)。インフルエンザワクチンが30~60%とされていることから考えると十分に効果的であると思われる。またこれまでのデータより感染予防、発症予防、重症化予防とワクチンに求められる機能は備えている事もメリットである。

 では、効果的であるとして、実際の安全性はどのような物であろうか?それを裏付けるデータとしてアメリカのACIPの「COVID-19vaccine safety update(2021.1.27)」を参照すると図3となる。

 ワクチン接種後の軽微な副反応は多くのケースで報告されている。接種1回目より2回目の方が副反応は起こりやすい。このほかに重篤な副反応としてアナフィラキシー反応が挙げられる。アメリカでは1000万回接種で50件の報告である。既存のワクチン接種と比較して発症率はやや高め(既存のワクチンは100万回に1例)と考えられる。おもなアレルギー反応の原因は添加剤のポリエチレングリコール(PEG)と考えられている。ワクチン接種が直接の原因となる死亡例の報告はない。

 一方、一部報道で「アメリカではワクチン接種後に501人が死亡した。安全性に疑問」との報道もある。米CDCのワクチン有害事象報告制度(VAERS)のデータを基にしているのだが、

 VAERSの報告は接種後に起こる全ての事象を対象としている。つまり自然発症も含まれているため3500万人接種に対して501人の死亡は自然発症の範囲(アメリカの死亡率は10万人あたり500人/年である)と考えられる。これは印象操作と言わざるを得ない。現代の報道は受信者側にも一定のスキルが必要なようだ。

 ワクチンの接種はゼロリスクではないが今のところ海外のデータをみると、これまでのワクチン接種としてリスクが高いとは言えない。我々は日常的に多くのリスクを許容している。例えば車の運転などがそれにあたる。日常的なリスクと比較して決して高くないリスクを恐れる心理状態は、行動経済学的にみると現状維持バイアスや現在バイアス、確率加重関数などからも説明される、むしろ妥当な反応である。

 mRNAワクチンは元々、他のウィルスや悪性腫瘍に対して開発されてきたため、既に開発中の第1層・第2相試験のワクチンでは接種後、数年での健康被害の報告はないようだが、まだ接種後10年以上の長期的なデータはない。しかし、客観的な数値や有効性を考えると医療者としてmRNAワクチンの接種はベネフィットの方が明らかに大きいのではないだろうか。

 今回のワクチン接種において重要なことは、周囲に惑わされることなく個人がメリットデメリットを考え、総合的に判断し正しく恐れることが重要なのではないだろうか。まだ心配だと思う方は無理して接種する必要はない。エビデンスに基づき正しくリスクとメリットを天秤にかけ接種したいと思う人が接種すれはよいのではないだろうか。

(研究部・歯科 石原宏一)

■群馬保険医新聞2021年3月15日号

【論壇】人口減少問題

【2021. 2月 15日】

■女性人口の減少

 2019年10月の群馬県保険医協会新聞の論壇に、2020年女性人口問題について書いている。

 そこで、日本は未曽有の超少子高齢化時代を迎えており、2020年に起こると予想される問題の多くは、この人口減少と年齢別人口で見たときのアンバランスさが大きく関わっている事を書いた。

 少子化問題は、そのまま人材不足、IT問題、不動産、様々な分野で起こることに繋がる問題である。

 人口減少問題において女性の人口減少は特に問題である。妊娠、出産できる人口が減ってきているということであり、直接少子化問題に影響を与える。

 平均初婚年齢は、2018年で、夫が31・1歳、妻が29・4歳と上昇傾向を続けており、結婚年齢が高くなる晩婚化が進行している。1980年には、夫が27・8歳、妻が25・2歳であったので、ほぼ40年間で、夫は3・3歳、妻は4・2歳、平均初婚年齢が上昇していることになる。

 これにより初産年齢も高齢化し、「内閣府 令和2年版少子化社会対策白書」によると、2011年に平均30歳を突破し、2018年には第1子が30・7歳、第2子が32・7歳、第3子が33・7歳となり、上昇傾向が続いている。

 初産の平均年齢が上昇している原因として、

①女性の社会進出

 男女平等化に伴い女性の社会進出が増加し、同時に男性と同じような働き方(長時間残業や出張、転勤など)を求められている。

 これは、働きたい女性がなかなか結婚に踏み出せない原因のひとつである。仕事に対する責任の増加により晩婚化が進み、出産年齢も上がって来ている。又出産しても、保育園問題などのために再び仕事に戻ることが困難になっている。

 そのため仕事からいったん離れると同じように仕事に復帰することができなくなると考え益々結婚、出産から遠ざかってしまう。

②子育て・教育費用の増加

 子育て・教育費用の増加も問題のひとつにあげられる。

 子育てにかかるお金だけでなく、子育ての大変さを考慮して、子どもを持つことをためらったり、先送りにしてしまったりする夫婦もいる。核家族化が進み、夫婦だけで子供を育てなくてはならないため、育児に対する漠然とした不安が夫婦にのしかかるなどが挙げられる。

■出生数の減少

 最近の統計で群馬県の出生数も激減してきている事がわかった。

 上毛カルタで、力合わせる〇〇万でその人の時代がわかるという。わたしの頃は160万であったが、娘の時は200万だという。

 しかし今は群馬県の人口は減少してきていて200万を切ってきている。

平成29年の出生数は13279人であり、合計特殊出生率は1・47であった。

 働き方改革の後には若い人が安心して結婚、妊娠、出産ができる社会構築が急務である。

■妊娠届出数の減少

 ここ一年のコロナ問題はこの少子化問題にも暗い影を落としている。

 厚生労働省では、このたび、新型コロナウイルス感染症の流行が妊娠活動等に及ぼす影響を把握することを目的として、平成30年1月から令和2年7月までの妊娠届出数の状況について自治体に照会しまとめている。

 新型コロナウイルス感染症の流行が本格化した本年4月以降の届出件数と、前年同月との比較をしている。 

令和2年4月の妊娠届出数の減少比は前年度比で0・4%減。

令和2年5月の妊娠届出数の減少比は前年度比で17・1%減。

令和2年6月の妊娠届出数の減少比は前年度比で5・4%減。

令和2年7月の妊娠届出数の減少比は前年度比で10・9%減であった。

令和2年1~7月の7ヶ月の累計妊娠届出数の減少比は前年度比で5・1%減であった。

■群馬県の分娩予約数の減少

 日本産科婦人科学会(日産婦)の全国調査で来年の分娩予約件数の激減がわかった。

 埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、大阪の6都府県の「都市部」での平均減少率は24%で、これらの地域以外の「地方」の平均減少率は37%であった。

 群馬県は地方平均減少率37%を上回る43%減であることがわかった。これはコロナ問題による出産控えと、コロナによる里帰り分娩の減少が原因と考えられる。この分娩予約数の激減は県下の産婦人科を直撃し、そのまま小児科の問題へと変化していく。

■少子化対策

 菅首相は就任後初めての記者会見で少子化対策について「出産を希望する世帯を広く支援し、ハードルを少しでも下げていくために、不妊治療への保険適用を実現する。安心して子どもを産み育てることができる社会、女性が健康に活躍することができる社会や環境をしっかり整備していきたい」と述べている。

 2022年4月から不妊治療に公的医療保険を適用する方針を固めているが、出産費用の無料化、幼稚園、保育園、小学校から高校までの教育費の無料化、高校生までの医療費の無料化等出産から子育てまで安心してできる大胆な対策も必要ではないだろうか。

(副会長 小澤聖史)

■群馬保険医新聞2021年2月15日号

新年のあいさつ

【2021. 1月 18日】

 新年を迎えて

           群馬県保険医協会 会長 清水 信雄

 会員の皆様におかれましては、すがすがしい新年をお迎えのことと存じます。

 私事ですが、当会会長に就任して3年半が経とうとしています。

 会長に就任後、皆様から「以前と比べてつまらない」、「事勿れ主義になっているのでは?」、「自身の主張がない」と私の発言に叱咤激励を度々頂戴するようになりました。皆様からのこうしたお言葉は、仰せの通りと非を認めざるを得ません。会長という立場では、なかなか主観的見解、つまり個人としての本音を出しにくくなったことも事実です。その分と言ってはなんですが、他の理事の方々が積極的且つ自由闊達な議論のできる環境づくりに努めてきたつもりですし、今後もそうしたいと考えております。

 さて、昨年は世界中が凡そ100年に一度と言われるCOVID-19の感染禍に見舞われました。殊に医療従事者にとっては、まだ把握しきれぬ敵に対し、自らが感染のリスクに晒されながら、そして疑心暗鬼になりながらも医療の実施や、患者住民に適切な感染対策を提示しなければならず、かつてないほど厳しい状況に置かれました。 

 その使命感とご尽力に対し、心より敬意を評します。

 ただその中でも、患者との距離が最も近く、さらに歯の切削やエアロゾル、唾液との接触等、感染につながるリスクが最も高いとされている歯科において、これまで医療現場でのクラスター等の感染報告がなかったことは、奇しくも歯科医療機関、及びスタッフの適切な感染対策の実践が改めて確認されたものと考えています。

 昨年夏には、県知事に対し、医療現場での医療物資の供給体制の確保等、要望書を提出いたしました。いずれにしても、政府や自治体には、住民の命と健康に不可欠な医療が機能不全に陥ることのないよう、そして住民の不安が煽られないよう、適切な対応を切望する次第です。

 このように、医療はときの政治や行政と深く関わっていることは論を待ちません。

 昨年は、7年8ヶ月に及んだ第二次安倍政権が突如幕を閉じ、新たに菅政権に交代しました。前政権では「モリカケ」「サクラ」と、その経緯に関わる記録が改ざんされ、またうやむやにされました。新政権でも、日本学術会議の任命をめぐり、やはり経緯についての国民への説明はなされていません。この間、政府の、国民に知る権利に対する不誠実な姿勢はなんら変わっていません。

 政府の施策に対する国民や専門組織からの意見、異論を封じ込めては、悪い意味での唯我独尊、「裸の王様」になりかねません。政府には、国民の生活を守るという責務を再確認し、国民の生の声を真摯に受け止めるよう強く働きかけていきます。

 一方、当会においてもコロナ禍と事務局体制の不備から、残念ながら現在は以前のような協会活動が十分できているとは言えません。

 このことは、会員の皆様に心より申し訳ないという思いでいっぱいです。事務局体制については、新たに局員を採用し、徐々にではありますが整備が図れつつある状態です。

 こうした状況下で何ができるのか、何をしなくてはいけないか、日々自問している次第です。

 まずはコロナ禍を乗り越え、少しずつでも確実に、会員の方々のお役に立てるよう、そして地域住民の健康の維持増進に寄与できるよう、努力してゆく所存です。  

 本年もどうぞよろしくお願いいたします。

■群馬保険医新聞2021年1月15日号

【論壇】コロナ禍とマスク

【2020. 12月 15日】

1 マスクの着用

 勤務医の頃は手術、検査時などにマスクはしたが、マスク嫌いの私は内科開業後、マスクは殆どしていなかった。

 しかし、2月頃から日本で新型コロナ感染者がクルーズ船などで増え始め、マスク着用が叫ばれ出すと、職員はマスクをするようになり、3月に群馬県内で開業医の院内感染が発生すると、医師会から濃厚接触者にならぬ様にサージカルマスク着用を要請され、仕方なく私もするようになった。

  4月には伊勢崎市内の近所の高齢者施設で集団感染があり、医院の玄関に注意書きを張り出し、感染症状のある人は車中待機、来院者にはマスク着用をお願いした。

2 マスク不足

 3月頃からマスクをする人がふえて需要が急増した結果、マスクは入荷しなくなり、医師会等から50枚位配布されたマスクを職員と分けて使用した。

 サージカルマスクは使い捨てが原則だが、品不足で替わりがないので1週間位は使った。他病院の勤務医でも同じ様な話を聞いた。

 マスクの価格も、去年は一箱50枚で500円程度だったが、5000円でも入手困難になった。

 これは、原材料価格が高騰したことに加え、マスクの最大生産国の中国が生産量を増やしてはいたが国内需給を優先し輸出が減ったことや日本の主要マスクメーカーが生産効率の面から10年程前に中国へ工場移転しており、日本への輸出ができなかった事なども影響した。

 そんな中、シャープがマスク製造を新たに始め、4月末に2980円+税で販売した国産マスクには、100倍の申し込みがあった。

 5月頃からは中国からの輸入も増え、マスクの価格も下がり、入手も楽になり、7月にアイリス・オーヤマは高付加価値の国産マスク製造を始めた。

3 感染防護具不足

 マスク不足と同時に、感染防護具のガウンなども不足し、感染のおそれの多いインフルエンザ検査や内視鏡検査は控えられた。

 伊勢崎市では、内視鏡検診の開始が例年の5月から2ヶ月遅れ、私の所でも8月にアマゾン通販で個人防護具がやっと入手可能となり、対象者を従来の半分程度に絞って9月から始めた。

 コロナ患者の入院施設などでも、個人防護具の不足が叫ばれている中であり、製造者側は製造コストが安いという生産効率性だけで国外に移転し、いざ必要なときに自国内で生産できないというのは、その国の安全保障に重大な影響を及ぼすといえる。

 安全保障とは軍事だけでなく、医療、食糧など多分野に渡ると実感した。

4 マスクの効用

 マスクの効用にも変化が見られた。

 WHOは、3月には「咳などの症状のない人にマスク着用を推奨しない」といっていたが、6月には「他人に感染させないためにマスク着用を推奨する」と変わった。

 これは、マスクはウイルスの吸入防止は期待できないが、飛沫減少には効果があることがわかったことと、発症後に感染のピークのくる季節性インフルエンザと違い、新型コロナは発症1日前が感染のピークであり、50%は無症状者から感染するためである。

 コロナの無症状者の飛沫拡散減少にはマスクが効果あると認められた。

5 マスクの歴史

 日本でのマスクの使用については、1918年のスペイン風邪の頃に、政府のポスターに 「マスクつけぬ命知らず!」とあり、その頃から使われ始め、インフルエンザの流行時に増えていった。

 1948年には日本発のガーゼマスクが売り出され、1973年に不織布プリーツマスクの生産が始まり、1980年頃の花粉症流行を経て、2000年頃に、不織布マスク、立体形マスクが売り出された。更に新型肺炎SARSや新型インフルエンザ対策などもあり、日本ではマスク姿が普通になった。

 医療用や花粉症用には不織布マスクが一般的だが、マスク不足の時には自作の布マスクが増えた。いずれも飛沫減少には有効である。

 しかし、ガーゼ製のアベノマスクは使用者を殆ど見ず、国費のムダだった。

6 マスク使用の国による違い

 世界各国のマスクの使用状況をみると、日本を始め東アジアの国々では使用率が高く、コロナ感染者数が少ない事と関連ありそうだ。

 ベトナムなどのバイクに乗る国では、排気ガスや道路の土埃を防ぐ、大きな布製ベトナムマスクを使用している。

 それに対して、欧米ではマスクの習慣がなく、マスク着用に抵抗感が強い。

 アメリカでは、3月にコロナ感染の爆発的増大が生じ、4月にニューヨーク州で公共の場でのマスク着用が義務化され、8月には半数以上の州で義務化された。しかし、共和党の強い南部ではマスクをつけない人が多く、今でも感染拡大が続いている。

 マスク着用義務化に賛成の民主党バイデンと、反対の共和党トランプとの間で行われた大統領選挙では、マスク着用の有無で、どちらの支持者か分かった。

 マスク着用を軽視したトランプは新型コロナに感染し入院したが、退院後もマスク無しを続けた。「コロナを怖がるような弱虫ではない」と強がっている様だが、その支持者も同じ行動をして、感染拡大を生じている。

 大統領選挙はバイデンが勝ち、マスク着用を唱えているが、コロナ禍においては、マスクの他に、握手やハグ、飲食などの習慣も変化せざるを得ない。

7 マスクによる表情の変化

 マスク着用の欧米での抵抗感については、相手のどこをみて表情を判断するかも関係しているようだ。

 日本では、主に目元で表情をみるのでマスクしてもある程度表情を読み取ることができるが、欧米では、笑ったり、大声出したりの口元をみるので、マスクをすると表情がわかりにくく、不気味と感じ、抵抗感が強いようだ。

8 マスクで困ること

 コロナ禍で親戚の通夜に行ったが、マスク姿で顔がわからず、ゆっくり話もできずに挨拶して帰ったが、誰がきていたかよくわからずだった。マスクをしての焼香など、お互いによくわからず、人のつながりがなくなってしまう。

 私の医院の待合室でも、会社当時の知り合い同士がマスクをして隣に座っていたが、名前を呼ばれた時にやっと気づいたという。

 マスク姿では、道ですれ違っても誰かわからず、人との接触は減ってしまう。マスクを外してゆっくり話ができる様になるのはいつの日か。

 「マスクして我と汝とありしかな」 高浜虚子 1937年作   

(副会長 長沼誠一)

■群馬保険医新聞2020年12月15日号

【歯鏡】年間推計からの2類見直し

【2020. 12月 03日】

 2020年全世界を脅かす事態が起こった。

 中国武漢から新しいウイルス感染症が世界に広まり、新型コロナウイルスCOVID-19と名付けられ、日本でも緊急事態宣言が発令され、自粛生活を余儀なくされた。医療機関でも自粛による受診抑制の影響を受け、医科も歯科もその影響は甚大であった。保団連の緊急アンケート調査では、5月診療報酬分が前年度比「収入30%以上減」と医科2割、歯科3割の医院で大幅減少との報告があった。標榜科目では、耳鼻咽喉科、小児科、歯科の外来患者が減少、保険診療収入減が特に影響したようだ。多くの患者がコロナウイルス感染を避けようと受診抑制した結果、がんや心不全の進行、重症化。検査の延期や服薬中断による心疾患や糖尿病など慢性疾患の症状が悪化。高齢者が外出を控えることによるADL低下、認知症進行、歯科でも口腔内状態が急速に悪化したことが指摘されている。

 高齢者施設では面会謝絶とし、入所者のADL低下も深刻な状況にある。またコロナ以外での入院でも、家族面会でさえ制限される現状から、不安感は増すばかりだと耳にする。

 現在緊急事態宣言は解除されているが、コロナ感染者は宣言時以上の増加がみられる。未知のウイルスとして、マスコミ等から連日陽性患者数が発表され、国民恐怖心は煽られ続けている。

 ウイズコロナの時代、感染拡大予防対策として、新たな生活様式が求められた。

・3密回避(密閉・密集・密接)

・ソーシャルデイスタンスを保つ。     

・日々の行動記録と健康観察表の作成

等が求められている。

 また医科歯科の医院内でも変化がみられる。感染予防意識が高まり、受付に透明仕切りの設置、受診前の検温、健康観察表への記入。待合室で3密にならないように、対面座を避ける、椅子の距離を置く、自家用車での待機、設備の定期的なエタノール等による除菌、換気などが行われている。各病院のこうした対応は、スタンダードプリコ―ションになりつつある。

 未知のコロナウイルス感染症も、時間ともにわかってきたこともある。PCR検査で陽性と判定されても、無症状であったり、軽症である割合が多いこと。重篤な症状、重症になるのは、基礎疾患がある人や高齢者に多いことなどが判明してきている。

 しかし、コロナ感染症は死に至る非常に怖い疾患との連日のマスコミ報道の煽りを受け、コロナに感染したことが悪い、とイメージが植えつけられた結果、他県をまたぐ越境移動の自粛やマスクをしていない人へ注意する自粛警察なる言葉まで聞かれるようになった。誰でも、コロナウイルスに感染したい人はいないのである。

 ここで、他の感染症のデータと比較してみる。

・新型コロナ感染

 【2020年11月8日現在】

 感染者数10.7万人

 回復者数95703人

 死亡者数1815名

・年間インフルエンザ感染死亡数約3300人(2018年)

・年間食物による窒息者数約4000人(お餅が多い、75~85歳が多い)

・年間交通死亡者数約3200人(65歳以上高率)

・年間自殺者数約20000人(70代以上40%)

 東京都におけるコロナ感染死亡者の平均年齢は79.3歳である。【2020年6月都発表】(因みに、東京2016年平均寿命男80.98歳女87.14歳 健康寿命男72歳女74.24歳)

 未知のウイルスとも言われるが、インフルエンザや窒息、交通事故の年間死亡者数と比較すると、極端に多いというデータは見えてこない。インフルエンザと同じ扱いでも良いのではと感じ得る。

 現在、新型コロナは2類相当であるので、感染すると、無症状、軽症でも就業制限・入院勧告を強いられ隔離状態となる。まだまだ、未知のウイルスではあるが、この死亡率からするとインフルエンザウイルスと同じ、5類に引き下げられるとも思えるだろう。

 PCR検査等が拡充され、陽性反応がでたら、無症状・軽症でも入院隔離となると、症状のない元気な若者で病院がいっぱいとなり、医療機能が逼迫し医療崩壊を来たすであろう。

 仮に5類になったとしても、新型コロナウイルス感染対策をすべてなくすのではなく、高齢者や基礎疾患のある人に接する場合など、各個人が常に感染予防に努め、キャリアにならないような対策を日頃から嵩じることは必要と思う。

 新型コロナウイルス感染症は、指定感染症2類のままでは収束には至らないと考える。まず、インフルエンザウイルス同等の5類に引き下げられることをが、収束への一歩となるのではないかと思う。

■指定感染症の種類毎の対応

指定感染症就業制限入院勧告
1類 エボラ出血熱、ペスト
2類 結核、SARS、新型コロナ
3類 コレラ、腸チフス
4類 E型肝炎、狂犬病
5類 インフルエンザ、梅毒
(出典:産経新聞8/26)

(副会長 小山 敦)

■群馬保険医新聞2020年11月15日号

【論壇】2019年を振り返って

【2019. 12月 15日】

1 厚労省統計不正問題

 厚労省が公表する「毎月勤労統計」で、ルールに反する抽出調査は2004年から15年間も続き、景気動向や経済政策の指標となる重要な統計が歪められていた。今回の不正の根幹部分は、本来、全数調査すべきところをサンプル調査にして、それを補正せずに放置したことである。サンプル調査は一般的に行われる手法であり、数字がおかしくなったのは、補正作業を忘れていたからである。1000件分の数字が必要なところが、200件分しかなかったということなので、出てきた賃金の数字は実際よりも低くなってしまった。
 だが、問題はこれだけにとどまらない。一連のミスが発覚したあと、厚労省は、04年まで遡って全てのデータを補正するのではなく、18年以降のデータだけを訂正するという意味不明の対応を行った。このため、18年からは急激に賃金が上昇したように見えてしまった。この訂正作業は、麻生太郎財務大臣による統計批判がきっかけだったとも言われており、これが政権に対する「忖度」であると批判される原因になっている。

2 韓国徴用工問題

 昨年11月、韓国最高裁が元徴用工訴訟で日本企業に賠償を命じた確定判決から1年が経った。現在の冷え切った日韓関係の起点であり、両国の関係は悪化の一途をたどった。その後も韓国軍による自衛隊機へのレーダー照射などが起こり、日本が輸出規制の厳格化を打ち出すと、韓国は軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を通告した。これらの問題をめぐり、韓国では日本製品や日本への旅行をボイコットする運動などが起きている。
 現代における両国の確執は、1910年の韓国併合から始まった。第2次世界大戦では、アジア各地の数万人とも20万人ともいわれる女性が、日本軍向けの売春婦として連行された。また日韓併合の後、多くの朝鮮人男性が日本軍に強制的に徴用された。
 第2次世界大戦に敗北し、朝鮮半島の統治に終止符が打たれてから20年後の1965年、韓国は数億ドルもの補償金や融資と引き換えに、日韓関係を正常化させる日韓基本条約に合意した。日本は、この時に支払った8億ドル以上の「経済協力金」によって戦時の補償は終わっていると主張している。しかし、「慰安婦」は繊細な問題として残り、2015年には、慰安婦問題について謝罪を行い、被害者を支援する基金に、韓国が求めていた10億円を拠出することで合意したが、韓国の活動家は相談を受けていないとしてこの合意を拒否。2017年に就任した文在寅(ムン・ジェイン)大統領も、合意の改定を示唆している。歴史的な確執はなお続いており、両国とも折れる気配はない。

3 高齢者の車暴走、上級国民

 4月、池袋で自動車の暴走死亡事故を引き起こした88歳の男性が、逮捕もされず、肩書きも旧通産省工業技術院元院長とされ、上級国民として問題になった。フレンチレストランの予約に遅れると暴走し、自分のミスで事故を起こしたのに、車のせいにしたりするのは、高級官僚を長く務め、責任をとらない姿勢が染みついてしまったか。この辺は、森友・加計書類を改ざんしたり、隠したり、廃棄して恥じない官僚と通じるものがある。

4 令和へ天皇代替わり

 4月30日、84歳の明仁天皇が退位し、5月1日、徳仁天皇が即位。元号は平成から令和に変わった。
 昭和の裕仁天皇は戦争責任を問われたが、明仁天皇はその反省から象徴天皇として行動したことになり、子の徳仁新天皇もそれを受け継ぐとのこと。
 令和に変わった元号は東アジアで用いられる紀年法で、その改元理由には、代始改元、祥瑞改元、災異改元などがあるという。ただ、明治から始まった一世一元は、日本古来の伝統というわけでもなく、年齢計算にも不便な表記で、西暦表示の方が使いやすい。

5 香港デモ

 6月、香港で犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改定案に反対するデモが始まった。香港は、1997年にイギリスから中国に返還されたが、その後50年は一国二制度により自治権をもつとされている。この逃亡犯条例をだした行政長官は中国寄りで、香港の有権者から直接選ばれているわけではない。10月に条例は撤回されたが、デモの原動力は、暴力的な香港警察への怒りと、民意を無視した香港政府のシステムへの反発、さらに若者層の反中国感情の表出などが主たるものになっている。
 香港に住む人の大半は、民族的には中国人だが、自分たちを中国人とは思っていない。政府批判や天安門事件の話もできない中国共産党の独裁体制の批判ということになる。

6 台風による暴風、大雨被害

 9月の台風15号は、最大風速57mの強風により千葉県を中心に送電線の寸断など、大きな被害をもたらし、10月の大型台風19号は、東日本に記録的大雨による被害をもたらした。一昨年の北九州豪雨、昨年の西日本豪雨などと同様、海水温上昇による豪雨が続いている。夏の40度を超える猛暑と合わせて考えると、地球温暖化の影響はすでに出ているともいえ、温暖化対策は待ったなしだ。また、従来の強風対策、大雨対策では防げなかった被害に対しての対策も必要となる。

7 消費税10%

 10月には消費税が10%に増税された。財務省の引き上げの理由づけは、少子高齢化による社会保障財源を現役世代だけでなく、高齢者も含めた国民全体で負担するためとしている。これは、現役世代対高齢者という対比で説明しているが、低所得者の増税と高所得者の減税という実態を隠している。
 過去の消費税増税分は、所得税、法人税の減税分を消費税増税でまかなっているに過ぎない。また、今消費税を増税すると貧困と格差は増大し、消費が減り、経済成長率も低下させる。食料品と新聞に軽減税率が導入されたが、すでに導入しているヨーロッパの国は、低所得者対策ではなく、物品税などの既得権との妥協の産物であり、徴税コストが増え、線引きが難しく、高所得者の方が得をするシステムなどの問題点があり、デンマークは採用していない。ハンバーガーの持ち帰り8%、店内飲食10%など、どう考えてもおかしい。

8 ラグビーワールドカップ

 9月~11月、ラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会が開かれ、ラグビーのにわかファンが増えた。予選の4試合は、試合ごとにテレビの視聴率も上がり、準々決勝・日本-南アフリカの平均視聴率は41・6%と、今年放送された全番組で1位となった。日本が躍進し、単に勝つだけでなく劇的なシーンの連続で、ルールや選手を知らない人でも盛り上がれる魅力的な試合だったことと、日本代表選手の振る舞いに共感を得る人が多かったのだろう。得点をあげた選手自身が個人の活躍には言及せず、「選手やスタッフだけでなく、応援してくれる人々も含めたONE TEAM」というコメントを欠かさなかったことも人々の心に響いた。高校から現在もラグビーを続けている友人に良く聞いた「ONE FOR ALL ALL FOR ONE」(1人はみんなのために みんなは1人のために)の合い言葉は、スポーツだけでなく、医療や社会保障などにも通じるいい言葉と思う。

9 関西電力金品受領問題

 関西電力の役員らが高浜原発の立地する福井県高浜町の元助役(故人)から2017年までの7年間に3億円以上の金品を受け取っていたことがわかった。
関西電力は原発への依存度が最も高く、原発事故などで起こった反原発運動を抑えるための地元対策を元助役に頼っていた面がある。元助役は1987年に退職してからも関西電力子会社の顧問として迎えられ、別会社の副社長にも就任するなど、原発行政に深く関与した。電気料金は、経費が反映される総括原価方式で決められる。工事費は高額になっても困らない構造になっているため、反対運動を抑える元助役と関西電力の関係は持ちつ持たれつだったともいえる。元助役からの金品は、福井県職員にも渡されており、原発での裏金の構図がうかがえる。

10 ノーベル化学賞 リチウムイオン電池の発明

 リチウム電池は、日本のソニーで製品化され、携帯電話やパソコンなどに使われ始めたが、電気自動車の普及とともに、CO2削減という地球温暖化防止に役立つ面が増えてきた。ノーベル賞はその時々の関心事に関連のある事柄が選ばれる面があり、欧州では環境問題が重要視され、リチウムイオン電池の発明に貢献したとして、旭化成名誉フェローの吉野彰氏にノーベル化学賞が贈られた。リチウム電池は、その原理の発明、製品化に日本の研究者、企業が先行していたが、現在の生産量は中国、韓国に次いで3番目となっていて、日本の製造業の相対的低下が見て取れる。

11 桜を見る会の私物化

 桜を見る会は、新宿御苑で開かれ、皇族や外国の大使、国会議員のほか、文化・芸能、スポーツなど各界の功労者が招かれるとされるが、安倍首相になってから、招待者数が増え、今年は1万8000人で、開催経費は5500万円だった。野党は、首相の後援会関係者などが首相枠で多数招待されていることを問題視し、税金で賄われる桜を見る会の招待は、公職選挙法が禁じる買収・供応に当たる可能性を指摘する声もある。安倍事務所が地元で桜を見る会の希望者を募り、そのツアーには前夜のホテルニューオータニで開いた夕食会も含まれていた。会費制だが、後援会の政治資金収支報告書には記載がなく、野党は、政治資金規正法違反の疑いも指摘している。
 この会の招待者名簿は、5月に野党議員から開示請求された日に、裁断廃棄されたことが明らかになった。ここでも不都合な資料隠しがされている。〝森友〟で妻の疑惑、〝加計〟で友人の疑惑、〝桜の会〟で本人の疑惑となり、税金の私物化、公文書の隠蔽が大手を振っている。

(副会長 長沼誠一)

■群馬保険医新聞2019年12月号