【論壇】医療安全についての一考察 医療メディエーション

【2011. 10月 20日】

医療安全についての一考察

医療メディエーション

 2007年4月施行の医療法の改正により、医科・歯科全てに医療安全管理の義務化が定められた。
 具体的な措置として、①医療安全、②院内感染、③医薬品安全管理、④医療機器安全管理の4つの体制を確保するとともに、それぞれについて「指針等の策定」「体制の確保」「職員・従業員教育の実施」などが求められるようになった。保険医協会、医師会等では「医療安全講習会」が開催され、各医療機関におけるリスクマネジメントの概念が導入されてきた。
 医療訴訟は、近年減少傾向にあると言われてきたが、刑事訴訟法の改正や検察審査会制度の強化、警察への異常死届出義務など、新たな環境変化も起きている。一方で、患者からのクレーム増加やいわゆる「モンスターペイシェント」といった、医療トラブルにどのように対応していくかも医療安全上の課題となっている。
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 最近では、医療安全の分野で「医療メディエーション」についての関心が高まりつつある。日常診療において、様々な場面で患者の思い(ナラティブ)の相違によりコンフリクト(対立・紛争・論争・葛藤・不一致・不調和)が起こり、時に医療粉争に発展する。その対応、予防に対する具体的な手法が、医療メディエーションである。
 メディエーションとは、法律分野でADRと呼ばれるもので、Alternative Dispute Resolution の略である。「裁判外紛争解決」「対話促進型(合意型)調停」と訳されることもあるが、裁判所での調停と区別するために、外来語のまま使われている。
 その一つである医療メディエーションは、第三者(メディエーター)をとおして、両当事者の対話を促進し、理解を深め、医療者と患者の間にある深い川に、橋を架けるようなものである。医療メディエーターは、院内での苦情や事故後の初期対応をはじめ、様々な場面で、患者側と医療側の橋渡しを行う。解決を支援する役割を担うが、事実認定や評価・判断、解決案提示は一切しない。専門技法による対話・情報開示を促進し、当事者同士の会話を傾聴し、双方の言い分に共感を示す。その上で、当事者が自律的に問題を解決するのを待つ。
 医療メディエーションでは、複雑多岐にわたる医療社会を相手にするので、お互いを見つめ直し、相互に「対話」をするプロセスから供給されるものも多く、信頼関係の再構築も期待される。
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 平成20年3月に「日本医療メディエーター協会」が設立され、医療メディエーターの公的認定が始まり、年間一千人の養成研修体制が確立された。具体的には、次のような事業に取り組んでいる。
1.医療メディエーター養成教育
2.認証プログラム受講者の医療メディエーター資格の認定
3.医療メディエーター相互研鑽のための研修・研究活動
4.一般市民・患者へのメディエーション普及活動

5.海外の同種機関との研究連携
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 メディエーションは、トラブルの対応だけでなく、日常の診療にも生かせるようになる、と言われている。医療側からの医学的な考えを押しつけるだけでなく、患者の背景、思いにまず共感し、その理由を丁寧に聴きながら、落ち着いてこちらの考えを述べることで、お互いのコミュニケーションを取れるようにする。トラブル発生の初期対応で患者の感情をきちんと受けとめていれば、第三者機関に持ち込まれても解決はスムーズにいく。「医療メディエーション」の理念を医療者それぞれが学んでいくことが、医療安全の向上に役立つのではないかと考える。
  
  (副会長・太田美つ子)

■群馬保険医新聞10月号