各地にモデル歯科医院を
理事 亀山 正
昨今の医療破壊(崩壊ではなく、人為的な破壊です)は目に余るものがあります。政府、マスコミ、経済界がタッグを組んで医療を袋叩きにしているようにも思えます。
医科では産科、小児科医不足による救急医療や地域医療が崩壊しようとしています。歯科においては歯科医師過剰による可処分所得の低下と、それに伴う医院の閉鎖などが相次いでいます。
その原因の一つは、あまりにも現場を知らない厚生労働省の官僚や、医療当事者のいない経済財政諮問会議による政策誘導や、中医協による「医療費抑制ありき」による政策決定があり、現状にそぐわない少ないサンプルによるデータの抽出と、データを医療費削減に都合のよいように解釈することがあげられます。
●歯科医師は過剰か
歯科医師過剰問題は正確には歯科医師が過剰なのではなく、世界的にみても稀にみる歯科診療報酬の「極低」設定によるものと思われます。
現在の診療報酬を欧米並みに上昇させれば、一歯科医師の採算が取れる一日の患者数、すなわち損益分岐点はかなり低い人数になり、各医院で余裕を持って診療が行えます。そういう環境になれば歯科医師数は現在でも適正か、不足していると言えるでしょう。
しかしながら現在の歯科医院は診療報酬が低いために相当数の患者を診なければやっていけません。ゆえに歯科医院過密地域では患者の取り合いになっています。その結果、歯科医師過剰と言われているのです。 歯科医師過剰ではなく、診療報酬が低いことが問題なのです。
また口腔疾患は全身疾患との関係にも深く関与しており、予防や口腔ケアを導入することは長期のスパンで見た場合、必ず医療費削減に寄与することでしょう。
世界でも群を抜いて多い公共事業費は何十兆円もあっさり決定し、実質的な削減はほとんど行われていないという事実。その半面、国民の健康を守る医療費削減を容認し続ければ、日本国民の生活が脅かされる結果になります。
●診療報酬改定
少しは政府も反省したのか、次期診療報酬改定時にはなんとプラス改定が決まりそうです。その幅は驚きの本体部分プラス0.38%という「大盤ぶるまい」です。その0.38%でさえ薬価との合計でマイナス0.82%の机上の算出で、私見ですが実際には2%以上、いや4%以上のマイナスになる可能性さえあります。
そこで現場の状態を正確に把握すべく、国は各地にモデル医院を作り、実際に運営して、いかに現在の診療報酬が理不尽かつ低報酬に設定されているかを身をもって体験していただきたいと思います。それは今後の医療政策に大いに役立つことでしょう。
●モデル医院の条件
1、独立採算性で純粋に診療報酬から人件費、設備投資その他経費をまかなうこと。
2、開院に対する初期投資は開設者が負担すること(銀行から医療指導官が直接融資を受ける。もしくは厚生労働省が立て替え、一般と同じ金利等を基準に返済するシステムを使用)。
3、療養担当規則を遵守すること。
4、指導においては透明性を確保するため第三者立会いの元に行う。
5、人口50万人あたり1医院程度設置し、都市部、過疎地域等分散させて設置すること。
是非、私たちにお手本を示してください。
2、明細書考
平成18年の改定により診療報酬の明細書を出す義務が課せられました。民法において、領収書は「望まれれば出す必要あり」とあり、義務ではありません。巷のスーパーやコンビニはレシートに明細が記載されていますが、あくまでサービスの一環、もしくは商品の管理をしやすくするためでしょう。
また通常の商品購入の場合は客が商品を自分で選ぶため詳細まで把握できますが、医療ではどうでしょう。現在の複雑怪奇な診療報酬は私たち医療に従事する側でさえ詳細を把握できない状態です。ましてや患者さんが明細書を見て詳細把握ができるとは到底思えません。
例えば、牛丼屋で牛丼、おしんこ、味噌汁を注文すると、レシートには牛丼、おしんこ、味噌汁と記載されています。では牛丼のなかのご飯はいくら? 牛肉は? たまねぎの値段は? そんな記載のあるレシートは見たこともありません。それは牛丼というひとつの商品を購入したのであって、牛丼の中身を選んで購入したわけではないからです。
ちょっと奢ってフランス料理のコースを注文したとしましょう。領収書に前菜はいくら、魚はいくら、メインディッシュはいくら、デザートはいくらなどという明細が出るわけがありません。
保険制度はいわばコース料理の集合体です。それゆえ診療報酬自体に明細書を出すことは大いに疑問です。
蛇足ですが、明細書を出すと決めた国の決定機関である当の国会議員会館内部の売店ではレシートすら出さず、食堂でもこちらから言わなければ領収書は出てきません。ましてや明細書など、夢のまた夢です。
現行の診療報酬体系で明細書発行を義務づけるなど、具の骨頂以外のなにものでもありません。医療機関が領収書を出したくないと言っているのではなく、あまりにも制度が複雑で整っていないことがあり、患者さんの誤解を受けかねない診療報酬体系なので医療機関サイドからの拒絶反応を招いているのではないでしょうか。
医療関係者にも患者さんにも分かりやすい真に適正な診療報酬体系を望みます。
■群馬保険医新聞1月号