当協会の活動を通じて感じたこと、印象に残った出来事など、思いつくまま、この一年を振りかえってみたい。
● 医療とTPP
アメリカやオーストラリアなど9カ国にカナダ、メキシコを加えた環太平洋パートナーシップ(TPP)の交渉は、2013年の妥結に照準を合わせているという。我が国の国民皆保険制度は魅力的な巨大マーケットなのだというが、外国事業者を含む営利企業による病院運営や混合診療の導入、さらに薬価算定ルールへの干渉等々が現実となれば、日本が世界に誇る国民皆保険制度の崩壊は免れ得ないだろう。最終的には弱者切り捨ての結果を生むに違いない。法律より憲法よりTPPの約束事の方が上位にくるというのが事実だとすれば、農業や食の問題と併せて、問題は深刻だ。政府の賢明な対応を強く望むところである。
●原発ゼロ
原発事故により放出された大量の放射性物質は、福島県で一六万の避難者を生み、農業、漁業、林業、観光等あらゆる産業、経済に与えた深刻な打撃は今も続いている。
7月1日、政府と財界は、電力不足を理由に、関西電力大飯原発の再稼働を強行した。さらに11月に、大飯原発敷地内に活断層が存在する疑いが指摘された問題は、衝撃的な報道であった。一方原発の稼働では、安全な処理方法が見つかっていない使用済み核燃料を増やし続けることになるという。
再生可能エネルギーの導入は、多くの可能性を秘めているであろうし、この間の国民の知恵と努力は、電力不足を克服する可能性を実証したのではなかったか。「原発ゼロ」には賛成出来ない、非現実的だという声も確かにある。おおいに議論を深め、理はどこにあるのか、問題を整理していく必要があるだろう。
●社会保障・税一体改革
社会保障費と消費増税を連動させて、消費税収の範囲に社会保障費を押さえ込むことが、その本質のようだ。国が責任を持つべき社会保障費を抑制、削減し、公的給付を限定化しようというのである。もし社会保障給付が増えれば、消費税率引き上げが必然ということになってしまうのか。増税か社会保障給付の削減かと迫られることにでもなれば、国民はたまったものではない。消費増税と法人税率引き下げがセットというのも気になる。
● 医療へのゼロ税率
消費税導入時、患者負担を増やさないという政策的配慮から、医療は非課税とされた。「売り上げに対して預かった消費税」から「支出に対してかかった消費税」を差し引いて納付する仕組みであるが、売り上げに対して非課税ということは、負担した消費税はマルマル「損税」になる。保険診療も課税扱いにして、税率をゼロ%(患者の負担する消費税はゼロ)にすることで損税解消につなげるというのが、保団連の主張である。これは日本医師会はじめ、医療界全体の強い要望でもある。
●弁護士帯同
やましいことは何も無いと自負する人でも、個別指導の場に於いて、何らかの精神的負担を感じてしまうのはそう不思議なことではない。ましてや、かつてそのことを苦にして自殺に追い込まれたという実例があり、人格を否定するような発言をする指導官が現実に存在するとなれば、私たちも心構えを新たにしなければならないだろう。
弁護士帯同や録音は、かえってマイナスに働くのではないかという意見があるやに聞く。本当にそうだろうか。今年も協会では会員の相談に応じて、弁護士帯同の実際を経験したが、決してけんか腰で土俵に上ろうなどということではない。あくまで被指導者の心の余裕を生み、指導を実りあるものにする努力のひとつと考えている。
● 突合・縦覧点検
電子レセプトの普及により、コンピューターの得意とする突合・縦覧点検が今春から始まった。単月審査では分からなかった病名漏れや請求の誤りが明らかになる。まさに審査強化という内容だろうが、六カ月どころか二年前に遡って査定された事例もあるという。点数表が複雑化し、算定要件が細かくなる一方の今日、何とか医師の裁量を尊重した柔軟な対応と医療制度の大幅な改善を望みたい。
● 休業保障制度募集再開
休業保障制度は2006年の改定保険業法の施行により新規募集が出来なくなった。しかしこの間続けられた保団連、各協会の粘り強い運動は、保険業法の再改定に伴い来年3月からの募集再開として実ったのである。いくつかの変更点はあるものの、概ね現行の内容で存続可能になったのは喜ばしい限りである。
●子供も大人も100まで元気
9月22日、昨年に続いて、協会会員有志と関係団体のボランティアの協力で開かれたイベントは、200人以上の市民で賑わいを見せた。市民県民と共に健康や医療の問題を考え、行動するという協会のテーマの分かり易い実践として、今後も発展させていきたいと考えている。
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他にも、国会運営混乱に不信・不安が増大、沖縄でのオスプレイ配備や米兵による暴行事件、竹島あるいは尖閣諸島などの領土問題、中国に於ける反日デモ、欧州経済不安の問題、山中伸弥教授のiPS細胞でのノーベル賞受賞、米国のオバマ大統領再選、生活保護切り下げ問題等の出来事があったが、紙面の関係で別に譲ることにする。
木村 康(副会長)
■群馬保険医新聞2012年12月号