【医療最前線】 医師不足と群馬県の取り組み 

【2007. 9月 04日】

医師不足と県の取り組み
                 群馬県健康福祉局  真鍋重夫

国の対策と問題点
●不足を認めない厚労省
新臨床研修制度が導入されてから露呈した日本の医師不足は、現在進行中の医療費抑制(国は、適正化と呼んでいる)を主眼とした医療制度改革により、更に深刻になってきている。
皮肉にも、医療制度改革の大綱には、「安心・信頼の医療の確保と予防の重視」の中に、医師不足対策が盛り込まれている。しかし、厚生労働省は、現在の医師不足は、医師の地域偏在(都会集中)、診療科偏在(米国に比して、人口当たりの脳外科医、整形外科医、外科医等が多く、麻酔科医、小児科医、産科医が少ない)が主たる要因であり、医師の絶対数は不足していないとしている。
このため、医科大学(医学部)の定員の増員には応じようとしてこなかったが、特に、東北地方の医師不足は地域医療を完全に崩壊させる事態となり、国もやっと今年になって東北地方を中心に十の大学についてのみ、医学部定員を来年度から十年間限定で増員することを認めた。

●実現性に乏しい施策
厚労省の医師不足対策は、
① 病院の集約化・重点化による拠点病院確保による勤務医の確保、労働環境の改善
② 拠点病院を軸足とした医療供給体制再編(大学の医局に代わる医師派遣の実現)
③ 開業医の役割・機能の明確化(開業医の救急医療への参加、往診による在宅医療充実)
④ 医療紛争処理制度の確立
⑤ 女性医師の働きやすい労働環境づくり
⑥ 医学部における地域枠の拡充
等である。医師派遣を支配してきた医局体制が、新臨床研修制度を契機として崩壊したため、いくつかの病院を統廃合して拠点病院を確保し、そこから医師不足の病院に医師を派遣することを考えているのである。
5月末に、政府与党が参議院選挙向けに打ち出している緊急医師確保対策でも、第一番目の対策として、緊急臨時的医師派遣システムの構築を挙げている。都会の大きな病院から東北地方等の医師不足が深刻な病院へ医師を派遣しようという厚生労働省の考え方と同じである。
このような対策が、実現性があり、機能すると思っている医療関係者は、おそらくいないだろう。国立病院機構が、昨年9月から国立医療センター等都市部の大病院から、医師不足の八戸、釜石等の国立病院に医師の派遣システムを始めたが、半年で破綻している。規模の大きな病院であっても、長期間医師を派遣できるほど余裕がないのが現状である。

●勤務医の労働環境
厚生労働省の医師確保対策は、実現性がないか、あるいは、短期間では効果が期待できない対策ばかりである。現在の医師不足は、病院勤務医の不足が本質的な問題である。病院の集約化・重点化により、勤務医を拠点病院に集めても、勤務医の労働環境の根本的な改善にはならない。
日本の病院では、病床当たりの医師数は、欧米の三分の一から五分の一という状況であるが、現行の診療報酬体系では、病床当たりの医師数を現状から二倍にすることさえできないのである。慢性的赤字経営の病院が、規定の医師数の3から5倍に増やすというのは、「できない相談」である。
すぐに効果が期待できるのは、病床当たりの医師数を増員可能な大幅な診療報酬体系の改定であろう。更に、根本的な解決には、医学部の定員を大幅に増員することが必要である。

群馬県の取り組み
●女性医師を呼び戻す
国の対策には期待できない以上、群馬県としては、「考えられる対策はすべてやる」という姿勢で取り組んでいる。
まず、女性医師の働きやすい環境づくり対策について紹介する。若い医師の約三分の一は、女性であり、労働環境が厳しいために結婚・出産・育児の過程で離職し、復職が難しいという課題には、大学病院等での再教育の支援(研修費負担、保育料の補助)を実施している他に、女性医師向けに情報提供を開始したところである。
また、女性医師の就業環境整備事業としては、今年度から24時間保育、病児保育、病後保育を含めて院内保育所運営費補助や院内保育所整備補助(新・改築費用、備品購入経費補助)を開始している。
しかし、このような就業環境が整備できたとしても、現在の医療現場の長時間勤務、頻回当直という労働環境が改善されない限り、女性医師が将来的に病院勤務医を継続することは、困難であろう。
根本的な課題である病院の勤務環境の改善には、病床当たりの医師数を増員できるような病院の収益を保証できる診療報酬体系への改定が必要である。

●修学資金の貸与
勤務医、特に小児科医、産科医の県内定着を図るため、昨年から群馬県医師確保修学資金貸与制度を創設した。月額15万円の貸与後、一定期間知事が定める県内の公立病院等で勤務することを条件にその返還免除する制度である。昨年度は、12名に貸与しており、今年度は更に増員する予定である。群馬大学医学部の定員増員や地域枠についても、群馬大学や文部科学省に要請することとしている。
一方、昨年度の県内の臨床研修マッチ数は、近県では一番少なく、特に、群馬大学医学部附属病院のマッチ率が低く6割にも達しなかったことは、深刻に受け止めている。研修医に魅力的な病院が少なければ、群馬大学医学部定員を増員しても、県内に定着する医師は増えないであろう。

群馬県として医師確保にはどのような対策が必要なのか、「考えられる対策は何でもやる」という姿勢で取り組んでいる。医師確保対策に関するアドバイスをお寄せ頂ければ幸いである。

■群馬保険医新聞7月号