【診察室/泌尿器科】前立腺がんの診断と治療

【2007. 10月 16日】

■診察室/泌尿器科

前立腺がんの診断と治療

          前橋市・加藤クリニック 加藤雄一
はじめに
 先日、私の医院に「1か月前に尿が出なくなって、薬局で薬を買って飲んだら尿は出るようにはなったが、今度は漏れるようになった」と、70歳代の男性が受診されました。このような訴えは泌尿器科の外来では、決して特殊ではありません。しかし診察すると、1000ccの尿閉で腎後性腎不全の状態でありました。また直腸診では硬結を触れ、明らかに前立腺がんの所見がありました。前立腺がんによる尿閉、尿閉による腎不全として、近くの病院に入院させていただきました。後日判明した前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAは200台(正常は4.0以下)と異常高値を示してほぼ前立腺がんに間違いない値でした。
前立腺がんは欧米先進国において男性が罹患する最も頻度の多いがんで、米国での死因の第2位となっています。日本では罹患率6位、死亡率は8位ですが、罹患数が急増しているがんです。数年前には、何人かの芸能人や著名人が前立腺がんに罹患していることが公表されたり、天皇陛下が手術を受けられたことにより、広く知られるようになりました。天皇陛下の報道があった頃には「私も前立腺がんが心配になって」と泌尿器科を受診される方も少なくありませんでした。
前立腺がんには特有な症状がなく、良性疾患である前立腺肥大症と発症年齢が重なるため、排尿障害を訴え来院した場合、まずはがんと肥大症を鑑別する必要があります。

診断
がんと肥大症を鑑別に役立つのが、前立腺特異抗原であるPSAです。採血のみなので安全・簡便、さらに精度・再現性に優れており、現在では群馬県内のかなりの市町村で前立腺がん検診が取り入れられ、広く知られるようになりました。一般的にはPSAの基準値は4.0ng/mlですが、泌尿器科においては、年齢階層別の基準値や、前立腺体積での補正、存在様式を利用し判断することもあります。PSA値を下げることが知られている最近はやりのプロペシア(男性型脱毛治療薬)を内服中の方や、血縁に前立腺がんの方がいる場合のPSAの評価には注意が必要です。
PSAや直腸診、超音波検査などで総合的に判断し、がんが疑われる場合は、前立腺針生検で病理学的な診断をつけることになります。最近では、超音波の精度もよく、組織採取は12か所以上より行うことが可能となり、早期がんの発見につながっています。

PSA検診
群馬県内では1981年に太田地区で初めて前立腺がん検診が開始されました。2004年には群馬県内の68市町村のうち58市町村で検診が行われており、約22,000名の方が受けられました。検診の広がりと経直腸エコーの普及により、根治可能な早期がん(局所限局がん)の発見が最近では多くなりました。私が入局した頃の前立腺がんといえば、ほとんどが骨転移を有する進行例でしたが、最近では骨転移を有する症例はかなり少なくなりました。これも検診が普及したおかげと考えられます。最近の米国泌尿器学会ではPSA検診の普及の効果として、実際の死亡率が死亡率の予想値に対して約50%も低下したとの報告もありました。先日の新聞報道では、厚労省が「前立腺がんのPSA検査による住民検診は勧められぬ」と指針を公表しました。しかし、日本泌尿器科学会は「PSA検診を推奨する」との方針に変わりなく、群馬県医師会も前立腺がん検診の継続の方針を決めました。

治療
前立腺がんの治療にはいくつかあり、病期や年齢、組織の悪性度により、選択(組み合わせる場合も)します。
・内分泌療法
前立腺がんは男性ホルモンにより増殖が促進されるので、男性ホルモンを抑制することによりがんの進行を抑える治療です。これには、精巣摘出術や薬物的去勢(注射)、これに内服治療を加えることもあります。
・手術療法
前立腺全摘術で、限局がんの場合は根治が目指せる治療です。
・放射線治療
以前は外照射が主流でしたが、最近では、小線源を前立腺に埋め込む小線源療法や高度変調法、粒子線などの治療も行われています。
・無治療経過観察
前立腺がんは高齢者に多く、比較的進行が遅いことから経過をみて、進行したら治療をするという考えに基づいた方法です。
・新しい治療
高密度焦点式超音波治療や遺伝子治療も試みが始まっています。

最後に
 前立腺がんは早期に発見すれば、根治し得るがんです。特有な症状はありませんので、60歳過ぎの男性には、ぜひPSA採血をお勧めください。

(群馬保険医新聞 2007年10月)