女性医師支援の課題と現状 

【2007. 9月 04日】

女性医師支援の課題と現状
                                            柳川洋子(副会長)

■女性医師の増加と医師不足
2002年には、全国の医師数約25万人中女性医師は15.7%でしたが、05年の医師国家試験合格者の33.8%が女性でした。
 一方、全職域の女性労働者の就労状況は、30代に就労率が低下するM型が従来からのパターンでした。妊娠、出産という女性特有のイベントが仕事の継続を困難にするという職場環境の不整備がその原因です。
特に女性医師の場合、持続するために結婚や出産をあきらめるか、個人的条件に支えられた幸運な場合にのみ就労が持続できたというのがこれまでの状況でした。またいったん離職してしまうと、医局人事に適合しなくなったり、技術の進歩や知識の移り変わりで自信喪失に陥ったり、思うような職場復帰はなかなか難しい状況でした。
この状況を放置したままでは、約40%が女性医師である20代の医師が30代になる10年後には、医師不足と医師の過重労働がますます深刻になることは目に見えています。
 現に、病院勤務の小児医不足や、産科医不足が病院の小児科部門、産科部門の閉鎖という形で現れてきており、地域住民を困惑させています。
 今や、女性医師支援問題は、これからの病院存続のための経営課題であり、日本医療の最重要課題であると認識すべきでしょう。

■女性医師支援の四つの課題
次に女性医師支援の直面する四つの課題について述べてみたいと思います。
まず一番目に就労形態の柔軟化という課題が挙げられます。例えばフレックスタイムの採用や、診療科ごとに専門職パートを用意し、勤務可能な時間帯を勤務時間として担当してもらえるよう情報を提示するなどです。この他には妊娠中、乳児の育児期間中の夜勤免除などが考えられます。
二番目の課題は、離職している女性医師の復職支援と再就職支援研修コースです。これには離職している医師の登録、求人情報の提示、業務にあわせた研修、新研修医制度期間の柔軟化などが考えられます。
第三番目の課題として、院内保育所の整備があります。延長保育、夜勤日直時に対応するには日曜祭日の保育や二十四時間保育、また病児保育の整備が必要です。
第四番目の課題として、病院施設の整備があります。女性の授乳室、休息室、当直室の整備、院内売店については、販売時間の延長や、販売品目の見直しをして、勤務終了後に院内で生活に必要な買い物が出来るようにするのも、仕事をしながら育児をするには非常に有効であると思います。

■全国の状況
 現在、これら四つの課題に対して実際にどのような取り組みがされているのでしょうか。全国の状況をすべて把握しているわけではありませんが、数は少ないですが、確実な第一歩が踏み出されています。
国立病院機構大阪医療センターでは「女性医師の勤務環境改善プロジェクト」を立ち上げ、NPO「女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会(ej net)」による「女性にやさしい病院の認定事業」などがスタートしました。ej netでは今年(2006年)二回目の女性医師支援についてのシンポジウムを開催しています。

■群馬県の状況
 では群馬県内の動きはどうかというと、群馬県と群馬大学が動き始めています。群馬県では06年度から新規事業として女性医師の再就職支援事業が始まっています。
ちなみに、群馬県内では小児科医総数は決して減少していませんが、病院勤務の小児科医が地域によって偏在し、不足しています。産科医と産婦人科医は、1994年から2004年にかけて大幅に減少しています。
群馬県の「女性医師再就労支援事業」では、女性医師バンクを発足し、広報して登録を促す。どの病院にどの診療科の医師が何人不足しているか、どんな雇用形態が可能かを把握して、登録医師に斡旋する。再就職が決定したら、群馬大学などで再教育研修をしてもらうといった構想を持っているようです。
離職している医師の把握などなかなか困難な面がありますが、打開の道を切り開いてもらいたいし、多くの先生方にもご協力をお願いしたいと思います。
  一方、群馬大学では、柔軟な勤務体制、日当直の免除、保育所(健康児、病児)の建設、男子職員の子育て参加推進を構想しているとのことです。このうち、院内保育所は、今年モルタル二階建て、定員20名で、昭和キャンパスの教職員の乳幼児を対象とし、開設予定です。場所は旧精神科運動場で、一階が健康児、二階が病児とし、運営は民間に委託、給食付き。保育料は3歳未満が4万円、3歳以上が3万円程度、保育時間は午前7時30分から午後7時というのがおおよその概要です。

■終わりに
 以上、女性医師支援の課題と現状についてまとめてみましたが、これまでは女性医師一人ひとりの声はかき消され、一枚の大岩の前で立ちすくんでいたような有様でした。ここに来て全国的にも具体的な動きが見えてきて、県内でも、行政が今年度の予算を組んだ事業として取り上げ、また医療のリーダーシップたるべき群馬大学が今年、院内保育所を開設するということは、誠に喜ばしい第一歩で、大いに勇気づけられるものでした。
これから育ってゆく若い医師には、与えられた当然の権利というのではなく、常に切り開いてゆくという気概と向上心を持っていただきたいし、先輩の先生方には、後輩を育てるという気持ちを忘れることなく尽力していただきたいと願っています。    
    (前橋市・柳川小児科医院) ■群馬保険医新聞20068月号