【診察室】ロドデノールによる皮膚障害

【2013. 11月 15日】

 前橋市・倉繁皮ふ科医院 倉繁田鶴子 

 2013年7月4日、株式会社カネボウ並びに関連会社リサージ、株式会社エキップが製造販売する「“ロドデノール”4-(4-ヒドロキシフェニル)-2-ブタノール」の配合された化粧品の使用者の中に、色素脱失を生じた症例が確認されたとして、含有する化粧品全製品の自主回収が発表された。連日メディアに大きく取りあげられ、現在も多方面にわたり影響が出ている。
 ここでは①実際の皮膚症状、②これまでの経緯、③診断における課題、④治療について、の4つの項目に分けて述べたい。

 ①実際の皮膚症状
 好発部位は頸部側面、顔面、さらに前腕に及び、脱色素斑(白斑)を主体とする。臨床症状はかなり多彩で、白斑と紅斑が混在している例、他の症状を伴わず突然白斑を生じた例、白斑がなく紅斑から色素沈着を生じた例、肝斑と白斑の同時出現などの報告がある。
 注目したいのは接触皮膚炎が先行、該当化粧品とロドデノールによるパッチテスト陽性にもかかわらず、白斑を生じていない症例報告が複数挙げられている点だ。原因及び発症のメカニズムを考える上で興味深い。

 ②これまでの経緯
 (カネボウ第三者委員会調査報告書2013年9月13日付公表)
・2011年10月…顧客から「顔に白斑様の症状が出た。化粧品の影響か」の問い合わせ。同社の安全管理部門で対応。
・2012年2月…社員(美容販売部員)3名から「化粧水、乳液を使用したところ顔面、手に白斑様症状を生じた」との報告。
 *同社の品質統括グループ…可能性は低い。続く場合は皮膚科を受診するように。
 *社員3名…不安に思い使用を中止。皮膚科は受診せず。
・2012年4~6月…顧客から白斑や色ムラの訴えが相次ぐ。
・2012年9月…顧客を大阪府内大学病院へ紹介。診断は「甲状腺炎による尋常性白斑。化粧品がトリガーになった可能性がある」。
・2012年10月…山口県内皮膚科医師から「白斑患者に化粧品パッチテスト陽性」とカネボウにメール。
・2013年5月…岡山県の大学病院医師がカネボウに「短期間に4症例で化粧品使用部位に白斑を生じた。化粧品がトリガーの可能性が高い」と指摘。
 ここで初めてカネボウは会社として対策プロジェクトを立ち上げ、7月4日、26品目の自主回収を発表した。全国で患者は増え続けており10月4日現在、1万3,959人と公表されている。

 ③診断の課題
 今回の“ロドデノール事件”は、化粧品会社の社会的責任にスポットが当たっている。しかし私たち皮膚科医は“白斑の診断”について、大変複雑で重い感慨を持つことになった。化粧品誘発の白斑を予見できたであろうか。
 日本皮膚科学会が7月17日に組織した「ロドデノール含有化粧品の安全性に関する特別委員会」による手引き書にあるように、「多くの患者が全国の皮膚科を受診していますが、ロドデノールと臨床症状の因果関係、臨床型、発症頻度、予後、病態などについて、いまだ不明な点が多く、現場では対応に苦慮しております」これが率直な実感であろう。
 
 全ての症例がロドデノール含有化粧品を使用している。             ↓
           原因物質か?
         では作用機序は?
 成分が持つチロシナーゼ(メラニン合成に重要な役割) 抑制作用か? それとも……
 アレルギー性接触皮膚炎が自己免疫疾患としての尋常
 性白斑を誘発した? しかし……
 パッチテスト陽性で白斑を発症しない例もあり、陰性
 で発症する例もあり?
 ……疑問は尽きない。
 さらにロドデノール含有化粧品使用者の白斑すべてを化粧品が原因と断定出来ないという問題もある。白斑患者を診察する場合、尋常性白斑以外に鑑別診断として甲状腺疾患、膠原病(強皮症etc)、糖尿病、薬剤性白斑黒皮症を除外する必要があるからだ。

 ④治療について
 尋常性白斑に準じて光線療法、ステロイド外用、タクロリムス外用、ビタミンD3外用などが検討または試用されているが、治療効果についてはまだ不明となっている。今後の解明を待たなければならない。

 おわりに
 ほとんど女性のしかも顔や首、手の甲などにまだらに白斑やシミを伴う今回の出来事は、目立つ見られる皮膚の病変であるが故に、多くの人が精神的な苦痛を被ることになった。単純に考えれば、美白を目的にした化粧品ならその作用で“白斑”を生じても不思議ではないかもしれない。しかしポイントではなく、びまん性に拡がるこの臨床型は想定外であった。4症例を確認して疑いを抱いた大学病院の報告は本当に共感を覚える。そしてパッチテスト陽性の白斑患者に疑問を持ち、カネボウにメール連絡をされた山口県の皮膚科の先生には尊敬の言葉しか浮かばない。全く同じくカネボウ化粧品パッチテスト陽性の白斑患者を抱え、数ヵ月なぜだろうと悩み続けた筆者である。

■群馬保険医新聞2013年11月号