【診察室】帯状疱疹

【2013. 3月 15日】

 前橋赤十字病院 皮膚科 大西一德

 この度「帯状疱疹」のタイトルで原稿の依頼を受け、患者数からするとそれほど多いとも思われないが、当院ならではの患者も経験するため、先生方の日常診療の参考になることを期待してお引き受けした。
 ■原因・症状・診断
 ご存知のように水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の初感染は水痘で、このとき皮膚に生じた水疱からVZVが神経を上向性に神経節に辿り着き、DNAの形で生涯にわたる潜伏感染を生じる。何らかの原因でVZVに対する免疫力が低下すると、VZVの再活性化が起こり、帯状疱疹として回帰発症する。通常1週間以内の特定の神経支配領域に一致した片側性の神経痛が先行する。
 患者の多くはぶつけたり、怪我をしたときの痛みは経験したことがあるが、神経痛の痛みは経験したことがないため、異様な痛みに驚き、救急外来を受診することもある。このとき皮疹が出現する以前や、皮疹や痛みが片側性の神経痛と気づかれないと、種々の検査をうけることもある。部位によって頭部CT、胸部レントゲン撮影、心電図、心エコーなど、ときには内視鏡の予約をされることもある。
 帯状疱疹の皮疹は、紅斑・紅色丘疹、水疱・膿疱、びらん・潰瘍、痂皮と経過する。皮疹の程度は軽い場合には紅斑のみで軽快するが、重い場合には広範囲の皮膚壊死を生じる。糖尿病未治療の患者でこの壊死に黄色ブドウ球菌の感染を合併し、筋膜まで障害がおよび植皮術を行った症例もある=図1。皮疹の範囲も紅斑、水疱が散在するものから神経支配領域全体に生じるものまである。またウイルス血症の結果、罹患神経支配領域以外に丘疹、小水疱を散布疹や汎発疹(汎発性帯状疱疹)として認めることがある。
 鑑別疾患として単純ヘルペス、カポジ水痘様発疹症、水痘などがあげられる。疼痛を伴う片側性皮疹という帯状疱疹の特徴に注意すれば、通常診断可能である。しかし自験例に疼痛を伴わない口唇に生じた初期の帯状疱疹を単純ヘルペスと誤診した症例もある。通常の典型的帯状疱疹では余り行わないが、水疱部のTzanck testでウイルス性多核巨細胞が確認できればVZVまたは単純ヘルペスウイルスの感染症と診断できる=図2。
 ■抗ウイルス剤による治療
 当科では、正常な免疫能を有する患者の外来治療には、経口投与可能な抗ウイルス剤であるバラシクロビル塩酸塩(バルトレックス錠)やファムシクロビル(ファムビル錠)を投与することが多い。通常、5病日程度で皮疹新生はおさまり、8病日には皮疹部からウイルスは分離されなくなるのが、神経内にはまだウイルスが残存するとのことで、5病日以内に抗ウイルス剤を開始し、7日間投与する必要がある。
 抗ウイルス剤を投与するに当たっては、2つのことに注意する必要がある。一つは保険適応の問題。現在用いられている抗ウイルス剤はVZV、単純ヘルペスウイルス共に効果があるが、抗ウイルス剤によって投与量や適応が異なること、疾患によって投与期間が異なること(水痘では小児と成人で投与期間が異なる)に注意が必要=表1。いま一つは腎機能低下のある患者への投与である。高齢者に常用量の抗ウイルス剤とNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が投与され、急性腎障害をきたし救急車で搬送された症例もあった。当科には通常の帯状疱疹で入院する患者は少ないが、高齢の患者が他の医療機関で抗ウイルス剤の投与を受けた後、消化器症状や精神神経症状などの副作用が強いために入院となるケースも散見される。

 ■運動神経等の障害
 通常の帯状疱疹では知覚神経のみ障害されることが多いが、運動神経等が障害されることもある。VZVによる顔面神経麻痺と耳介の帯状疱疹、難聴・めまいなどの聴神経症状を生じる場合、ラムゼイ・ハント症候群と呼ばれるが、3主徴がそろう頻度は60%程度とのことである=図3。眼瞼結膜炎、角膜炎、虹彩毛様体炎、網膜炎などの眼症状は三叉神経第1枝領域の帯状疱疹にみられることが多く、特に鼻尖部や鼻背に皮疹が生じた場合に頻度が高い(ハッチンソン兆候)。眼筋麻痺による複視もまれにみられる。その他、腹筋の麻痺による腹部の片側性膨隆=図4=、殿裂近くでは直腸膀胱障害=図5=、まれには四肢麻痺などもみられる。これらの症状が認められたときには関連する科にコンサルトが必要となる。

■高齢者にはワクチン接種も
 帯状疱疹の急性期疼痛の治療には、特に高齢者では腎障害、消化管出血なども考慮し、アセトアミノフェンを第一選択としている。帯状疱疹後神経痛に対しては三環系抗うつ薬、プレガバリン、オピオイドなどが用いられているが、当科では早めにペインクリニックに紹介するようにしている。プレガバリン(リリカカプセル)も抗ウイルス剤と同じように高齢者や腎機能低下があると、めまい、眠気、筋脱力症状などの副作用が出現しやすいので、少量を就眠前投与から開始することが多い。
 保険適応外であるが、高齢者には水痘・帯状疱疹ワクチン接種が発症予防や重症化をふせぐのに有効とのことである。

図1 帯状疱疹の壊死組織に感染を生じた糖尿病未治療例

図1 帯状疱疹の壊死組織に感染を生じた糖尿病未治療例

図2 水泡部のウイルス性多核巨細胞。小型の細胞は白血球(ギムザ染色液30秒で染色

図2 水泡部のウイルス性多核巨細胞。小型の細胞は白血球(ギムザ染色液30秒で染色

図3 顔面神経麻痺を合併した帯状疱疹

図3 顔面神経麻痺を合併した帯状疱疹

図4 右側腹部の膨隆を認めた帯状疱疹

図4 右側腹部の膨隆を認めた帯状疱疹

図5 直腸膀胱障害を合併した帯状疱疹

図5 直腸膀胱障害を合併した帯状疱疹

診察室表

■群馬保険医新聞2013年3月号