【論壇】
がんばれ東北! がんばれ日本!
3月11日、東日本を襲った巨大地震と津波。日本で生きている限り、いつかは来ると誰もが思っていた。しかしこんなに大きく悲惨な爪痕が現実のものになると、自然の猛威の前で人間はいかに無力であるかを痛感せざるを得ない。目の前で家族や親しい人を失った人々の心中はいかばかりかと思う。
被災地での救援支援活動はまだ緒に就いたばかりである。これまではとにかく生き延びることに集中していた力を、今後は復興に向けシフトチェンジしなくてはならない。被害に遭った人々の体と心の痛みを噛みしめながら、1日も早い復興に向けて、私たちはできうる限りの援助をしたい。
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私は学生時代を仙台で過ごした。そのため仙台周辺で被災した仲間は数多い。友人の歯科医は診療所が被災し、診療ができなくなったため、検死のボランティアをしているという。被災者自らが行う人道的活動に尊敬の念を禁じえない。
●原発事故
さらに今回の震災では、住民の健康被害に直結する問題として、福島第1原子力発電所の放射能漏れが非常に深刻である。群馬でも、放射能測定値の上昇がみられた。IAEA(国際原子力機関)が定めた原子力事故の世界共通尺度でレベル5とは、32年前の米スリーマイル島の原発事故と同程度であり、国内の原子力事故として最悪の評価となった。
事故の沈静化のため、自らの被曝を顧みず、危険な作業に当たっている消防隊員や自衛隊員に、国民のひとりとして心から感謝したい。
一方で東京電力や政府の情報開示、危機管理体制の不備が目立つ。情報を隠蔽したり人体に与えるリスクを過小評価した報告をしていなかったか。いたずらに国民の恐怖心を煽る必要はないが、正確な事実や情報が遅れると、取り返しのつかない事態を招く。情報開示のあるべき姿について反省し、教訓として肝に銘じるべきであろう。
●停電
計画停電も住民の生活を混乱させている。被災地の人々を思えば、一時的な停電など甘受するのは当然である。しかし今回の対応は、どの地区が何時から停電になるのかが明確でなかった。例えば、グループをもっと細分化し、実施の最低30分前には自治体に連絡、停電を決定したグループは、必ず実施する。少し多めにグループを選択すれば、こういった対応は可能ではないだろうか。
透析治療等、電気が不可欠な処置は、自家発電装置がなければできない。歯科でも、停電予定時間の扱いに頭を悩ませた。予約を切れば、予定していた処置が先送りになり、その後の予約にも影響が出る。診療中に突然停電になれば、多くを電気に依存している現代の診療はお手上げだ。社会活動、経済活動における損失は甚大である。この疑心暗鬼の連鎖を断ち切る賢明な策は講じえないものだろうか。
●普段どおりの経済活動を
ある経済学者は、「被災地以外の人たちが行う最大の支援は経済活動を高めること」と言っている。被災していない地域で経済活動が停滞すると、企業や個人の経済力が低下し、復興支援のための資金が捻出できなくなる。私たちが、普段どおりに消費を行うことも、今できる被災地支援なのだ。もちろん、支援物資の供給に支障を来さないために、物資の買い占め等は厳に慎まなくてはならない。根拠のない風評に惑わされないことも重要である。
●被災地の医療問題
医療に携わる者のひとりとして感じたのは、被災地での医療機関、とりわけ病院の構造と機能についてである。
津波で町のほとんどが破壊された南三陸町の映像をみると、公立志津川病院だけがその形をかろうじて残していた。他の被災地でも、基幹病院は残っている例が多い。病院は、2階から上の部分にある程度の緊急対応のスペースを用意しておき、万一被災しても、そのスペースで病院機能がある程度確保できている必要があると思われる。地下鉄サリン事件の際、聖路加病院が配管設備の整ったロビーを簡易診療室として機能させた経験を教訓とすべきではないだろうか。
●助け合い
死を覚悟した環境からは、人間の尊厳を再認識させる光景が見られるものである。被災者同士の助け合い、かつて被災した地域からの支援、名前も顔も知らない人からの心温まる募金等、災害が新たな心のふれあいを生む。海外からも純粋に人道的立場から物資や人的援助が行われていること等、尊い人命や財産は失ったが、これらは決して失うことのない人類の財産といえよう。
●日本人はくじけない
今年、日本はGDP世界2位の座を中国に譲った。この報道をうけ、シンガポールの有力紙ストレーツ・タイムズ(2月17日付)の東京特派員は、コラムの中で、勤勉さや仕事への誇り、秩序感覚など数字では表せない日本人の国民性をあげ、日本が技術革新を続け、優れた製品やサービスを生み続ける限り、「今後もずっと尊敬される国であり続ける」と述べた。
また、被災した日本人の秩序ある行動は海外から高く評価されている。ハイチの震災時の略奪、ニューオーリンズの水害時に救援部隊が武装して被災地に入らなくてはならなかった事態と比べ、日本人の落ち着いた対応に称賛の声があがった。
日本がこの苦難をどう乗り越え、次の進化へつなげていくか、世界が注目している。
3月21日脱稿
(副会長・清水信雄)
■群馬保険医新聞2011年4月号