【老いの周辺】 学校医として特定健診・保健指導を考える 

【2008. 2月 19日】

  学校医として特定健診・保健指導を考える

                         前橋市 中田益允

 私の専門は小児科である。小児科がなぜ特定健康診査・特定保健指導(以下、特定健診・保健指導)なのか。これには二つの特殊な事情がある。
 一つは私が「食生活を考える会」でリポートすることになったからである。会では、昨年度から特定保健用食品(以下、トクホ)を研究テーマとしている。そこで、いよいよ実施されることになった特定健診・保健指導でトクホは一体どんな役割を果たすことになるのかが課題であった。
 二つ目は、私が学校医を勤める小学校がたまたま平成19年度から2年間の予定で、県教委が行う子どものメタボリックシンドローム(以下、メタボ)を加味した生活習慣病健診の対象校に選ばれたからである。結果が出れば健康相談を行って保健指導をするのが学校医の役割である。否応なく特定健診・保健指導に関心を持たざるを得なくなった。

 ◎特定保健用食品の役割は
 さて一つ目の件だが、特定健診・保健指導の基本指針となる「標準的な健診・保健指導プログラム」を読んでみた。大部な冊子だが残念ながらトクホの語には行き当たらなかった。
 しかし保健指導の項目に、アウトソーシング(外注)に関する指針が延々1万2000字を費やして記載されているのが眼を引いた。保健指導は医師・保健師・管理栄養士が当たることになっている。おそらく指導の現場で食事指導は重要な場面となるであろう。トクホが登場しないわけがない。
 いわゆる健康食品は、熱帯の高山にたとえれば、トクホは比較的見晴らしのよい山頂部分だが、少し下ればやれサプリメントだとか、やれ機能食品だとかの森林帯があって、裾野には定義不明の健康食品の広大なジャングルが広がっている。果たして妥当性は保たれるのか。
 最近、日医主催の関連会議で外注先の経営者が講演して「保健指導は商品である」と言っていた。私は学校医として商品の売り込みを策した覚えはない。
 食品スキャンダルが相次ぐ昨今、果たしてそれで大丈夫かと思わざるをえない。しかしこれだけではリポートにならない。やむなくこれを枕に二つ目の件に話をつないだ。

 ◎老人医療費の「適正化」
 実は私は、初めて特定健診・保健指導のことを聞いたとき、てっきりその基本理念はヘルスプロモーション(WHO1986年オタワ宣言の基本理念)にあると思っていた。
 1992年学校保健における保健体育審議会答申や、2000年の「健やか親子21」も、その基本理念はヘルスプロモーションにあったからである(その割にヘルスプロモーションは意外と浸透していないのが現状だが)。
 ヘルスプロモーションとは、「人々が自分の健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」と定義されている。
 特定健診・保健指導のプログラムには、「対象者が健診結果に基づき…生活習慣の改善を自らが選択し、行動変容に結びつけられるようにするもの」との文言が見える。ヘルスプロモーションの定義とよく似ている。
 しかしこのプログラムの目的は、「高齢者の医療の確保に関する法律」(2006年、老人保健法の一部改正による題名変更)の目的である「国民の高齢期における医療に要する費用の適正化を図る」ことに基づいていることは明らかである。ここで適正化とは抑制のことである。私は自分の思い込みを正さなければならなかった。そして、この保健事業は日本独自のものであると理解した。

 ◎ヘルスプロモーションを基本理念として
 子どもの生活習慣病対策にメタボ概念を取り入れることについては、すでに1990年代から検討されてきたが、まだエビデンスは確立されていない。腹囲あるいはその代わりに腹囲/身長比を指標に取り入れてみても、自分の担当校という少数例の経験だが、学童期(思春期前期)では、メタボ群選別にあまり大きな意義はないように思われる。しかし対策が行われる以上、学校医としては、出てきた結果を元に保健指導や健康教育の方に力を入れざるをえない。そしてその基本理念はヘルスプロモーションであると考える。
 自らの健康状態を自覚するためのツールとして、小児肥満の専門家村田氏(東京女子医大名誉教授)の示唆に依り、成長曲線を利用して継続的な取り組みをしたいと思っている。
 以上が、私のリポートの要旨である。(中田クリニック)

■群馬保険医新聞 2008年2月号