【論壇】診療報酬改定

【2010. 4月 16日】

【論壇】診療報酬改定

 
     将来展望を示して

 

 新政権のもとで、初めての診療報酬改定が行われた。0.19%のプラス改定と厚労省は発表したが、先発品の薬価追加引き下げ分が改定率に含まれないことがわかり、実質改定率は0%といわれている。同省は「改定率の偽装はない」と弁明しているが、こういった数字上のトリックは「お役所」の常套手段である。
 野党時代、福祉の充実を声高にアピールしてきた民主党政権が、「結局は帳尻合わせに終始し、福祉の充実どころか、官僚改革を含め何もできなかった」と言われないよう切望する。

 

 ◎患者への情報提供
 このところの改定では、患者への情報提供が前面に出てきている。情報提供そのものは世の中の趨勢であり、患者が自分に行われている医療を知り、治癒改善に向けてより主体的意識をもつためにも推進すべきものと考えている。
 ただし、それには真に患者のプラスになる環境整備が必要である。医療現場を混乱させ、そのあげく、文書自体が単なる紙切れと化すような、機械的で一方的な情報提供では意味がない。

 

 ◎保険病名、包括化
 今次改定で、オンライン請求を行う医療機関に対し、「レセプトなみの明細書」の無料発行が義務化された。開業医の六割がこの義務化に反対しているという。反対理由の第一は「患者への説明等に手間がかかる」だった。 
 たとえば「保険病名」。病名と処置とに整合性がない保険病名という言葉が長年放置されてきた。ある処置がなぜその病名では適用にならないのか、先ず保険医が納得できる説明が必要である。それをしなかったのは厚労省の職務怠慢であろう。保険医が納得できないものを、窓口で、患者にどう説明すればいいのだろう。
 また一方で、処置等の包括化が進んでいるのに、これまでよりさらに細かい明細書を出したところで、はたして意味があるのだろうか。患者から明細書の内容について質問されたとき、「~に含まれています」で納得してもらうのは難しい。何のために「レセプト並み」明細書が必要なのか、理解に苦しむ。
 
 ◎点数説明会 
 実情に合わないといえば、関東信越厚生局による3月30日(医科対象)、31日(歯科対象)の新点数説明会開催などは現場無視の最たるものであろう。4月1日実施の改定について、実施日前日の説明会ではあまりにも遅すぎる。
 さらに問題なのは、説明会が平日の昼日中、しかも全県下の医療機関を一堂に集めて行われることである。大病院ならばともかく、院長一人の医療機関が圧倒的多数を占めている。一斉休診のその間は緊急医療体制が機能停止の状態になる。行政の危機管理能力を疑いたくもなろう。ちなみに当協会は3月11日、この医療現場軽視の説明会のあり方に対し、関東信越厚生局に改善要望書を手渡した。

 

 ◎医療費抑制
 さて、冒頭でも触れたが、厚労省の言では、今次改定は実質プラス改定だという。しかし、たとえ点数が上がったとしても、厚労省は医療費抑制のための打つ手はいくらでもある。
 疑義解釈で実質的に保険適用から外すといったことは、これまでも何度となく経験してきた。成文化されていない内容の解釈にバイアスがかけられ、いとも簡単に結果が変わり、現場はそれに従わざるをえない。
 また、集団的個別指導等で、保険医の医療業務を心理的にもコントロールし、結果的に医療費を抑制することも可能である。
 こういった形での医療費抑制がいかに保険診療を歪め、結果として患者にマイナスに作用するか、厚労省はその責任の重さを自覚する必要がある。

 

 ◎安心感という社会保障
 診療報酬改定のたびに細目の増減が行われ、それによる現場の不満が聞かれる。保険医の気持ちとしては、あまり細かい増減ならばかえってしないでほしい、それより実情に合わない制約等を見直し、医師の裁量権を認めてほしい、といったところが本音ではないだろうか。朝三暮四の改定で現場は振り回されている。
 長引く不況の中、国も財政難にあえいでいるように見える。限られた財政下、何を削減し、何に投資するかは時の政府の将来展望にかかっている。
 国や行政が国民の信頼を得るためには、無駄な帳尻合わせに知恵を絞るより、この国の医療はどこに向かうのか、大きな展望を我々や患者に示すべきである。その中で、根拠ある細目を語ってほしい。
    * 
 医療機関の待合室で患者が自分の番を待つとき、あと0分というメドが立つと待ち時間が我慢できるという。「時間」という展望が持てるからである。
 国民にも「めざす医療」の展望を示して、安心を与えてほしい。この安心感だけでも、大きな社会保障になりうるのではないだろうか。(副会長・清水信雄)

 

■群馬保険医新聞 2010年4月号