中医協の答申を読む/診療報酬改定のポイント(医科)
診療所再診料69点に
2010年診療報酬は総枠0.19%(本体1.55%、薬価・材料費マイナス1.36%)の引き上げとなった。10年ぶりのプラス改定と厚労省は言うが、ジェネリック関連で追加引き下げされた600億円を総枠から削減すると引き上げ率は0.03%になると保団連では発表している。
中医協の答申から改定のポイントを拾ってみたい。改定は重点課題と4つの視点を基本方針としている。
《重点課題》
重点課題1は「救急、産科、小児、外科等の医療の再建」。具体的には、救命救急センターと二次救急医療機関、ハイリスク妊産婦管理やハイリスク新生児に対する集中治療等を評価。手術料も引き上げられた。
重点課題2は「病院勤務医の負担の軽減」で、医師事務作業補助体制加算を充実させ医療クラークを普及させる。また、栄養サポートチーム加算、呼吸ケアチーム加算等、多職種からなるチーム医療が評価された。
《4つの視点》
4つの基本方針とは、
○充実が求められる領域を評価(がん、認知症、感染対策、肝炎対策、精神科入院医療等)
○患者にわかりやすい医療(明細書の発行、再診料の統一、5分ルール廃止、地域医療貢献に対する評価)
○医療と介護の機能分化と連携の推進
○効率化(後発医薬品の使用促進、X線、CT、内視鏡、検査、処置の見直し)
また後期高齢者医療については、75歳という年齢に着目した診療報酬は廃止し、代わりに、機能が重複している生活習慣病管理料を全年齢に拡大した。
◎再診料の引き下げ
この中で、最も議論があったのは再診料である。診療所が2点減り、200床未満の病院は九点増えて69点に統一された。病院の再診料は前回改定時にも3点増えており、今回も9点増えたのは、病院勤務医の優遇策といわれる。
初診料は2006年改定時に診療所が四点減り、病院が15点増えて、270点で統一されている。これも同じ行為は同じ点数でわかりやすくと理由づけされているが、病院でも200床以上の再診料は70点のままで、この違いの説明はつかない。
再診料については、1985年にできた時から診療所と病院で点数差があった。診療所は外来機能、病院は入院機能を重点的に評価するという理由だった。
実際、診療所は病院と比べ「初・再診」「医学管理等」
「処置」の割合が高い。初・再診料の収入にしめる割合は病院10%に対し、診療所18%である(2008年)。
医学管理料とあわせた基本診療料で比較すると、病院の14%に対し、診療所は30%と高くなっている。
また投薬や処置の少ない科では、初・再診料が収入の3割を越える。皮膚科、耳鼻科、小児科では初診料の割合が高く、整形外科では再診料の割合が高い。再診料の引き下げは、そのような診療所の崩壊を招きかねない。
◎財務省の思惑
財務省が、病院優遇、診療所冷遇の根拠としたのが医療経済実態調査だ。そこでは、診療所の損益差額月204万円を診療所院長の給与とみなし、勤務医給与月114~135万円と比較している。しかし、診療所院長の給与は病院院長の平均給与と大差なく、診療所勤務医の給与は病院勤務医と大差ない。
事業主である診療所院長と勤務医の比較は、企業の社長と社員の比較に似て比べるほうがおかしい。データの都合のいい使い方は役所のよくやる手で、それに振り回されてはかなわない。
勤務医は収入が少ないという理由で辞めている訳ではない。交代勤務もままならない劣悪な労働環境が問題なのではないか。勤務医の労働環境を改善するためにも病診連携は重要である。診療所を冷遇せずに病院優遇策をとるべきだろう。
診療所の再診料を2点下げておきながら、地域医療貢献加算3点を作ったのは、まさにアメとムチ。足し引き1点増で、休日、時間外の電話や診察対応をしなさいというわけで、随分安く評価されたものである。
◎明細書発行の義務
レセプト並みの明細書を無料発行する診療所には、明細書発行体制加算1点が算定できることになった。レセプトの電子請求は今年7月から多くの診療所でも義務化されるので、全患者への明細書無料発行が原則となる。
しかし、レセプトは医療関係者でも分からない面が多く、それを患者に説明するのは簡単ではない。今回の改定でも細かい変更が相次いでいる。レセプトなみ明細書の発行よりも、保険の仕組みの簡略化が先ではないか。
◎5分ルールの廃止
外来管理加算は前回改定で導入された5分ルールが廃止される。この5分の根拠もデータを都合のいいように使ったものだったので、廃止は当然と思う。
◎後発品の使用促進
後発医薬品の使用促進を図るということで、調剤薬局での後発医薬品調剤体制加算を処方箋枚数から数量ベースに改め、3段階の調剤率で加算できるようになった。調剤料も処方日数が長いものが高くなる。
後発品使用促進の目的は薬剤費を減らすことのようだが、院外処方が増えれば調剤料などの医療費は増え、目的と矛盾する。医療費削減というなら、調剤料等の安い院内処方の冷遇を見直してはどうか。
◎電子化の流れ
Ⅹ線撮影で、アナログ撮影料は下がり、デジタル撮影料が高く設定された。これは患者の被曝低減が可能、画質改善や計測、多量のデータの保管などの利点を評価したという。デジタル映像化処理加算15点は廃止されるが、電子画像管理加算は残り、電子化の流れは強まるばかりだ。
CT撮影でも、16列以上のマルチスライス型の機器が高く評価された。MRI撮影は、1.5テスラ以上は評価が上がり、それ以下は下がった。このような改定は、医療機器メーカーの後押しをする面もありそうだ。診療所、病院全体の後押しをする改定にしてもらいたいものである。(審査対策部・長沼誠一)
■群馬保険医新聞 2010年3月号