第40回定期総会記念講演
Aiセンターが地域医療を救う <要旨>
講師/医師・作家 海堂 尊 氏
こんばんは、海堂尊と申します。 今日こちらに伺った時に、何か見覚えがあるなぁーと思って考えたら、過去に講演で2回くらい来たことがあったことを思い出しました。高崎駅前はずい分再開発が進んだようで、ちょっとびっくりしましたが。
◎放医研の病理医として
私は放射線医学総合研究所の重粒子医科学センター病院で、初代病理医として13年くらい勤めてきました。私のミッションは重粒子で治療した患者さんを解剖して病巣をチェックし、病理学的に治療効果判定をやるということでした。
高度先進医療として認可されるための必要なエビデンスということで、解剖率九割くらいと結構忙しかったんですが、2004年だったか、重粒子線治療が高度先進医療に認可されたことで解剖が激減しました。患者さんを治療することで病院のベッドはいっぱいになり、お亡くなりになりそうな患者さんを受け入れなくなったからです。
◎死因究明が医学の基礎
医学の基礎は解剖にあると昔言われていました。それは何かというと、死亡時医学検索です。お亡くなりになった患者さんの原因を医学的にちゃんと調べる、これが医学の基礎です。
20世紀、その手法は解剖しかありませんでした。だから解剖は医学の基礎だと言っていたわけです。ところが21世紀にAi(死亡時画像診断Autopsy imaging)が生まれて、解剖以外にも死亡時の医学情報を得ることができるようになりました。ということは解剖が医学の基礎ではなくて、死亡時医学検索が医学の基礎であるというわけです。ですから解剖もAiも医学の基礎の中に含まれるのです。
今、死因究明制度をどうしようかという議論が盛んですが、そんな議論はまったく必要ありません。なぜかというと21世紀は体表検案をやって、次にAiをやって、必要があれば解剖をする、このほかの死因究明の骨格はありえないからです。
◎解剖率2・7%!
日本の死者は年間110万人います。その中で解剖される遺体は3%、正確にいうと2.7%。日本の死者110万人、これを100人としたらどういう比率になるのか。病院で死ぬ人が85人、警察が扱う死体が15人です。解剖される遺体3%の内訳は、病院で扱う解剖が2人、警察が扱う解剖が1人、これだけです。
今日お見えになっている方を200人とすると、2.7%だからこの会場で5人だけ解剖される、そして心筋梗塞、脳軟化…とちゃんと死因がつくわけです。残りの方々は何もしないで体表から見て心不全と言われる。これが今の日本の死因究明制度の実相です。
◎信頼を取り戻すツール
患者さんが亡くなったとき、原因を究明するために解剖をしたいと言ってもほとんどの家族は「これ以上体に傷をつけるのはかわいそう」という感情で拒否します。そのときAiならどうか。解剖とAiの決定的な違いは、破壊検査と非破壊検査です。体に傷をつけないAiであれば、たいていの遺族は受け入れます。
Aiの画像は、家族がお亡くなりになったばかりの遺族に見せても抵抗感がありません。解剖の写真は見せられませんが、この画像は抽象化されているから死体という生々しさが見えません。そしてこれは一般の人と医療従事者が医療の情報について客観的中立的に話し合うための絶好のツールなんです。
「肝がんは重粒子線をあてたことでかなりよくなっています。でも腹膜にものすごい勢いで播種してしまい、がん性腹膜炎によって腹水が大量にたまり、がん死されたのでしょう」と画像を見せながら説明することができる。これは遺族にとって極めて誠実な死因の説明であり、一例一例積み上げていくことで、医療現場は市民社会に対して信頼を取り戻すことができます。
患者さんが亡くなるのは、遺族にとって一番のストレスです。そこをいい加減にしたら不信感は募るに決まっています。
◎放射線科の仕事
Aiは新しい領域なので、読影は放射線科医ですら難しいといわれています。というわけで、日本でAi読影のトップ5の先生たちを集めて、銀座にAi情報センターというのを作りました。日本のど真ん中にこういうシステムができたというのは非常に喜ばしいことです。
Aiの死因確定率は低いので役に立たないのではないかと言われることがあります。しかしCTを使ったAiで3割、MRIを使ったAiでは5〜6割わかります。わかることをわかる範囲できちんと把握する、それが重要で、その分だけ死因不明社会の改善につながります。
私はAiを行えば解剖をしなくてもいいなどと言っているのではありません。私が言いたいのは、Aiを行って死因が確定したら解剖をしなくてもいい、死因がわからなかったら解剖しなければならない、ということです。そしてAiというのは画像診断なのですから、画像診断の専門家である放射線科医が行い、その費用を医療費外から医療現場に入れるシステムを作ろうということなのです。
厚生労働省は病理学会の偉い先生を主任研究官に据え、Ai研究班を立ち上げました。2年間の研究の結果、「Aiは解剖ほど役に立たず、解剖の補助検査である」と結論づけました。これによってAi検査にはお金がつかないことになりました。放射線科の先生たちはAiをただ働きで押し付けられることになるのです。
◎医療費外に財源を
では財源はどうするのか。ただでさえ不足している医療費は、生きている人のために使うお金です。しかし死因究明制度も無くてはいけない。そのためには治療費である医療費からの拠出をやめ、医療費外から医療現場にお金が入るシステムを作る必要があります。
みなさんはいつか必ず死にます。それも一度だけ。だから死亡時医学検索は誰もが一度は受けることになる。この検査は社会のためにもなります。このお金が捻出できないというのは税金の使い方がおかしいのです。
◎各地にAiセンターが
群馬大学に日本で二番目のAiセンターができています。そしてつい先だっては佐賀大にも大分にもでき、今秋には福井にもできる。つまり国の支持をうけていないにもかかわらず、自立的に、あちこちの医療現場でAiセンターが立ち上がっています。なぜなら、それが必要だからです。Ai導入は市民社会のためであり、ひいては医療の信頼を回復するということをみんながわかっているからです。
Aiは非常に進展していて間違いなく死因究明のベースになっていくでしょう。Aiを医療現場のエンドポイントにおき、医療従事者が診断し、費用は医療費外から医療現場に支払われる、このAiプリンシプル(原理、原則)を達成することを目指して、もうちょっと頑張ってみようかなと思います。 (文責・編集部)
■群馬保険医新聞2010年8月号