【論壇】大震災から3カ月
◎地震 津波 原発事故
「想定外」がはやり言葉のように使われている。今回の地震、津波、原発事故は本当に想定できない突出した出来事だったのだろうか。
原発事故に関しては、阪神大震災後の1995年に、高木仁三郎氏(前橋市出身・原子力資料情報室元室長)が発表した論文で、福島県浜通りや福島第一原発を挙げ、今回の様な大事故の可能性に警告を発していた。国会に於いても吉井英勝議員が、2006年、2010年に地震、津波による電源喪失が招く炉心溶融の危険性を指摘した質問をしている。原子力安全委員長はこれに対し、「外部電源やディーゼル発電機、蓄電池等、多重多様な電源設備があり、他の原発からの電力融通も可能だから大丈夫」という答弁を繰り返した。
津波に関しては、震災で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県が、各々に異なる過去の高波を想定し、防潮堤を造っていたとの報道がされている。岩手10m超、宮城5m級、福島6m級と、まちまちなのである。一方、明治三陸地震で15.5mの津波に襲われた岩手県普代村では、この高さの防潮堤を整備していたため、今回の津波による村内の死者と家屋倒壊数はゼロだったという。この例を見ても、想定外という言葉を使えるのだろうか。
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М9.0という今回の大地震は、東北地方の広範囲な壊滅だけでなく、それ以外の地域の生活や経済にまで甚大な影響を与えた。国のアクティビティや方向性まで変えてしまうかもしれない深刻な事態である。加えて福島原発の事故により、私たちは、現在、未来に関わる多くの難問を突きつけられている。
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さて、この3カ月を振り返り、果たして何が見えてくるであろうか。まずは現在直面している問題に対し、冷静に対処しなければならないであろう。加えて、今後予測される第二、第三の難題にも備えなければならない。突如襲ってくる大型災害への緊急対策をどうするのか。被災地全体をカバーする備えはどうか。命令指揮系統の整備、マンパワーの問題、さらにはボランティア、支援物資、救援金等の有効な活用法についても心しておかなければならないであろう。
震災直後、全国に沸き上がった支援の気持ちと行動は、「我が日本人も捨てたものではない」と、多くの人が喝采しながらその想いを心に刻んだことであろう。自分自身も家や家族を失いながら、被災者のために奮闘する被災地の医師や医療関係者が少なくないということにも頭が下がり、胸が熱くなる。
被災地の医療を確保するためには、長期的な経済的、人的支援を続けなくてはならないだろう。ボランティア精神を汲み上げながら無駄を省いた効率的な体制を維持していかなくてはならない。そのためには、医師会や行政、さらに医療界全体で綿密な計画のもとに連携を深め、団体の枠を超えて行動することが必要だ。患者の保護を第一に考えた政策はもちろん、そのための被災医療機関の復旧再建への後押しも重視していかなければならないだろう。
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政府は、8月末までに避難所を解消し、がれきの撤去も終わらせるとの方針を発表した。もとに戻す復旧と新たな価値を加える復興とは分けて考える必要があるのだという。政府の復興への取り組みは、新しい価値を生み出すことにとらわれすぎているという意見がある。被災者の望みは、なるべく早くもとの仕事に戻り、我が家を立て直すことにあるのかもしれない。つまり行政の果たすべき本来の役割は、暮らしの復旧に他ならないのであろう。そしてそれは住民の意思を十分に反映した復興でなくてはならないと強く思う。
(副会長・木村 康)
■群馬保険医新聞2011年6月号