■第40回定期総会議案書
2009年度をふりかえって
群馬県保険医協会は今年で創立40年を迎える。開業医の生活を守り、互いに研鑽を重ね、親睦を深めつつ県民とともによりよい医療を目指す活動が、医科歯科一体で40年にわたりたゆまず続けられてきたことを会員と共に喜びたい。
昨年7月の定期総会で、私たちは行詰まりをみせるわが国の政治経済と、崩壊状況といわれる医療現場の実態を行政当局はじめ患者、県民に広く訴えることを柱に、国の低医療費政策を正し、社会保障充実の方向に転換を迫るとの活動方針を決めた。
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この思いが天に通じたか、8月末の総選挙において長く続いた自公政権が敗退、民主党を中心とした連立新政権が誕生。群馬選出の衆院議員は小選挙区で民主3、自民2。比例区は民主3、自民1の9議席で、民主党が多数となった。
9月、協会は新議員の政策立案に活用して貰うため、医療制度に関する改善提言をまとめ新議員に配布した。また衆院厚生労働委員に就任した三宅、宮崎両議員を招き、医療の現状を語りあう「新春座談会」を開催。機関紙の新年号でその詳細を報告した。
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11月、神奈川、大阪を中心に全国2000人もの医師が原告となったレセプトオンライン請求義務化撤回訴訟が厚労省令を動かした。オンライン以外の請求を認めないとの理不尽な政策は破棄され、原則として希望する請求方法を選択できることになり裁判は勝利。群馬からは14人の原告が参加した。医療現場を理解せず無理な改変と変質を強いる愚策が後をたたない。勝利は法律関係者との連携に負うところが大きく、今後の貴重な教訓となった。
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2010年3月、診療報酬改定が告示された。民主党は政権公約で対GDP比で総医療費をOECD並みに引き上げるとし0.19%アップを発表したが、薬価改定分と併せると実質ゼロの改定であることが判明。崩壊の危機に喘ぐ医療界の悲願を踏みにじる結果となった。同様に内容も明細書の発行義務化、地域医療貢献加算など不合理と医療現場への無理解が目立つお粗末きわまりないものだった。
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3月初旬、協会は今次改定について、①諮問通りの改定を! ②診療所の再診料値下げ反対! ③過剰に詳細な明細書発行の義務化反対! の3点の要請を鳩山総理、菅財務、長妻厚労の各大臣と中医協委員全員に送付した。また3月末には複雑・難解な改定内容を会員が承知し4月からの診療が円滑に行えるよう新点数検討会を開催した。例年の前橋会場に加え、今年は東毛地区の会員のために太田市でも開催し過去最高の参加者数となった。請求上の疑問、質問は説明会後も多く寄せられ、いまなお改定による医療現場の混乱ぶりが伺える。
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4月末、政府の行政刷新会議が混合診療を原則解禁する方針を打ち出した。保険外併用療養の範囲拡大、レセプト等医療データの活用など規制緩和を行う。また同国家戦略室は外国人むけに健診、先端医療を提供する「医療ツーリズム」を推進し新成長戦略とするという。
鳩山政権の医療崩壊への打開策が混合診療の拡大と医療の市場化であり、その財源を消費税に頼るとすればそれは誤りであり重大な事態である。
政権交代から10カ月。群馬県保険医協会は会員の協力を得て精一杯の活動を行ってきたが、今後もさらに政治への働きかけが重要といわざるをえない。
以下、2009年度の各部の活動をふりかえってみる。
《医療保険制度改善運動》
・9月、「レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟」第1回口頭弁論(横浜地裁)に参加した。
・10月、「レセプトオンライン請求義務化の撤回を求める緊急集会」に参加した。
・10月、「社会保障を増やして10.22中央集会」に参加した。
・12月4日、協会事務所に衆議院議員宮崎岳志氏、三宅雪子氏を招き、新春座談会を開催した。
・2月、レセプトオンライン訴訟原告団総会に参加した。
●研究部
・10月1日「歯科医療行政の問題」
講師/四家秀雄氏(群馬県歯科指導医療官)
全国的にも珍しい指導医療官を講師に迎えての講演会を
開催した。(60人参加)
・10月、保団連医療研究集会(東京)に参加し発表した。
・1月28日「医療安全の確保」講習会
講師/武藤幸夫氏(県医務課医療指導係)
木村 康氏(保険医協会副会長)
斎藤昌伸氏(日本光電工業インストラクター)
1部 医療安全義務の法的背景と医療事故対策
2部 医薬品、医療機器の安全管理
3部 AEDを用いた救急蘇生法の実習
(90人参加)
●地域対策部
・「健康テレホンサービス」は24年目を迎えた。市町村広報でのプログラム紹介も継続され、年間利用度数は2374本。上毛新聞社のホームページ raijin.com に健康講話を提供、ウェブ上の健康相談も継続して取り組んだ。モニター通信は通巻256号を数えた。
・電話で直接対応する「健康相談」を月二回開催した。
・食生活を考える会は特定保健用食品(トクホ)を中心テーマに8月、10月、11月、2月に開催した。
●審査指導対策部
・3月、3月末実施の集団指導(点数改定説明会)に関して厚生局群馬事務所に改善要望書を提出した。
・2010年度診療報酬改定に伴う新点数検討会を前橋、太田の2カ所で開催した。
前橋 医科会場 164医療機関 374人
歯科会場 113歯科医療機 201人
太田 医科会場 20医療機関 36人
歯科会場 38歯科医療機関 47人
・5月、会員の個別指導に協会初の弁護士帯同を行った。
●経営対策部
・雇用問題、開業相談、税務調査に関する相談にあわせ、「医院経営と雇用管理」「保険医の経営と税務」「保険医の税務調査」「新規開業医の手引き」など保団連発行の冊子を普及した。
●広報部
・2009年12月に群馬保険医新聞は通巻500号を数えた。これを記念して特集を組み、県医師会長はじめ各方面からの寄稿文を掲載した。また読者アンケートも実施し、2010年1月、新たなスタートを切った。
●共済部
・各種共済制度は健全に運用された(別表参照)。グループ生命保険については、前年度保険料の7.77%を配当還元した。
・新保険業法の施行により「保険医休業保障」など助け合いを目的とする自主共済が不当な規制を受けている問題に対しては、11月に制度存続を求める会員の声を集め、亀井金融大臣に要請した。
・2006年4月から改正保険業法が施行され、PTAや保団連のような任意団体が行う共済制度が新規加入の禁止措置等、制約をうけるようになった。協会、保団連では同法の適用除外と運用の再開を求め、署名運動や関係国会議員に働きかけるなど取り組んできたが、これまで金融庁の反応は全くなかった。しかし昨年の政権交代で金融大臣に亀井静香氏が就任、保団連の要望に対し「まじめな共済は守る」と言明、2010年6月までに実態調査し、対照となる共済を救済する新法案を国会に提出すると約束した。5月26日、衆院財政金融委で新法案の審議が開始されている。
●文化部
・第18回保険医写真展は7月11日~19日まで開催、自由部門85点、課題部門「ファミリー」23点、撮影旅行部門15点の応募があった。
・第9回撮影バス旅行(山中湖)を5月24日に実施、19人が参加した。
●会員拡大部
・協会活動の宣伝に重点を置き、新規開業医に案内、年4回の歯科版発行に併せ全県の開業医に群馬保険医新聞を配布しPRに努めた。
・新点数改定時、点数検討会などの活動を知らせ入会勧誘に努めた。
《歯科会》
・歯科会を毎月開催し、歯科版を季刊発行した。
・8月、歯科代表者討論集会に参加した。
・10月、ビスフォスフォネート薬剤関連ポスターを作成し、会員に配布した。
・10月、「入れ歯が危ない決起集会」に参加した。
・11月、第16回体験アイデア発表交流会を開催。スタッフ発表五演題。特別講演は内山茂先生「メインテナンス成功の秘訣―知ろう、学ぼう、力のコントロール」。群馬大学刀城会館を使用。参加177人。
・11月、保団連の若手医師・歯科医師の集い(熊本)に参加した。
・5月、ホームページに「漏洩放射線量測定の案内」を組み入れた。
・6月、会員歯科医療機関で群馬県放射線技師会と共同で、初の漏洩放射線量測定を実施した。
・歯科保険あれこれ相談をすすめた。
《院内だより共同編集事業》
・病気についての指導、患者とのコミュニケーションをはかるため院内だよりを隔月発行、通巻141号を数えた。21医療機関が参加、四月に編集会議を開催し年間の執筆テーマを検討している。5月にはホームページに「院内だよりのご案内」を組み入れた。
2010年度の活動方針
参院選を前に鳩山政権の支持率低下が著しい。診療報酬改定においても、日米安保締結から50年目の沖縄米軍基地移転問題でも連立政権は無残なまでの迷走ぶりである。
政界再編を目論む小新党の旗あげが目立つが、いずれも財政再建の財源に消費税を想定し、国民生活本位の医療、社会保障再生の道より市場原理を優先した新自由主義の政策を競うようにみえる。
昨年の政権交代に国民が期待を寄せたのは「構造改革」によって破綻寸前に追い込まれた国民生活の救済だった。年金、医療の再生、雇用の改善等の公約に熱い期待が寄せられた。しかし事業仕分けは盛んでも軍事費、米軍への出費、大企業の高収益を聖域化する政権に国民は納得がいかないのである。
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2010年度、私たちは現場の声を連立政権に届け、政権公約の実行を求める。そして格差社会の進展と貧困化を阻止するため重過ぎる現在の患者窓口負担の軽減を提言する。
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行政や保険者機構が変化する中、会員医療機関の経営と人権を守る取り組みを重視し、保険請求上の質問への回答、審査指導対策、医療安全対策など、会員に役立ち喜ばれる活動を強化する。歯科においては「歯科崩壊」の状況改善のため医療行為の正当な評価と保険ルールの透明化に向けた活動を行う。
そのために、会員の拡大に努め、理事、世話人の増員、事務局の世代交代、執行体制の強化を図る。
今年度も引き続き次の課題に取り組んでいく。
1、医療費削減政策の矛盾と破綻した現状を明らかにし県民に知らせる。
1、後期高齢者医療制度に反対し、廃止を求める。
1、登録医制、診療報酬の定額払い制に反対する。
1、保険外併用療養(混合診療)の拡大に反対する。
1、保険診療で経営が安定し、良質の医療が確保できる診療報酬を求めて運動する。
1、物価、人件費の高騰にみあった「一点単価」の引き上げを要求する。
1、保険診療に関する情報収集に努め、医学的常識と医師の裁量を尊重した審査、指導、レセプト審査の公開を要求する。
1、女性医師支援の運動を継続し、女性医師・歯科医師交流会を計画する。
1、ヒブ、肺炎球菌、水痘、おたふく風邪の各ワクチン
の定期予防接種の早期導入を県、市町村に要望する。
1、健康テレホン、院内だより、食生活を考える会の活動を継続する。
1、各種共済制度の普及をすすめる。
1、平和を守る活動に取り組み、「核戦争防止群馬県医師の会」を支援する。
以 上
(2010年7月15日 第40回定期総会)