【論壇】 民主党のマニフェストを読む
「強い社会保障」に踏み込んだ施策を
◎消費税アップ
菅政権が誕生して先ず驚かされたのは消費税10%構想であった。向こう4年間消費税アップはしないという先のマニフェストが色あせる間もないうちに、凄まじいほど強烈な国民へのアピールだ。
大局観を持っての布石で、増税は致し方ない選択だとの見方もある。菅内閣の単刀直入さが、ソフトな衣で覆い隠される増税よりはましだという議論もあるだろう。しかし消費税アップが弱者、貧者に重くのしかかるとするならば、医療崩壊の現場に身を置く私たちとしても看過できないことである。
◎強い社会保障
6月17日民主党は夏の参議院選マニフェストを発表した。この中で「強い経済」「強い財政」「強い社会保障」をキャッチフレーズに、これらを一体で取り組む姿勢を強調している。この「強い社会保障」から私たちは何をイメージすればいいのだろう。
1年前鳩山前首相が衆議院選前の党首討論で「診療報酬を2割上げないと医療崩壊を食い止めるのは厳しいと感じている」と述べている。まさしくこの考え方を菅政権にも強く期待したいのである。
今回のマニフェストにも診療報酬引き上げに取り組むとあるが、2010年度の実質ゼロ改定のようなことが続く限り、私たちの困難はより深刻となるに違いない。開業医の疲弊は地域医療の崩壊を加速させる。「強い社会保障」が絵に描いた餅に終わることなく、踏み込んだ展開を新政権には期待したい。
◎後期高齢者医療制度
昨年のマニフェストでは後期高齢者医療制度は廃止としていたが、今回は2013年度から新しい制度をスタートさせるとトーンダウンした。しかも、あろうことか、75歳以上を65歳以上に引き下げるという試案まで示されている。
あくまで後期高齢者医療制度を廃止して元の老人保険制度に戻すことが、当事者にとっても社会全体にとっても望まれていることであろう。
◎混合診療の解禁
報道によれば、行政刷新会議の分科会で混合診療全面解禁の動きが現実味を帯びてきているという。行政による事前審査をなくし、要件を満たす医療機関が独自に保険外併用療養を行えるようにするという内容である。2004年の一部解禁以降、年を追って徐々にその枠は拡げられ、いよいよここまで来たかという思いがする。
混合診療は患者に対して保険外の負担を求めることが一般化し、患者の負担が不当に拡大することや、新技術や新薬等が公的保険対象とされず給付範囲の縮小につながる恐れが大きい。有効かつ安全なものであれば保険一本で行くのが本来であろう。医療に格差を作ることには反対である。
◎窓口負担の軽減を
今年6月の保団連調査によれば、経済的な理由による患者の治療中断や中止がこの半年間で4割の医療機関に見られた。特に歯科診療所では47.4%と約半数近くに上っている。また医療費負担を理由に、患者から検査や治療、投薬を断られた医療機関は42.9%という結果であった。
昨年の政権交代に国民が寄せた期待は何だったのか。「構造改革」によって破綻寸前と感じた国民生活の救済だったのではないか。年金、医療の再生、雇用の改善等の公約に熱い期待が寄せられたのではなかったか。格差社会の拡大と貧困化を阻止するため、重すぎる現在の患者負担の軽減が必要であろう。
*
以上述べてきた提言こそが、当協会柳川会長が年頭所感に示した「歯科医療の改善を重点課題として、病診連携を図り、地域医療を守る」ための努力と成果を保障することにつながると信じて菅政権への期待としたい。(副会長・木村 康)
■群馬保険医新聞 2010年7月号