【診察室】 高齢者虐待防止に向けた保健福祉医療関係者の役割

【2008. 2月 19日】

 【診察室】

   高齢者虐待防止に向けた保健福祉医療関係者の役割
   群馬県健康福祉部介護高齢課 企画グループリーダー          
                          有阪 俊彦
 ◎はじめに
 平成18年度の県内における高齢者虐待件数は、128件でした。
 この数は、「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(平成18年4月1日施行。以下、「高齢者虐待防止法」又は「法」という。)に基づき、市町村等に届出・通報され、事実確認の結果、虐待を受けた又は受けたと思われると判断されたものの件数です。

 ◎高齢者虐待の状況
 ○養護者による高齢者虐待の状況(127件)
 養護者による高齢者虐待に関する相談・通報件数は181件で、うち保健・福祉・医療関係者から行われたケースは112件(61.9%)を占めています。98.3%にあたる178件で訪問調査等の方法による事実確認が行われ、127件で虐待を受けた又は受けたと思われると判断されています。
 高齢者虐待の類型別には、「身体的虐待」100件(78.7%)が最も高い割合となっており、「心理的虐待」51件(40.2%)、「経済的虐待」44件(34.6%)、「介護等放棄」41件(32.3%)と続いています。
 虐待を受けたと判断された高齢者 129人のうち、女性が94人(72.9%)で全体の4分の3近くを占め、年齢別には70歳代が61人(47.3%)で約半数と最も多くなっています。また、要介護(要支援)認定を受けている高齢者は、90人(69.8%)となっています。
 
 ○養介護施設等従事者による高齢者虐待の状況(1件)
 市町村に対する相談・通報は5件あり、うち4件で訪問調査等を実施し事実確認が行われましたが、いずれの事例も虐待の事実は認められませんでした。
 また、県介護高齢課が直接、通報を受けた事例1件では、事実確認を行った結果、虐待の事実が認められたため、当該施設に対し、指導及び改善計画の提出を求めました。

 ◎高齢者虐待防止法の理念
 高齢者虐待防止法では、高齢者の権利利益を擁護することを目的に、65歳以上の高齢者に対する虐待について、市町村を一義的な対応の主体とし、保健・福祉・医療関係者等との連携協力のもと、高齢者虐待の発生予防・早期発見・早期対応を図ることが求められています。
 そのため、地域住民等に対しては、高齢者虐待に関する正しい知識・理解と、市町村等が取り組む高齢者虐待の防止等のための施策への協力(法第4条)が求められるとともに、虐待を受けた又は受けたと思われる高齢者を発見した場合には、速やかに市町村へ通報するよう努める(法第7条2項)ものとされており、特に、高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合には通報しなければならない(法第7条第1項)とされています。

 ◎保健・福祉・医療関係者の役割
 日常的に高齢者と接する機会の多い、保健・福祉・医療関係者に対しては、高齢者虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、早期発見に努める(法第5条)ものとされています。
 また、市町村では、高齢者虐待の防止、高齢者の保護及び虐待者に対する支援を適切に行うため、地域包括支援センターや保健・福祉・医療関係者との連携協力体制の構築を進めており(法第16条)、これら市町村の取り組みへの積極的な協力(法第5条第1項)が期待されています。
 特に、養介護施設従事者等がその経営又は勤務する施設・事業所において高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合には、市町村へ通報しなければならない(法第21条)とされています。

 ◎介護保険法による対応
 平成18年4月1日に施行された改正介護保険法では、事業者等による利用者の人格尊重義務が定められ、虐待等の場合に指定取消が可能であること、また、市町村による地域支援事業の一つとして、被保険者に対する虐待防止等の権利擁護事業を実施すること等が規定され、高齢者虐待防止法と連携した対応が期待されています。

 ◎終わりに
 前述のとおり、高齢者虐待への対応を図るうえで、保健・福祉・医療関係者の役割は、大変重要になっています。
 高齢者の尊厳ある生活が実現されるよう、多くの関係者が法の趣旨を理解され、積極的な対応に取り組まれることを期待します。
■群馬保険医新聞2008年2月号