【診察室】健康食品・サプリメントによる皮膚障害

【2012. 10月 15日】

健康食品・サプリメントによる皮膚障害

前橋市・倉繁皮ふ科医院  倉繁田鶴子

 ▊診断 「原因不明の全身紅斑」
 この診断名では、対診を求められた他科の先生には到底納得していただけないと思う。なにより皮膚科医自身やりきれない。しかし現実には、こうした判断をせざるを得ない場面が稀ではない。例えば、
 
 ▊約1週間前から徐々に全身に広がった紅斑
 発熱、咽頭痛、関節痛の有無、経過、検査結果の検討に加え、膠原病固有の皮疹(爪囲紅斑、網状皮斑、指尖潰瘍Xなど)もチェックする。陽性所見は何もない。内服薬を聞いても何も飲んでいないという。「頭痛薬は? 生理痛の薬は? 車酔いの薬は? 」そろそろ焦ってくる。一つでも多く情報が欲しい。このような場合、最近選択肢に加える必要を強く感じるのが健康食品・サプリメントである。

 ▊健康食品・サプリメント ― 皮膚障害
 2001年厚生労働省が「保健機能食品」の呼称を定義したのをきっかけに少しずつ販売を拡大し、2010年には1兆7千700億円ともいわれる巨大市場に変貌した。今では一般医薬品の販売総額をはるかに超えている。確かに日々の診療の中で患者の生活に健康食品が幅広く浸透しているのを痛感させられる。
 健康に生きることは誰にとっても普遍的で最大の願いである。さらに、いつまでも若くとアンチエイジングへの期待も大きくなるばかりだ。メディアには、治りにくい慢性疾患に対する夢のような代替医療の情報があふれている。それらの希望をすべてすくい取るかたちで健康食品の現在がある。こうした需要を無視または否定するものではない。サプリメントを食べているという幸せな気持ちは理解出来る。しかし健康食品だから害がないという誤解はきちんと正す必要があると思う。
 ここでは報告された皮膚障害例の一部を挙げる。いずれも皮膚科専門誌(一部内科)に掲載されたもので、原則としてDLST、プリックテスト、パッチテスト、内服テスト、(光内服テスト含)いずれかの試験により原因と特定されている。

(1)プロポリス
◦プロポリス摂取による全身の丘疹・紅斑。
 プロポリス摂取後全身皮疹と肝障害で入院。退院して  再びプロポリスを摂取し皮疹、肝障害にDICを合併。 プロポリスエキスによるパッチテスト陽性。
◦プロポリスのアルコ-ル抽出液を内服し、全身多形紅斑 型皮疹。
◦プロポリス外用による接触性皮膚炎の報告が国内、国外 に多数。
 プロポリスは多様な成分から成る蜂脂。経皮感作性が高い。飲用の他、化粧品や石鹸、入浴剤にも使用されたため、感作の機会が増えたと考えられている。スプレ-まである。
(2)クロレラ
◦クロレラによる全身紅皮症…内服開始後10日。
◦全身中毒疹…内服開始後1年。  
 全身紅斑丘疹型…内服開始後1年。
◦扁平苔癬型…内服開始後6年の症例、5カ月後発症の症例。
◦クロレラによる光線過敏症、光線生白斑黒皮症、多数。
 クロレラは淡水産緑藻類の一種で広く摂取されている。とりわけ光線過敏症が目立つ。
 ※スピルリナ(同じ藍藻類)
 摂取3週間後に全身紅斑と発熱。HHV-6の再活性化を伴うスピルリナによるDIHS。スピルリナでDLST陽性。
(3)食べるシイタケ
◦健康食品店で購入した「食べるシイタケ」を食べ、4日 後、特有の皮疹が全身に出現。同様のシイタケ乾燥加工 品による皮膚炎が多数報告されている。
 シイタケ皮膚炎自体は皮膚科で日常しばしば見るおなじみの疾患である。全身の激しい痒みと掻破痕に一致した浮腫状線状紅斑が特徴でブレオマイシンの薬疹に似ている。通常生シイタケを焼くまたは乾燥シイタケを煮て食べたときに出現する。しかしこの場合食事としてではなくビタミン剤を飲む感覚で摂取している。
 ※アガリクス(姫マツタケ)によるscratch dermatitis
肺小細胞癌で入退院を繰り返し、健康雑誌に掲載されたアガリクスの焼酎漬けを6カ月飲用後、シイタケ皮膚炎に似た皮疹を全身に生じた。
(4)ウコン
◦自家栽培のウコン茶を毎日摂取。10カ月後に全身に痒み のあるびまん性の紅斑と落屑が拡がった。薬疹、膠原病 などが疑われたが、ウコンのパッチテスト陽性。
◦沖縄産ウコン摂取数日後から顔面、頸部、左手に紅斑→ スレ-ト色色素沈着を繰り返す。ウコンパッチテスト陽 性。多発性固定薬疹。
◦ウコン含有クリーム、(漢方製剤)による接触性皮膚炎 の報告多数。
 ウコンは熱帯アジアを主産地とするショウガ科の植物で、カレ-粉の主成分。黄色の食品着色料として多用されている。1000種類以上の成分から成り、原因物質の特定は今のところ困難とされている。。
(5)その他の報告
 ドクダミ(光線過敏症、多形紅斑他)、胎盤エキス(多形紅斑)、ギムネマ茶(扁平苔癬)、キトサン(アナフィラキシ-)、イチョウ葉エキス(皮膚掻痒症)、キチンキトサン(接触性皮膚炎)、ヤ-コン(アナフィラキシ-)。
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 「自然だから安全」「健康食品は副作用が出ない」「食べても塗っても嗅いでも良く効く」、心地よいキャッチフレ-ズがあふれ、健康食品志向は私たちの想像を超えている。最近では、キッズサプリなる子ども用のサプリメントも販売されていることを知った。
 自身の体験からも、薬の内服の有無を問診した時に健康食品を挙げる患者は少ない。健康食品に注意を促しつつ十分に想像を巡らして「正体不明の発疹」の原因にたどり着きたいと考えている。

■群馬保険医新聞2012年10月号