【論壇】Hibワクチンの定期接種を公費で

【2008. 3月 28日】

     Hibワクチンの定期接種を公費で

 ◎細菌性髄膜炎
 2006年10月号の日本小児科学会雑誌に大阪・耳原総合病院小児科の武内一医師が中心になってまとめた「インフルエンザ菌・肺炎球菌髄膜炎の早期スクリーニングの可能性」という論文が掲載された。これは、その後のインフルエンザ菌typeB(Hib)ワクチン定期接種導入の運動に有力な根拠を与えるものとなった。
 結論から言えば、増加傾向にあるインフルエンザ菌による髄膜炎を早期スクリーニングする確実な方法は無い、ということである。
 この研究は1983年から2002年までの20年間に全国の民主医療機関連合会傘下の小児科17施設で経験した98例の細菌性髄膜炎のうち、頻度の高いインフルエンザ菌症例五七例と肺炎球菌21例の計78例の検討を行ったものである。

 ◎初診での診断は困難
 診断の遅れが医師の見逃しとして責任を追及される日本で、重症な細菌感染症の子どもが高熱の初日に外来を受診した時、初診では診断しきれるものでないというデータを示されたことは注目すべきである。
 髄膜炎に伴う症状としての嘔吐や、教科書には必ず書いてある大泉門膨隆・髄膜刺激徴候も、発熱2日目であってもインフルエンザ菌で16%、肺炎球菌では17%しか認められない。すなわち、診察だけでは見逃すことの方が多い。
 それでは、対象を決めて白血球やCRPなどの検査を行う基準を決めたらよいかというと、それもあてにならないようだ。「だから、高熱患者には抗生剤を最初から出せばよいのだ」とも言えない。
 多少の発症率を下げるものの有意差は認められず、CTRX50mg/kgの筋注を受けた子どもは培養では菌検出は出来なかったものの、髄液細胞増多が見られ、probable meningitisの診断を受けている。
結局、初診で診た医師が細菌性髄膜炎の診断をつけて適切な治療にまで結びつけることは困難なのである。

 ◎1年で30人の命が
 WHOはこのインフルエンザ菌に対する国家による定期予防接種を10年以上前から呼びかけ、「先進国」といわれるほとんどの国は当然として、世界で120カ国以上が導入してほぼ制圧し、細菌性髄膜炎はすでに過去の病気とされている。
 ところが日本は、アジアでも北朝鮮と共に数少ない未導入国の一つである。武内医師らは、この病気で子どもを失った親たちとともに、ワクチン定期接種化の運動を積極的に進めている。
 ワクチンを接種していれば防げたであろう尊い命。1年で30人の子どもの命が失われる事態を我々医師は見過ごしてよいのか。
1本8000円前後といわれているワクチンを生後2カ月から4回接種する。この負担を少しでも軽減するため、自治体への要請行動も緊急に必要と思われる。(理事・深沢尚伊)

■群馬保険医新聞2008年3月号