【論壇】混合診療の解禁

【2010. 6月 21日】

【論壇】

    混合診療の解禁/必要な医療は保険で

 

 

 行政刷新会議の「規制・制度改革に関する分科会」は13項目の検討テーマを示し、
○保険外併用療養(いわゆる混合診療)の原則解禁
○一般用医薬品のインターネット等販売規制の緩和
○医行為の範囲の明確化
などについて6月までに一定の方向性をつけると発表した。
 4月21日の会議では「混合診療の原則解禁」と記載されていたが、30日には「保険外併用療法の範囲の拡大」という表現に変化した。「保険外併用療法」は現在、厚生労働省が医療技術ごとに一定の施設基準を設定する仕組みとなっているが、各医療機関の倫理審査委員会判断でも可能とする「届け出方式」が検討されているという。
 
 ◎混合診療とは

 ここで重点検討項目となった混合診療についての定義、問題点などを考えてみたい。まず、混合診療とは何かを理解する必要がある。
 混合診療とは、初診から治療終了までの疾病に対する一連の治療行為の中で保険診療と保険外診療(自費診療)を併用することである。この場合、保険外の診療に関する費用を患者から徴収することを禁止している。
 現行医療保険制度では混合診療禁止となっており、一連の診療について、保険診療と保険外診療との併用を認めない。従って、一連の診療中に、健康保険で定められた自己負担以外の費用は原則として徴収できない。
 この原則は、医療保険によって必要な医療を保証し、国と保険者はその責任を負っているという理念によるもので、憲25条に基づく社会保障としての皆保険制度を支えている。
 
 ◎財界の要求

 原則禁止の混合診療の例外規定が特定療養費制度である。1984年に導入され、高度先進医療と選定療養に分かれる。選定療養は差額ベッド、歯科材料、予約診療、金属床総義歯、薬事法による治験など13種に及ぶ。その後、厚労省の拡大解釈により制度自体が変質し、保険給付削減の手段となっている。
 小泉政権下、混合診療解禁をめぐる議論の主な舞台となった経済財政諮問会議と規制改革・民間開放推進協議会が示した要求は、患者・国民の要求によって持ち出されたものではない。
 財界の要求とは、第一に公的医療費の縮小である。保険診療は最低限の医療サービスに抑えるべきと主張している日本経団連は、『経団連成長戦略2010』で、「混合診療の解禁などで医療介護分野を成長産業化するとともに、高齢者向けビジネスを展開すべき」と提言、医療分野での利潤追求を打ち出した。営利企業の医療機関経営や、民間医療保険の市場拡大にもつなげたい考えだ。
  
 ◎いいことづくめ?

 現行の混合診療禁止について、規制改革会議では、
○最新医療や患者の個別性に基づく治療の選択肢を経済的に制限している(生存権の侵害)
○保険外診療と併用した場合に強制徴収される保険料の対価としての給付が受けられない(財産権の侵害)
などを問題視。現在の制度の在り方を見直すことで、国民皆保険を維持したまま、患者の選択肢を増やせる点などをメリットとしてあげている。 
 しかし、安全で効率のある治療法は保険適用にすれば良いことである。混合診療が解禁され、診療の基礎部分が保険給付されたとしても、自由診療部分の医療技術や薬価は規制されないため法外な値段がつくことも予想される。

 ◎20年前の論争

 混合診療禁止の法的根拠についてはさまざまな議論があるが、厚生労働省は一貫して、混合診療は法律上禁止との見解を示してきた。
 1989年の「原則禁止」とする国の政策を違法とした東京地裁の判決に対し、医療崩壊を加速させると各種団体が批判、反発した。そして2009年、東京高裁は東京地裁判決を取り消し、国側の法運用を認めている。
    
 ◎断固反対と保団連

 4月22日、保団連は枝野行政刷新担当大臣らに「混合診療の原則解禁に断固反対」する要望書を提出した。 
○混合診療の解禁は経済的理由による医療格差を拡大する。
○新しい医療技術や新薬、治療材料等が保険外診療に固定化されれば、保険給付範囲の縮小につながる。
○安全性・有効性が確立され、普遍性のある医療はすみやかに保険対象とすべきで、それらがまだ確立していない先進医療については、国費の科学研究費で給付する―等を求めている。
    *
 混合診療の解禁は公的な医療保険給付の範囲を縮小し、必要な医療が公的保険では受けられなくなる危険性がある。解禁を求めたのは経済界で、患者団体や日本医師会も解禁には反対している。
 いま必要なのは混合診療の原則解禁ではなく、保険診療の拡充だということを、いま一度確認しておきたい。(副会長・太田美つ子)

 

■群馬保険医新聞2010年6月号