歯科の訪問診療料 20分のしばりに疑問
東日本大震災の混乱により、2年に一度の診療報酬改定実施の是非が問題になったが、予定通り、来年3月には、平成24年度診療報酬改定が行われる。
前回の改定では、歯科診療報酬について「在宅歯科医療の推進」が掲げられた。高齢化社会を迎え、在宅療養における歯科的な問題点が懸念されるからと解釈していた。
■歯科だけに時間要件
「歯科訪問診療に20分のしばり? 」このような疑問を持つきっかけは、当協会の理事会においてである。
―患者の求めに応じて歯科訪問診療をした場合、1人の患者だけを診療した場合、診療時間が20分以上の時に限り、1日につき歯科訪問診療料1・830点を算定する。診療時間が20分未満の時は、算定はできず、初診料または再診料を算定する―
というものだ。
保険医協会は、医科歯科一体の組織なので、医科の先生方に、訪問診療での時間による診療報酬の算定要件の有無を聞いてみた。医科では、時間的な制約はなく、レセプトにも時間の記入は無いことなど、歯科との違いに驚いた。
■20分の根拠は
「20分」という算定要件の根拠は、中央社会保険医療協議会第150回診療報酬基本問題小委員会(2009年11月25日)に資料として提出されたデータ「訪問歯科診療における患者一人当たりの所要時間」にあるようだ。しかし、議事録では、20分のしばりを設定するか否かの審議はされていないように読み取れ、診療報酬基本問題小委員会の審議に疑問を感じる。
■同一建物の扱いで矛盾
時間だけでなく、訪問した建物によっても要件が設けられている。
―同一建物に居住する通院困難な複数の患者に対し、患者ごとにその居住する建物内で、患者の求めに応じて、歯科訪問診療を行った場合、一日につき歯科訪問診療料2・380点を算定する―
というものだ。同一建物とは、老人福祉施設、マンションなどの集合住宅のことである。同一建物の扱いは医科も同様である。
老人福祉施設での複数の診療であれば、介護に携わっている介護士、看護師等が同一人物なので、治療計画などの説明も途切れずに行える場合もある。しかしマンションなども同じような扱いになるのは、納得できない。民間のマンションで、世帯が異なる複数の居宅を訪問することは、訪問先ごとに介護の中心となる人に治療計画等を説明する必要があり、別の建物(居宅)を訪問するのと同じなのである。
さらに、同じ建物内で一日に診る患者の数によって、訪問診療料に差が生じる。例えば同じマンションで、その日の診療が一人だけの場合、算定される訪問診療料は、830点だが、二人診れば、380点(いずれも診療時間20分以上)だ。患者にとってみれば、同じ処置なのに、同じ建物で別の世帯を訪問するかどうかで負担金が変動するということになる。
このような算定要件は、審議から決定に携わった人たちの机上の空論であり、現場知らずの無責任さを感じざるを得ない。領収書の発行が義務付けられていることから、誰もが疑念を抱くきっかけになるだろう。患者との信頼関係の崩壊やトラブルに至ることも懸念される。
■実態に則した改定を
次回改定について、中央社会保険医療協議会における在宅歯科医療の位置付けを、6月に開かれた、第191回中央社会保険医療協議会総会の資料・議事録で確認した。
―歯科診療報酬では、平成20年度に在宅の療養を支援する「在宅療養支援歯科診療所」を新設するとともに、歯科訪問診療料、訪問歯科衛生指導料、歯科疾患在宅療養管理料、口腔機能管理加算等を通じて在宅歯科医療を充実(在宅歯科医療に係る歯科診療報酬の評価)―
と評価されており、現場の声は伝わっていないようだ。
現在、訪問診療を行っているのは、歯科医師全体の12%に過ぎない。また、訪問診療を受ける患者は、選挙に行って、思いを込めた一票を投じることが難しい生活環境である。改善をするためには、気付いた者が、声をあげていかなければと考える。
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中央社会保険医療協議会のHPで協議会の予定日や議事録、資料を閲覧できる。次回改定の方向性を見守り、保団連からの抗議を要望する等も検討したい。
(副会長・小山 敦)
■群馬保険医新聞2011年11月号