【診察室】在宅医療における褥瘡ケア

【2010. 9月 28日】

 【診察室】

  在宅医療における褥瘡ケア

           高崎市・宮川皮膚科クリニック 宮川 泰一

 はじめに
 日本臨床皮膚科医会の在宅医療委員会の群馬県の担当者をしていますが、特に褥瘡の専門家ではありません。日々の診療で褥瘡を診ることが多く、皮膚科専門医として自分なりに工夫して治療に当たっています。
褥瘡は多様で、時には皮膚の深部や骨に達することもあります。皮膚の傷の治癒過程や症状を見ながらいくつかの外用薬を替えていくことは皮膚科の医師にとって日常茶飯事であり、専門とするところです。開業医として効果的効率的に実施するため、とにかく「シンプル」をモットーに、介護者も簡単にできる単純な処置に、使用する薬剤の種類もなるべく少なくと考えています。参考にしていただければ幸いです。

 ◎在宅での褥瘡治療の実際

 褥瘡とは、長期臥床等の際に圧迫による血行障害でおこる皮膚の傷害、壊死のことで、圧迫を受けやすい腰部や臀部に発生しやすく、重症度により1度から4度に分けられます。その治療は局所の治療と全身管理になります。
 全身管理では、貧血や低栄養、糖尿病などの創傷治癒を妨げる基礎疾患を治療し全身状態を改善します。これはかかりつけ医の先生にお願いします。また、悪化要因をなくすためのスキンケアや圧迫を避ける工夫、褥瘡の予防は、介護に当たる家族や介護関係者にまかせることになります。デイサービスなどの介護施設のスタッフやケアマネージャーと連絡を取り、うまく実施できるよう段取りをします。 

 局所治療では、皮膚壊死、潰瘍の治療の基本に基づいて、まずは壊死組織のない、感染のない、きれいな傷に早くもっていくことを心がけます。その後は外用剤を工夫して肉芽を上げ、表皮化を促進し治癒に導きます。
 第1度は発赤で、圧迫を避けて保護し経過観察のみです。
 第2度の水疱、壊死のない浅い糜爛潰瘍は、よく洗浄してゲンタシン、バラマイシン、テラマイシンの抗生物質軟膏を貼布します。入浴は創の治療には有効で、全身の清浄化と循環の改善のために、できる範囲でやってもらいます。入浴不可の時でも病変部やその周囲の清拭が必要です。消毒薬は、周囲の皮膚が洗えないときや感染のある創部には使用します。壊死が少し残るやや深い2度では、壊死除去のため、刺激が少なく使いやすいエレース軟膏をよく使いましたが、現在は使用できなくなりました。現在使えるブロメライン軟膏は蛋白分解酵素で刺激があります。壊死の部分のみに使用します。ここまでは悪化要因が除去できていれば2-3週間で普通に治癒するので、高価で、使用法によって細菌感染の心配のある被覆材は敢えて使いません。
 第3度、第4度では、2-3週間ほどで皮膚壊死の部分と健常の皮膚の境がはっきりします。それまではきれいに洗ってガーゼ保護で経過を見ます。壊死の部分がはっきりしてきたら、できるだけ早期に壊死を除去し、よく洗ってきれいな創にします。皮膚を軟化融解する作用のある蛋白分解酵素のブロメライン軟膏を貼布する化学的デブリードマンと外科的デブリードマンを併用します。外科的デブリードマンは剪刀や鋭匙せっ子を用いて少しずつ壊死部を切除掻破します。痛みを感じるところ、血液が少しにじんだところまでで終了します。入院治療なら局所麻酔で1回に十分な壊死除去をしますが、外来や往診ではその後の経過観察が十分できないので原則として局麻使用の掻破はしません。決して無理はせず、後で出血をきたすような処置は避けます。自宅で家族がする処置はできるだけ単純簡単にします。一緒に行いその手順を理解してもらいます。少しずつ、でも、なるべく早く壊死のないきれいな潰瘍にします。この状態になれば感染の心配はなくなります。経過で感染が疑われる場合(発熱、周囲の発赤腫脹、浸出液の増加、膿排出、異臭等)や、初診時から感染の兆候が見える場合は細菌培養を実施し、感受性のある抗生物質の外用、内服を併用します。感受性の結果がでるまでは適当な抗生物質軟膏を使います。感染が無くなったきれいな潰瘍は、生理食塩水でよく洗浄し、早く肉芽を上げるためにフィブラストスプレーを散布します。ポケットのある大きなものでも、壊死物質や感染がなければ、よく洗ってからフィブラストスプレーを根気よく使うと肉芽が上って治癒に持っていけます。きれいに肉芽が上った潰瘍には早く表皮化するように工夫します。フィブラストスプレーにも表皮化促進効果があるのでそのまま続けても良いのですが、肉芽が盛り上がりすぎた場合は漢方薬の紫雲膏を使います。ゲーベンクリーム等はなるべく使わなくて済む治療を心がけています。被覆材も、壊死や感染がある場合は適応外ですし、きれいになればフィブラストスプレーを使うので、2度の治療と同様にほとんど使いません。
 在宅での処置は毎日患者家族や介護者にしてもらいます。現在の状態、今後の治療経過についてしっかりと説明しておくことが前提です。医師の診察処置は週1~2回は必要で、壊死の除去が中心の処置をします。医師の診察日以外の壊死の除去は家族には無理なので、可能なら訪問看護師さんや、デイサービス、ショートステイなどを利用している場合は介護施設の看護師さんにお願いします。
 
  ◎保険診療について

 往診料、在宅患者訪問診療料、在宅時医学総合管理料、重度褥瘡処置、在宅寝たきり患者処置指導管理料、車代など、患者負担金が高額になることがありますので、在宅の保険診療について、患者、家族に理解してもらうために十分な説明が必要になります。また、4月に改正された保険診療報酬点数表をよく読んで間違いのない請求を心がけています。

 
■群馬保険医新聞2010年9月号