遠隔医療最前線
沼田市・利根中央病院外科部長
日本遠隔医療学会
郡 隆之
昔テレビでウルトラマンの科学特捜隊が時計型のテレビ電話で会話するシーンをワクワクしながら見たものですが、今ではスマートフォン(スマホ)で簡単に同じことができるようになりましたね。先日も北海道の両親とiPad(タブレットPC)で無料のテレビ電話をしたばかりです。同じように、テレビ電話を使って在宅患者を診察したり、レントゲン写真や病理標本を遠隔で操作して診断する遠隔医療が可能な時代となりました。
遠隔医療(Telemedince and Telecare)とは、「通信技術を活用した健康増進、医療、介護に資する行為」と日本遠隔医療学会では定義しています。医師の偏在などによる医療の不足を補う手法の一つとして期待されており、遠隔医療により在宅患者を診療している施設も登場しています。また、不必要な搬送の抑制による医療の効率化や患者の専門医へのアクセス向上など、さまざまな利点があります。
厚生労働省は、平成9年より遠隔診療を認めており、最新の通知『情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について』(平成23年3月31日)では、「診療は、医師と患者が直接対面して行われることが基本であり、遠隔診療は、あくまで直接の対面診療を補完するものとして行うべきものである。直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは直ちに医師法第20条等に抵触するものではない」とされています。遠隔放射線画像診断や遠隔術中迅速病理診断など診療報酬にも盛り込まれており、厚生労働省による平成23年度の調査では、遠隔放射線画像診断を行う医療機関は2,403件、遠隔病理診断を行う医療機関は419件、在宅支援を行う医療機関は560件ありました。
当院でも画像診断の一部は群馬大学放射線科による遠隔画像診断を行っています。診療報酬に収載されていない遠隔医療も実用化しているものが多くあります。当院では、夜間休祭日のオンコール医師が病院に来なくても自宅のPCで病院の医療画像を閲覧できるシステムを導入しています。症例によっては自宅からの対応のみで済ませたり、病院へ行くまでの間に治療を進めてもらうことができ、医師の負担軽減と早期診断の両方に威力を発揮しています。このシステムを基に、2年前から経済産業省の補助金で遠隔医療を専門とするViewsend社とクラウドシステムの開発を行い、昨年完成しました。クラウド化することで、自宅のPC以外に外出先のスマホなどの携帯端末からも簡単に閲覧できるようになり、すでに県内の複数施設に導入しました。
また、医療圏として遠隔医療を運用している地域もあります。沼田保健医療圏では平成22年から7病院と16診療所を結ぶ遠隔医療ネットワークを構築し、医療画像の伝送を行っています。開業医から病院に依頼されたCT検査などの画像や、患者転院時の画像を伝送しています。現在、月50件以上の医療画像が施設間で飛び交っています。
政府は遠隔医療を推進する体制をとっておりますが、診療報酬のついている遠隔医療行為は少ないことや、診療報酬がついていても対面診療より低い報酬になる領域があることなどから、政府が思っているほど広がっていないのが現状です。そのため、厚生労働省の遠隔医療研究班では、遠隔医療の普及のために必要な枠組みを検討しています。
平成23年には、酒巻哲夫前群馬大学教授を主任研究者とした多施設共同研究を行い、脳卒中、がん、神経筋疾患などの在宅医療患者に遠隔医療を併用することの安全性と有効性を評価し、小生も解析に加わりました。
全国の20診療所で遠隔診療+対面診療群(遠隔群)と対面診療群(対面群)の2群に振り分け、遠隔群60例、対面群68例がエントリーしました。主要評価項目は、1 回の診療における実診療時間の割合の平均値[実診療時間/(実診療時間+1件当たりの移動時間)]とし、副次的評価項目は、患者のQOL(SF-36)の総得点、患者家族のQOL(BIC-11)の総得点、イベント発症率、入院率、死亡率を比較しました。
遠隔診療で移動時間が軽減されることで、1回の診療における実診療時間の割合が遠隔群で上昇しました。一方、SF-36・BIC-11の総得点の変化、イベント発症率、死亡率は両群間で統計学的に有意差を認めず、遠隔医療を併用した訪問診療は安全性を損なうことなく診療効率を高められる可能性が示唆されました。(*1)
現段階では診療報酬化は未定ですが、もし今後収載された際には「このことか」と思っていただければ幸いです。
また、遠隔診療については日本遠隔医療学会から「遠隔診療実践マニュアル 在宅医療推進のために」(篠原出版新社)が発売されております。小生も執筆しましたので興味のある先生は是非ご一読ください。
*1 「訪問診療における遠隔診療の事象発生、移動時間、QOLに関する症例比較多施設前向き研究」
郡隆之、酒巻哲夫、長谷川高志他
日本遠隔医療学会雑誌9(2):110-113,2013
■群馬保険医新聞2014年4月号