【老いの周辺】年金制度は信頼を取り戻せるか 

【2007. 9月 05日】

年金制度は信頼を取り戻せるか

                       前橋市  松澤一夫

 公的年金記録漏れ問題により、老後の安心を約束するはずの年金制度への信頼が揺らいでいます。さらに、社会保険庁職員による年金横領事件やグリーンピア等の年金施設での乱脈経営など、年金をめぐる不祥事は枚挙に暇がありません。このようななかで、年金に対する信頼回復の道はあるのでしょうか。今回は最近の報道等を参考にして検討します。

■不透明さと不祥事
現在の公的年金制度の抱えている問題は多岐にわたります。ここでは重要と思われるものをとりあげます。
《わかりにくい制度》
第一は制度が非常に複雑なことです。国民年金と厚生年金(共済年金を含む)の大きく二つに分かれます。それぞれで、保険料と年金額が異なっています。前者は自営業者が加入しており基礎年金とも言われます。後者は会社や役所に勤務している人が加入していて基礎年金と報酬比例部分からなり、保険料と年金が前者に比し高くなります。5年ごとに見直され保険料が変わることもあります。
 これらのことが制度の理解を難しくしています。逆説的な言い方ですが、この不透明さが制度を運用する役人にとって好都合なのかもしれません。国民のわからないところでやりたい放題の結果が不祥事として噴出したと思われます。
《少子高齢化の影響》
第二は年金を支える人の減少です。現行の制度は賦課方式を採用しており、現役で働いている人の保険料を中心として高齢者の年金を支えています。少子高齢化の進行とともに問題は大きくなっています。現役世代の負担は重くなり、年金も減額されそうです。
 2004年の「100年安心の年金改革」では上限を設けて段階的に保険料を引き上げます。同時にマクロ経済スライドという手法を使って年金の減額を計るというものです。これで100年うまくいくとはとても思えません。
《保険料未納の増加》
第三は国民年金の空洞化です。企業がリストラしたためフリーターや派遣による非正規雇用が増加しています。賃金が少なく、生活保護レベルの収入のワーキングプアと呼ばれる層も多くなっています。とても年金の保険料を納められません。また、将来年金はあまりもらえないと思い未納の人もいます。2003年度の未納者は36%にのぼっています。今後も上昇する可能性が高いと思われます。
このままでは年金制度の破綻が危惧されます。しかし、政府は社会保険方式を変えようとしません。保険料を納めない人には年金の給付をしない方針です。無年金で生活に困った人に対するセーフティネットをどのように考えているのでしょうか。生活保護で対応すると経費がかかりすぎると思います。

■財源をどうするか
年金は高齢者にとって経済的基盤となり重要なものです。必要にして十分な給付が理想的です。現在の制度では財源が足りません。税金の投入が望まれます。
 これまで福祉目的税として消費税の増税が議論されてきました。消費税は逆進性が強く困窮している人に増税となり福祉にはなじみません。これまで優遇されてきた景気のよい企業や金持ちに累進的に税を課して財源にすべきです。そうすることは所得の再配分の観点からも理にかなっています。
一方、保険料を納めている現役世代にとって大切なことは制度の透明性です。制度をできるだけ簡素にして、保険料がどのように使われているか理解できることが重要です。納めたお金がこれまでのように一部の人の利益のために使われたとしたら何を信じてよいかわからなくなります。
 厚生労働省は社会保険庁のさまざまな不祥事を受けて、年金部門と医療部門を分けて組織の建て直しをはかっています。さらに、厚労省次官と社保庁長官がこれまでの責任をとる形で更迭されました。年金制度の改革についてはいまのところ特に動きはないようです。
 
■安心できる老後を
今、国民が求めていることは上記のようなハードな部分よりも制度そのものにかかわるソフトな部分と思います。すなわち、安心して送れる老後のために現在の公的年金制度を抜本的に改良する必要があります。十分な議論をつくして、だれもが納得する年金のグランドデザインが出来たならば地におちた信頼が回復すると思われます。
 (松沢医院)
群馬保険医新聞9月号
老いの周辺 201