【診察室】膠原病―全身性強皮症と皮膚筋炎 最近の話題

【2012. 3月 15日】

膠原病
―全身性強皮症と皮膚筋炎 最近の話題

群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学  永井弥生

 膠原病は全身性自己免疫疾患の中心であり、「難病」を代表する疾患群である。近年、膠原病の生命予後は大きく改善しているが、これは治療の進歩とともに、早期診断あるいは従来見逃されてきた軽症例の増加が関与している。いまだ治療に難渋するケースもあるが、今後はQOLの改善に向けてさらなる有効な治療が模索されている。
 膠原病は多種の疾患を含むが、今回は皮膚科で関わることの多い全身性強皮症、皮膚筋炎を取り上げた。

 
 ■全身性強皮症
 ①全身性強皮症の分類と主な症状
 全身性強皮症は、皮膚や内臓の線維化と血管病変が臨床症状の主体をなす疾患である。かつては進行性全身性硬化症(progressive systemic sclerosis:PSS)と呼ばれていたが、必ずしも進行性ではないことから、この病名は使われなくなった。英語名もPSSに代わってsystemic sclerosis:SScの略語が用いられるようになって久しい。全身性強皮症は、皮膚硬化の範囲から、限局性皮膚硬化型(皮膚硬化が肘関節より遠位のみ)と広汎性皮膚硬化型(皮膚硬化が肘関節より近位までみられる)の2型に分類されており、一般的には広汎性皮膚硬化型で内臓病変を合併する重症例が多い。
 手指の皮膚硬化は必発であり、進行すると屈曲拘縮のために動きが制限され、難治性の潰瘍形成に至ることも少なくない。頻度の高い内臓病変としては逆流性食道炎があり、胸やけや嚥下時のつかえ感は、早期例や軽症例でもしばしばみられる。間質性肺炎は、皮膚硬化の範囲が広い重症例で多くみられるが、肺高血圧症や原発性胆汁性肝硬変は軽症例でも合併する頻度が高い。根本的な治療はないが、末梢循環障害に対する加療を中心として、各々の症状に対する治療を行う。急速に皮膚硬化が進行する場合には、副腎皮質ステロイドの全身投与を行うこともある。近年、治療指針を示すガイドラインが作成されている。
 
 ②全身性強皮症の診断
 初発症状として多いのはレイノー症状で、これは、寒冷時に手指末梢血管の攣縮によって起こる手指の白色調の変化である。皮膚硬化は手指から始まるので、診断には手指背面の皮膚のつまみあげができない、つまみ上げにくい、といった症状(強指症)を確認することが必要である。強指症に加え、手指尖端の瘢痕、肺線維症、特異的な抗体陽性(抗トポイソメラーゼI抗体または抗セントロメア抗体)があれば強皮症と診断しうる。
 近年、強皮症関連病態という概念が提唱された。これは、定型例や早期例のほか、皮膚硬化が明らかでなく診断には至らないが、将来強皮症に進展する可能性の高いレイノー病などを包括した概念である。より早期の診断のためのポイント診断基準案も作成され、レイノー症状のパターンや爪上皮出血点の項目が重要視されている。爪上皮出血点は後述の皮膚筋炎でもみられるが、強皮症では早期からみられる所見として診断に重要である。
 強皮症の診断には、特徴的な皮膚症状を捉える必要がある。レイノー症状を有する人は人口の数%いるともいわれ、早期例が見逃されている可能性がある。疑わしい場合には早期に専門医への紹介が望ましい。

 ■皮膚筋炎
 ①筋症状のない皮膚筋炎もある
 皮膚筋炎の診断には、筋痛、筋脱力症状などの臨床的な筋症状、CK、アルドラーゼなどの筋原性酵素の上昇と特徴的な皮疹が必要である。筋症状の評価は筋電図や筋生検にて行われてきたが、近年では感度の良さと侵襲の少なさからMRIによる評価が頻用されている。
ときに筋症状を全く伴わない、典型的な皮膚症状のみの皮膚筋炎があり、amyopathic dermatomyositis(ADM)として認識されている。筋炎が顕在化する前の段階をみている可能性もあるが、長年にわたる観察から、恒久的なADMが存在するという説が有力である。
皮膚筋炎でしばしば問題となるのは、内臓悪性腫瘍の合併と間質性肺炎である。特に経過中に発症し、急速進行性の致死的な経過をとるタイプの間質性肺炎があることはよく知られている。ADMでは通常の皮膚筋炎に比べ、急速進行性間質性肺炎の合併が多いとされ、注意を要する。

 ②皮膚筋炎の皮膚症状
 皮膚筋炎の診断には皮膚症状を捉えることが重要である。ヘリオトロープ疹(上眼瞼の腫脹を伴う暗紫紅色斑)、ゴットロン徴候(手指関節背面の角化性丘疹=図3)が有名だが、このほかにも顔面、特に前額、内眼角、鼻唇溝や耳から側頸部にかけての皮疹、手指腹にみられる逆ゴットロン徴候やmechanic’s hand(機械工の手)と呼ばれる手指側面、特に第1、2指側面が好発する湿疹様の皮疹がある。爪囲紅斑や強皮症でもみられる爪上皮出血点、肘部や膝の背面の角化性紅斑がみられることもある。背部のかゆみを伴う掻破痕様あるいは線状の紅斑は特徴的である。
 
 ③注目される新しい自己抗体
 抗Jo-1抗体以外には特異性の高い自己抗体がないとされてきたが、近年、新しい特異的な自己抗体が注目されている。ADMに比較的特異的な抗体として、抗155kDa抗体/抗Se抗体や抗CADM-140抗体がある。抗155kDa抗体は、小児皮膚筋炎や潰瘍を伴う重症例、悪性腫瘍合併皮膚筋炎のマーカーとも考えられている。抗CADM-140抗体は急速進行性間質性肺炎を合併するADMの新しいマーカーとして重要である。
 抗Jo-1抗体は抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体のひとつである。抗ARS抗体としては現在8つが知られているが、これらの抗体が陽性になる例は臨床症状が似ており、抗ARS症候群と称されている。抗ARS症候群は筋症状、皮膚症状、間質性肺炎の3つの要素が種々の程度に混在しており、それ以外に関節炎や発熱をはじめとした炎症所見がしばしば認められる。今後、本症候群の位置づけや個々の抗体と臨床症状との関連について、さらなる新知見が得られるものと思われる。

■群馬保険医新聞2012年3月号