味覚障害
藤岡市・松山医院 松山 仁
最近10年間に味覚障害患者は1.8倍に増加しているとの報告があります。そこで今回は、この味覚障害について述べてみたいと思います。
まず味覚とは、五感のうちの一つで、人では舌及び軟口蓋に約9000個の味蕾があり、感覚受容体となっています。この味蕾で甘味・塩味・酸味・苦味・旨味の五つの要素を感じ取っています。一般に味は、舌の特定の部分、例えば舌の尖端で甘味を、また舌の外側で酸味を感じ取っていると言われていますが、この説は全くの間違いです。
また、この味蕾への感覚神経は、舌尖では顔面神経の枝の鼓索神経、舌奥の2/3は舌咽神経、軟口蓋では顔面神経の枝の大錐体神経が支配しているので、他の四感とは異なり、研究が非常に困難となっています。
味覚障害で患者が訴えてくる事項として、
1.味覚減退、味の感じが鈍くなる。
2.味覚消失、味が全く解らない。
3.自発性異常味覚、口の中に何も無いのに苦みや渋味を感じる。
4.解離性味覚障害、甘味だけ解らない。
5.異味症、甘いものを食べても苦い等、違う味を感じる。
6.悪味症、何を食べても嫌な味になる。
その他、舌がピリピリする舌痛症、唾液分泌障害、嗅覚障害があり風味が解らない等、症状が一つだけでなく、いくつか合併している場合もあります。
味覚障害には、主に6つの原因があると言われています。
①舌に炎症を起こしている時。
②舌に舌苔が生えたり、唾液の分泌が低下した時。
③味蕾の働きが悪くなった時。
④味覚の感覚神経が障害された時。
⑤風邪などで鼻閉を生じた時。
⑥心因性、仮面うつ病やヒステリー等の疾患の時。
今回は、③の味蕾の働きが悪くなったケースを述べてみます。
■亜鉛欠乏について
大きく分けて3つの原因があります。
①亜鉛の摂食障害です。
亜鉛は主に十二指腸で吸収されていると言われています。 十二指腸の手術後の患者、または極度のダイエットにより亜鉛摂取が不足の時です。亜鉛は成人で、1日10~12㎎摂取しなければならないと言われていますが、偏食やダイエットにより、十分な必要量が吸収されない場合で す。
②薬の副作用です。
SH基の付いている薬剤はすべて亜鉛キレート作用がありますが、他にも長期服用の降圧剤や向精神薬または抗菌剤等でも引き起こされる可能性があります。
③原因不明のいわゆる特発性味覚障害です。
血中の血清亜鉛を調べても正常範囲のケースです。しかし、血清亜鉛値が正常でも組織中の亜鉛は低下している かもしれません(赤血球中の亜鉛を調べることは可能です)。実際こういったケースに亜鉛製剤を投与して症状が軽快することが多々あります。
■治 療
もちろん原因疾患がある場合は、その治療が優先されます。次に食事指導です。亜鉛の多く含まれている食物(特に牡蠣等に多く含まれていると言われています)、規則正しい食事を心がけること、またファーストフードだけで済ませているということではいけません。極度のダイエットも注意しなければいけません。
投薬としては、私が大学病院にいた頃は、亜鉛製剤は販売されておらず、硫酸亜鉛(ZnSO4)をカプセルに詰めて投与していました。今では胃潰瘍治療剤として、ポラプレジンク((C9H12N4O3Zn)n)が販売されています。亜鉛は単独では人体へ吸収されません。ですからこういった薬剤が効果があるようです。また、亜鉛過多になっても血清亜鉛値が上昇しても症状が出現した報告はありません。
以上、日常診療で患者に話していることを列挙いたしました。
■群馬保険医新聞2011年11月号