【老いの周辺】後期高齢者医療制度がスタート

【2008. 4月 22日】

    後期高齢者医療制度がスタート

                   前橋市 湯浅高行

 
 後期高齢者医療制度が今月から始まりました。75歳以上の国民全員をこれまでの医療保険から切り放して加入を義務づけたほか、寝たきり等で障害認定を受けた65歳から74歳も対象になります。
 これまでは子どもの被扶養者として保険料を払っていなかった人も、これからは保険料を支払うことになりました。介護保険と一緒に年金からの天引きが原則です。また、窓口でも原則一割(現役なみの所得収入があれば三割)を支払います。
 保険料は地域によって異なりますが、全国平均で年8万円と見込まれています。もしもこの保険料を滞納すると、保険証は取り上げられ、「資格証明書」が発行されるなどの制裁があります。
そして医療の内容も「包括性」になり、病名によって1か月の医療費が決められます。

 ●目的は医療費抑制
 老人保健法が改定され、第1条の「目的」から「健康の保持」が削除されて、その代わりに「医療費の適正化」という文言が使われるようになりました。
 新しく設定された「後期高齢者にふさわしい診療報酬体系」では、診療報酬も引き下げ、「受けられる医療の制限を招く」ことが予想されます。そうして厚労省は、病院での終末期医療、看取りを減らし、在宅での看取りを増やすことで、医療費を抑制しようとしています。
 今現在も、多くの地域は病院から「出された」患者を受け止めることができる状況にありません。行き場を失う高齢の患者が大量に生まれ、家庭や地域の中で孤立する事態が大いに懸念されます。

 ●医療保険の一本化を
 なぜ75歳以上の高齢者を別にしなければならないのでしょうか。これは、年齢で医療を差別するという悪法だと思います。
 そもそもサラリーマン対象の組合健康保険や個人事業者、退職者などを対象とする国民健康保険(国保)といった区別がなぜいくつもあるのでしょうか。
 サラリーマンの多くは定年を境に国保に移ります。若くて元気な時は組合健保で、収入が減り、病気にかかりやすい年齢になってから国保に移るのですから、国保は当然ハイリスクな集団になっています。
 国民の生命と健康にかかわる医療保険制度は、平等でなくてはなりません。国民全体を職業や勤め先などで区別するのではなく、一つの医療制度にまとめるという考え方があってもよいように思います。

 ●平穏な老後を迎えたい
 後期高齢者の心身の特性等にふさわしい医療を提供するため、「老人保健法」は「高齢者の医療確保に関する法律」に変更されました。この法律は、本当に高齢者の心身にふさわしい法律とは思えません。
 政府は、国民皆保険の堅持、医療保険者による拠出金問題、現役世代と高齢者世代の負担割の不公平を明確にして、公平でわかりやすい「後期高齢者医療制度」を創設したと言っています。しかし、制度やシステムばかりが先行していて、国民の健康の保持は二の次、三の次のように思えてなりません。
 社会の第一線を退き、ようやく平穏でおだやかな老後を迎えようという人達が、この保険があって「ああ、よかった」と思えるような心ある保険制度を、もう少し時間をかけて、ていねいに再検討すべきだと思います。(本欄副座長・湯浅歯科医院)

■群馬保険医新聞2008年4月号