最近のお産の傾向
前橋市・小沢医院 小澤 聖史
近年、初婚年齢の上昇とともに出産年齢の高齢化が起きています。これは女性の社会への進出とともに進んできているようです。1985年に「男女雇用機会均等法」が成立し、女性の就職形態が変わったことが大きく影響していると考えられます。
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初婚年齢は、平成5年に26.1歳であったものが平成22年には28.8歳になりました。
第一子の出産年齢は、平成7年には27.7歳だったのが平成22年では29.9歳になり、今年の統計ではとうとう30歳を超え、30.1歳になりました。今後この傾向はさらに進むでしょう。
初産年齢の高齢化に伴い、出生率も低下し、昨年の合計特殊出生率は1.39になりました。合計特殊出生率は、15~49歳までの年齢ごとに、その年に何人産んだかを示す出生率を算出し、合計した数値です。2.07を下回ると人口の減少が始まるといわれ、1947年に4.54だった出生率が今年1.39まで低下したというわけです。
結婚の高齢化、第一子出産の高齢化に伴い、日本産婦人科学会では高齢初産の定義を1993年に30歳から35歳へ変更しました。出産年齢の高齢化もありますが、さまざまな結果から、実質的に35歳以上だと(特に初産)リスクが高まることがわかったからです。
■高齢出産の問題点
・妊娠しにくくなる
高齢だと妊娠しにくくなります。高齢化に伴い卵巣の老化が始まり、作られる卵子の質も老化するといわれています。卵子の質の低下はそのまま妊娠しやすいかどうかに影響します。
・切迫流産・切迫早産になりやすい
卵子の質の低下も関係がありますが、切迫流産や、切迫早産を起こしやすくなります。
・微弱陣痛になりやすい
・子宮頸管の柔軟性が失われる
加齢により各組織の柔軟性が失われ、赤ちゃんの娩出時に軟産道裂傷を起こしやすくなります。
・妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病
妊娠高血圧症候群は、以前妊娠中毒症と言われていたものです。2005年3月に日本産婦人科学会にて妊娠高血圧症候群へ名称変更され、定義が改変されました。これに伴い、診断基準の中から浮腫が削られました。
高齢初産だけでなく、高齢出産では妊娠高血圧症候群になりやすいと考えられています。また、高齢に伴い妊娠性糖尿病の発症も増えてきます。妊娠性糖尿病発症者は加齢に伴い糖尿病を発症しやすいことがわかってきています。
・染色体異常の増加
加齢に伴い染色体異常の発生も多くなります。代表的な染色体異常にダウン症があります。ダウン症は、体細胞の21番染色体が1本余分に存在し、計3本(トリソミー症)持つことによって発症する病気です。ダウン症の発生率は25歳で1/1200、30歳で1/880、35歳で1/290、40歳で1/100、45歳で1/46と加齢に伴い発生率が増加します。
染色体異常の術前診断として羊水検査と絨毛検査があります。群馬県では羊水検査を群大附属病院と小児医療センターで実施しています。羊水検査は自費の検査で妊娠15週前後に行われます。
・出産後の母体の体調回復の遅延
出産は女性にとって大仕事ですから、体力的にもとても大変なものです。出産後の回復は、若年者よりは明らかに遅いことが多いです。
・退院後の育児
育児は3時間おきの授乳から始まり、おむつ交換、泣き止まない赤ちゃんの寝かしつけ等たくさんあります。精神的には若い母親より安定していることが多いのですが、体力的には大変なことが多いです。
■高齢出産の利点
金銭的な面とメンタルな面があるといわれています。金銭的な面としては、若年者よりは蓄えが多いと考えられます。メンタル的にも母親となる自覚において、若年者よりも赤ちゃんを受け入れやすいと考えられています。
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結婚年齢の高齢化により、結婚時に女性が責任のあるポジションにいることが多く、また共働きにより、子作りが後回しになることが多くなってきています。いざ妊娠を希望するころには、なかなか妊娠できなくなっていることも多く、また妊娠しても上記のような危険が潜んでいます。子どもは欲しいときにすぐ妊娠できるというものではありませんので、このあたりの意識改革が今後医療サイド主体に行われる必要があると思われます。
■群馬保険医新聞2012年7月号