【論壇】医療と消費税

【2013. 2月 10日】

 医療と消費税

 1989年の消費税導入以来、20年以上にわたって、医療機関での社会保険診療には非課税措置が採用されており、患者から消費税をもらうことはない。ところが、診療分に使用する薬剤などの仕入れ時に納入業者に支払う5%の消費税は、まるまる医療機関の負担(損税)となっている。
 国は保険診療を「社会政策的配慮から非課税取引」として取り扱うことを決め、代わりに損税分を診療報酬に上乗せするとし、1989年度0.76%、1997年度0.77%、合計1.53%の補填を認めた。
 この補填分として、薬価と特定36項目、歯科10項目前後への点数貼り付けが行なわれた。消費税に厚労省が介入したことから「消費税制の歪み」がさらに増幅され、「消費損税問題」が複雑化した。
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 医療機関総計によると、現在、消費損税は、年間八千億円にも達していると推定される。医師会は、社会保険診療分の2.2%、病院各団体の2.7%程度としている。医師会の2.2%で考えた場合、単純に1億円の社会保険診療で220万円、これが10%の税率になると倍の440万円が損税となる。保団連の調査(2009年)では、消費損税の額は、3%以上となっている診療科があり、病院では4%に達するところもあるという。
 先に述べた消費税アップに伴う補填分1.53%は、包括化などにより、今となってはなくなってしまったと言っても過言ではない。診療報酬が上がらないまま、経費が増え続けている現状では、消費税の負担により経営がさらに悪化することは明白である。
 中医協の医療経済実態調査では、医療機関の収益は10年で約7割まで落ち込み、医療機関に消費損税に耐えられる体力は残っていない。財務省、厚労省は、「損失分の還付」はありえないと答弁しており、消費税が10%にアップした場合、これまでと同じように、診療報酬で一定の手当をする方針を打ち出した。そもそも消費税を診療報酬で解決しようとすること自体が決定的な誤りであり、税制の歪みは税制で正さなければならないのだ。
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 消費損税の最も良い解消法は、社会保険診療が区分されている「非課税取引」にも、損税が生じた場合、還付を認めるようにすることである。しかし「非課税取引」に還付制度を付け加えると、消費税そのものを根本的に見直さなければならず、財務省が認めるとは考えられない。
 そこで、医療機関の消費損税に限った解消法の具体的な方策は次の五つが考えられる。
 社会保険診療費を、
 ①ゼロ税率(課税取引扱い)にする。
 ②軽減税率(課税取引扱い)にする。
 ③課税取引(一般的な課税取引)にする。
 ④非課税のまま補填を診療報酬(初再診料)に上乗せする。
 ⑤非課税のまま補填を診療報酬の特定項目へ上乗せする。
などが考えられる。
 保団連では、消費税導入以来、一貫して医療への消費税「ゼロ税率」の要求をしてきた。医療の公益性と社会保障の観点から、「予防接種」や「乳幼児検診」など、公益性の高い自由診療に関しては消費税をかけるべきでないと考えて運動をしている。
 「ゼロ税率」とは、消費税は形式上、課税になるが税率をゼロにすることで患者と医療機関双方が消費税を負担しなくてよい制度である。軽減税率、標準税率でも消費損税は解消されるが、患者の負担増加、医療理念の観点からも賛同できるものではない。
 日本医師会、日本歯科医師会、四病院団体協議会では「社会保険診療報酬等に対する非課税制度を、仕入れ税額控除が可能な課税制度に改め、かつ患者負担を増やさない制度に改善する」ことを要求している。全国各地の保険医協会でも、医療への「ゼロ税率」の適用が重要であるとの意見が多く、署名を呼びかけるなどの運動が行われている。
 診療報酬の引き上げと同時に消費税体系を財務省に修正させ、過払い分を取り戻すことが出来るようにしたいものである。

副会長 太田美つ子

■群馬保険医新聞2013年2月号