【診察室】学校保健と皮膚科  

【2010. 5月 19日】

【診察室/皮膚科】

  学校保健と皮膚科   
   
                                                        高崎市・はっとり皮膚科医院 服部 瑛
 皮膚科が本格的に学校保健に関与したのは、日本臨床皮膚科医会に学校保健委員会が設置されたことから始まる。初代学校保健委員会委員長は大川章先生(前橋皮膚科)、そして五十嵐俊弥先生(五十嵐皮膚科医院)へと引き継がれ、現在大川章先生のご子息の大川司先生が委員長を勤め、その大役を遺憾なく発揮されている。皮膚科における学校保健活動は、前橋市のこれまでの実績が大きな影響を与えており、誇りに思っている。
 最近、皮膚科を含めた「専門校医(専門相談医)」制度が模索され、さらに、「アレルギー疾患に関する調査研究委員会」の調査を踏まえて、「学校のアレルギー疾患に関する取り組みガイドライン」そして「生活管理指導表(アレルギー疾患用)」が配布されたことはご承知のことと思われる。 
 しかしながら、新たに発足した民主党政権は「事業仕分け」作業で、学校保健活動に無謀とも思える結論をくだした。「専門校医制度」をより発展的に拡充させた「子供の健康を守る地域専門家総合連携事業」を廃止したのである。まさに危機的状況となった。私はすぐさま文部科学省に、以下のごとき意見を上申した。

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「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」の廃止は

皮膚科における学校保健活動を衰退あるいは消滅させます!    

  ◎はじめに
 このたび「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」に関する「事業仕分け」ワーキンググループの評価結果は、国として事業を行わないとの決定がなされました。きわめて残念な結果であり、このことは皮膚科における学校保健活動の危機でもあり、今後の学校保健の衰退が予測される重大な事態と考えられます。
以下、学校保健活動の経緯も含め、皮膚科として説明させていただきます。

 ◎専門校医制度の発足
 従来、内科(小児科)、眼科、耳鼻科の3科のみが「学校医」を担ってきました。しかし、児童生徒や教職員を取り巻く環境の変化に伴い、皮膚科などの専門性の高い学校保健への取り組みが求められているのです。その問題の取り組みの端緒が、「学校医」的な側面も持たせた専門校医(専門相談医)制度です。皮膚科をはじめとして、精神科、産婦人科、整形外科の4科からその活動が開始されました。具体的には、精神科は心の問題、いじめや薬物乱用において、整形外科がスポーツ外傷、筋骨格系の発達異常で、産婦人科は性に関する問題、そして皮膚科はアトピー性皮膚炎をはじめとするアレルギー疾患や紫外線の皮膚への障害、おしゃれ障害、学校感染症などにおいて、専門的な立場でこれらの対応が求められていることをまずご理解ください。
こうした「専門校医制度」の必要性・重要性が確認された後、発展的にさらに領域を広げた立場で、平成20年度より「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」がモデル事業化されました。

 ◎皮膚科の取り組み
 皮膚科においても学校保健活動は必須であるとの見解から、平成5年より日本臨床皮膚科医会は学校保健委員会を立ち上げ、全国各都道府県に学校保健担当医を配置することで全国規模での学校保健活動を開始しました。その後、平成19年には日本小児皮膚科学会においても学校保健委員会が活動を開始し、さらに昨年、日本皮膚科学会に学校保健委員会ワーキンググループが組織され、皮膚科領域における学校保健活動のネットワークが構築されました。そして、3学会がお互いに連携しながら学校保健活動に着手しているのが現状であり、その際「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」は、皮膚科の学校保健活動における大切な拠り所となっているのです。

 ◎評価者へのコメントについて
 今回行政刷新会議「事業仕分け」において「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」が「国として事業を行わない」と評価され、評価者のコメントがHP上に掲載されました。
以下皮膚科として、それぞれのコメントへ意見を述べたいと思います。

 〈おざなりなモデル事業をするより現実の問題に対応すべき〉
 上記のように皮膚科関連3学会が連携しながら現実の問題に真剣に対処しているところです。おざなりという不謹慎な発言は、現場で真摯に取り組んでいる皮膚科医にとっては看過できない由々しき発言と考えられます。現在、47都道府県の学校保健担当医との合同会議を定期的に開催し、皮膚科としての学校保健活動の全国的な推進を図っており、さしせまった健康問題に対応すべく、各地域において皮膚科専門校医の学校への派遣指導・助言はもとより、教職員・PTA等に対しての研修会・講演会も積極的に行い、事業を展開しているところです。(以下12項目において意見を述べました。紙面の都合で割愛しますが、詳細は日臨皮のHP 
http://www.jocd.org/に掲載されています。)

 ◎おわりに
   皮膚科における学校保健活動を通して、今回の「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」を考えてみました。評価者のコメントは残念ながら私たちの意図、活動を無視しているとしかいえません。さらにあまりにも理解がなさすぎます。
皮膚科医は、医師として学校保健活動を推進したいのです。しかし「学校医」でないことから学校保健活動がまったくできない状態にあるのが現状なのです。「専門校医制度」から始まって、「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」でようやく脇役ながらも「学校医」としての立場が皮膚科として可能になってくるのです。皮膚科医、そして「学校医」以外の他科が学校保健にアプローチすることは、医師として求められる責務の一つなのだと、私は理解しております。
 どうか学校保健に関して、現状を正しく把握されることを心から願っております。

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 以上である。おそらくあまり知られていないであろう皮膚科における学校保健活動の経過を基にして意見を述べた。今後の望ましい展開を望むとともに、皮膚科の学校保健活動に温かいご理解を望む所以でもある。

 

■群馬保険医新聞 2010年5月号