【論壇】日本よい国?

【2013. 5月 15日】

 私の世代は、学校で鎌倉幕府の成立年を1192年と習い、「いい国つくろう鎌倉幕府」と覚えたが、今ではほとんどの教科書で1185年とされ、「いいはこつくろう鎌倉幕府」になっていて驚いた。「もはや戦後ではない」を合言葉に、「はこもの」を創造しつつ日本を再生牽引してきた箱物行政を想起させる象徴的な言葉にとってかわった。

 ●良い国の条件

 今年の成人式は、経済不況が影を落としているためか、テレビニュースのインタビューでも「きちんと仕事に就けるように勉強します」とか、「将来生活が安定するか不安です」などと答える若者が多かった。もっとも、本当にそのように考える若者が多くなったのか、そのように答えたインタビューだけ選び出して放送したのかはわからないが。多分、その両方だったのだろう。
 若者が生活の安定を求めてばかりいる国というのは、この先大丈夫か不安にもなるのだが、ではどうすれば良い国を実現できるのだろうか。そもそも、良い国とはどんな国なのだろうか。
 たとえば、こんな国はどうだろうか。
 ①広大な国土を有する。
 ②豊富な資源、食料がある。
 ③強力な軍隊をもつ。
 ④オリンピックで世界最高水準の成績をあげる。
 このような条件にアメリカはあてはまる。崩壊したソ連も同様に、これらの条件を満たす。中国も今ではそうだ。しかし、アメリカやソ連や中国の国民であった方が、日本人であるより幸福だと考える人は少ないだろう。国が強力だというのは、戦争をしたり、オリンピックでメダル争いをする時には役に立つかもしれないが、個人の生活にはあまり役立たない。アメリカは、広い家や多くのビジネスチャンスに恵まれていることは良いが、先進国で唯一、第二次世界大戦後に、何度も数千、数万の単位で戦死者を出す戦争に駆り出されているのは、良いことではない。
 では、どんな国に住めば国民は幸福なのだろうか。幸福の尺度や基準は個個人によって違うだろうが、次のようなことは国民全体の幸福度を増大させると思う。
 ①衣食住など、基本的な生活が一定のレベルで保証されている。
 ②貧富にかかわらず、相当程度の医療水準を与えられている。
 ③貧富にかかわらず、教育を受けることができ、国民の知的水準が高い。高等教育を受ける資格は、学力によって得られ、貧富で修学のチャンスが大きく異なることはない。
 ④豊かな自然環境を楽しむことができる。
 ⑤高度で多様な文化を楽しむことができる。
 ⑥犯罪の発生率は低く、かつ犯罪の検挙率は高い。
 ⑦政府、議会は透明で民主的なルールで選出され、効率的で腐敗がなく、長期的な視野に基づいて行動する。
 他にもいろいろな条件が考えられるし、ここであげたすべてが誰でも賛成するものばかりではない。とは言ってもこれらは、多くの人が「暮らしやすい」と感じる国の条件として、それほど反対はないだろう。こうしてみると日本は、ほとんどの項目で世界的に見て高い水準で、条件を満たしてきたと言える。いろいろなことを言ってみても、平均寿命が世界最高の水準にあるのは、その証拠と考えられる。

 ●良い国ということを考え直してみよう
 
 松下幸之助氏『日本よい国』から抜粋。
 ――春があって夏があって、秋があって冬があって。日本はよい国である。自然だけではない。長い歴史に育まれた数多くの精神的遺産がある。その上に、天与のすぐれた国民的素質。勤勉にして誠実な国民性。
 日本はよい国である。こんなよい国は、世界にもあまりない。だから、この国をさらによくして、みんなが仲よく、身も心もゆたかに暮らしたい。
 よいものがあっても、そのよさを知らなければ、それは無きに等しい。
 もう一度この国のよさを見直してみたい。そして、日本人としての誇りを、おたがいに持ち直してみたい。考え直してみたい――。
 この文章を読んで、素直に共感を覚える人は多いのではないだろうか。もう一度原点に戻って、よい国のあり方をじっくりと考えてみる時期にあるように思う。
  
   (広報部・湯浅高行)

■群馬保険医新聞2013年5月号