医療崩壊は止まらない
4月から診療報酬が改定される。本体部分を0.38%引き上げるものの、薬価・材料費の1.2%引き下げで全体ではマイナス0.82%、連続四回のマイナス改定になった。医科分野の総医療費は約1000億円増。外来管理加算の縮小で生み出す400億円を加え、総額1500億円(全国の病院総収入の1%程度)が勤務医の待遇改善にあてられる。
今回は再診料が大きな焦点になった。診療所の再診料引き下げが見送られ、代替案として外来管理加算の見直しが明らかになったとき、朝日新聞は社説で「開業医の収入から400億円余りを引きはがした」と書いて医師たちの反発を招いた。相変わらずの開業医悪者説。
病院の勤務医対策にも効果はあまり期待できず、診療所にも厳しい内容。医療費総枠を思いきり拡大しない限り、「医療崩壊」は止まらない。
////////////////////////////////////////////////////////
《医科改定のポイント》
医師不足対策と高齢者医療が改定の柱となった。
・病院再診料の引き上げ、救急病院の医療秘書加算、手術料の3割引き上げ
・ハイリスク妊娠管理加算、救急搬送妊産婦の入院加算を新設
・高度医療を行う小児専門病院の入院料引き上げ、診療所の夜間・休日診療・地域連携加算
・75歳以上を後期高齢者とした新医療制度を新設
等となっている。
また、医療費抑制等を目的とする改定項目には、
・外来管理加算に五分ルール
・点眼・点耳・湿布などの処置を基本診療料に包括
・処方せん様式を改め、ジェネリックへ誘導
・400床未満の病院に明細領収書の発行を義務化
・手術の定額化を試験導入
等がある。
●5分ルール
外来管理加算に5分以上という時間制限が付いた。もともと、外来管理加算という点数自体があいまいで、再診料とどこが違うか、患者には説明しにくいものだったが、そこに5分以上という制限が付けば、5分タイマーが必要になる。この5分も、顔を見ている間だけカウントするのか、診察後、カルテに書いている時間まで含めるのかあいまい。あいまいな点数が、よりあいまいになる。
●後期高齢者診療料
マルメの後期高齢者診療料が75歳以上に。550点以下の検査などは請求できない。包括点数が当てはめられ、生活習慣病管理料などと同じように一か所の医療機関だけ算定できる。
しかし、高血圧で内科にかかり、腰が痛くて外科にかかっている患者はどっちを主にするか困る。またその点数は、月に2回通院よりは安くして、一回よりは多くするもので、全体としては医療費減がねらい。検査をしてもしなくても同点数なので、医療内容が貧弱にならないか心配。
また、診療計画などの書類が増えるのも手間がかかり、医療側には負担となる。
●処方せん様式の変更
ジェネリックの普及を促進するため処方せんの様式が変わった。薬剤師が別銘柄の医薬品を選べるようにしたもので、私、個人的には問題ないと思う。そう思わない医療機関は院内処方すればいい。
●リハビリも安く
リハビリの逓減制が廃止され、点数を減らし上限が設けられた。リハビリ制限も目的が医療費抑制だから、安くする方向性ばかり目につく。この2年間、ころころ変わる制度に現場は振り回されている。
140日と180日で変わっていたリハビリ料を低くして統一、それ以降は13単位までが認められる。2単位40分だと、月に6回半。その後は自費でというのもヘンなものだ。
こんなわけのわからない制度で、明細のわかる領収書といっても、患者には理解できないだろう。
現状の標準的リハビリ日数をこえた場合の点数は次のようになるが、患者に納得させるのは難しい。
・月の1回目=リハビリ医学管理料Ⅰ 440点+再診料57点=497点
・月の2回目、3回目=再診料のみ= 57点
・月の4回目=リハビリ医学管理料Ⅱ 260点+再診料57点=317点
・月の5回目以降=再診料のみ= 57点
●医療秘書
医師の事務作業補助者体制加算が新設された。問題の本質は書類の増えすぎ。いろんな管理料に文書での情報提供など、手間のかかることを増やしすぎた。手間のかかる仕事を増やしておいて、その補助を後出しするというのは本末転倒だ。(審査対策部・長沼誠一)
////////////////////////////////////////////////////////
《歯科改定のポイント》
初・再診料は医科と同じに
診療報酬本体の0.42%引き上げを、満足ではないが評価する声が多い。特に、初・再診料がそれぞれ2点増えたことを成果とする見方が大半である。増点に異論はないが、これをもって精一杯の成果とされては困る。
世界的水準の歯科医療サービスが、先進各国に比べてあまねく提供されてきたのは、驚くほどの低報酬に耐え、皆保険制度を支えてきた地域の保険医の努力による。財源逼迫と言うが、甘い汁を吸い、ヒトを殺める仕組みには、湯水のように税金を使っているではないか。少なくとも初・再診料は医科と同等であってしかるべきである。
●文書提供の回数減
まず、悪評だった文書による毎回の情報提供が、口腔状態に変化がない場合は3か月に1度になり、う蝕・歯周病の指導管理料は、歯科疾患管理料に統一された。
文書提供の回数が減ったのは良いが、内容が変わらないにも係わらず、改定ごとに名称を変える一貫性のなさは、いたずらに保険医に労力と経済的負担を強いるだけである。また、初診時に患者の同意を得るとあるが、治療の結果、管理を依頼されるもので、治療前の算定は本末転倒である。
●安定期治療の新設
治療に関しての大きな改定は以下の通りである。
1、歯周疾患の治療体系が見直され、主な内容として、中等度以上の歯周病で、かつ歯科疾患管理料を算定している要件で、歯周病安定期治療が新設された。また、2回目以降の基本治療が復活した。
2、先進医療技術として、歯周組織再生誘導術、接着ブリッジ、レーザーによる窩洞形成が保険に導入された。13の先進医療が検討されていたが、三件に留まった理由や、先行3技術を選んだ医学的根拠が明示されていない。
3、新製義歯指導料と新製義歯調整料が廃止され、1か月以内は新製有床義歯管理料、2~3か月以内は有床義歯管理料、3か月~1年以内は有床義歯長期管理料が新設された。保団連では、現在の6か月の義歯再製作の期間が1年以降に延長される恐れがあると警告している。
4、後期高齢者在宅療養を支援するために、在宅療養支援歯科診療所が創設され、後期高齢者在宅療養口腔機能管理料が新設された。この施設基準は、常勤の、所定の研修を受講した歯科医師及び歯科衛生士1名以上の配置。
この改定により、後期高齢者の訪問診療は、この在宅療養支援歯科診療所でなければならず、従来の老人訪問口腔指導管理料が廃止され、歯科訪問診療料を算定した場合は、初・再診料の算定ができなくなった。
施設基準における歯科衛生士配置の比重はますます増え、衛生士業務の評価が高まってきているのは当然であるが、現場では、圧倒的な人材不足と、都市部への偏在、経営面等の問題により、施設基準を満たせない医院が多い。歯科衛生士需給問題の抜本的な改革が急務である。
5、包括化、いわゆるマルメが大幅に導入され、主なものとしてラバー加算、歯肉息肉除去が初・再診にマルメられ、更にEE、EB、充填物研磨も窩洞形成、充填にマルメられた。
また、下顎運動路描記法、チェックバイト検査、ゴシックアーチ描記法、パントグラフ描記法は、顎運動関連検査にマルメられ配点は大幅に削減された。ここには補綴関連の保険はずしがあるのではないかと杞憂する。
以上、重要と思われるか所を概略したが、今後の通達、通知には十分な注意が必要である。(審査対策部・武井謙司)
■群馬保険医新聞2008年3月号