【診察室】今日のリウマチ治療と実態

【2011. 4月 20日】

【診察室】

―今日のリウマチ治療と実態―

    高崎市・井上病院 井上博

 

 関節リウマチは、何らかの原因で免疫異常をきたし、主に関節内の滑膜に炎症が起こり、疼痛、腫脹を主な症状とする疾患です。進行すれば関節破壊し、大部分の人が身体障害者になってしまう厄介な難病です。さらに一度罹患すると治癒は望めず、社会生活、日常生活、夫婦生活等を満足に過ごせなくなり、筆者は数多くの悲惨な例を身をもって体験しました。

 ■「痛い、痛い」の大合唱
 筆者が群馬大学整形外科リウマチ診療班に所属していた30数年前を思い起こすと、リウマチ外来といえば全国どこでも連日車椅子の患者に囲まれ、「痛い、痛い」の大合唱のなかでの診療でした。「夫に女が出来た、離婚した、会社を辞めた、毎日毎日痛くて死にたい。」患者を見捨てる夫(患者は女性が80%)、その反対に会社を辞め献身的に看護、介護する夫、崩壊していく家庭。毎週のリウマチ外来は辛く厳しいものでした。それに対する治療方法と言えば、抗リウマチ薬としては注射金製剤とペニシリンの誘導体であるD-ペニシラミンだけであり、ステロイド剤と鎮痛消炎剤を追加投与し、コントロールするというものが主でした。そんな治療でも寛解導入出来る患者はいましたが、どんなにコントロールが良くても関節破壊を防止することはできず、ほとんどの人が身体障害者になってしまいました。「俺はなんで治療法も無く、成績も悪い診療科を選んでしまったのか」と後悔しました。

 ■新薬の登場で飛躍的に進歩
 1999年に白血病の治療薬で、関節リウマチにも有効なメソトレキセートが保険適用になり、さらに2003年、サイトカイン阻害薬であるインフリキシマブ(レミケード)の登場によりリウマチ治療は革命的進歩を遂げました。歩行困難な患者が投与当日より容易に歩行可能となり、休職、休学を余儀なくされていた患者が復職、復学し、スポーツも可能になるなど全国のリウマチ医がその素晴らしい治療効果に感激したものです。
 一方で投与時反応や投与後の易感染性など使用上注意すべき点があり、投与には経験を要し、投与を重ねると二次無効例を来す症例もあります。しかしその後新たに4剤の生物学的製剤が発売され、薬剤を上手くスイッチングすることにより投与を受けている患者の約60%は寛解を維持しADL、QOLは正常人とかわりなく、約90%は多少の不自由はありますが大過なく毎日を過ごすことが出来るようになりました。関節破壊を防止できるだけでなく、症例によっては骨、関節破壊の修復が可能であり、関節リウマチをほぼ制圧できる、まさに夢の薬が登場したのです。リウマチ診療に革命が起きました。
 
 ■副反応
 しかし問題点が2つあります。1つは感染症を起こしやすいことです。肺結核に感染した症例もありました。肺炎も数多く、カリニ肺炎というのも経験しました。投与前のメディカルチェックでは、特に呼吸器のチェックが重要です。投与時の副反応は、前投薬の投与、点滴スピードの調節で大部分対応できますが、扱いには知識、経験を要します。医師や看護師、薬剤師間での連携が非常に重要な治療です。そこで筆者は、8年前に群馬県内で医師、看護師、薬剤師、医事課の人たちを対象にした勉強会「群馬リウマチアカデミー」を立ち上げ、年5~6回のペースで行っています。ご興味のある先生は是非ご参加ください。

 ■高額な治療費
 治療は革命的に進歩しましたが、2つ目の問題が我々と患者の前に立ちはだかりました。それは治療費が高額なことです。3割負担で毎月5~10万円かかります。治療費の事をお話すると、殆どの方は受けたいけれど受けられないと諦めます。現在当院で生物学的製剤の治療を行っているのは約800人です。半数は医療保護、身体障害者手帳2級以上で、残りが自己負担です。自己負担している方からは「苦痛から開放されたが、いつまでこの治療を続けるのか、費用が大変だ」との声を多く聞きます。コントロールの良い方は投与量を減らしたり、投与間隔を空けたりして費用の負担をできる限り減らすよう工夫していますが、家計に及ぼす影響は大きいと理解しています。良くなると中止する方もみられます。正確には把握していませんが2~3割はいるでしょう。経済的理由によるものです。どのステージの方でも効果はありますが、本来は罹患して間もない、発症直後の方に一番効果があります。経済上、医療経済上からも現役世代に受けていただきたい治療法なのです。

 ■誰でも受けられる治療に
 患者に対するアンケートでわかったことは、自己負担で治療している400人の背後に、その約2倍、受けたいけれど経済上の理由で受けられない人がいるということでした。この有効な治療が、経済的理由で受けられないのは悲しいことです。発症時より生物学的製剤を投与している患者で、身体障害者になった人は、筆者の患者では現在まで1人もいません。現役世代には、医療費控除など何らかの施策を国として考えてもらいたいと思います。治療を受けたいけれど受けられないのは、身体障害者を増やし、人という一番大切な国の財産を失うことになります。
 少子高齢社会の中で、高齢者も大切にしなければいけませんが、若い現役世代が関節リウマチから開放され、存分に会社で、家庭で、学校で活躍できる明るい社会にしてもらいたいものです。財政難の現在ですが、政治的判断、配慮を切に希望します。

■群馬保険医新聞2011年4月号