眼にも起こる光老化とその予防
―眼鏡装用を再認識してみませんか! ―
前橋市・丸山眼科医院 丸山明信
眼科医師として40年が経ち、私が年をとるとともに、受診される患者も年配の方が多くなり、老化による変化が眼にも少しずつ現れてきています。それらの現象のなかには、単なる加齢だけによるとは思われない変化があります。変化には個人差はありますが、その人なりに、年々明らかになります。長い間の生活習慣がおおいに関わっているものと思われます。生活習慣のうち、“光による老化”という考えがあります。「光老化」は、主に太陽紫外線によるとされています。これについて、日々の診療から教えられた私見を述べてみます。
まず眼部においては、眼瞼皮膚表面から眼底まで順に考察していきます。
Ⅰ.眼瞼皮膚と睫毛
まず最初に、外界の環境からの防御となります。上眼瞼は加齢とともに下がってきます。眼球を被うという意味では好都合かもしれませんが、見にくいため顎を上げるようになります。一方、若い人の中には“二重瞼”の手術を行い、目をパッチリと見開くようにし、さらに“睫毛パーマ”までおこないます。目に対して無防備になるだけです。
Ⅱ.角膜
①角膜炎(雪眼)
紫外線暴露による角膜炎で、痛みが強くびっくりしますが、1~2日で治癒します。しかし発症したこと自体、好ましいことではありません。
② 翼状片
主に鼻側の結膜においてその増殖組織が翼状に角膜へ伸びてくる状態で、戸外活動者に多く、紫外線を含めた外的刺激が関係します。進行はゆっくりですが、見た目が悪く、次第に角膜表面がゆがんできて視力障害がでます。外科的切除が適応になります。
③ 老人環
角膜周辺部の結膜寄りに輪状の白濁が出現します。これは光老化というより代謝機能の低下によると言われ、その白濁は角膜中央までは広がりませんので放置します。
Ⅲ.結膜
④ 瞼裂斑(けんれつはん)
上下の瞼に被われてない白目の部分が黄色のシミになってきます。少々盛り上がって、時に充血します。特に鼻側に目立ち、明らかに紫外線による障害で、眼鏡との縁がない人に多く、特にハードコンタクトレンズ装用者に多いように思います。翼状片に比べて見た目の変化は少ないですが、“隠れた眼のシミ”であり、ドライアイなどの障害を引き起こすこともあります。
Ⅳ.水晶体
⑤ 白内障
水晶体が混濁してくる病態で、その発症危険因子には加齢だけでなく多々ありますが、その一つに紫外線があります。視力障害となり、眼鏡等での矯正は効きません。自動車運転免許が更新できなければ手術をするしかありません。手術は混濁した水晶体を破砕・吸引し、人工レンズを挿入することですが、個人的には手術しないで済ませられればと思います。
Ⅳ.網膜
⑥ 黄斑変性
眼底黄斑部の網脈絡膜の加齢による変性であり、これも紫外線が関わっています。加齢とともに視力は低下しますが、白内障だけでは説明のつかない患者では、黄斑部に変性が起こっているかもしれません。早期のうちからOCT(optical coherence tomography)=光干渉断層計にて、眼底を三次元的に画像の解析を行い診断します。治療は、抗VEGF薬の硝子体内注射療法が主に行われています。また、将来iPS細胞の移植も考えられていますが、いずれにせよ大変な治療となります。
以上挙げましたように、眼球において表面から奥まで陽に焼けると、長い間には種々の変化が起こり、障害となります。例えれば、陽あたりの良い部屋では、畳や障子、襖などの内装が全て黄ばんでくるのと同じです。
ここで考えられるのが、“眼鏡”による防御です。しかし眼鏡に馴染めない人が多いように感じます。そんな人の中にはコンタクトレンズに移り、眼表面に一層負荷をかけています。さらにLASIK(屈折矯正手術)まで希望する人がいます。自分では気に入ったスタイルかもしれませんが、健康に良いことではなく、EyeCareでなく、Eye Damageとなっているかもしれません。
眼球保護という観点からいえば、眼鏡は常時装用していることが望ましいでしょう。中高年以上になれば、遠近両用眼鏡の常用が便利だと思います。レンズの色は必ずしも濃いものでなくても、紫外線透過率の低いレンズもあります。明るい屋外専用であれば色の付いたレンズも良いかと思います。眼鏡には視力矯正機能のほかに、保護機能もあることを再認識していただき、紫外線だけでなく、すべての物から目を守っていくという意識を持ってほしいと思います。
昨今の中国におけるPM2.5の環境汚染を見るにつけ、これからは帽子、眼鏡、マスクをするというあたかも子どもの頃のテレビのヒーロー“月光仮面”のような装いが必要となってくるのではないでしょうか。この稿をお読みの多く方は“今更、すでに遅し”かもしれませんが、将来を託す子どもや孫たちには、眼鏡の大切さを実践して伝えていってください。子どもたちにとって、帽子も眼鏡も装用できない屋外スポーツはどうしたら良いのか、考えているところでもあります。
■群馬保険医新聞2014年2月号