【論壇】窓口0負担による医療安全管理対策

【2012. 5月 15日】

窓口0負担による医療安全管理対策 
医療機関窓口での金銭のやりとりはなしに

 今年4月、診療報酬改定が行われた。3月から継続で受診している患者は、同じ治療でも、4月から領収書や明細書の内容が変化していることに戸惑い、受付に問い合わせてくることがある。全国の保険医療機関で共通の改定であるが、国民は、改定の内容を末端の医療機関で知らされることになる。この構図に疑問を感じる。

 生命保険や損害保険に加入する場合、保険の内容、約款に同意の上で契約が成り立つ。契約されていない内容では、保険の給付がされないことは周知されている。保険業法の規定には、「契約の際、契約者が不利益を被ることがないよう、保険会社側は、保険約款の重要項目について説明義務が生じる」とされている。

 健康保険はどうか。

 日本では、国民皆保険制度により、すべての国民が、何らかの公的医療保険に加入することになっている。ところが、加入時(契約時と同様)に保険者は、被保険者に対し、保険ルールの説明をしていない。保険契約における重要な説明義務が、健康保険では、必然的に医療機関側に委ねられる。これはやはりおかしいのではないか。

 保険の適応は、病状や治療方法により、こと細かく取り決められている。特に歯科は「包括」されている項目が多く、例えば、麻酔の注射をしても、領収書や明細書には点数が表示されなかったり、義歯調整を行っても月4回を超えれば再診料に包括される等がある。

 複雑すぎる現在の保険ルールに従って発行された領収証や明細書を目にした患者は、その内容に疑問を抱き、トラブルが発生しているのも事実である。これらの患者からの疑問には、医療機関側が説明を強いられているのが現状だ。
 

 医療安全管理対策を進める上で、患者との信頼関係の強化、患者と職員との対等な関係が基本であると考える。保険のルールや改定に伴う変更事項に対する保険者の説明、患者への周知不足によって起こる信頼関係の欠落は、インシデントとして報告される。

 そこで、診療以外で起こるトラブルを回避するために、「窓口ゼロ負担」を提言したい。これは、診療負担金が「0円」ということではない。医院の受付業務の中で、金銭のやり取りをしない環境を作ることである。患者は、負担金を医療機関ではなく、保険者に支払うシステムだ。保険者側には、被保険者への健康保険の内容説明を義務化し、医療現場では、病気の治療に専念できる環境作りを目的とする。

 このシステムにより医療現場で起きている健康保険ルールの矛盾を、保険者や患者自身が実感することができる。そして、現在の保険ルールの問題点が国民の声として次回の診療報酬改定に反映されれば、患者も医療側も納得する、すばらしい皆保険制度が再構築されるのではないだろうか。
   
  (副会長・小山 敦)
 
■群馬保険医新聞2012年5月号