今世界は「歴史の危機」の真っ只中にある、という説がある。「歴史の危機」とは、フランス革命、宗教改革、現在はそれに匹敵する激動期ということになる。この二つの時期に共通するのは、超低金利である。そして現在も超低金利時代だ。歴史の危機で評価が高いのは、ビスマルクである。彼は政治の流れを作るのではなく、その流れに乗り、舵取りをするのが秀でた政治家だという。
いったん「歴史の危機」に入ると、時代は人々の思惑を超えて動き出す。「歴史の危機」にあって時代の流れを読み取る。その流れとは、グローバリゼーションの終焉である。米英は、金融のグローバル化を促進し、リーマンショックに至り、独仏は、欧州統一という理念を用い、域内のグローバル化に突き進んだ。その結果がギリシャに見られる欧州債務危機である。時代の流れの中でグローバリゼーションは推進力を失い、逆回転し始めている。
グローバリゼーションの中で、日本の公的債務は、危険水域に達している。歳出が増加し続ければ、いずれ過酷な緊縮財政を強いられることになるだろう。現在我々の日常生活は、債務の増加に脅かされている。仮に政府が適切な措置を打ち出すことがなく、問題解決に乗り出さないのであれば、我々に残された選択肢は、「極端な緊縮財政」「国家破産」そして最悪の場合は「戦争」。
それらを回避するため、民主党政権は政権交代を獲得したが、最も実現したかった「脱官僚依存」「コンクリートから人へ」のマニフェストは早々と姿を消し、「高速道路無料化」「子ども手当」の政権公約の柱も次々実現不可能となった。そして菅政権の政策を引き継いだ野田政権は、政権担当中にはやらないと明言してきたはずの「消費増税」について、三党合意を成し遂げ、その結果、民主党は分裂しようとしている。
日本の公的債務の国内保有率は、95%にも達するため、これまでは金融市場の荒波から保護されてきた。また、かつて日本の貯蓄率は、先進国の中では最も高く、1980年代は15%あった。つまり日本の公的債務は将来の増税で賄うことができた。
自民党政権時代の1990年代の経済活性化政策、箱物の公共投資、人口高齢化が原因となって、年金と医療制度を維持するための費用が膨張したことから、日本の公的債務は増大した。また、リーマンショックで先進国は、カジノ資本主義のツケを救済しようと、銀行に税金を投入したため、軒並み財政危機に陥っている。
今日、対GDP比で200%に達した日本の公的債務は、先進国で最も深刻である。このままでは、日本の国内の貯蓄はすべて、公的債務をファイナンスするために利用せざるを得なくなることから、産業やイノベーションのために投入できる財源は不足し、さらに金利が上昇すれば巨額の公的債務は制御不能に陥る。
日本の貯蓄率は、2009年には2%強に過ぎず、財政は極めて脆弱になっている。公的債務を巡るリスクは、金利上昇となった時である。日本経済がインフレに突入したり、企業が投資を増加した場合だ。
2000年代、小泉構造内閣の新自由主義経済政策により中小企業は取り残され、社会的格差を拡大させた。労働コストの削減、規制緩和、新たな労働形態の導入、非正規雇用といった政策が推し進められたことにより、労働市場は大きく変化し、日本国民の連帯感は弱まり、非正規雇用が労働者の35%を超えた。こうした社会的環境の劣化は、重大な問題となっている。
さらに日本の少子高齢化はすすみ、2033年、65歳以上の人口が全体に占める割合は30%を超え、労働不足に悩まされることであろう。 医療制度をはじめとする社会的サービスの改革、年金制度の見直しも待ったなしであるのか。しかしながら、こうした状況下で、国民全員に恩恵をもたらす唯一の解決策は、経済成長である。この国はどこへ行こうとしているのか。長く続く政治の混乱だ。
(広報部・深井尚武)
■群馬保険医新聞2012年7月号