2011年度(2011年4月~2012年3月)をふりかえって
2009年の政権交代から2年6カ月が経過した。国民は、新自由主義路線を走り続けた自公政権との決別を決意し、民主党に政権を託した。ところが民主党はマニフェストを反故にし、再び新自由主義路線を走ろうとしている。消費増税への着手、TPP参加推進への動き、原発再稼動問題などがその典型的な例だ。世界各国では、貧富の差に怒りを覚えた人々のデモが広がっている。今、求められているのは、富の集中から所得再分配への政策転換である。現在の我が国は、高齢化社会を迎え、社会保障を充実させることが急務である。国民感情を置き去りにし、次々と首相が交代する民主党政権の混乱振りは、残念ながら2011年も同じだった。
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2011年6月 埼玉県で、個別指導時に、厚生局によるカルテのコピーおよびカルテ等の預り証への同意を求められた事が、被指導医から埼玉県保険医協会への相談で明らかになった。同協会は、直ちにコピーされた資料を返却させ、関東信越厚生局にこの件に関する法的根拠を求めてきたが、2012年1月、厚労省の担当者から「根拠はない、断っても不利益はない」との回答を得た。指導の場で不当な要求をされた場合、法令に無知な被指導医が平常心で対応するのは難しい。指導時の弁護士帯同の重要性を再認識した。
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7月 健康保険組合からレセプト点検や医療費分析を請け負った業者が、患者のレセプトデータを製薬会社に流出させている事実が発覚した。医療機関への営業に活用されている疑念が持たれている。レセプトデータについては、ガイドラインが策定され、民間企業への提供は禁止されているはずである。しかし、健康保険組合がレセプト点検業者や医療費分析を外注する場合、個人情報が匿名化されていればデータの二次利用には規制がない。これは明らかな矛盾だ。取り扱いに慎重を要する個人情報の民間活用、民間利用、商業利用は許してはならない。
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8月 歯科疾患の予防等による口腔の健康維持・増進に関する「歯科口腔保健法」が成立。虫歯や歯周病等の予防措置に、歯科医療関係者はもちろんのこと、国全体で取り組もうという明るい話題だ。
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9月 野田新内閣発足。2009年の政権交代時のマニフェストをおざなりにし、社会保障と税の一体改革と消費増税、原発の再稼働、米国や財界の要求の反映など、新自由主義路線の志向をさらに強めた。米国の債務残高引き上げ問題や再燃している欧州財政危機からもみてとれるように、行き過ぎた新自由主義的施策は国の土台を崩す可能性があり、見直しの必要性が大だろう。
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2012年2月 政府は、国民一人ひとりに識別番号を割りふる「共通番号制度法案」(マイナンバー法案)を閣議決定し、国会に提出した。医療・介護などの自己負担合計額に上限を設定することや年金等の正確な給付を行うことができるとして、2015年1月からの利用開始をめざし、法案成立を急いでいる。一方で、社会保障の給付削減・抑制をより効率的に実行する道具となることが懸念される。個人の医療費が機械的に判断され、医療・社会保障の荒廃や受診抑制につながりかねない。個人情報漏洩の問題、情報管理のシステムに不安を抱く国民も多い。
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同月 政府は、消費増税を盛り込んだ「社会保障・税一体改革」大綱を閣議決定した。消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%まで引き上げるというものである。現状況下での消費増税が、景気をよりいっそう冷え込ませることは、1997年の5%引き上げ時を振り返ってみても明らかなことである。低所得者に重くのしかかる逆進性の税制であり、断固反対する。
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3月 次年度の診療報酬改定に係る告示・通知が発出された。診療報酬本体では1.379%の引き上げ、薬価で1.375%の引き下げ、全体改定率は0.004%の引き上げとなった。限りなくゼロに近いプラス改定だ。長期収載医薬品の引き下げが行われており、実質マイナス改定と考えてよいだろう。
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群馬県保険医協会は、県民および保険医のため、さまざまな活動を行ってきた。第42回定期総会にあたり、昨年度の活動を振り返る。
《医療保険制度改善運動》
・9月 東日本大震災後の歯科医療機関の現状を把握し問題点を国会議員やマスコミ関係者などに周知 するため、「歯科会員アンケート」を実施。集計結 果をもとに民主党・宮崎岳志議員との懇談を行い、アンケートとあわせて行なった「お金の心配がない『保険でよい歯科医療』の実現を求める請願書名」173人分を提出した。
●総務部
・昨年3月から継続している、東日本大震災被災地への募金は、
合計216医療機関より636万円となり、被災地へ送金した。
・会員より提供のあった、歯ブラシ、義歯洗浄剤等を被災者支援
物資として被災地に送付した。
●研究部
・9月 保団連医療研究集会(東京)に参加し発表した。
・10月 第4回「医療安全の確保」講習会(58人参加)
講師/小林弘幸氏
(順天堂大医学部総合診療科大学院医学研究科病院管理学教授医療安全推進部長)
・10月 保団連の若手医師・歯科医師の集い(愛知)に参加した。
・2月 第5回「医療安全の確保」講習会(139人参加)
講師/伊藤秀明氏(前橋赤十字病院安全管理担当病理診断科部長)
吉住正和氏(群馬県衛生環境研究所)
原木善之氏(日本光電AED営業部)
●地域対策部
・「健康テレホンサービス」は26年目を迎えた。市町村広報でのプログラム紹介も継続され、年間利用度 数は1803本。上毛新聞社のインターネットホームページに健康講話を提供、ウェブ上の健康相談も継続して取り組んだ。モニター通信は通巻277号を数えた。
・電話で直接対応する「健康相談」を月2回開催した。
・無料健康相談等を行う県民イベント「子供も大人も 100まで元気!」を立ち上げた。ボランティア医師、食生活を考える会会員を中心に活動を行った。
・食生活を考える会は、6月、7月、8月に福島原発事故における放射線被害を中心テーマに開催した。
●審査指導対策部
・個別指導時の弁護士帯同を2件実現した。
・保険点数に関する会員からの相談に応じた。
・10月 関東信越指導監査対策担当者会議に出席した。
・3月 保団連書籍「点数改定のポイント」の編集作業に、
事務局1名を派遣した。
・同月 新点数検討会を前橋市と太田市で開催した。
参加者数は、医科前橋会場242人、太田会場34人、
歯科前橋会場135人、太田会場46人。
●経営対策部
・雇用問題、開業相談、税務調査に関する相談にあわせ、「医院経営と雇用管理」「保険医の経営と税務」「保険医の税務調査」など保団連発行の冊子を普及した。
●広報部
・東日本大震災を受け、震災関連の記事を多く取り上 げた。被災地で支援活動を行った事務局の報告や震災当日の医療現場の様子を医師が綴った原稿のほか、震災の被害についての会員アンケート、原発をめぐる今後のエネルギー問題を考える連載等を掲載した。 2012年新年号では、福島第一原子力発電所事故の被災者を全国でいち早く受け入れた、片品村の千明金造村長との座談会を特集した。
●共済部
・各種共済制度は健全に運用された(別表参照)。グループ生命保険については、前年度保険料の26.25%を配当金として還元した。
・2006年に改定された保険業法に伴い、維持管理状態となった保険医休業保障制度は、再開に向け金融庁による予備審査の準備に入った。
・年金制度のさらなる健全運営のため、2011年5月1日より第一生命を受託会社に加えた。
●文化部
・5月 第11回撮影バス旅行を実施(長野県白馬村/20人参加)。
・7月 第20回保険医写真展を開催。自由部門74点、課題部門「いのち」12点、撮影旅行部門19点の応募 があった。
会長賞は、秋山典夫「いのち103」(藤岡市・秋山医院)が受賞した。
●会員拡大部
・協会活動の宣伝に重点を置き、新規開業医に案内、年3回未入会の医療機関に群馬保険医新聞を配布し、PRに努めた。
●環境平和部
・11月 「第22回核戦争に反対し核兵器廃絶を求める「医師医学者のつどい埼玉」に参加した。
・12月 「さようなら原発1000万署名」を行い、84医療機関から集まった2869筆を、同署名実行委員会に送付した。
・保団連非核平和部会、反核医師の会世話人会に参加した。
《歯科会》
・歯科会を毎月開催した。
・保険医新聞歯科版を季刊発行し、10月号より歯科医師による趣味についてのエッセイ「趣味技巧人(シュミテクト)」の連載を開始した。
・10月 歯科医療の危機打開決起集会に参加し、署名活動を行った。
・11月 第18回体験アイデア発表交流会(119人参加)。
スタッフ発表は5演題。特別講演は、大野純一氏(大野歯科医院・前橋市)。
・海外技工問題をまとめた保団連発行の冊子「歯のかぶせ物・入れ歯の安全性について」を歯科会員に配布した。
《院内だより共同編集事業》
・病気についての指導、患者とのコミュニケーションをはかるため、20の医療機関が参加し、隔月発行している。通巻151号を数えた。5月に編集会議を開催し、年間の執筆テーマを検討。原発事故を受け、放射性物質の環境や人体への影響について、特に強い影響を受けるとされる妊婦、子ども、食品に焦点をあてた情報を提供した。 以上