【論考】
HPVワクチン接種を広めよう
前橋市 今井昭満
子宮頚部癌の発症原因であるHPV(ヒトパピロマウイルス)のワクチン接種が始まりました。
最近、子宮頚部癌の若年化が問題になっています。群馬でも20代の子宮頸部癌はめずらしいものではなくなりました。
子宮頸部癌の発症原因がHPV感染であることは、いまや周知の事実となっています。HPVは性行為により感染し伝播していきます。おそらく数万年以上前から人間と共生しており、原始時代も子宮頸部癌はあったと考えられています。
◎ワクチンの適齢
このHPV(16、18タイプ)の感染を予防するワクチンが開発され、日本でも昨年12月から接種が開始されました。このワクチンの接種により約20年間HPVの感染が阻止できるといわれています。
接種年齢は、45歳前後までの女性に有効といわれていますが、HPVは性行為によって感染しますので、初交前に接種することが望ましく、小学6年生から中学1年生が適齢です。
今日本では、中学三年女子で10%、高校3年女子で50%が性交経験があるといわれています。HPVに感染すると、3年後に子宮頸部癌が発症することもあるといわれています。
特に若年者の子宮頚部癌は進行すれば命が奪われるだけでなく、命を守るため子宮摘出術を受ければ、生涯妊娠できなくなってしまいます。このような悲劇から女性を守るワクチンが開発され、接種が開始されたことは大変意義深いことであります。
しかし、現在のところワクチン接種を受ける人は、予想外に少ないのが現状です。接種が少ない原因として、接種の費用が3回1クールで5~6万円と高額であることや、性感染症に対する知識・教育が不十分であることなどが考えられます。
◎榛東村が公費助成
群馬県では初めて榛東村がワクチン接種の助成を始めました。対象は中学1年生86人で、渋川地区医師会の協力医療機関(41医院)で接種すれば、4万9500円が助成されます。今年度は事業費として426万円が計上されました。実際に接種が始まるのは7月1日からですが、対象者のうち、果たして何人接種を受けるか注目していきたいと思います。
榛東村健康保険課の話では、今後中学校と連携し、保護者会などでHPVワクチン接種を呼びかけていくそうです。
◎公費負担は子どもだけ
全国で公費負担を始める自治体が相次いでいますが、公費負担とは小学生、あるいは中学生に対する接種が対象で、それ以上の年齢の方はあてはまりません。時々誤解している方を見かけますのでご注意ください。
またHPVワクチンを接種しても、子宮頚部癌が100%阻止されるわけではありません。細胞診等による子宮頸部癌検診は引き続き受ける必要があります。子宮頚部癌検診の受診率は20%程度といわれています。この受診率を上げることも合わせて必要でしょう。
また学校における性教育の中に子宮頸部癌についての正しい知識とワクチン効果を取り上げること。大人、特に母親や若い女性に対する正しい知識の普及をはかることが必要です。
【補遺】前橋市が全額補助
6月28日、前橋市の高木市長は今年10月をめどに中学1年生全員を対象に子宮頚部癌のワクチン接種費用を全額補助すると発表しました。
市によると全国の中核市(人口30万人以上、40市)では初めてで、対象人数は1700人、今年度は2回分の費用として約5100万円が計上される見通しです。これは画期的なことだと思います。
報道によれば、群馬県内では榛東村をはじめ、上野村、神流町が今年度から無料接種を始めるそうですが、前橋市が県内12市の先頭を切ったことで、各市に無料接種の輪が広がるのを期待したいと思います。(広報部・今井産婦人科内科医院)
■群馬保険医新聞 2010年7月号