【老いの周辺】 障害者自立支援法がスタート 

【2007. 9月 05日】

障害者自立支援法がスタート

      —異なる障害を公平に認定する難しさ—
                                                        前橋市 松澤一夫

■障害程度区分
近年わが国の障害者福祉施策は大きく変化しています。平成15年に支援費制度、平成18年に障害者自立支援法があいついで施行されました。
支援費制度になり障害者の福祉サービスは措置から契約に変わりました。これまでの行政による一方的なサービス提供ではなく、利用者は障害の程度に応じてサービスの種類や事業所を選べるようになりました。
 障害者自立支援法は支援費制度を補完するもので、概要は以下のとおりです。障害者が福祉サービスを利用する場合、市町村に申請します。市町村はこの申請を受けて障害程度区分を認定し、給付サービスの内容と量を決定します。その後ケアマネジメントが行なわれ、サービスが提供されます。サービス費用の本人負担は原則一割です。ただし所得に応じて上限が設定されます。これまでの所得にのみ応じた負担より高くなりました。
 この制度の根幹をなすのが障害程度区分の認定審査です。なぜならば、この区分によって介護給付サービスの内容と量が決定されるからです。
 私は介護保険の認定審査の経験があることから依頼され、障害程度区分認定審査会の委員をしています。まだ数回の審査の経験ですが、課題は多いと思います。

■認定の手順
自立支援法による障害程度区分認定は身体、知的、精神の障害を同一基準により判定します。その手法は介護保険の要介護認定にわずかに修正を加えたものです。
 一次判定はコンピュータによるもので、二つのプロセスがあります。プロセスⅠは介護保険の七九項目から基準時間を算出しています。時間の短い(障害が軽い)順に非該当と区分1から6に振り分けられます。これは、介護保険の非該当、要支援、要介護1から5と全く同様です。
プロセスⅡは新しく加わった27項目の一部をコンピュータに入力して、より重度に変更する必要性の有無を検証します。
 二次判定は一次判定をもとにして、医師意見書、調査員の特記事項、認定調査項目で一次判定で利用されなかった11項目を勘案して五人の合議により決定されます。
医師意見書も介護保険の主治医意見書とほとんど同じで、少し修正を加えています。精神障害の特殊性に配慮しててんかん発作の項目が加えられました。さらに、精神障害の機能評価として、精神症状の重篤さと生活障害の程度をそれぞれ例をあげて数字で記入するようになっています。審査する側から見ますと、この二つの評価は現在の状態が集約されていて大変役に立ちます。

■変動する精神症状
この審査のむずかしさは全く質の異なる障害を同一基準で判定することです。すなわち一次判定ソフトが知的および精神障害に対応できていないことによると思われます。
 その理由の第一は、介護保険で使用している七九項目は身体障害の介護に要する時間はよく反映していますが、認知症に対しては不十分であるということがこれまでの経験で明らかです。さまざまな工夫がなされましたが、認知症に関しては二次判定に頼っている現状です。同様のことが知的障害ばかりでなく精神障害にもあてはまります。認定項目数を増して106項目にしてもカバーしきれていません。
 第二は、身体症状は日時や場所によって変化しませんが、精神症状は状況により変動します。一回の訪問調査では状態の把握が困難な場合もありえます。さらに、症状のとらえ方が専門家でないとむずかしいこともあります。そのため医師意見書と訪問調査票の不一致も多く見られます。
 第三は精神障害や知的障害がありながらも身体的には自立している人で精神症状のために社会的に多くの援助を必要とする場合の区分をどうするかという問題もあります。二、三段階の区分変更は状態像の例にも記載がなく勇気が必要です。
 
■事例の集積を
近い将来、障害程度区分を介護保険に統合して、介護給付を一本化する予定といわれています。しかし、現在の障害程度区分認定審査ではそれぞれの障害に対して公平な判定であるか疑問が残ります。
今後一次判定の認定項目を吟味して、それぞれの障害の特性が十分反映されるようにする必要があります。現段階では時間をかけてさまざまな例を集積して検討すべきです。
(松沢医院)
老いの周辺 №189 群馬保険医新聞9月号