【診察室】胆道閉鎖症の早期発見に向けて

【2012. 4月 15日】

胆道閉鎖症の早期発見に向けて

群馬大学医学部附属病院周産母子センターNICU

大木康史

 

 はじめに
 平成24年度からの母子健康手帳(母子手帳)の大改訂の1つとして、胆道閉鎖症早期発見のための便色カードの綴じこみがあります。群馬県内の市町村でも、4月から改訂された母子手帳が全面的に使用されます。今回、この便色カードについて寄稿する機会をいただきましたので、胆道閉鎖症と便色カードについてご説明申し上げます。

 ■胆道閉鎖症とは? 
 胆道閉鎖症は、約9,000出生に1例の頻度で発生する疾患で、肝外胆管が原因不明の硬化性炎症によって閉塞するために、胆汁うっ滞からやがて肝硬変を発症し、手術しなければ死に至る疾患です。
 三主徴は生後14日を越えて続く黄疸、淡黄色便、濃黄色尿です。本疾患は直接ビリルビン高値が特徴的ですが、間接ビリルビンを主体とする総ビリルビン値は必ずしも高くなく、肉眼的黄疸としてはわかりにくいことがあります。便色は、全国登録の集計で入院時には97%で灰白色ないしは淡黄色と判断されていますが、異常色を呈する回数が少なかったり、1か月以降に徐々に色が薄くなったり、判断に迷う色合いの場合もあります。
 この疾患の予後改善のためには、手術の成功率が高く、肝硬変を来していない生後60日以内に手術を行うことが望ましいとされます。手術の遅れは黄疸消失率の低下、肝硬変の発症、生体肝移植の可能性の増大といった悪循環を引き起こし、肝移植に伴う膨大な医療費も発生します。ゆえに、早期発見、早期手術が重要とされる代表的な乳児疾患です。
 しかし、前述の全国集計での手術時日齢は、1998〜2008年診断例で68.6±32.4日と、実際の手術日齢の平均値ですら生後60日を越えているのが現状で、早期発見の難しさがお分かりいただけるかと思います。 
 また、胆道閉鎖症では腸管への胆汁排泄が減少し、脂溶性ビタミンの一つであるビタミンKの吸収が不良になり、血液凝固能が低下して頭蓋内出血等の出血症状を来たすことがあります。全国調査でも胆道閉鎖症の約4%は出血症状で発見されました。特に頭蓋内出血で発症した場合には、胆道閉鎖症の治療が成功しても後遺症を残す可能性が高くなります。この点からも、早期に発見することが重要です。

 ■胆道閉鎖症の早期診断
 胆道閉鎖症の早期診断には、血清直接ビリルビン値測定、尿中硫酸抱合型胆汁酸測定などを含め、いくつかの方法が検討されました。個々の方法には優劣がありますが、診断能力、コスト、簡便さの面から、便色カラーカード法が優れています。
 胆道閉鎖症患児の大部分は、出生後しばらくの間は黄色便を出しています。70~80%の患児では、生後4週までに便色が淡黄色に薄くなります。残りの20~30%の患児では、生後1か月を過ぎてから淡黄色便が出現します。一方、生後2から3か月になった患児の便は、より灰白色に近づくことが知られています。便色カラーカードは、このような便色の変化を家族や医療関係者が客観的に評価できるように作成されたものです。国立成育医療研究センターの松井先生達の栃木県での10年間にわたる検討では、感度=80.0%、特異度=99.9%、陽性適中率=13.6%で、スクリーニングとして十分に有効という結果が得られています。
 今回母子健康手帳に綴られる便色カードは、松井先生達が新たに作成したものです。特徴は色情報を定量化し、個々の番号の色調もL*a*b*色空間情報を用いて科学的に区分されたことで、全世界で同じ色に印刷することが可能になりました。このカードが全国で母子手帳に綴られるということは画期的なことと思います。
 実際のカードの利用方法
 群馬県保健予防課では、早期発見がスムーズに進行するよう、保健師、周産期・小児医療に携わる医療関係者を対象に、説明会を開催する予定です。具体的な早期発見の流れは以下の通りです。
 ①母子手帳交付時に便色カードの使用方法について保護者に説明します。
 ②主に1か月健診で、便色の確認を保護者と医療関係者で行います。
 ③1か月健診以外でも保護者等が便色の変化に気づいた場合、医療機関を受診することがあると思います。
 色調の比較は、出来るだけ明るい太陽光の下か明るい部屋で、保護者が児の便と便カラーチャートを近づけて色を比べ、最も近い番号を調べます。どちらか迷ったら小さい番号の色を選び、一度でも1から3の便が出たら異常と捉えていただきます。生後2週及び生後4週に調べますが、中には症状が遅れて出ることがあるので、保護者には生後4か月までは便色を確認することを勧めています。
     
 ■異常な便色の患児が受診したら
 1か月健診、あるいはその後の受診時に保護者から便色が1から3と申し出があった場合は、実際の便とカラーカードを比較してください。比較して便色が1から3の場合は、小児外科と小児科の両科を有する、群馬大学附属病院、群馬県立小児医療センター、総合太田病院のいずれかの小児外科に直ちにご紹介ください。陽性的中率13.6%という数字からも分かりますように、このカードにより便色の異常に気づかれた場合、原因は胆道閉鎖症以外にも、胆道拡張症、新生児肝炎、アラジール症候群、シトリン欠損症など、胆汁排泄機能が低下した他疾患の可能性も高く、胆道閉鎖症の診断が確定するのに時間がかかる場合があります。この3施設であれば、診断から手術までの準備期間を考えた場合に最も短時間で手術まで到達できるため、群馬県は精密検査医療機関として指定しています。前述のビタミンK欠乏性出血症を防ぐためにも、便色異常に気づかれた場合は直ちに上記の精密検査医療機関にご紹介いただければと思います。

 

■群馬保険医新聞2012年4月号