7000万人超の入場者を数えた上海万博も終わり、記録的な猛暑を経験した日本列島もいよいよ春を待つ時期となった。民主党政権の誕生によって私たちが抱いた期待と次々に持ち上がってくる不安とは果たしてどのような評価にたどり着くのであろうか。保険医を取り巻く情勢も相変わらず厳しく、楽観を許さないようだ。過ぎ行く一年を思いつくまま振り返ってみる。
●鳩山内閣総辞職
5月、普天間基地移設を巡る問題を契機に、菅内閣が誕生し、社民党は連立政権から離脱するという事態に至った。この政権もいろいろな局面でマニフェスト内容の後退を指摘されながら混迷し揺れ動いているような印象を受ける。
私達が直接関わる医療・福祉の面ばかりでなく、あらゆる事に監視の目を緩めず物申していかなければならない。
●所在不明高齢者
7月、生きていれば111歳になる老人が、白骨化した遺体で発見された。これを契機に全国的に同様のケースが次々と明らかになり、大きな波紋を呼んだ。年金不正受給や老人介護、家族のあり方などの問題が意味するところは大きい。
●尖閣諸島問題
9月7日、尖閣諸島沖で海上保安部の巡視船と中国漁船が衝突した。拘束された船長が処分保留のまま釈放されるという結末は如何にもセンセーショナルなものであった。
この事件は中国での反日運動に火をつけ、日中関係にも避けがたい障害を残したようだ。
後日、事故を録画した映像が流出し、ネット上で閲覧されるというおまけまで付いたのには驚くばかりである。どこかに何か大きな意図が隠されているように思われてならない。
●村木元局長無罪判決
9月10日、障害者向け郵便を不正利用させたとして虚偽公文書作成容疑で逮捕された村木元局長が、無罪判決を受けた。
この件に関連して大阪地検特捜部の主任検事が押収資料改ざんで逮捕されるという前代未聞の事件は衝撃的であった。検察が正義を貫けないとすれば、我々は一体何を信じれば良いのだろうか。
●診療報酬改定
4月の改定は、10年ぶりのプラス改定(医科全体0.03%、歯科本体2.09%アップ)となった。しかしその後、先発品の薬価追加引き下げ分が含まれていないことが分かり、改定率は実質0%と判明した。
何となく釈然としない思いが残る。明細書発行の義務化、地域医療貢献加算の導入、入院患者の他院受診の扱いなど、我々保険医にとって、賛同しにくい内容がまだまだ山積している。
●レセプトオンライン請求
これほど多くの医師達に戸惑いと不信感を与えた問題があっただろうか。撤回訴訟の運動開始から3年半、提訴から1年で「オンライン・電子媒体選択制」へと省令を変えさせて決着を見た。
●後期高齢者医療制度
75歳以上を独立させた現行の制度に代えて、13年度導入を目指す高齢者医療制度改革案の概要が公表された。70~74歳の窓口負担を現在の1割から2割に引き上げるとしている。
現行制度の廃止をマニフェストで掲げた民主党は、廃止後の「腹案」を持たず官僚主導で事が進んだというのが真相らしい。お粗末と言わざるを得ない。
●受診実態調査
保団連による全国受診実態調査が5月から10月の間、2回にわたって行われ、37協会から1万を超す回答が得られた。当協会が8月下旬に実施した結果、県内でも3割の医療機関が経済的な理由での治療中断を経験している事が明らかとなり、マスコミからの注目を浴びたところである。
●指導監査に警察力
7月に厚労省が省内の職員を対象に行った「政策コンテスト」で、現役の医療指導管理官より「指導監査に犯罪捜査のプロの活用を」との提案が出され波紋を広げた。保険医療の指導に、あろう事か警察力をという驚くべき内容である。当協会理事会は、直ちに厚労相宛に声明文を送付し抗議した。
●子宮頸がんワクチン
十代前半にワクチン接種すればヒトパピローマウイルス(HPV)の感染は七割近く予防できるという。高額な費用がネックとなっていたが、接種率を高めようと助成に踏み切る自治体が全国的に広まり、政府はヒブ、小児用肺炎球菌ワクチンとともに無料化にむけて一歩を踏み出すことになった。
●ホメオパシー療法
「助産師のアドバイスでホメオパシーのレメディー(砂糖玉)のみ投与された乳児がビタミンK欠乏性出血症で死亡した」という事件。五月に山口地裁で起こされた訴訟が報道され、この問題が一挙に全国の注目を浴びる事になった。未だエビデンスに乏しい代替医療と言えるが、科学的な解明が待たれるところである。
●自主共済問題
自主共済の継続を可能にする保険業法再改定法案が衆議院に続き参議院本会議で可決成立した。半年以内に政省令が制定され施行される事になるが、私達にとってまさに特筆すべきニュースと言えるだろう。見直し期間を五年とした事やこの間に法人化をすること等問題も残しているが、自主共済の存続に大きな前進を勝ち取ったのも、あきらめずに他団体との協力を密に運動を進めた成果であろう。
来年こそ、もう少しましな実り多い年になるよう期待したい。
(副会長・木村 康)
■群馬保険医新聞2010年12月号